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おっさん、勇者と魔王を拾う  作者: チョコカレー
2章:子と弟子と
57/207

57:森へ

皆さまいつも感想有難う御座います。

返信は出来ておりませんが、誤字報告などとても助かっております。

これからも「おっさん、勇者と魔王を拾う」をどうか宜しくお願いします。







 アレン達が住む村は基本二重の柵に囲まれている。一つはここまでが村だと分かる為の目印用の柵と、もう一つはその更に外側に設置された魔物用の柵である。魔物用の柵は魔物除けと共に設置されている為、余程凶暴な魔物でない限りその柵を越えようとするものは居ない。中にはルナの友達である魔物のクロやアカメがすり抜けて入って来る事はあるが、一応村人に危害を加えるような事はない為問題はない。そんな村を守る為の砦とも言える柵をアレンとダンは点検していた。外側の魔物対策の柵は既に確認した為、今は村の外周の柵を確認している。


「よし、どこも壊れてないな。これなら大丈夫そうだ」

「ふー、ようやく終わりかよ。魔物用の柵ならともかく、わざわざ村の中にある柵を確認する必要はないだろ。アレン」

「そう言うなって、ダン。村長に頼まれてんだから」


 最後の柵の点検をし、アレンは異常がない事を確認すると満足そうに頷いて額に浮かんでいた汗を拭う。その後ろでは別に大した仕事もしていないのにくたびれた様子でダンが肩を落としていた。

 この点検は村長直々に頼まれている為、怠る訳にはいかない。確かに魔物除けの柵より村にある柵の方が重要性は低いだろうが、この柵にも十分役目はあるのだ。


「それにこの柵だって子供達がこの先は行ってはいけないんだ、っていう印になる。ちゃんと人を守ってるんだよ」

「まぁ……そりゃそうだがよ~」


 ダンも頭では分かっているのかアレンにそう指摘されると言葉に詰まったように髪を掻いた。大方彼の本音はサボりたいだけなのだろう。昔からダンの性格を知っているアレンはそう予測してクスリと笑った。

 それから二人は村長の家に柵が点検が無事済んだ事を報告しに戻った。村長も報告を聞いて安堵したように表情を和らげ、二人に労いの言葉を掛けた。そうして一仕事終えた二人はそれぞれの家に戻る為に村の道を並んで歩く。ダンとは所謂幼馴染であるが、こうしておっさんになっても自分達が育った村で一緒に歩いているとは何とも妙な気分だとアレンは思った。ダンも同じ事を思っているのか、どこか面白おかしそうに渇いた笑みを浮かべている。


「ところでアレンよぉ、お前シェルちゃんとくっつくつもりなのか?」

「ぶほッ……!?」


 ふと喉が渇いたのでアレンが持参しておいた水筒に口を付けた時、ダンが後頭部に両手を回しながら何気なくそんな事を尋ねて来た。そのあまりに唐突な質問にアレンは口に含んでいた水をそのまま全て噴き出した。宙に綺麗な虹の橋がかかる。

 くっつくと言うのはその言葉通り一緒になるという事だ。つまり結婚の事を意味する。アレンは咳き込みながらダンが質問して来た事をもう一度頭の中で反芻し、彼の方をジト目で見る。ダンはアレンの過剰な反応を見て面白そうに笑みを浮かべていた。


「何でそんな質問が出てくるんだ……?」

「いやだってよ、シェルちゃんお前と一緒に居る時凄い嬉しそうな顔してるぜ?ありゃ完全に惚れてるよ」


 ダンの話によるとこれは殆どの村人に共通している認識らしく、シェルは自分に好意を抱いているらしい。しかしアレンはいざそんな事を言われた所でいつものダンのからかいだと思って疑いに掛かってしまい、そもそも自分がそんな事態全く想定していなかった為、いまいちピンと来ていなかった。


「お前の馬鹿さ加減も遂にここまで来たか……」

「いやいや! 俺は本気で言ってるんだって! 実際お前シェルちゃんとかなり仲良いだろ?リーシャちゃんとルナちゃんだって懐いてるし、母親代わりとしては理想的なんじゃないか?」

「…………」


 母親代わりとして理想的という言葉にアレンは思わずピクリと反応してしまう。それを誤魔化すように彼はもう一度水筒を手に取り、水を口に含む。熱くなった頭を冷やす為に冷たい水を一気に飲み込んだ後、大きく息を吐いた。

 確かにリーシャとルナには母親という存在がいない為、そう言った点で教育に困る時がある。アレンも冒険者としての生活が殆どだった為、繊細な事は苦手だ。それに二人が口に出していないだけで母親という存在を本当は欲しがっているかも知れない。ただでさえ勇者と魔王という重荷を背負っているのだ。誰か頼れる人が傍に居た方が彼女達にとっても良いはずだろう。そうした面で見ればシェルという人物はうってつけである。優しく面倒見が良く、ルナにも魔法の勉強を教え、リーシャにも冒険者だった頃の話などをして仲良くしている。二人もシェルの事は少し歳の離れたお姉さんと言った感じで接しており、家族の一人として認識している節がある。アレンはそこまで考え、小さく息を吐いた。

 今考えた情報を考慮すればシェルが子供達にとって良い影響を与える存在である。だがそれはアレンが勝手に思っている事だけであり、シェルにも大魔術師という本職があるのだ。それを無視して単純に助かるからと言う理由でシェルに二人の母親代わりになってもらおうなどとは自分勝手すぎるだろう。故にアレンはそこで思考を打ち切った。


「だからってシェルにもシェルの仕事があるんだ。そんな事頼める訳ないだろ」

「だったらお前の気持ちはどうなんだ?おっさんのお前にあんなに尽くしてくれる女なんて今後現れないかも知れないぞ?少しは好意を抱いたりしないのか?」


 シェルが母親代わりとなる事をアレンが真っ向から否定すると、ダンは質問の方向性を変えて来た。シェルに対しての想いを尋ねられ、アレンは少し考えるように顎に手を置く。

 シェルは冒険者の時からアレンに懐いていた。その事はアレンも自覚はしているが、それはあくまでも色々教えてくれる先輩冒険者だから尊敬してくれていると解釈していた。そしてそれは間違っている訳ではない。そんな彼女は今もなおアレンを慕っており、リーシャとルナの正体を知っても困惑する事なく、むしろその秘密を共有してくれた。それからはアレンも大変助かっており、家事や料理を手伝ってくれるシェルには感謝していた。そう、感謝しているのだ。それ以外の感情を抱く事はない。


「ないさ。あの子が俺を慕ってくれるのは冒険者だった頃色々教えたからで、俺もあの子は娘みたいなもんだと思ってる。そんな関係なんだよ」


 アレンは髪を掻きながらそう言い切る。自分はシェルの事を好きだが、それが恋愛に発展するような事はない。あくまでもその好きは友人としての好きであり、その距離が縮まる事は決してないのだ。そもそも今は家族みたいな関係になっている。余計にそんな気持ちを抱く訳がない。


「それにあの子だって良い歳の女性なんだ。彼氏の一人くらい居るんじゃないか?」

「そんな節ねぇと思うがなぁ。俺はないと思うぜ」

「だとしても、あんな美人の子が俺みたいなおっさんを好きになる訳ないだろ」


 最後までアレンはダンの発言に対して否定的だった。あまつさえ自虐的な事まで言い出し、そんな未来は一切ないと自分から可能性を絶っているようである。ただ単純にこんな歳の離れた相手が自分を好きになる訳がないと思っているのだろう。

 結局その後もアレンがダンの進言を認める事はなく、話がそれ以上進展する事もなかった。ダンはつまらなさそうに石を蹴り、それを見てアレンも肩を竦める。彼からすればせっかく良い人が居るのだからくっついてしまえば良いのにと考えているのだろう。ダンはもったいないとは言わんばかりに大きく鼻息を出す。

 そしてそれぞれの家に戻る為の分かれ道に差し掛かった時、アレンはふと立ち止まった。その動作を見てダンも立ち止まり、アレンの方を振り返って何事かと不思議そうな表情を浮かべる。


「おい、どうかしたのか?アレン」

「……羽音がする」


 妙な違和感を覚えてアレンがポツリとそう呟いた瞬間、何重もの羽音と共に目の前を小さな何かが横切った。ダンもその正体不明の何かに気が付き、驚いたように声を上げる。


「うおっ! ……なんだ!?」


 最初ダンはそれを虫か何かだと思って手で払った。しかしそれは虫にしてはやけに大きく、動きが意識的でダンをからかうように周りをクルクル回った。しかもそれは一匹や二匹ではなく、何十匹もがわらわらと現れて来た。ここの時点でようやくダンはそれが虫ではないと気が付き、アレンもそれが何なのかを理解する。


「うおおい!? これ妖精じゃねぇか?!」

「ああ、ピクシーだ。珍しいな」


 ダンはそれが妖精である事に気づくと自分の髪の毛を引っ張てくるピクシー達を慌てて振り払った。ピクシー達はケタケタと不気味な笑い声を上げながら二人の上空を舞う。そして再びダンへと襲い掛かり、彼の髭や髪を引っ張りまくった。アレンはあまり人前に姿を現さない妖精を珍しがってその光景を冷静に眺めている。


「いでで! おいアレン、見てないで助けてくれよ! って言うか何でお前襲われてないんだ?!」

「ああ、そりゃこの前旅商人から買った香り草のおかげだろうな。ピクシーはこの匂いが嫌いなんだ」


 そう言ってアレンは懐から袋を取り出し、中に入っていた草を取り出す。そしてそれをピクシー達の前で払うと彼らは甲高い悲鳴を上げながら上空へと逃げ去って行った。鼻を抑えるような動作をしており、よっぽどこの草の匂いが苦手らしい。

 アレンは草の一部を千切ってダンに投げ渡す。すると先程までしつこくダンに襲い掛かっていたピクシー達も上空を漂いながら悔しそうに奇声を上げ、ジリジリと距離を開けて行った。アレンはそれを見上げながら何故ピクシーがこんな大量に現れたのか疑問に思う。


「ふうっ……助かったぜ。にしても何でピクシーが村に……」

「ああ、確かに妙だ……」


 ダンは元からボサボサだったのに更に爆発したようになってしまった髪を整えながらため息を吐く。そして疑問を口にするとアレンもそれに同調するように頷いて自身の髭を弄った。

 この村の近くにはピクシーの住処の森など確認されていないし、わざわざ悪戯をする為だけにこんな山奥までやって来るのは不効率だ。これも幾つもの村や街でピクシーが出現している事と何か関係あるのだろうか?そこまで考えた所でアレンはハッと顔を上げる。


(まさか……リーシャとルナが関係してるのか?)


 以前までは村の近くで些細な事が起きてもただの偶然だろうと考えていたが、今のアレンはリーシャとルナが勇者と魔王である事を知っている。例え少し珍しいピクシーの大量出現という事件でも、もしかしたら二人が関係しているのかも知れないと不安に思った。そう考えたからには彼は慌てて走り出す。リーシャ達が居る自分達への家へと向かった。


「あ、おい! どこ行くんだアレン?!」

「悪い! お前は村の様子を見てくれ!」


 突然走り出したアレンにダンは声を掛けるが、アレンは指示だけ残すと風の如く走り抜ける。その間にも近くでピクシー達が飛び回っている姿が見えた。どうやら彼らは村中で現れているらしい。単に可愛らしい悪戯をしているだけなので対処は簡単だろうが、それでもこんな大量に現れるのには妙な不安感を抱いてしまう。アレンは走るスピードを速めた。そして家に辿り着くと、勢いよく扉を開けて中を確認する。しかしそこにいつもなら一目散に駆け寄ってくるリーシャとルナの姿はなかった。おまけにシェルも居ない。更に不安に駆られたアレンはしまっておいた剣を取り出すとそれを腰に携え、もう一度外に出た。すると丁度そこに傷だらけのクロが走り寄って来た。


「クロ?」

「ワフワフ!!」


 ボロボロのクロと見てアレンは腰を下ろし、クロの容態を確認する。どうやら毛をむしり取られたり引っ掻かれたりした程度らしい。傷跡からしてピクシー達の仕業だろう。アレンはすぐに手当てをしようと思ったが、クロはその手を口で弾いて何かを訴えるように吠えた。


「まさか、ルナに何かあったのか……?」

「ウルルルル!」


 こんなに慌てているクロは珍しい。それに普段ならクロはルナの傍に居るはずだ。恐らくはそれは魔王である事も関係しているのだろうが、クロはルナに忠誠心を抱いていていつも守ろうとしている。だから時折リーシャにも牙を剥いていた。そんなクロがただの村人の自分を頼って来たという事はそれだけの事件が起こったという事だ。そして嫌な予感を抱いてしまったアレンは表情を青くする。


「分かった。案内してくれ」

「ワフ!」


 アレンがそう言うと言葉が通じているのかクロは大きく鳴き声を上げ、クルリと方向を変えると森の方へと走って行った。アレンは袋にしまってあった香り草を出してそれをすり潰し、自分の手や首に塗るとクロの後を追い掛けた。ダークウルフと村人の男の姿が森の闇の中へと溶け込んで行く。

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