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おっさん、勇者と魔王を拾う  作者: チョコカレー
2章:子と弟子と
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38:冒険者グラン



「いや~、ガッハッハッハッハ! すまんな嬢ちゃん達。儂ぁ一度寝ると中々起きれない質でよ。迷惑掛けたみたいだな。ハッハッハッハ!」


 あれから数分後、ようやく目を覚ました男は辺りの状況を見てリーシャ達の説明を聞き、自分が中々に危ない状況に居た事を理解して豪快に笑いながら二人にお礼を言った。リーシャ達はそんな神経が図太過ぎる男に苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「おじさん本当に危なかったんだからね。よくあの状態で寝れるよね~」

「……図太い神経」


 ふとリーシャ達は目の前に立っている男の事を見上げる。当然ながら子供の自分達よりも大分背が高く。顔を見るには大分首を上げなければならない。顔のしわを見る限り大分老齢のように見え、少なくとも自分達の父親のアレンよりも歳を取っているであろう。しかし体格はしっかりとしており、腰も曲がっておらずちっとも老齢を感じさせない。引き締まった筋肉は程よく日に焼けており、白髪も後方に伸ばすように逆立っている。見方によれば中々活発な老人と言えるだろう。服装は相変わらずボロボロのマントの下は汚れた簡易的な装甲に動きやすさを重視してか最低限の衣服。いずれも外での活動が多いのか土や泥で汚れていた。


「おじさんひょっとして冒険者?」

「ん?おお、よく分かったな嬢ちゃん。そうだ。儂はかれこれ五十年近く冒険者をしてる」


 男の腰に剣が下げられている事と服装から冒険者と思ったリーシャは男にそう尋ねる。すると男も腕を組んで堂々と冒険者だと答えた。


「五十年も……! おじさん凄いんだね」

「ガッハッハッハ! そうだろうそうだろう?もっと褒めても良いぞ」


 リーシャはアレンから冒険者の詳細についても聞いている為、その仕事を長く続けるのがどれだけ大変なのかも知っていた。故に男が五十年も続けて冒険者をやっている事に心底驚いた。すると男もやはりそれが自慢だったのか、顔を上げて豪快に笑った。


「それなのにあんな無防備で寝てたの……?」

「ガハハハ、何分長旅だったんでな。雨を凌ごうと少し横になったらついつい寝てしまったんだ。これが」


 男が凄い冒険者だとは言えあんな無防備な寝方は感心出来ないルナはそう尋ねる。すると男も痛い所を突かれたように眉を潜ませ、またもや笑いながら額を叩いた。どうやら本人もここに来るまで色々あったらしく、雨を凌ぐ為だけに少し身体を休ませたら完全に熟睡してしまったらしい。


「それにしても嬢ちゃん達も中々やるみたいだな。その歳でストーンゴーレムを倒しちまうとは」

「ふふーん。父さんに鍛えてもらってるから。ね、ルナ」

「うん……」


 男は顎に手をやりながら気絶して倒れているゴーレムの事を見つめ、感心したように顔を頷かせながらそう言った。

 ゴーレムは動きが鈍い為そこまで脅威がある訳ではない。だがそれでもその硬い岩で構築された身体に傷を負わせるのは至難の業であり、腕利きの冒険者でも相性が悪ければ最悪の敵となる。そんなゴーレムの身体を砕くどころか気絶までさせてしまうのだから、流石の豪快な男もリーシャとルナの実力に驚いていた。


「ほ~、親父さんからねぇ。そらまた腕の良い親父さんだな」

「そうでしょー! 私達の父さんは世界一強い人なんだから!」


 ゴーレムを倒せる程の技術を教えられる人物なのだからさぞかしの実力者なのだろうと男は感心する。するとリーシャも自分の父親が褒められたのが嬉しかったらしく、いつものように明るい態度でぴょんぴょんと飛び跳ねながら父親の事を自慢した。


「おじさんは何でこんな山奥に居たの……?」


 リーシャの横に居たルナが少し警戒しながらそう尋ねる。足元ではクロも見知らぬ男の事を警戒しているのかただ黙ってじっと男の事を睨んでいた。この辺りには先程のストーンゴーレムのように危険な魔物が出る事が多い。故に近づく者もあまり居ないのだ。それなのにあんな無防備に寝るような男は怪しさ十分である。特に心配性なルナは目の前の男の事を警戒していた。


「まぁちょっとした用事でな。実は仕事中なんだ」

「どんな仕事なの……?」

「そいつぁ秘密だ。あんま仕事の事はペラペラと一般人に言っちゃいけないんでな」


 ルナが更に尋ねてみるが男は笑いながら首を横に振るだけでそれ以上教えてはくれなかった。冒険者なのだから恐らく何かの依頼中なのだろうが、その依頼内容を知れなければ目的は分からない。警戒し過ぎかも知れないと思うルナだが、先日の魔族の件もある為、どうしても神経質になりがちだった。


「討伐依頼とかでしょ。じゃなきゃわざわざこんな魔物が多い土地に来ないもん」

「ほー、金髪の嬢ちゃんは随分と勘が良いな。将来冒険者希望か?」

「まぁねー」


 男の恰好とこんな所まで来ている事から討伐以来だとアタリを付けたリーシャはそう指摘する。すると男はニヤリと笑ってリーシャの事を褒めた。そして将来冒険者になりたいのかと尋ねるとリーシャは曖昧な表情を浮かべながら答えた。本人的には父親と同じ冒険者に憧れているのだろうが外に出る訳にも行かない為、完全に肯定する事が出来なかったのだろう。


「ところで嬢ちゃん達はこの近くに住んでるのか?良かったら村まで案内して欲しいんだが。実は食料が底を付きそうなんだ」


 男は思い出したような表情をしながらリーシャ達にそう尋ねた。何でもここまでの長旅で既に食料が尽きてしまったらしく、村で物々交換をしたいそうだ。別に村に案内する事くらい造作もない事だが、幾分か警戒している二人はすぐに顔を縦に振る事は出来なかった。


「リーシャ、どうするの?このおじさん、怪しいかどうかは置いといて変な人なのは間違いないよ……」

「うーん……確かにちょっと豪快過ぎる気もするけど、悪い人じゃないと思うんだよね」


 僅かに男から距離を取りながらルナとリーシャはそうひそひそ声で相談し合う。

 二人共男が悪い人ではないというのは同意見であった。恐らくは本当にただの冒険者でたまたまここを通りかかっただけなのだろう。だがだからと言ってそれだけで村に案内してしまっても良いのだろうか?しばし悩んだ後、リーシャとルナはゆっくりと頷いて答えを出した。


「分かった。村まで案内してあげる。付いて来て」

「おお、助かるよ嬢ちゃん。お礼にこの珍しい石をあげよう」

「……それ、さっきのゴーレムの石じゃん」


 二人が出した答えは男を村まで案内するという物だった。

 完全に警戒を解いた訳ではないが、それでも男を拒絶する理由はなかった為、了承する事にしたのだ。

 リーシャの答えを聞いて男は本当に嬉しそうにお礼を言い、手を広げてリーシャのお礼だと言って石を差し出した。しかしそれが先程リーシャが倒したゴーレムの石だとルナは見抜き、呆れたように男の事を見た。すると男はバレたかと言わんばかりに豪快に笑った。


 それから移動中もリーシャとルナは男と話し、男が結構お喋りである事からある程度情報を得る事が出来た。

 まずリーシャの予想通り男が討伐以来を受けているのは間違いないらしく、そしてその対象は結構手強い相手らしい。話の感覚からしてリーシャが戦ったストーンゴーレムよりも強敵だそうだ。恐らくはこの地域近くに居るのだろう。男はその事については何も言わなかったがリーシャとルナは何となくそう予想していた。


 村の近くまで来るとクロと別れ、リーシャとルナは男を村の入り口まで案内した。村人達もリーシャ達が見知らぬ男を連れて来たのを見て少し警戒していたが、身なりからして冒険者だろうと予測し、ある程度警戒を解いた。


「ただいまー」

「リーシャちゃん、ルナちゃん。お帰り。その人は?」

「森で居眠りしてたの。ご飯欲しいんだって」


 近くに居た村人の女性が帰って来たリーシャとルナに笑顔を向けながらそう尋ねる。するとリーシャは簡単な説明だけして男の事を指さした。男は村人が女性だったから何故かニカッと愛想の良い笑みを浮かべお辞儀をした。


「父さんは?」

「リーシャ達のお父さんなら今畑仕事の最中じゃないの?昼頃に一度戻るって言ってたわよ」

「そっか、分かった。ありがとー」


 村人の女性にアレンの所在を尋ね、昼頃には家に戻るのではないかと聞いてリーシャはお礼を言い、手を振って別れる。アレンはいつも通り畑仕事をしているらしいので、予定通りなら女性の言う通り家に戻るだろう。


「ふーん、良い村じゃねぇか。しかも獣人とかも居るのか。珍しい村だな」


 とりあえず村長の所に連れて行く事となり、リーシャとルナは男を更に村の中も案内する。その道中通りかかった村人を見て男は珍しそうに呟いていた。恐らく村人達が様々な亜種族が居る事に驚いていたのだろう。亜種族はそれ程珍しい訳ではないが、こんな小さな村に多種の亜種族が共同で生活しているのが意外だったのだろう。


「はい、ここが村長の家。食料の交渉がしたいなら村長に言って」

「おお、何から何までありがとうな嬢ちゃん達」


 ようやく村長の家まで辿り着き、リーシャはふんと鳴らす。別段何か頑張った訳でもないのだが、リーシャが得意げならそれで良いかとルナは別に指摘しなかった。男は案内してもらったリーシャ達に行儀よくお礼を言い、本当に感謝していた。それを見てやはり少し変な人ではあるが良い人なのかなと二人は認識を変える。


「あれ、先客が居るのかな?」

「シェルさんじゃない。ほら、お父さんの件で……」

「あ、そっか」


 扉を開けると玄関には誰かの靴があった。女性用の白い靴であった為、シェルの物ではないかと思ったルナはリーシャにそう伝える。するとリーシャもアレンの事について聞いて欲しいという相談をした為、その事でかと納得した。とりあえず少し中に入ってみると案の定村長とシェルが話をしており、シェルもリーシャ達の存在に気が付くとその方向に顔を向けた。


「あれ、リーシャちゃんとルナちゃんじゃない」

「んん?二人共どうかしたのかの?」

「こんにちはー、シェルさん、村長。お客さんだよ」


 シェルが気が付くと村長も気が付き、二人は座っていた椅子から立ち上がってリーシャ達の方に寄る。リーシャもお辞儀をしながらお客が来た事を伝え、男の事を手で差した。すると男の事を見たシェルが目を見開き、口元を手で覆ってはっとした表情になった。


「……ッ!! グランさん!?」

「ん?おいおい、何だい。何でお前がここに居るんだ?シェルリア・ガーディアン」


 グランと呼ばれた男もシェルの姿を見ると驚いたように指さし、シェルの苗字を呟いた。どうやら二人は顔見知りだったらしく、リーシャとルナは二人の顔を交互に見て呆然としていた。


「知り合いなの?シェルさん」

「う、うん……一応。冒険者の中では結構有名な人だから」


 試しにリーシャが尋ねるとシェルは少し戸惑ったような表情をしながら答えた。珍しく緊張しているのか、今のシェルは普段のほがらかなシェルとは違いどこか怖がっているような印象を受ける。それ程このグランという男は凄い人物だと言う事なのだろうか。


「〈剣鬼〉グラン……かつて剣一本で竜を倒したと言われる歴戦の冒険者……どうして貴方がこんな所に?」


 シェルはそう言いながらグランに何故この場所に来たのかと尋ねた。彼女はグランがリーシャとルナの正体について何か知ったのではという不安があった。グランは下手をすれば前回の魔族よりも高い実力を持っている為、もしも敵意を向けられれば対処のしようがない。僅かにシェルの額から冷や汗が流れた。だがそんなシェルの不安とは他所にグランの返答は平凡な物だった。


「別にただの仕事だよ。この地域に討伐対象の魔物が居るんだ。儂ぁ偶々通り掛かっただけさ。お前こそ何でこんな村に?魔術師協会の仕事はどうした?」


 グランはリーシャ達にも言った通り討伐依頼を受けているとだけ答え、それ以上の事は言わなかった。元々豪快な性格をしている為、シェルもよくよく考えればグランのような人物が勇者やら魔王の事など関心を持たないだろうと考えを改め直し、警戒を解く。


「私はこの村で調査の仕事があるんです。今は居候させてもらってます」

「へー、そうかい。んじゃ詳しい話は後にさせてくれ。儂ぁその村長さんに用があるんでな」

「ほ、儂にか?」


 急に自分の事を言われて自身を指さしながら村長はキョトンとした表情をする。グランは食料の交渉があるのでそっちの話をさっさと終わらせたいのだろう。シェル達もずっと村長の家で話しているのも悪いと思い、一度村長の家を出た。扉の前でシェルは僅かに険しい表情を浮かべ、リーシャとルナはそれを見つめている。


「まさかグランさんがやって来るなんて……」

「何かまずかった……?」

「ううん、別に悪い人じゃないの……ただ見ての通りああいう性格でしょ?何も起きなければ良いけど」


 シェルが不安そうな表情をしていたのでルナが尋ねてみると、どうやら心配なのは危険な事とかではなくグランが何か問題を起こさないかという物であった。見ての通りグランは色々と豪快である為、リーシャと似たような性格をしている。つまり問題を起こす可能性が高いという事だ。決して悪意がある訳ではないが、事件の中心に立つ事が多い。そういう性格の人間が世の中には必ず居るのである。特にグランのような人物がその傾向が高い。


「前に王都でも隠れてた盗賊団を捕まえる為に民家を大分壊してたし……まぁこの辺りは大きな事件とかもないから、大丈夫かな」

「色々凄い人なんだね……グランさんって」

「うん。実力があるのは確かだよ」


 以前起こった事を思い出して不安の色を濃くするシェルだが、この村ならそんな事件も起きないだろうと何とか前向きに考えた。ルナもそんなシェルを慰めるようにそっと傍に寄り、シェルもそれに釣られてか笑顔を取り戻して会話をする。


「ところでシェルさん、村長から父さんのこと何か聞けた?」


 ふと芝生の上に腰を下ろして地面の上を這っている虫を眺めていたリーシャがそう尋ねた。昨日相談していた話の事だ。そもそもリーシャとルナはシェルに任せている間森に向かってグランと出会った。故にその間にシェルが何かしらの情報を得ているのに期待していた。だがシェルは浮かない表情を浮かべ、小さくため息を零した。


「それがね、申し訳ないんだけどあまり有益な情報は得られなかったの。意外にも村長さん口が堅くて……」

「ええ~。シェルさんでも駄目だったの?」

「やっぱり、お父さんの過去は秘密なのかな……?」


 村人から信頼を得ているシェルでもアレンの過去を聞き出す事が出来ず、リーシャとルナは肩を落として落胆した。一番期待していただけに落ち込みは大きい。ここまで来ると後はもう直接本人に聞くくらいしか手段が残っていない為、三人は追い込まれた表情をしていた。


「こうなったら父さんに直接聞くしかないかー……」

「そうだね……仕方ないけど」


 ひょっとしたらアレンが嫌がるかも知れないが、それでも二人は知りたいという好奇心に悩まされている。これだけ村人達に聞いても何も情報が得られなかったのだから、その思いは募るばかりだ。こうなったら多少のデメリットは背負いつつ、本人に直接聞くしかない。二人はそう決断した。

 リーシャとルナがそんな風に覚悟を決めていると丁度家の扉が開き、グランが出て来た。どうやら話は纏まったらしい。


「おう、待たせたな。儂も一日だけこの村で厄介になる事になったよ。宜しくな」


 村長との話し合いで食料も貰える事になり、次の移動の為に体力を養う為に一日この村で休む事になったらしい。別に異論もある訳ではないのでリーシャとルナは頷く。シェルはちょっとだけ嫌そうな顔をしていた。


「それでガーディアン。お前さんは今どこで暮らしてんだ?」

「ああはい、実は先生のお宅で……ここ、アレンさんの故郷の村なんですよ」

「なにっ、アレン?あの坊主がこの村に居るのか?」


 グランが改めて尋ねるとシェルはアレンの事を説明する。グランもアレンの事は知っているらしく、彼の名前を聞くと驚いたように目を見開いていた。


「坊主……?」

「ああ、そう言えばグランさんは先生がまだ新米の冒険者だった頃を知っているんですっけ?」

「あったりまえよぅ。奴がギルドの扉を開けたその時から儂ぁ奴の事を知ってんだ。依頼の仕組みを教えたのも儂なんだからな」


 グランがアレンの事を坊主と言った事が気になり、ルナは首を傾げる。するとシェルもそう言えばと言ってグランが新米冒険者だった頃のアレンを知っている人物だという事を思い出した。つまりそれはまだ子供だった時のアレンを知っている人物という事だ。その事に気が付き、リーシャとルナは目を輝かせる。


「えー! おじさん、父さんの昔の事知ってるの?!」

「おお、もちろんだ……って、父さん?お前ら坊主のガキ共なのか?嘘だろ。似てなっ!」


 リーシャ達がアレンの子供だという事を知るとグランは今日一番驚いた表情を浮かべた。最も本当の子供ではないので二人がアレンと似ていないのは当然なのだが、その事を知らないグランはまるで天変地異のごとく口をあんぐりと開けていた。一方でリーシャとルナも思わぬアレンの過去を知る人物の出現に喜び、黄金と漆黒の瞳をキラキラと輝かせていた。



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