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おっさん、勇者と魔王を拾う  作者: チョコカレー
2章:子と弟子と
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35:子供達の探検



 リーシャ達が住む村にも当然子供は居る。大抵が獣人だったり亜種族のハーフだったりする為、見た目がかなり違ったりするのだが、子供達はそんな事は気にせずに一緒になって遊んでいる。リーシャもその内の一人であった。ただしルナの場合は自分が魔王である為か、皆とは一歩離れた距離を保っていた。


 暑さを覚えるくらい天気の良い日、リーシャとルナは友達と遊ぶ事を約束していた為に村の隅にある遊び場へと向かっていた。原っぱは草が伸びて虫達が徘徊しており、子供達はそれを追っかけたりして遊んでいる。そんな子供達のグループのある一部にリーシャとルナは近づいた。


「リーシャ、ルナ。遅いわよ二人共!」

「ごめんごめんー。ちょっと寝坊しちゃってさー」

「ごめんなさい……」


 やって来たリーシャとルナを見て一人の少女がそう声を上げた。

 美しい銀色の髪を編んで横におさげにして垂らし、真っ白な肌に翠色の瞳をした美しい少女。ツリ目で常に眉を吊り上げており、気の強そうな印象を受ける。そんな彼女の何よりの特徴は耳がかなり尖っている事であった。


「全く……リーシャはのんびり屋さんなんだから」

「でもシファだってこの前遅刻して来た事あるじゃん。これでおあいこでしょ」

「それとこれとは別よ!」


 シファと呼ばれた少女はリーシャの指摘に対して腕を組みながらそう反論した。感情に反応するのか、時折彼女の耳はピクピクと動いている。

 少女の名はシファ。リーシャとルナの女友達であり、純粋のエルフであった。

 通常エルフは森の中で隠れ住んでいる為、滅多に表に出てくる事はない。しかしこの村には何人かのエルフが住んでおり、シファはその子供であった。


「大体ダイだって遅刻しそうだったし。皆マイペース過ぎるのよ!」

「悪かったよシファ。だからそんなに怒らないでくれ」


 ふとシファは隣に立っていた紺色の髪の少年の事を睨んでそう言う。ボサボサとした髪質をしており、皆よりも背は頭一つ分程高い。真面目な顔つきで服装もちゃんと整っており、怒ってばかりいるシファと比べれば大分大人しい印象だった。

 彼の名前はダイ。アレンの友人であるダンの息子であり、獣人と人間のハーフである。ただし人間の血が濃い為かダンのように尻尾は生えておらず、どちらかと言うと人間よりのハーフである。リーシャ達よりは四歳程歳上であり、子供達の間では兄貴分なポジションであった。


「はぁ……もう良いわ。それで、今日は何して遊ぶ?」


 話が一区切り付いた後、シファは疲れたように頭を掻きながら腰に手を当ててそう尋ねた。

 結局なんだかんだ言ってシファも皆と遊ぶのを楽しみにしている為、彼女の怒ったような口調もリーシャ達は気にしていなかった。シファがプライドの高い子だという事は皆知っている為、最早これも恒例行事になっているのだ。

 そして子供達は早速何をして遊ぶかを話し合い、せっかく虫が出て来たのだからそれの名前を当てっこするという遊びを始めた。全員が原っぱに腰を下ろし、飛び出て来た虫を指さして名前を言い当て合う。そんな平穏な時間が過ぎていく。


「ところで昨日の祭りは凄かったわね。まさかダイのお父さんがあんな隠し芸を持ってたなんて……」

「うん……息子としての僕は複雑な気持ちでいっぱいだよ……」

「え?ダイおじちゃん太鼓以外で何か凄い事してたの?」

「何よ。見てなかったの?凄かったわよ。ダンさんのアレ」


 ふと話は昨日の祭りの事に移り、シファは思い出すように空を見上げながらそう言った。途中で祭りから離れてしまったリーシャはダンの隠し芸などと言われても何の事か分からず、気になったように顔を上げてそう尋ねた。しかしシファはその様子を面白がるように答えず、ダイの方も言いづらいのかボサボサの髪を掻いて顔を背けていた。


「え~、何なの何なの隠し芸って。気になるー!」

「後で父さんに聞けばいいよ……多分喜んで答えてくれると思うから」


 リーシャが手をぶんぶんと振りながらそう言うとダイは何とかそう言ってくれた。

 確かに気になるのならば本人に聞けば良いだろう。だがダイの複雑そうな表情を見ると何となく聞くのは悪いような気がした。尤もそれだけでリーシャの好奇心を抑えられる訳ではないのだが。


「リーシャ……皆に聞かないの?お父さんの事」

「ん?……ああ、そうだった!」


 ふとずっとリーシャの隣で黙っていたルナがリーシャの肩を突きながらそう尋ねた。するとリーシャも思い出したように手をポンと叩き、皆の方に顔を向けた。シファもダイも何事かとリーシャの方に顔を向ける。


「あのさ、ウチの父さんの事で何か知ってる事ってない?ほら、私達って父親しか居ないじゃん?その事について何か知りたいんだ」

「ええー……随分と突っ込み辛い事を聞いて来たね……リーシャ」


 こういう話は結構複雑でデリケートな問題のはずなのにリーシャは何てことないように尋ねて来た。それを聞いてダイは困ったような表情を浮かべ、隣に座っているシファもジト目でリーシャの事を見ていた。怒っているというよりは呆れていると言った表情だ。リーシャからすれば自分がアレンに拾われた子供という事は既に理解している為、アレン自身の過去を知りたいだけなのだが、端から見れば自分の家庭の秘密を知りたがる思春期の子供の為、何とも言えない空気が流れていた。


「そんな事言っても子供の僕達じゃ何も知らないよ。前に父さんに聞いた時も師匠にも色々あるんだとしか言ってなかったし……」

「……ダイが父さんの事師匠って言うの未だに慣れないなー」

「そ、それは今どうでも良いだろう?」


 頬を掻きながらダイは思い出すようにそう答えた。するとダイがアレンの事を師匠と呼んだ事に対してリーシャは何とも言えない表情でダイの事を見ていた。

 実はダイはアレンに憧れており、時折剣の稽古を付けてもらっているのだ。ダン曰く息子のダイは昔のアレンのように外の世界に憧れていて、それで元冒険者というアレンがスターのように見えるらしい。自分の父親を尊敬してくれていると言うのはリーシャにとって嬉しい事だが、今までずっと自分だけが剣の稽古を付けてもらっていた身としては何だか父親を取られたような気になって複雑だった。


「私のとこも同じようなものよ。母様に聞いてもアレンおじ様は王都で色々あったんだってだけ。大方王都の方で母親と別れたとかそんなとこじゃないの?」

「うーん……そっかー」


 シファの方にも顔を向けると彼女の口からもダイと同じような答えが返って来た。一応シファは自分なり推測を混ぜて答えてくれたが、それを聞いた所でリーシャが満足出来る訳がなかった。何故ならアレンにとって妻という人物は存在しないのだ。この事は既にシェルからも確認を取っている。リーシャが最も知りたいのは何故アレンに両親が居ないのか?過去に村でどんな生活を送っていたのか?そういう事が知りたいのだ。


「じゃぁ父さんの昔の事について何か知らない?まだ村を出る前はどんな風に暮らしてたのか?誰と一緒に暮らしてたとか……」

「あー……それは僕も気になるなぁ」

「それこそ子供の私達じゃ分からないわよ。ダンさんとか、私の母様に聞きでもしないとね」


 方向性を変えてリーシャがそう質問するとダイも気になった素振りを見せ、シファは幾つかの方法を提示した。

 子供である自分達がアレンの少年時代の事など当然知る訳がない。だがアレンと同じ時代を生きた人達ならば知っている。自分達の両親だ。ダンやシファの母親に聞けば何か分かるかも知れない。


「じゃぁ今からダンおじさんとシファのお母さんに会いに行こう!」

「えっ……本当に行くの?」

「んー……まぁ遊びにも飽きて来たとこだし、暇つぶしにはなるかなぁ」


 突然芝生の上から飛び起き、リーシャは拳を天に突き上げてそう提案した。その行動力のあり過ぎるリーシャの様子にダイは面喰らい、シファは髪を弄りながらどうでも良さげに答えた。


「よーし、そうと決まったらすぐ行こう! ほら、ルナ立って」

「うん……」


 まだダイが返事をしていなかったがそんな事気にせずにリーシャは歩き始める。ルナもそれに続き、シファも後を追った。そんな三人を見てダイは慌てて飛び起き、背中に付いていた草や土を払って追い掛けた。


 子供達の行動力は凄まじい。ましてや何事にも前向きで明るく考えるリーシャならばやりたい事もその日の内に終わらせられる程の体力がある。後はやはり勇者という性質が関係しているのだろう。男で歳上のダイはそれを知らない為、何故自分はリーシャに引っ張られてばかりなのだろうと疑問に思っていた。

 そうやって四人仲良く歩きながら村の中を移動していく。まずはダンの家に向かっていた。この時間帯なら家に居るはずだとダイが覚えていたのだ。


「ところで、シェルさんってまだ村に居るの?仕事はひと段落付いたとか言ってたけど」

「何よダイ。こんな麗しい私が居るのに大人のお姉さんの方が良いって言うの?」

「えっ?いやそういう訳じゃっ……ていうか! 僕は別にシファの事をっ……」

「冗談よ。男の子がそんなみっともなく慌てるんじゃないわよ」

「…………」


 歩いている途中にダイがシェルの事について気になった事を尋ねる。元々シェルは魔術師協会の調査でこの村に居ただけで、仕事が終わればすぐ帰る身なのだ。この村に居る間はシェルも村人と交流したり村の子供達と遊んでくれた為、ダイは単純に気になっただけなのだが、それをシファにからかわれ、歳下の女の子に簡単にあしらわれてしまった。


「うーん、どうだろう……今は報告がどうとか言ってたから、魔術師協会の本部から連絡が来るまで待機中だと思う。だからもうしばらくは村に居ると思うよ」

「だって。良かったわね、ダイ」

「だから僕はっ……!!」


 少し考えるように頭の横に指を当てながらリーシャは答え、それを聞いてシファがまたからかう。すっかり兄貴分としての顔が立たなくなったダイは情けない表情を浮かべながら肩を落としていた。


 そんな話をしている内にあっという間にダンの家へと到着した。リーシャは早速ダンに要件を伝えようと扉に近づく。当のダイはリーシャ達がかなりデリケートな質問をしようとしている為、大雑把な自分の父親がどんな答え方をするかハラハラしていた。そんなダイの事などいざ知らず、リーシャは優しく扉を叩いた。


「こんにちはー。ダンおじちゃん居る―?」

「んおー……?おお、何だリーシャちゃん達か。何だよ、どうかしたのか?ダイ」

「いや……ちょっと父さんについて聞きたい事があって……」


 扉を叩くと数秒もしない内にダンが現れた。相変わらずボサボサの髪に獣っぽい顔つきをしており、知らない子供が見れば怖いおじさんと思うだろう。しかしリーシャ達はダンがどれだけ子供に優しく面白い事をしてくれるか知っている為、恐怖などという感情とは無縁だった。

 そんなダンは尋ねて来たのが自分の息子の友達だと知ると何でウチに来たのかと疑問そうな顔をし、息子のダイの方に視線を移した。するとダイは言いづらそうに首を手で撫でながら渋々答えた。


「ああ、だったら上がってけよ。お茶くらい出すぜ」

「結構です。そんなに長居するつもりはありませんし、この後も用事があるので」

「あっ、そうかい……シファは相変わらずだな。お前さんのお袋さんににそっくりだぜ」

「お誉めの言葉として受け取っておきます」

「けっ……そういう所もそっくりだよ」


 せっかく尋ねて来たのだから家に上げようとかとダンがそう言ったが、シファが一歩前に出て丁寧にお辞儀をしながら断った。この後シファの母親の所にも聞きに行く為、わざわざお茶を出してもらう必要はないと判断したのだろう。するとそんな態度を見てダンはどこか覚えがあるように苦虫を噛み潰すような表情を浮かべた。シファの態度があまりにもその母親にそっくりだった為、嫌な事を思い出してしまったのだ。


「んで?何が知りたいって?」

「あのねー。私達の父さんの事! 父さんって一人じゃん。おじいちゃんとかおばあちゃん、兄弟とかって居ないのかなーって思ってさ」


 改まってダンが扉の肘を掛けながら尋ねると、リーシャは元気よくそう尋ねた。あまりにも清々しくここまで行くと尋ねている内容がデリケートな問題である事も忘れてしまうくらいであった。そして一方で聞いていたダンはリーシャの言葉を聞いてぽかんと口を開けていた。


「お、おお……それはまた随分と突っ込んだ質問だな。リーシャちゃん」

「うん。ダイにもそう言われた!」

「ああ……やっぱり」


 流石の大雑把なダンでもこういう所は分別があるのか、戸惑っている彼を見て息子のダイは少しだけほっとしていた。そしてダンはしばし考えるように額に手を当て、うんうんと唸っていた。


「ん~……どこまで話して良いんだろうなぁ……アレンにはそれ聞いたのか?」

「んーん。何か恥ずかしくて」

「そうか……あいつが話してないなら俺から言うのは不味いよなぁ……」


 何やらブツブツと呟き、リーシャに幾つか質問しながらダンは考え込んでいた。普段の大胆な彼らしくなく、やはりこの手の内容はかなり慎重に考えなければいけない物らしい。特にリーシャがまだアレンに尋ねてないと知ると、ボサボサの髪を掻いてどうしたものかと悩んでいた。


「やっぱり何か知ってるの?」

「いや、俺が言うのは駄目なんだって。多分言ったらシファのお袋さんに半殺しにされるだろうし……」


 ダンの思わせぶりな態度を見てリーシャは何か知っているのかと詰め寄るが、普段のダンとは違って中々口を割らなかった。いつもならコロッと喋ってしまうと言うのに、今回はかなり慎重だ。流石にリーシャもこれ以上追求した所で無駄かと諦め、落胆したように小さくため息を吐いた。するとダンはそんなリーシャに同情したのか、家の周りに他の村人達が居ないかをチラチラと確認してからそっと顔を近づけて小声で話した。


「精々俺が言えるのは……昔のアレンはこの村の中でもかなり変わり者だった、ってだけさ」

「変わり者……?」

「さぁ、これで話は終わりだ。子供は外で遊んできな」


 ダンはそれだけ言うと手を払ってリーシャ達を下がらせ、さっさと扉を閉めてしまった。出来ればもう少し話を聞き出したかったリーシャだが、ダンの頑なな態度を見て諦め、扉から下がった。残された子供達はそれぞれ顔を見合わせ、何とかダンから聞き出せた情報を整理する。


「変わり者……あのアレンおじ様が?」

「まぁ確かに師匠は村の中で唯一外に出た人だし、変わり者とは言えるかも知れないけど……」


 シファとダイはそう呟き、アレンの事を思い浮かべながら首を傾げる。

 確かにアレンは村の中でも一人王都に出た人間であり、基本外には出ない村人達からすれば珍しいと思われるだろう。だがそれだけで変わり者と言われるだろうか?ましてや幼馴染のダンが昔から変わり者だったと称するのならば、それはもっと別の意味になるのではないか?そんな推測が子供達の頭の中で巡って行く。


「う~ん……やっぱり何か引っ掛かるね」

「そうだね……もう少し調べてみよう」


 両腕を組んで首を傾げているリーシャもそう言い、隣でずっと大人しかったルナもそれに同意する。

 調べれば調べる程二人の父親アレンは謎が増えていく。彼の家庭についても誰も口にしないし、少年時代がどのようだったのかも詳しく語らない。自分達の父親にはやはり何か言ってはならない過去があるのだろうか?

 勇者と魔王は不安そうにそっと胸の前に拳を握った。



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