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おっさん、勇者と魔王を拾う  作者: チョコカレー
2章:子と弟子と
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36:魔術師の協力者



 その後もリーシャ達はアレンの過去を聞き出す為に様々な村人の所へと赴いた。しかしアレンの過去を教えてくれる者は誰もおらず、皆口を堅く閉ざしたままだった。普段ならアレンは何が好きか、どのような趣味があるのかを喜んで教えてくれるというのに、アレンの詳しい過去については皆一切語らない。リーシャとルナの表情も段々と雲行きが怪しくなっていった。


「うーん、シファのお母さんもだんまりだったし、皆何も教えてくれなかったね」

「うん……何か分かると思ったんだけど、全然だったね……」


 帰り道、リーシャ達は重い足取りで村の通り道を歩いていた。

 アレンの過去の全貌を聞き出せるのは無理だが、それでも何かしら小さな事なら聞き出せると思っていた為、何の成果も得られなかったのは落胆が大きいのだ。いつもなら明るいリーシャも思わずため息を吐き、肩を落とした。


「いくら何でもおかしいわ。村の全員がアレンおじ様の過去を喋らないなんて! きっと何かやましい過去があるのよ!」

「ええぇ……?流石に師匠がそんな過去を持ってるとは思えないんだけどなぁ……」


 無関係のシファも村人達が一切喋らない事には違和感を覚えており、確証がない憶測を立てて騒いでいた。それを聞いてダイはシファのあんまりな推測に呆れてため息を零す。


「だったら何だって言うのよ! 他人に喋っても良い過去なら皆言うはずでしょ!」

「それはそうだけど……」


 ダイの反論に対してそれならば何なんだとシファは詰め寄りながら逆に聞き返す。するとダイも言い返す事が出来ず、困ったように頬を掻きながら口ごもった。


「確かに村の皆が何も喋らないのは変だね」

「ダンおじちゃんは父さんがかなり変わり者だったって言ってたし、何か言えない過去があるのは本当なのかな?」

「うん……でも、一体何なんだろう?」


 ルナとリーシャも神妙な顔つきになり、村人達が何故アレンの過去を語らないのか考察し始めた。

 シファの言うやましい過去があるというのは却下だろう。それならアレンが平然と村に入れるのはおかしい。精々子供達には言い出し辛いくらいの過去というのが無難だ。という事はアレンは昔相当やんちゃ小僧だったとかだろうか?だがそれだけでは家族に関しての情報がない。何かしらの事故で亡くなり、それで言えないとかが一番可能性がありそうだが……と、ここまである程度予測を立てたがやはりそれでも村人全員が一切喋らないのには違和感を感じ、リーシャとルナはうんうんと唸りながら首を捻った。


「あー! やっぱり分からない……普段の父さんを見ても全然変な所ないし、やっぱり直接聞いた方が良いのかなぁ?」

「でも村の人全員が喋らないくらいだし、お父さんに聞いたら逆に叱られちゃうんじゃない?勝手に詮索するなとかって……」

「あ~、確かに。父さんに叱られるのは嫌だなぁ」


 後頭部で手を組みながら疲れたようにリーシャは最終案を出した。

 結局の所アレン本人に直接聞くという至極簡単な案なのだが、ルナはアレンに知られたら勝手に過去を調べようとしていた事を知られて怒られるのではないかと不安がった。するとリーシャもアレンに叱られるは嫌らしく、苦い顔をして提案を却下した。


「だったらさ、あの人に協力してもらったらどう?リーシャ」

「え?誰?」


 諦めかけたその時、ふとシファが思い出したように銀色の髪をかきあげながらそう言った。それが誰の事を言っているのか分からず、リーシャは歩みを止めてシファの方を振り返りながら質問した。


「シェルさんよ。あの人ならリーシャ達にも協力的だし、アレンおじ様の事に関しても積極的に調べてくれるんじゃない?」


 指を一本立てながらシファは答える。それを聞いてリーシャとルナも何かに気が付いたようにああと声を漏らした。

 確かにシェルなら王都に居た時のアレンの事も知っているし、村で暮らしていた時の事は知らなくても何かしら情報を持っているかも知れない。それに彼女の力を借りればアレンの過去を調べる事も出来るだろう。ようやく希望が見えて来た為、リーシャとルナの正反対な黄金と漆黒の瞳は輝き始めた。


「あ~、なるほど。シェルさんなら色々調べてくれるかも」

「大人の力を借りるって言うのは良い案かもね……」


 リーシャとルナも顔を見合わせ、小さく頷き合う。

 バラバラだったピースがようやくはまり始め、道筋が見えてくる。希望が芽生えたリーシャとルナの表情は自然と柔らかくなった。


「さっすがシファ! 頭良いねー!」

「ふん、当たり前でしょう。私は神秘のエルフ族なんだから」

「それは別に関係ないと思うけど……」


 シファが良いアドバイスをしてくれた事からリーシャは彼女に抱き着きながらお礼を言った。自尊心の強いシファは鼻を鳴らしながら胸を張る。

 それから時刻も夕方頃になって来た為、ひとまず子供達はそれぞれの家へと戻る事になった。分かれ道の所でリーシャ達は自分の家の方向へと向きを変える。


「それじゃ、何か分かったら教えなさいよ」

「別に危険はないと思うけど、あまり無茶はしないようにね。リーシャ、ルナ」

「うん! シファもダイも今日はありがとうね」

「ばいばい」


 方向が一緒のシファとダイはリーシャ達とは反対方向の道に向かい、別れ際の言葉を残して家へと帰って行く。リーシャとルナも今日色々と二人が付き合ってくれた事からお礼を言いながら手を振った。そして二人が見えなくなるとリーシャとルナも自分達の家へと戻る。


 家に戻るとアレンはまだ帰って来ていなかった。どうやら村長の家に居るらしい。また何か相談事だろう。二人は別に気にせずいつものように過ごした。すると丁度シェルも戻って来た。魔術師協会との連絡方法がどのような物なのかは分からないが、ひとまず用事は終わらせてきたらしい。リーシャとルナは丁度アレンも居ない為、シファがしてくれたアドバイスを早速実行する事にした。


「……という事でね、シェルさんに協力して欲しいの!」

「へぇ、先生の過去を……確かに私もあまり先生の昔話は聞かなかったなぁ」


 大体の目的を伝え、リーシャはシェルに協力を頼む。突然申し出でも快く話を聞いてくれたシェルはなるほどと声を漏らし、顎に手を当てて自身も考えるように目線を下に動かした。


「でしょでしょ! シェルさんも気になるよね?だからお願い! 協力してっ」

「お願い。シェルさん」

「うーん……二人からのお願いなら断る訳にもいかないかなぁ。私も先生の過去についてはちょっと気になるし」


 しばし悩むように首を傾げた後、シェルは笑顔で二人のお願いを聞き入れてくれた。シェル自身もアレンの過去については少々気になる為、返事もすぐに出た。


「やった! ありがとう」

「ありがとうございます」


 リーシャは跳んで大喜びし、ルナもリーシャ程ではないが笑みを浮かべて喜び、シェルにお礼を言った。


(先生の少年時代か……うん、楽しみ)


 二人がわいわいと喜んでいる中、シェルはアレンの子供の頃の姿を想像して何やら薄っすらと笑みを浮かべていた。大好きなアレンの知らない過去を知れると思うとついつい表情が緩んでしまうのだ。


「それで、今分かってる事とかはあるの?」

「うーんとね。村の人に聞き回ったけど全然教えてくれなくてね。父さんが昔かなり変わり者だったって事だけ分かった」


 ひとまず現状を整理しようという事でシェルは腕を組み、頬に手を当てながらそう尋ねる。するとリーシャは今日昼間に調べた事を大体纏めてシェルに伝えた。その情報を聞いてシェルはふと目を細める。


(村の人達が教えてくれない?それに先生が変わり者だなんて……あんな真面目な人中々居ないと思うけど……)


 村人達が全然喋ってくれない事にシェルも違和感を感じ、更にはアレンが昔は変わり者だったという情報に眉間にしわを寄せた。何故ならアレンは王都では超が付く程真面目な冒険者で、だからこそ教官的な立ち位置として新米冒険者の世話を任されていたのだ。そんなアレンが昔は変わり者というのはいささか信じられなかった。


「シェルさんにはね。村の人達に色々聞いて欲しいの! 私達は多分子供だから教えてくれないだけで、大人のシェルさんになら何か喋ると思うんだ」

「なるほど、確かにその可能性はあるね。分かった。明日村長さんとかに聞いてみるね」

「やった! ありがとう。シェルさん」


 リーシャの提案にシェルも賛同し、腰を折ってリーシャと目線を同じにしながらコクンと頷いた。

 リーシャの言う通り大人のシェルなら村人達も口を開いているかも知れない。特にシェルはアレンの弟子でありつつ部外者である為、そういうプライバシーな事も聞き出せる可能性が高い。シェルもアレンの過去知るのは乗り気である為、かなり積極的であった。

 こうして大体の方向性が決まり、リーシャ達はその後は普段通りに過ごした。しばらくるするとアレンも家に帰り、少し疲れたように首に手を当ててコキンと鳴らしていた。


「ただいま」

「お帰りー、父さん」

「お帰りなさい、お父さん」


 家の中に入ってくるアレンにリーシャとルナはいつものように駆け寄る。アレンも二人の顔を見るとほっと安堵したように表情を和ませ、二人に声を掛けながら頭を撫でてやった。

 それからいつものようにアレンは食事の準備をし、リーシャとルナも食器を運んだりと手伝った。シェルもアレンの料理をしている所を手伝い、食卓に料理が揃うと四人で囲んでそれを食べ始めた。


「二人共今日は何をしてたんだい?」

「えっとね、シファとダイの二人と遊んでた!」

「そうか、あの二人とか」


 食事の手を進めながらアレンはリーシャとルナに今日はどのように過ごしていたかを尋ねる。するとリーシャがフォークで魚の料理を頬張りながら答えた。アレンはいつもの二人と遊んでいたと知り、顔を頷かせて相槌を打った。


「後村の皆に色々と父さんの事をねー……」

「リーシャ」

「あ! えっと……村の人達に花の種類を教えてもらったの! たくさん!」


 話を進めている内についリーシャは今日村でした事を全部言いそうになり、それを慌てて向かい側の席に座っていたルナが止めた。リーシャもすぐに言葉を止め、何とか誤魔化した。


「ほぉ、それは良かったな」


 一瞬話題を切り替えたリーシャの事をアレンは見ていたが、別に気にした様子も見せず料理を食べながら話を進めた。


「気を付けてよ、リーシャ」

「えへへ、ごめんごめん」


 何とか誤魔化せたのを見てルナは安堵し、小声でリーシャを注意した。リーシャも申し訳なさそうに頭を下げて笑みを零す。その様子をシェルは微笑ましそうに眺めていた。

 それから夕飯を食べ終えた後、食器を戻してリーシャとルナは自室へと戻って行った。アレンとシェルはいつものように後片付けをし、並んで皿洗いをしている。


「先生、村長とのお話は上手くいきましたか?」

「ああ、昨日の祭りの件で色々とな。ひとまずは問題なさそうだよ」


 手を動かしながらシェルは世間話で今日アレンがしていた事を尋ねる。するとアレンも皿洗いを続けながら問題なかったと答えた。

 先日の村に魔族が入り込んだ件で今日アレンは村長と色々と話し合っていたのだ。前の話し合いで大体の方針は決まっていたものの、詳しい事を決めるにはまだ相談が必要だった為、今日村長の家に集まったのだ。そしてアレンも話を一度終えると気になっていた事を口にした。


「何だか二人の様子がいつもと違ってたが、何かあったのか?」

「あ、えっと、別に……ただのお年頃なだけですよ」


 食事の時のリーシャとルナの様子が一瞬だけがおかしかった事からアレンはシェルにそう尋ねた。リーシャとルナの調査に協力しているシェルは二人が調べている事をアレン本人に知られるのを嫌がっているのを知っている為、少し戸惑いながらも誤魔化した。


「ふぅん……そういうもんかね」


 長年リーシャとルナを育てて来たが年頃の女の子の心境は分からない為、大人の女性のシェルの意見に同調し、アレンはそれ以上気にする事はなかった。その様子を見てシェルも少し罪悪感を感じながらも自分もアレンの過去を知りたいという事から目を背け、心の中で謝りながら何食わぬ顔で皿洗いを続けた。



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[気になる点] 人物の描写を、具体的な動作や心情を全て直接表現で書いて表現しているように思えます。読者に十分想像できることまで一々記述しているので、冗長に感じます。 一連のセリフのあとで、さらにその話…
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