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おっさん、勇者と魔王を拾う  作者: チョコカレー
2章:子と弟子と
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54:子供達の相談

 

 翌日、リーシャとルナは子供達の遊び場である草原へと訪れていた。いつものごとく友達のダイとシファに会う為だ。ただし今回は遊ぶ為ではなく、目的は二人にシェルを村に留まらせる相談に乗ってもらう事である。

 二人と合流したリーシャは原っぱの丘になっている所に皆で並んで座りながら早速説明を始めた。シェルがこの村の調査を終えてしまった事は伏せ、もうすぐ帰ってしまうかも知れないという体で話を進めていく。一応個人の情報なのだから、あまりシェルの仕事の状況の事を広めない方が良いだろうとルナが予めリーシャに言っておいたのだ。


「……と言う訳で、シェルさんがもうすぐ帰っちゃうかも知れないから、この村の良い所を紹介したりして何とか引き留めたいの」


 大体の事情を説明し終えた後、リーシャは自分達の目的を明かす。ダイはその話をきちんと姿勢の良い体育座りをしながら聞いており、一方でシファは一応は耳は傾けていたものの、時折日差しをうっとおしそうに手で遮ったり、飛んでいる蝶々に視線を向けたりと相変わらずのマイペースであった。


「ふーん、まぁシェルさんが帰っちゃうのは私も残念だけど……だからって村に引き留めるのは無理があるんじゃないの?大魔術師って色々忙しいんでしょう?」


 シファは自身の銀色の髪を弄りながらそう意見を述べる。

 魔法が得意な彼女は魔術師協会の事についても勉強している為、大魔術師がどのような職業なのかもある程度知っているのだ。

 シファの疑問に対してリーシャの横で隠れるように身体を縮こませて座っていたルナが顔を出して答える。


「大魔術師は自由に工房を持てるから……多分この村に居ついても大丈夫だと思う」

「へぇ、そうなんだ。詳しいわね、ルナ」

「う、うん……」


 ルナからの情報を聞くとシファは感心したようにルナにそう言う。するとルナは視線を下に向けながらまたリーシャの横に身体を戻し、顔を隠してしまった

 シファとルナは別に仲が悪い訳ではない。二人共魔法について詳しい為、お互いの魔法についての知識を教え合う事もある。だがルナは元々控え目な性格もあって何事にも上から目線なシファには若干の苦手意識を持っており、正体の事もあってつい距離を置いてしまいがちだった。そんなルナに対してもシファは別に気にした素振りは見せず、いつもの事なので視線を戻すと脚を伸ばして身体をほぐしていた。


「リーシャ達がしたい事は分かったけど……でもシェルさんがこの村に居たいって思うかな?自分が住んでてなんだけど、この村って辺境の土地にあるし、外の人だと色々苦労するんじゃない?」


 シファの隣で今まで静かに話を聞いていたダイが顔を出しながらそう意見を言う。

 そもそもこの村は辺境の土地の山奥の中にあり、外界との接触も少ない。精々あるのは西の村との交流ぐらいで、街に行く為には長い道のりを何時間も歩かなければならない。要するにこの村に住む者は一生を殆どこの村の中で過ごす事となるのだ。観光地としての見所もないし、森の中には魔物も潜んでいる為迂闊に森の中を散歩する事も出来ない。元々住んでいる者ならともかく、外界からやって来た者がこの村の生活に慣れるのは難しいだろう……何か深い事情がない限り。それがダイの危惧している事であった。


「え~、大丈夫だよシェルさんなら。結構タフな人だし」

「そ、そうなの?まぁリーシャがそう言うなら良いけど……」


 そんなダイの心配とは他所にリーシャは自信満々の表情で答えて見せた。その純粋過ぎる綺麗な瞳を見てダイもそれ以上追求する事が出来ず、困ったように頬を掻きながら引き下がる。

 実際シェルは既にこの村で一ヶ月も生活しており、その間に困った素振りもない。流石は元冒険者と言うべきか適応力は高い方なのだろう。だからリーシャは一切心配していなかった。するとルナがひょこっとリーシャの横から顔を出し、リーシャの肩を突きながら口を開いた。


「でも……ダイの言う通り村の魅力を伝えるのは難しいかも……」


 ルナの指摘に対してリーシャは「え」と意外そうに声を漏らしながら黄金の瞳を転がす。

 確かにこの村の生活にはシェルは対応するだろう。だがもうもう一つの重要事項である村の魅力。これを伝えるのは簡単な事ではない。シファとダイには明かしていないが、リーシャ達はシェルに堂々とこの村に住めるだけの魅力を伝えなくてはならないのだ。その事を思い直し、リーシャはうーんと唸りながら額に指を当てる。


「う~ん、じゃあ村の良い所一人一人言っていこうよ。そしたら一個くらい良いのがあるかも知れないし」


 村の魅力を伝えるのは難しいが、全員で吟味すればシェルを納得させるだけの案が出るかも知れない。そう考えたリーシャは提案を出した。突然のお題出しに周りが慌てる中、シファだけは余裕の態度のまま長く尖った耳をピクピクと動かしながら答える。


「そうね……良い所かは分からないけど、色んな種族が一緒になって住んでる村ってのは珍しいんじゃない?私達は普通に感じてるけど」


 多種族が共同で住むという事は文化や価値観が違う者が一緒に生活するという事であり、当然そこに弊害はある。現に村の中ではエルフが長寿の為、他の種族の者達とは一歩離れた距離で交流している。今は子供だからシファもリーシャ達も気にしていないが、いずれ成長の差が表れ始め、少なからず違和感を覚えるようになるだろう。それでもこの村が成り立っているのは来る者を拒まない広い心と、皆が支え合って生活しているからであろう。

 シファはいずれ自分が周りの皆の成長から置いてかれる事を薄々と感じており、少しだけ不安そうに耳に掛かっていた髪を退け、視線を逸らす。その普段とは違う仕草にルナだけは気が付いていた。


「そうだね。僕みたいに獣人と人間のハーフとかも居るし、常に一緒に生活してるのは他の村や街ではあまりない文化かな?」

「うんうん、確かに。そこはシェルさんも良い村って言ってたし、きっと気に入ってくれるよ!」


 ダイもシファの方に顔を向けながら彼女の意見に賛同し、リーシャも満足げに笑みを浮かべて顔を頷かせる。

 シェルは村人とも仲が良いし、種族の違いも気にしない性格をしているのでこの点は好意的に取る事が出来るだろう。


「他には……森に色んな動物や魔物が居る事かな?普通の人なら怖がるかも知れないけど、シェルさんなら元冒険者で大魔術師だし、色んな生態が知れて研究の材料にもなると思う……」


 おずおずと手を上げてルナも村の良い所を上げる。その内容は森に生息している魔物についてと少々斜め上の回答であったが、十分に納得出来るだけの理由だった為、シファとダイもなるほどとルナの事を感心したように見ていた。その視線にルナは照れたようにリーシャの背中に隠れる。


「おー、なるほど! そういう見方もあるね。流石ルナ!」

「賢いじゃない、ルナ」

「……っ」


 リーシャとシファが素直に褒めるとルナは耳まで顔を赤くして縮こまってしまう。その様子は小動物のようで、ただでさえ大人しいルナは何だか一回り小さく見えた。そんなルナの頭をリーシャは優しく撫でて上げる。

 実際シェルは魔物の調査を任されていたぐらいだし、魔物の調査が魔術の研究に繋がる事もある。その点はシェルの仕事とも相性が良いと言えるだろう。


「後は……畑で採れる野菜が美味しいとか?一応この村の特産品みたいなもの……」

「駄目、却下。普通過ぎ」


 次にダイが自信ありげに案を言ったが、それはシファの冷たい言葉によって一蹴されてしまった。村の魅力として出すには少々力不足だったのだろう。シェルを納得させるだけの案としてもそれは弱いと感じ、リーシャとルナも微妙そうな顔をしていた。

 その後もダイが落ち込んでいる中子供達はそれぞれ案を言い合った。途中で回復したダイも汚名返上の為に新しい案を出すが、それも簡単にシファに一蹴される。流石にいたたまれなくなったルナがダイの傍によって励ましていた。


「んー、あらかた出たかな?やっぱり最初に言ったシファとルナの案が良さげかなぁ?」

「そうね。ダイの案はどれも聞くに堪えないのばかりだったし」

「うぅ……」


 せっかくルナに励まされて持ち直して来たのにシファの容赦ない言葉によってダイはまたもや撃沈する。一応年上で男の子なのだが、いかんせんシファが強気過ぎる為、ダイはいじられてばかりだった。その様子をリーシャとルナは乾いた笑みを零しながら見守っていた。

 やはりシェルを納得させられるくらいの案はそう多くはなく、精々最初に出た二つくらいがリーシャ達の目に留まった。だがこれだけでは弱い気もする。後一つ駄目押しで何か案が欲しいというのが彼女達の本音であった。すると髪を弄っていたシファがその動きを止め、思い出したかのように二人の方に顔を向ける。


「あ、そう言えばリーシャ達って森でお気に入りの場所があるとか言ってなかった?私達は森に入れないけど、そこならシェルさんに紹介出来るんじゃないの?」


 シファの言葉を聞いてリーシャとルナもそう言えばと顔を見合わせる。村の特徴ばかり考えていた為、そう言った個人的なお気に入りの事を思い浮かべずにいたのだ。


「あー、なるほど! 確かにあそこはシェルさん気に入るかも!」

「でも……大丈夫かな?あそこって山の奥の方だし、あまりお父さんも行っちゃ駄目って言ってたじゃん?」

「大丈夫だよ、大魔術師のシェルさんも居るんだから」

「う~ん……それはそうだけど……」


 そもそも子供だけで森の中に入るのはいけない事であり、リーシャとルナは実力的に判断してアレンから許可を得ているが、それでも深入りはしてはいけないと注意されている。リーシャ達の森の中にあるというお気に入りの場所はかなり深い場所にある為、普通の子供のシファとダイでは決してたどり着けないだろう。だからこそそこはリーシャとルナにとって簡単には辿り着けない特別な場所なのだ。そんな場所を紹介しても大丈夫なのかとルナは不安に思っていたが、リーシャは相変わらず軽い調子で問題視していなかった。


「よし、これで決まり! これならシェルさんもこの村に居たい! ってせがむはずだよ」

「子供じゃないんだからシェルさんがそんな事はしないと思うけど……まぁ、一応これでやれる事はやったんじゃない?」


 大体の案が決まるとリーシャは立ち上がって自信満々の笑みを浮かべながらそう言った。シファはそんな彼女を見上げながらクスリと小さく笑う。涼し気な表情をしている彼女だが、こんな会話でも楽しんでるのだろう。強気で大人ぶっている節があるシファだが、それでも中身は可愛らしい子供なのだ。

 こうして話し合いは終わり、四人は原っぱで遊んでからそれぞれの家へと帰る事にした。帰り道、自信満々なリーシャを見てルナは大丈夫かなぁと不安げな表情を浮かべていたが、それは彼女だけの秘密である。






 月に何度かやって来る旅商人。こんな辺境の村に訪れるのは殆どが変わり者かここに村がある事を知らずにやって来る者達で、アレンからすれば貴重な外の情報を提供してくれ、自分が欲しい物を売ってくれる存在でもある。今回もまた村に訪れた旅商人とアレンは商談をしていた。商談と言ってもそれ程仰々しい物ではなく、村の入り口で立ちながら世間話を交えつつする緩い物だが。


「やぁやぁアレンさん、お久しぶりですね。冒険者を辞めた割には身体が衰えてませんなぁ。若く見えますよ」

「そりゃぁどうも。まぁそれなりに鍛えてるんでね」


 今回やって来た旅商人は以前リーシャ達に武器を売ってくれた商人とは違い、歳は三十代くらいで、ピンと跳ねた髭をしてまん丸の体形をした人当りの良さそうな男の商人だ。売っているのは武器や防具ではなく、冒険の際に便利なアイテムや薬などを売ってくれる商人だ。現に彼のリュックからは大量の薬草やら絵巻物などが飛び出ている。

 アレンは彼とも知り合いであり、王都で冒険者だった頃に知り合った仲であった。数年前にこの村でばったり再会し、それからもこうして時折商品を売りに来たり情報を提供しに来てくれているのだ。


「最近外の様子はどうだ?何か変わった事でもあったか?」


 アレンは丁度切らしていた薬草類などを購入し、袋に詰めながらそんな事を尋ねる。最近は西の村にも顔を出していなかった為、外の情報が欲しいと思ってそんな話をしたのだ。すると旅商人はあぁと何か複雑そうな表情をした。それを見てアレンはどうかしたのかと首を傾げる。


「それがですねぇ、何だか妙な事が起こってるんですよ。まだ確定した情報ではないんですがね?」


 旅商人は先程より少し声を小さくしながらアレンに顔を近づけてそう言った。つまりあまり他人には言いたくない、貴重な情報という事だ。本来ならそう言った情報にもお金を要求して来る商人が居るのだが、アレンとは顔見知りである為、特別に無料で教えてくれるらしい。アレンも耳を傾け、その話を聞く。


「何でもあちこちの村や街で妖精が出たんですって。ピクシーですよ。悪戯をして、ぱっと消えてくんです。嫌な奴らですよねぇ」


 旅商人は嫌だ嫌だと言いながら首を振るう。

 ピクシーとは妖精族に一番多くいる種族だ。小さく、悪戯好きな妖精で、妖精と言ったら真っ先に思い付くのはピクシーと言うくらい代表格の妖精である。普段は自分達の巣から出ない為、遭遇するのは森で迷った旅人くらいで、その旅人も酷い悪戯をされて帰って来る。人々からしたらあまり出会いたくない種族であり、実際商人側からしたら自分の商品を台無しにされる可能性もある為、盗賊と同じくらい会いたくない存在でもあった。


「ほぅ……それはまた妙な話だな。一つの場所でじゃなくて、あちこちの村や街でか?」

「ええ、判明してる情報ではですけどね?一体何が目的なのか……まぁどうせただの気まぐれなんでしょうけど。妖精の考える事はてんで分かりませんよ」


 アレンは口元に指を当てながら疑問そうな表情を浮かべる。

 妖精が村などに現れて悪戯をするというのは珍しい話ではない。否、珍しくはあるが、森で迷子の人間を悪戯するのに飽きた妖精が村にやって来るという事はある為、絶対にないとは言えないと表現するのが正しい。だが今回のようなあちこちの場所で妖精が現れるというのは明らかにおかしい現象である。商人は困った話だとただの通り雨のように考えているが、長年冒険者をやっていたアレンはこの事件を気にしていた。

 商談が終わった後、それではまたいつかと言って旅商人は去って行った。アレンは薬草がたんまり入った袋を手に持ちながらそれを見送り、先程商人とした会話を思い返していた。そして物思いにふけるように髭を弄った後、小さく息を吐いて家へと戻って行った。



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