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おっさん、勇者と魔王を拾う  作者: チョコカレー
2章:子と弟子と
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47:リーシャの剣技



 家の庭でアレンとリーシャは対峙していた。お互いに木剣を携え、動きやすい恰好で立っている。いつもの剣の特訓だ。この所少し忙しかった為間が空いてしまったが、今回は時間が空いた為、こうして二人で特訓をする事にした。


「今日こそ父さんに勝つ!」

「やる気満々だな。リーシャ」


 芝生の上で跳ねながらリーシャはやる気に満ち溢れていた。久々のアレンとの剣の特訓の為、気合が入っているのだろう。アレンとしては子供でもリーシャは勇者の為、本気の彼女を相手にするのは中々に厳しい。故にそこまで気合を入れないで欲しいのが本音だった。

 実際既にリーシャは剣術だけならアレンを追い越している節がある。どれだけの経験を積もうともアレンは凡人なのだ。決してその枠から超える事はない。ましてや勇者などという才能の塊を相手にいつまでも同等で居られる訳がない。最も、それは少し前までのアレンならの場合であるが。

 

「よーし……だったら俺も少しだけ本気出すかな」

「おー! 父さんがそういう事言うなんて珍しい。だったらなおさら負けられないね!」


 アレンはコキンと首を鳴らしてそう言う。その珍しいアレンの発言にリーシャは意外そうな顔をし、同時に嬉しそうに笑みを浮かべた。

 別段アレンは日頃から手を抜いていた訳ではない。ただ彼はあくまでもリーシャに剣術を教えるという立場にあり、剣の打ち合いでもリーシャに剣術を馴染ませる事を目的として戦っていた。故に今回はその戦い方を変える。

 二人は同時に木剣を構えた。リーシャはアレンに剣術を習った為、当然同じ構え方である。静かに相手を見据え、いつでも動ける体勢を取る。


「行くぞ、リーシャ」


 アレンがそう呟くと同時に二人は踏み込み、相手に向かって走り出した。同時に木剣を振るい、眼前で木剣同士がぶつかり合う。力だけなら当然大人のアレンの方が上だ。一気に押し切り、リーシャの木剣を弾こうとする。しかしリーシャもその事は十分に理解している。力の押し合いにならないよう、すぐに剣を引くとアレンの死角へと周り、木剣を振るう。寸での所でアレンはそれを防ぎ、木剣ごとリーシャを弾き飛ばす。


「とっと……!」


 軽いリーシャは紙のように宙を舞い、慌てて地面に着地する。大したダメージではないが、やはり力勝負になると自分は敵わない。その事を痛感しながらリーシャは木剣を強く握り直した。力で敵わないなら速さ、それでも駄目なら手数の多さ、一つで攻めようとはせず、多くで攻めきれば良い。リーシャは走り出し、滑り込むようにアレンの懐に入ると木剣を突き出した。アレンをそれを瞬時に弾くが、股を潜って背後に回ったリーシャはすかさず二撃目を繰り出す。流石に背後からの攻撃はアレンはすぐに対応する事は出来ず、若干遅れて木剣を後ろに払い、ギリギリの所でそれを防いだ。


(ッ……やっぱりリーシャの奴、旅商人から剣を買って以来剣術の腕が格段に上がってやがる)


 一旦リーシャから距離を取り、手から伝わって来る痺れを感じながらアレンは目を細める。

 どういう訳かは分からないがリーシャは旅商人から錆びた剣を買って以来、妙に剣術が上手くなっている。というよりは今までよりもずっと剣に馴染んだと表現した方が良いのだろうか?勇者のリーシャがいとも簡単に抜いたから案外あの剣は旅商人が言った通り本当に特別な剣なのかも知れない。いずれにせよ、リーシャが強くなったというのは事実なのだ。アレンは気を引き締め直した。


(やっぱり父さんは強い……でも今日は、今日こそは絶対に勝つ……!)


 一方でリーシャも確かな手応えを感じていた。今までは雲の上のような存在だったアレンだが、今は確かに手が届き始めている。自分の剣術が通用し始めている。薄っすらと笑みを浮かべ、リーシャは木剣を握り絞める。絶対に勝ち、そしてアレンに認めてもらうのだ。自分は一人前だと。そう心の中で思いながらリーシャは走り出した。


「はああぁぁ!!」

「ーーーーッ!」


 雄たけびを上げ、リーシャは跳び上がる。木剣を振り上げ、渾身の一撃を放とうと言う算段だ。確かにリーシャの軽い身のこなしならそのような攻撃手段は有効だろう。アレンはすぐに木剣を横に構え、その一撃を正面から受け切る。ビキィと木剣から嫌な音が聞こえたが、アレンは力一杯木剣を振るい、リーシャを弾いた。しかしすぐにリーシャも体勢を立て直し、アレンに追撃を打ち込む。その全てをアレンは受け切るが、段々と押され始め、庭の端にある木々の方まで下がり始めていた。


「これで……! とどめ!!」


 追い込まれたアレンを見てリーシャは自分の勝利を確信する。だがその瞳は決して油断しておらず、アレンがまた不意を突いた攻撃をしてこないかと慎重に見据えていた。全くの油断なし、一撃一撃も力の籠った鋭い物。教える側のアレンからしたら満点を付けられる戦いぶりであった。だが今回のアレンは、それだけで簡単に勝ちを譲るような優しさはなかった。遂に木剣が地面に弾き飛ばされてもアレンは怯まず、すかさず木の近くに落ちていた太い枝を二本拾い上げ、それでリーシャを圧倒するとあっという間に木剣を弾いてしまった。呆気に取られているリーシャに対して、アレンは汗を流しながらも笑みを浮かべて枝を突き付ける。


「……ッ!」

「ほい、今回も俺の勝ち……と言っても剣術ではとうとうリーシャに負けたがな」


 ヘナヘナとリーシャは地面に崩れ落ち、疲れが抜けたように肩を落とす。アレンも枝を下ろし、元あった場所に戻すと飛ばされていた木剣を拾い上げた。すると我に返ったリーシャが飛び跳ねると、不満そうに頬を膨らませた。


「ず、ずるい父さん! 棒で二刀流なんて……聞いてない!」

「だから言っただろう?今回は俺も本気出すって……まぁ不意打ちみたいな事したのは悪かったよ。でも剣術ではリーシャが勝ったんだ。もっと喜んだらどうだ?」

「むぐぐ……」


 実際今回の試合はアレンが今まで通り木剣だけで戦っていたら負けていた。とうとうリーシャに剣術で追いつかれてしまったのだ。だからアレンは戦い方を変えた。ダンジョンで攻略が難しい魔物が現れた時のように、彼は手段を変えたのだ。

 リーシャはまだ不満そうな表情をしていたが、立ち上がって土を払うと自分の木剣を拾い上げると考え込むように目を細めた。


(確かに……よく考えれば父さんは万能の冒険者。今まで剣だけで相手してもらってた時点で、私はまだまだ全然父さんに追い付いていなかったんだ)


 リーシャはその事実に気が付き、少し悔しそうに木剣を握り絞めていた。

 アレンは決して剣の達人ではない。それでもリーシャとの特訓で剣を使っていたのは、リーシャが剣の才能を秘めていたからである。つまりアレンはリーシャに合わせていたのだ。もしもアレンが全力で戦うのならば、吸血鬼のレドに教わった通り有り余る程の武器を駆使して戦うはずだ。剣での戦いでは本気を出していたのだろうが、アレンは今まで全力ではなかった。その事に気が付き、リーシャは少し前まで自分がアレンに届きそうだと思って浮かれていた事を恥じた。


「でも……諦めない! 色んな武器を使う父さんにもいつか勝ってみせる!」

「お、良い意気込みだな。そりゃ楽しみだ」


 落ち込んでいたリーシャだが急に顔を上げるとその黄金に瞳を輝かせながらそう宣言する。リーシャらしい前向きな性格にアレンも満足そうに頷き、木剣を自分の肩にトンと乗せて笑った。


(まぁ実際の所、子供のリーシャにもう剣術で追い付かれたんだから、他の技術もすぐに敵わなくなるだろうけどな……)


 余裕そうに笑っているアレンだが、その実裏では結構焦っていた。

 何せ少し前まで自分の方が上だった剣術が数か月もしない内に追い付かれてしまったのだ。やはりリーシャの才能は凄まじい。また今回のように戦い方を変えて攻めたとしても、やはり極めてない技術では彼女を抑えるのに限界があるだろう。アレンは頬を掻きながらそう寂しそうに考えていた。


(それでも……まだもうちょっとだけ父親として意地は見せてやるが)


 自分に才能がない事は分かっている。極め切れていないその技術では勇者のリーシャと戦っていられるのにも限界がある事も理解している。だがそれでも、もう少しだけ、リーシャの憧れる父親としてアレンは見栄を張りたかった。アレンはそう決心して木剣を強く握り締める。冒険者を辞め、歳だからと言い訳をして諦めていたアレンは少しだけ前を見るようになった。


 それから二人は一旦休憩する事になり、切り株に座りながら水筒を取り出して水を飲んでいた。リーシャの場合は元気が有り余っているのか、先程の戦いを反省してもう木剣の素振りをしている。アレンはそれを呆れたように笑いながらも優しく見守っていた。


「ねぇ父さんー、レドお婆ちゃんってどんな人だったの?」

「んー、そうだなぁ……」


 ふとリーシャは視線は前に向けて木剣で素振りをしたまま横に座っているアレンにそう尋ねた。アレンは手に顔を乗せて肘を付きながら思い出すように目線を上に向ける。

 既にリーシャとルナはアレンに村長から過去の話を聞いた事を明かしていた。元々自分が仕向けた事なのでアレンはそれを咎めなかったが、二人は勝手な事をしてごめんなさいと謝った。それ以来リーシャ達はこうやってアレンの昔の事について尋ねるようになった。


「あの人は何というか……謎な人だったよ。母親って言うよりも師匠みたいな存在だったし、色々隠し事が多かったからな」


 アレンは自分の少年時代の頃を思い出しながらそう言った。リーシャも一旦素振りを止め、汗を拭いながらアレンの話を聞いている。


「それでも吸血鬼なだけあって色んな事知ってたな。王都で学んだ事よりも婆さんから教わった事の方が多かったくらいだ」


 レドはこの村に住んでいただけでは知りえない程の膨大な知識を持っていた。それは王都に行ったアレンですら驚愕する程だ。それを思うとやはりレドという存在は色々とおかしな点がある。アレンにほぼ全ての武器の技術を伝授し、あらゆる属性魔法の知識を有し、歴史も知っている。そんな人物がこの辺境の村に住んでいるのはどうしても疑問に思えた。


「へ~……凄い人だったんだね。レドお婆ちゃんって」

「そりゃ凄いぞ、あの人は。素手で大型の魔物を倒せるし、魔法を使えば大地にクレーターが出来る程だからな」


 話を聞いてリーシャが感心したように言うとアレンも笑いながらそう答えた。

 冗談でも何でもなく、レドは本当に凄い人物だったのだ。アレンは王都で冒険者として過ごしたからこそ分かる。レドがどれ程強大な力を持っており、膨大過ぎる魔力を有していた事が。それは話だけを聞いていたリーシャでも感じていた。ルナからも吸血鬼が魔族の中でも特異な存在である事は聞いていたし、本当に高い実力を持った人物だったのだろう。だからこそリーシャは目を細め、疑問に思った。


(それ程の人が……魔物相手に遅れを取る事なんてあるのかな?)


 リーシャが疑問に思っている事は村長から聞いたレドが消えた時の事であった。話からして魔物討伐に向かったレドは戻って来なかった事から魔物にやられたと考えるのが自然だろう。だがアレンの話を聞いてもレドがその程度でやられるような存在だとは思えなかった。その妙な点にリーシャは引っ掛かり、首を傾げる。


「まぁそんな凄い人でも……結構俺の事を大切にしてくれてたんだなって事が今になって分かって来たよ」


 そんな考え込んでいるリーシャには気付かずアレンがそう口にする。その言葉を聞いてリーシャも思考を切り替え、アレンの方に顔を向けた。彼は視線を下に移し、自分の手の平を呆然と見つめていた。


「そりゃそうだよ! だって父さんの育ての母でしょ?優しいに決まってるよ!」

「ハハハ、そうかね。まぁ厳しい人だったけど、それが優しさとも言うしな」


 リーシャは拳を握り絞めながらやけに自信満々にそう言う。何故そう思うのかと疑問に思ったアレンだが、確かにレドは厳しかったがそれだけ自分の事を思っててくれたのだと考えれば納得出来る。少しだけ寂しそうな表情を浮かべ、アレンは誤魔化すように髭を弄った。

 それから休憩が終わり、また剣の特訓をした後、良い頃合いなので切り上げる事にした。汗をタオルで拭いていたアレンの隣で、リーシャはどこか考えるように真剣な表情をしていた。


「ねぇねぇ父さん……これからもレドお婆ちゃんの話、してくれる?」


 ふと木剣の先を地面に付け、柄に体重を乗せながらリーシャはそんな事を尋ねる。アレンはそのどこかよそよそしいリーシャの態度に首を傾げ、いつもの彼女らしくないなと思った。


「私、もっと父さんの事とかレドお婆ちゃんお事が知りたいんだ……駄目かな?」


 きっと彼女は遠慮をしているのだろう。自分に気を遣っているのだ、とアレンは判断した。

 アレンにとってレドの話は嫌な事を思い出す要因でもある。だからこそ今まで村人達はその事を口にしなかったし、アレンも無意識にリーシャとルナに教えなかったのだ。だがそうやって逃げているだけでは前に進めない。それどころかレドの事を忘れてしまうかも知れない。それだけは嫌だ。そう考えを改め、アレンは出来るだけ優しい笑顔でリーシャの事を見た。


「ああ、構わないよ。こんな話で良いならいつでもしてやるさ」

「やった! 父さん大好きー!」


 アレンが快くそう答えるとリーシャは抱き着き、そうお礼を言った。アレンは大袈裟な子だなと思いながらリーシャの頭を撫でてやった。こういう所はまだまだ子供らしい。アレンは自然と笑みが零れた。


「先生ー、リーシャちゃん、お昼ご飯が用意出来ましたよー」


 すると家の方からシェルが現れ、アレンとリーシャを呼んでお昼ご飯が用意出来た事を伝えて来た。アレンとリーシャも丁度特訓の区切りが付いた為、木剣を切り株の近くに置いて切り株から立ち上がる。


「はいよー、今行く」

「シェルさんの料理って父さんのと味似てるよねー。だから好きだけど」

「そうか?まぁ教えたの俺だしな……」


 一緒に家に向かっている途中、リーシャが前に出てアレンの方を向きながらそんな事を言って来た。アレンはそう言えばシェルに料理を教えたのは自分だったと思い出しその感想に納得する。教えたと言ってもダンジョン内で急遽燃料となる食事を取る為の雑な料理だが、こんな所でも受け継がれているんだなとアレンは感慨深く思い、そっと笑みを零した。



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