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25:かつての教え子



 家の庭からは少し離れた森に近い場所。あまり人気のないその場所でリーシャとルナは立っていた。

 リーシャは手に錆を落として綺麗に手入れした聖剣を握っており、真っ白な剣を構えて縦に勢いよく振っている。


「よっ……! ほっ……!」


 よく手に馴染むその聖剣はリーシャの思った通りに動きをしてくれた。重さなど全く感じず、羽のように軽く速く振る事が出来た。

 そしてリーシャは一度剣を戻すと、深く構え直し、下から上に向かって大きく振り上げた。その瞬間剣は白く輝き、黄金の斬撃が前に放たれた。


「ふっ! ……うん、大体聖剣の使い方は分かったかな」


 放たれた黄金の斬撃は一定の所まで飛ぶと消え、地面にはその跡が残った。それを見てリーシャは満足そうに顔を縦に頷かせ、聖剣の平らな部分で肩をトントンと叩いた。

 様子を眺めていたルナもリーシャの元に歩み寄り、地面に残った斬撃の跡をほぅとため息を吐きながら見つめていた。


「お疲れ様。凄いね、これが聖剣の力なんだ」

「うん。精霊を操る時と同じ要領で出来るっぽい。その代わり凄いお腹が空いて来るけど」


 ルナがそう言うとリーシャも聖剣を縦に持ち直しながら頷く。

 聖剣は内に特別な力を秘めている。この聖剣には凝縮されたエネルギーを一気に斬撃として放つというシンプルな力が込められていた。ただし使用すれば使用者の体力かエネルギーが消費されるのか、急激にお腹が空いて来るという制限もあった。それでもこれだけの威力が期待出来るのならば流石聖剣の言ったところだろう。


「ルナの方も父さんに買ってもらった魔法書の調子はどうなの?」

「うん。中々興味深いよ。多分魔族が制作した魔法書だと思う。知らない魔法の事も記述されてた」


 剣を地面に付けながらリーシャはそう尋ねる。するとルナも懐から物騒な見た目をした魔法書を取り出しながら笑みを浮かべて答えた。


「あの旅商人さんも本当に凄いよね。一体どうやって手に入れてるんだろ?」

「さぁー?聞いても綺麗な笑顔でスルーするだけだからね……まぁ商品の大半は偽物なんだけど」


 時折村に来ては珍しい商品を売ってくれる旅商人。彼は一体どうやって聖剣や珍しい魔法書を手に入れているのか?二人は首を捻りながら考えた。いつも綺麗な笑みを浮かべるだけで質問には全く答えてくれない。もしかしたら意外に凄い人物なのかも知れない。しかし彼の扱う商品は殆どが偽物だったりする為、あまり信憑性もない。実際偶然拾ったと言われた方が納得出来そうな程だ。


「まぁおかげで私も良さげな聖剣が手に入ったし、あの旅商人さんには感謝だね」


 いずれにせよ聖剣が手に入った。その事実に喜びながらリーシャは剣を一振りした。綺麗に手入れをして錆一つなくなったその真っ白な剣はまるで芸術のようにその斬撃の軌跡を残す。そしてリーシャは剣を反対に向けると鞘に収めた。


「二人共、何してるんだ?」

「あ、父さん」


 すると家の方からアレンが出て来て二人にそう呼びかけた。リーシャはアレンが現れた事に嬉しそうに顔を振り向く。

 アレンは探索用の恰好をしていた。腰には剣を携え、手足に簡易的な防具を付けている。ルナはそれを見て首を捻った。


「お父さんこそ、そんな恰好してどうしたの?」

「ん、ちょっと森の方を見てこようと思ってな。ベヒーモスも居なくなったし異変はないか確認しに……」

「えー! だったら私も行く! 良いでしょ父さん!?」


 ルナの質問にアレンが答え、森に行くのだと知るとリーシャは途端に飛び跳ねながらそうお願いし始めた。よっぽどアレンと一緒に森を散歩したいらしい。アレンからすれば散歩ではなく森に何か異変がないかを確認する重要な作業なのだが、キラキラと瞳を輝かせるリーシャをどうしても拒絶する事が出来なかった。


「う~ん……仕方ないな。ただし走り回らず、俺の傍に居ろよ?」

「はーい! ルナ、準備しよ!」

「うん……」


 アレンがやれやれと首を振りながら答えるとリーシャは大喜びでルナと共に家に戻って支度を始めた。

 外着の恰好になってしっかりと剣も装備し、リーシャとルナは早速アレンと共に森へと向かう。魔物用の柵を潜り抜け、少し奥に進むと前とは変わらない森が広がっていた。息を潜めれば動物達の気配もする。遠くを見れば魔物の姿も確認出来る。きちんといつも通りの森だった。


「うん、森も大分元通りになったな。以前は生き物の見る影もなかったのに、よくここまで戻った」


 ベヒーモスが現れた影響か以前までは森に生き物の見る影もなかった。そのおかげで村が魔物に襲われないという皮肉もあったが、それでもやはり自然は生き物がたくさん居る方が良い。アレンは現状に満足そうに頷いた。


「ルナ見て! 綺麗な模様したトカゲ!」

「リーシャ……それは毒がある魔物のトカゲだよ。噛まれたら指先が痺れるから気を付けてね」


 そしてリーシャはと言うと案の定と言うべきか、もうアレンの元から離れて森の中を走り回り、見つけた生き物を指さして楽しんでいる。しかしリーシャが指さす生き物は大抵小型の魔物だったりする為、ルナはひやひやとした様子でリーシャに注意の声を掛けていた。


「ほらリーシャ、そんなに走り回ってると転ぶぞ?」

「大丈夫! 頑張るから!」

「……何を頑張るんだ?」


 アレンも注意の声を呼びかけるが、リーシャはよく分からない理論で拳を突き上げながら答えた。その返答にアレンは首を傾げるが、とりあえず元気で何とかするという事だろうと勝手に納得した。というよりもそれ以上気にしない事にした。


「ねぇお父さん、見かけない足跡がある……」

「なに……?」


 ふと隣を歩いていたルナが立ち止まり、身を屈めながら地面に手を付いてそう口にした。アレンも立ち止まり、その場所をよく見て見る。するとそこには確かに生き物の足跡があった。

 鳥型の魔物の比較的に大きな足跡。アレンはその見慣れない足跡の正体を知っていた。


(これは……コカトリスの足跡だな。もうそんな時期だったか)


 アレンは足跡からそれが魔物のコカトリスの物だと見抜き、目を細めた。

 痕跡の様子からしてこの山に入って来たばかりなのだろう。コカトリスはこの時期になると現れるが、どうやらこの山にも巣を作っている個体が居たようだ。

 この山には多くの魔物が生息しているが、コカトリスのような生態系を乱す程凶悪な魔物が住みつくのは不味い。アレンはチラリと自分を装備を見て今の状態でも追っ払えると判断すると、ふとルナの事を見た。


(ルナの奴、よく気付けたな。しかも見かけない足跡だってしっかり分かってた)


 足跡を見分けるのは分かり易そうに見えて実際の所はかなり難しい。種族によって形状は明らかに違えど、環境によって足跡の形は変わり、欠けていたり雨で濡れて原型が分からない事がある。そんな多くの足跡が山にはあちこちにあるのだ。そんな物をいちいち覚えておくには長い間その地域に住み、目を慣れさせていくしかない。だがルナは子供だというのにその足跡を見掛けない足跡だと見抜いたのだ。アレンはルナの意外な才能にちょっと驚いた。


「よし、二人共先に家に戻ってなさい」

「えっ?! 何でー!? 私もっと遊びたい!」

「良いから、言う事聞きなさい」

「うぅ~……はーい」


 まだ走り回っているリーシャにそう声を掛け、アレンは家に戻るように言う。リーシャはまだ遊び足らなそうに頬を膨らませていたが、言われたからには言う事を聞くしかなく、渋々顔を頷かせた。


「俺もすぐに戻るから。ルナ、ちゃんとリーシャを見張っといてくれ」

「うん……任せて、お父さん」


 リーシャ一人だとこっそり付いて来る可能性もある為、アレンはルナにそうお願いしておいた。聞き分けの良いルナはすぐに頷き、リーシャの事を見る。リーシャはつまらなそうに地面を蹴っていた。

 

 実際の所二人の実力ならコカトリスが相手でも問題はないだろう。日々リーシャと剣の打ち合いをし、ルナの魔法の勉強を教えているアレンはそう確信していた。だがコカトリスの場合だと少々面倒な事があるのだ。

 アレンは二人が去ったのを確認すると気を引き締め直して足跡の行方を捜した。


(コカトリスは鳴き声が面倒だからな……早めに追っ払わないと)


 出っ張った木の根が多い場所を通りながらアレンは見つけた足跡を辿って先へと進んで行く。

 コカトリスは鶏と蛇が合体したような見た目の巨大な魔物であり、戦闘力は高い。おまけに強烈な毒を持っていたりと冒険者を苦しめるような要素をたくさん持っているのだ。中でも面倒なのはコカトリスの鳴き声であった。

 コカトリスの鳴き声には聞いた者を痺れさせる効果があり、鳴き声を聞いてしまうとしばらく石のように動けなくなってしまうのだ。しかも上位種だと本当に石になってしまう事もあるとか、アレンはその事を思い出しながら小さくため息を吐いた。


(まぁ対策は耳栓をするだけで良いっていう簡単な方法なんだが)


 コカトリスの鳴き声対策はとても簡単である。要は鳴き声を聞かなければ良い。手で耳を抑えるなり、耳栓をするなりして鳴き声を防げば良いのだ。

 アレンは冒険者だった頃もコカトリスとは何度も戦った事を思い出しながら懐から耳栓を取り出した。鳴き声に特殊な効果がある魔物はたくさん居る為、いざという時の為に常備しているのだ。ただし自分用だけ。


「……ん?」


 いざ耳栓をしようと思ったその時、アレンは足跡が妙な事に気が付いた。この辺りから急に足跡が増えており、深く足跡が残っているのだ。つまり大急ぎで逃げていたという事である。

 では一体何から逃げているのか?巨体なコカトリスが逃げる程の魔物となると上位種の魔物が殆ど。だがそんな魔物はこの森にそう居ない。アレンがそう妙に思いながら足を前に一歩踏み出すと、パキリと地面の方から音が鳴った。


「これは……氷の結晶か?」


 何を踏んだのかと思って足を退けて見て見ると、何とアレンの足元には小さな氷の結晶が転がっていた。恐らく欠片であろう。自然に出来る物ではないその結晶にアレンは首を傾げ、いよいよ怪しくなってきた事を悟り、腰から剣をゆっくりと引き抜いた。


(何か妙だな……警戒しながら行くか)


 この様子だとコカトリスとは別に強大な生き物が森に紛れ込んでいるらしい。アレンはコカトリスにも警戒しつつその謎の存在の方にも注意を向け、足跡が続いている先へと向かった。

 そして前方を邪魔していた木の蔓を掻き分け、開けた場所に出るとアレンの目に信じられない光景が飛び込んで来た。


「……ッ! なんだこれ?」


 アレンの前方には巨大なコカトリスが居た。鶏の姿をしつつも尾は蛇の物で首回りも蛇の鱗のような物が残っており、気味の悪い見た目をした巨大な魔物。しかしそのコカトリスは羽を広げて威嚇する恰好を取りつつもピクリとも動かなかった。

 何故ならばそのコカトリスは、全身氷漬けにされていたからだ。


「コカトリスが凍って……?! いや、これは氷魔法か……こんな上位魔法を使える奴なんて……」


 普通ならあり得ないような光景。アレンはそれを見てこれは人為的な物だと見抜き、何者かが氷魔法を使ってコカトリスを氷漬けにしたのだと気付いた。だが巨大なコカトリスをここまで完璧に氷で固める事など出来るのだろうか?出来たとしてもそれは相当実力の高い魔術師という事になる。

 アレンがそう想像して辺りを警戒していると、氷漬けになっているコカトリスの後ろから何者かが足音を立てながら現れた。


「そのコカトリスは私が氷漬けにしました。森の中を歩いてたら突然襲って来たので……」

「……!」


 真っ白な手で氷に触れながら白いローブを羽織った人物がそう言う。アレンは突然現れたその謎の人物に警戒しながら剣を構えたが、どこか違和感のような物を感じていた。その人物の声をどこかで聞いた事があるような気がしたのだ。


「それにしても流石ですね。〈先生〉に教わった通り魔力作用を少し工夫すれば、少量の魔力でここまで強力な氷魔法を使えるようになりました」

「ッ……君は……」


 白いローブを羽織ったその人物は懐かしむようにそう言いながらアレンの方に顔を向ける。フードの隙間から見えるその僅かな特徴を見てアレンの記憶はだんだんとその人物について思い出して行った。


 かつて自分の最後の教え子だった一人。ルナと同じように魔法の才能を秘め、大人しいが優秀で頼れる存在だった彼女。その事を思い出し、気付いた時にはアレンは剣を下ろしていた。


「お久しぶりです、先生。ずっと探してました……」


 フードを脱ぐと、その女性の容姿が露わとなった。雪のように真っ白な髪を肩まで伸ばし、同じく白い肌、そして透き通るような綺麗な水色の瞳をし、どこか妖精のような、普通の人とは違う容姿をした女性。


 八年前の少女の頃とは違い、少し大人びている。だがあの頃の少し控え目そうな面影もしっかりと残っていた。

 そう、彼女は八年前アレンが冒険者を辞めて街を去る時に挨拶をしてきたあの見習いの魔術師の少女である。

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