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おっさん、勇者と魔王を拾う  作者: チョコカレー
2章:子と弟子と
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58:妖精を統べる者


 精霊の女王は敵意剥き出しのリーシャに怯えながらも一応は会話を選択してくれた事に安堵する。もしも先に剣を向けられれば焦るのは自分の方であった。精霊の女王は慎重にリーシャ達との距離を保ち、チラリとシェルの事を見る。そして何か確認するように視線を動かすと、またリーシャの方へと戻した。リーシャは未だに表情を歪めながら口を開く。


「前に言ったはずだよ。私の前から消えてって……何でまた出て来たの?」


 リーシャの言葉には彼女らしくない僅かながらの怒気が含まれていた。喋り方もどこか不機嫌そうで、髪を掻いたりなど仕草に落ち着きがない。何せリーシャが最後に女王に会ったのは彼女に制裁を下し、二度と姿を見せるなと命令した時なのだ。とても穏便な別れ方だったとは言えないだろう。故にリーシャはまた女王が現れたという事が許せなかった。また何か企んでいるのではないかと疑いに掛かっている。そんなリーシャの様子を知ってか、女王は申し訳なさそうな顔をしながら彼女に頭を下げた。


「あの時の事はお許しください、勇者様……私が間違っておりました……」


 精霊の女王の口から出たのは意外にも謝罪の言葉であった。リーシャは面喰ったように口を開き、僅かに剣から手を放す。リーシャから放たれていた鋭い気配も弱まり、隣に居るシェルも少しだけ緊張を解いた。


「貴女の意思を無視して、酷い事をしてしまった……本当に申し訳ありませんでした」


 女王は深々と頭を下げて謝罪する。その様子は疲労している様子も相まってか本当に罪悪感を抱いているようであった。完全に信用している訳ではないリーシャもその態度を見ると多少は警戒を緩める。だが剣から完全に手を離した訳ではない。いつでも武器を取り出せるよう、集中だけはしていた。そして一歩だけ前に出て女王に近づき、口を開く。


「そう……分かってくれたなら嬉しいよ。でもそれだったら、この妖精達の騒ぎは何?」

「それはっ、私の仕業ではありません。彼です……私は彼の事を伝える為に貴方の元に来たのです!」


 女王が謝りに来たのならわざわざこんな事件を起こす必要はない。その疑問を口にすると、女王は慌てて否定した。自分の仕業だと思われるのがよっぽど嫌だったらしく、その口調は最初の時より幾分か強気だった。


「彼って……誰?貴方の友達?」

「と、友達ではありません……彼は……」


 どうやらこんなに大量の妖精が現れているのは女王の仕業ではなく、別の何者かの仕業らしい。リーシャが女王からそれを聞き出そうとし、女王もそれに答えようとした。次の瞬間、突如辺りの木々が蠢き、枝が蔓のように伸びると何重にも絡まって鎖のごとく女王の身体を縛り上げた。身体の光の粒子が欠け、女王は苦しみに悲鳴を上げる。


「んぁ……ッ!?」


 リーシャはすぐさま剣を引き抜いた。シェルも杖を構え、縛り上げられている女王から距離を取る。しかし周りの木々は蠢いてまるで生き物のように枝を揺らしているだけで、リーシャ達に攻撃を仕掛けてくるような事はなかった。それに違和感を抱き、リーシャは顔を上げて何が起こっているのか分析する。すると女王の後ろにある木々の間から一人の青年が姿を現した。


「困るなぁ女王ちゃん。突然居なくなったと思ったら勇者ちゃんに告げ口するなんて。僕の計画が狂っちゃうじゃないか」


 それは不思議な文様の入った着物を着た青年であった。サラサラの薄緑色の髪を眉毛まで伸ばし、細い目を更に薄目にしてお面のような顔に見える不思議な雰囲気を放っている。そして何より彼の背中から出ている四対の虫のような羽は彼が普通の人間ではない事を静かに物語っていた。


「悪い子にはお仕置きだ」


 ニコリと人当りの良さそうな笑みを浮かべながらその青年は何でもないかのようにそう言い。細長い指を一本ピンと立てるとそれを横に振るった。すると女王を縛り上げていた蔓もその通りに動き、勢い良く蔓がしなるとそのまま女王を近くにあった木へと投げ飛ばした。ろくな抵抗をする事も出来ず彼女は木に激突し、うめき声を上げる。


「うぐ……!」


 ズルリとその場に崩れ落ち、女王は苦しそうに息を吐く。よく見ると彼女の身体は光の粒子が水泡のように散っており、その度に苦しそうに表情を歪めていた。恐らく光自体が精霊の本体である為、あれが散るごとに女王はダメージを負っているという事なのだろう。リーシャはそんな事を冷静に考えながら目の前の青年の方へと視線を移した。突如現れかつてはリーシャの敵だった精霊の女王をいとも簡単に甚振るその青年は、リーシャの瞳にはただただ異様にしか映らなかった。


「貴方……何者?」

「おおっと! これはこれは失礼しました。我らが勇者よ。自己紹介が遅れて申し訳ない」


 惨めな女王の姿を見て笑っていた青年はリーシャから声を掛けられると大袈裟に振り返り、服の袖を翻しながらお辞儀をした。その掴みどころのない態度は彼そのものを現しており、細い目も表情が読み取る事が出来ない。まさに異質としか言えないその青年はリーシャに頭を垂れると顔を上げ、ニコリと優しく微笑んだ。


「僕は妖精王。その名の通り妖精を統べる者であり、森の王さ」


 その言葉はあまりにも軽く、青年の態度も相まって信憑性のない言葉であった。だが現に女王を下したその実力、そして周りに付き従うように集まって来たピクシー達を見る限り、信じざる得ない。不気味な気配を放つ妖精王にリーシャは少し怯えたように後ろに下がった。


「妖精……王?」

「ピクシーやノーム、全ての妖精達を従わせる王よ。しかも、かつて魔王討伐の旅に出てた勇者に力を授けたっていう伝説もある……」

「あれが……?」


 隣に居たシェルがそう説明する。リーシャが見上げると、彼女はどこか怯えたように杖を強く握り締めていた。恐らく感知能力に優れている彼女は妖精王がどれ程の実力者なのか肌でピリピリと感じ取っているのだろう。喋り方にも余裕がなく、視線はリーシャの方に向けずしっかりと妖精王の方に向けていた。


「まぁまぁそう怖い顔しないでよ、勇者ちゃん。僕は別に女王ちゃんみたいに君を連れ去ろうなんて考えていないからさー」


 いつのまに自然と表情を強張らせていたのか、リーシャの顔を指摘すると妖精王はアハハと笑いながら髪を掻いた。その仕草は村人のダンがするようなからかうような笑い方で、本当に妖精の王などという重要な立場の者なのかとリーシャは怪しんだ。だが気を緩めるような事はしない。抜いておいた剣はしまわず、彼女はゆっくりと低く構えていた。


「だったら何でピクシーが私を襲って来たの?貴方が指示したんじゃないの?」

「あー、あれねぇ。いや本当はそっちの魔術師の子と引き離そうと思って襲わせたんだけど。あの子達ひ弱だからさー、やっぱり勇者ちゃんには敵わないね」


 そう言って妖精王はシェルの事を指差す。シェルは私?と本当に意外そうな表情をして思わず自分で自分の事を指差していた。リーシャもシェルの方に視線を向け、何故彼女と引き離そうとしたのかと疑問そうに眉を顰める。


「何故私と引き離そうなんて……?」

「幾つか君に聞きたい事があるんだ……さて、その為にはちょっと勇者ちゃんが邪魔なんだけど」


 シェルが疑問を言って妖精王が答えると、彼は面倒くさそうに髪を掻きながら指をパチンと鳴らした。その瞬間地面から長い蔓が何本も飛び出し、蛇のごとくリーシャへと襲い掛かった。


「----ッ!?」


 リーシャは跳躍し、後ろに下がりながら迫ってくる蔓を剣で切り裂く。着地すると再び別の所から蔓が飛び出し、襲い掛かって来た。恐らくそこら中の木を利用してこの蔓を放っているのだろう。という事は森の中では妖精王は攻撃し放題という事である。リーシャはそんな推測をし、少し焦った表情をしながら蔓を斬り飛ばした。


「アハハ! 流石勇者ちゃん。子供なのによく対処出来るねー。教えが良いのかな?」


 何本もの蔓が襲い掛かって来るというのにそれを冷静に一本一本捌いて行くリーシャを見て妖精王は感心したように手を叩きながらそう褒めた。褒められた所で何も嬉しくないリーシャはただ嫌そうに歯を食いしばり、華麗にステップを踏みながら蔓を斬る。シェルもすぐに援護をしようと駆け寄ったが、木々が根っこを飛び出させて脚代わりして移動すると彼女の前に立ちはだかった。これも妖精王の仕業らしい。彼はただ静かに笑みを浮かべていた。そしてリーシャがふと一つの大きな木の前に着地するとピッと指を二本立てる。


「でも残念。考えが一手足りないね」


 妖精王が指を振るうとリーシャの後ろにある木から魔法陣が浮かび上がった。すると木はまるでリボンのようにクルクルと解け、リーシャの周りに広がった。


「---へ?」


 リーシャがそれに気付いた時には遅く。魔法陣が光り、同時にリボンのように何重にも広がっている木はリーシャを飲み込み。そのまま元の姿へと戻ってしまった。木の表面には魔法陣が刻み込まれており、鍵穴のような文様が浮かび上がる。


「リーシャちゃん!!」


 ようやく木の壁を氷魔法で突き破ったシェルはリーシャが飲み込まれてしまった木へと駆け寄る。その時に彼女は木に刻み込まれている魔法陣を見てハッとしたように目を見開いた。何故ならそこに描かれている魔法陣は覚えがある物だったからだ。


(これは……拘束魔法。しかもかなり古いタイプの……!)


 木に刻まれている魔法陣はかなり古く、描かれている文字もシェルが古い本で目にした物ばかりだった。つまりこれは今使われている魔法ではないという事だ。妖精王が前の勇者が居た時代から生きているのだとすれば古い魔法を使える事も納得出来る。だがこれの何よりの面倒なのは解除魔法が分かっていないという事である。古い魔法故に魔法陣の仕組みを読み取るのが難しく、頑丈なせいで簡単には破れない。シェルは忌々しそうに木を殴った。痛みが腕へと伝わって来て、悔しそうに唇を噛みしめる。


「さーて、これで二人っきりになれたね……えーと、名前なんだっけ?」

「……シェルリア・ガーディアンです……貴方の目的は何なんですか?妖精王様」


 後ろを振り返るとそこでは何やら指の調子を見ながら視線を合わせず質問をして来る妖精王の姿があった。まるで今日の天気でも聞きに来たかのような軽い態度だ。そんな隙だらけの相手だがシェルは油断する事なく、ゆっくりと振り返って杖を握り絞めながら答えた。シェルの名前を知ると妖精王は満足そうに頷き、ようやく視線をシェルの方に向けた。


「うーん、そうだな。単刀直入に言おう。君の目的を聞き出したいのが僕の目的だ」

「……はい?」


 わざわざ勇者のリーシャを拘束してまでこの状況を作り上げたのだ。何らかの大きな目的があるのだとシェルは予測していた。ただの人間では思いもつかないような精霊や妖精だけが考える目的。それくらい高尚な物だと思っていた。だがその答えは思った以上にシンプルで、そしてシェルには理解出来ない物だった。思わず目が点になり、彼女はズッコケそうになる。


「どういう……意味ですか?」

「勇者ちゃんや魔王ちゃんに近づいて何を狙ってるのか、という意味だよ。ハッキリ言って僕は君を信用していない。いくら勇者ちゃんが君を信頼しようと、僕からすれば君はただの欲深い人間だ」


 妖精王の目は相変わらず細く感情が読み取れなかったが、少なくとも最初の時の話し方より大分真面目な話し方であった。恐らく本気で尋ねているのだろうとシェルは考える。ならば自分が答える事は一つだけだった。


「私は、何も企んでなんかいません。ただ先生の傍に居たくて、少しでもリーシャちゃんとルナちゃんを助けたくて、ここに居るんです」

「へぇ、そうかい……その割には最近は村から離れないといけないって考えているみたいだけど?」

「----ッ!?」


 突然妖精王は鋭い目つきになってそう指摘して来る。そしてその言葉はシェルには胸が痛くなるような言葉だった。そしてそんな指摘が出来るという事は、この妖精王はここ最近の自分の動向を知っていたという事である。ピクシー達に監視させていたのか……シェルは急に目の前の青年に恐怖を感じ始めた。やはりこの妖精は、異質過ぎる。


「その程度の事で揺れる決意なんてただの戯言だね。君は嘘つきだ」


 妖精王はシェルに指を突き付ける。すると周りの木々が蠢き、根っこを突き出すと脚のように器用に動かし、生き物のように妖精王の周りへと集まって来た。妖精王も羽をフワリと動かして宙へと浮き、悠然とシェルの事を見下ろす。


「今日僕は君を見極めに来た。シェルリア・ガーディアン。本当はもっとゆっくりと観察してから答えを出すつもりだったけど、そうも言ってられなくなったんでね。とりあえず……」


 妖精王もどこか乗り気ではなさそうに肩を竦めたが、すぐにまた真剣な表情に戻り、演奏の指揮でもするように手を振るった。すると周りの木々がうめき声でも上げるようにミシミシと音を立て、一斉にシェルへと襲い掛かった。


「一回死んでみてくれないかな?そうしたら何か分かるかも知れないから」


 妖精王はただ静かに変わらない笑みを浮かべるだけであった。まるでシェルに対して何の感情も抱いていないかのような、ただ虫の観察でもしている子供のように無機質な笑みを浮かべていた。そんな笑みを視界の端で見ながら、シェルは自分の何倍もある木々の大軍を相手に杖を振るった。巨大な氷が出現し、氷の破片と木片が辺りに飛び散る。その瞬間森の一部が真っ白に染まった。


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