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おっさん、勇者と魔王を拾う  作者: チョコカレー
8章:勇者と魔王
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188:親離れ



「ーーーーーーーかはッ……!」


 ただの剣で胸を貫かれたレオシャーリーンは、信じられなさそうな表情を浮かべる。

 剣は心臓へと突き刺さった。だが〈再生者〉である彼女は例え心臓を潰されたとしても死なない。すぐに新たな心臓が生成されるからだ。故に彼女はこの程度は怯まない。それはアレンも分かっている。だからこそ、彼は剣を抜かず、そのまま更に奥へと突き刺した。レオシャーリーンの刃が突き出た背中から赤黒い血が飛び出す。


「おっさん……あんた、〈再生〉の仕組みに気付いたね?」

「……ッ!」


 レオシャーリーンの問いかけにアレンは反応し、僅かに剣先を揺らしてしまう。その反応で彼女は確信を持ち、心臓を剣で貫かれたまま何事もないようにため息を吐いた。そして空いている手でアレンの剣を掴む。指が斬り裂け、血が流れる。


「良い勘してるよ。確かに私の血が減れば、再生の力はある程度効力を失う……でも、それをあんたに出来るかな?」

「ぐう……!!」


 レオシャーリーンは自ら剣を引き寄せ、アレンを近づかせる。そして風を切る程の速さで足蹴りをし、吹き飛ばした。アレンは一瞬呼吸が出来なくなり、盛大に地面を転がる。腹部からはハンマーで叩かれているような痛みが走り、ズキズキと激痛が広がっていく。


「この伝説級の武器……空間魔法で出現したっぽいけど、どうやらあんたの所有物ではないみたいだね。なら脅威ではない」

 

 レオシャーリーンは胸に突き刺さっていた剣を引き抜き、胸元の傷を塞ぐ。今の攻撃で少しは血を流させることは出来たが、あれだけでは駄目だ。〈再生者〉の力はまだまだ効力を失っていない。

 アレンはフラフラと立ち上がり、次の手を考える。だがその間にレオシャーリーンは近づいていき、黄金の鎖を解いて神殺しを振るう。


「あんた自身は、特別でも何でもない! 私の敵ですらないんだよ。おっさんは!」

「ぐっ……うああ!!」


 剣圧だけでアレンの足元に亀裂が出来上がり、衝撃波で地面に倒れ込む。宙に浮いている聖魔武器達はアレンの守護してくれるが、ただの剣圧程度には反応しない。全ての攻撃から守ってくれる訳ではないのだ。

 するとレオシャーリーンは何かを見定めるように目を細め、アレンと浮いている武器達を見比べる。そして納得したように頷き、冷たく笑った。


「……なるほど、なるほど……空間魔法の使い手に〈鍵〉を与えられたのか。随分と気に入られたみたいだね。亜空間の所有権をそのまま引き渡している」

「……ッ」


 レオシャーリーンは高い魔力感知能力によってアレンに掛けられているある特殊な魔法を見抜いた。それはレドが死ぬ間際に残した贈り物。もしもの時何かの役に立ってくれればと掛けておいた御呪い。アレン自身には亜空間から物を引き出す能力もないし、出現した聖魔武器を扱う資格もない。だがそれでも、あの母親は子に何かを残してあげたかったのだ。


「でもそれも全て無駄に終わる。資格もなく与えられた力なんて、何の意味もない……!!」


 レオシャーリーンが聖剣を握り締め、アレンへと向かっていく。嵐のような剣技が放たれるが、聖魔武器がアレンを守る。だがそれもいつまでも守ってくれる訳ではない。隙間から衝撃波は飛び、とてつもない圧力が襲い掛かって来る。

 アレンはその場に膝を突き、苦しそうに呼吸をする。その前では絶え間なくレオシャーリーンが剣技を放ち、聖魔武器を突破しようとしている。


(駄目だ……彼女の言う通り俺にはこの聖魔武器を扱うことは出来ない。聖剣にも魔剣にも適性がないからだッ)


 アレン自身も分かっている。自分は聖魔武器に選ばれていない。その武器を持つ資格がない。本来武器は使い手がいるからこそ真の力を発揮出来るというのに。今のままでは駄目なのだ。


(だったら……!!)


 アレンは浮いている武器の幾つかを蹴り飛ばし、ある方向へと移動させる。そこには攻撃手段を失いつつも何か戦う方法を考えているリーシャとルナの姿があった。


「リーシャ、ルナ、使え!!」

「「ーーーー!!」」


 アレンの言葉を聞き、リーシャとルナはそれぞれ飛んで来た武器を手にする。その武器達は二人を拒絶することなく、一瞬光り輝くとしっかりと彼女達の手に収まった。


「妖刀〈天ニ煌めく龍ノ刀〉……!」

「魔弓〈白薔薇の弓〉……!」


 リーシャが手にしたのは紅色の禍々しい刀。鋭く伸びた刃が竜の鱗のように輝く。

 ルナが手にしたのは黒色と白色が混じり合うような色合いの弓。弦に触れただけで光の矢が出現し、放つ準備を完了する。

 すかさずリーシャは飛び出し、新たな獲物、妖刀でレオシャーリーンへと斬り掛かる。いつもと感覚は違うが、妖刀に選ばれたことにとってリーシャはその力を完全に引き出すことが出来る。一太刀するだけで斬撃がレオシャーリーンへと向かっていき、その皮膚を鎌鼬のように斬り裂いた。更にルナが光の矢を放つと、直撃した瞬間に凄まじい爆発が巻き起こり、レオシャーリーンは身体を大きく損傷する。


「お前、ら……!!」

「刀から伝わってくる……これなら戦える!!」

「武器の使い方が分かる……私も、戦える!」


 流石は勇者と魔王なだけあって二人は聖魔武器に拒絶されることなくそれを使いこなして見せた。だがレオシャーリーンもそれくらいで怯むことはなく、すぐに二人の攻撃を読んで対応する。

 まだ使い慣れなていない武器による立ち回りの隙を突き、リーシャの妖刀を弾き飛ばし、ルナの魔弓を距離を取って封じる。しかしそこに新たな武器が飛んで来る。


「聖槍〈雷鳴轟く天槍〉!」

「魔斧〈悪鬼殺し〉!」


 アレンから飛ばされてきた新たな武器を掴み、リーシャとルナは立ち回りを変えて今度は二人で同時に攻撃を仕掛ける。雷のように早く、眩い一撃を喰らい、レオシャーリーンの腹部に大穴が開く。更にルナが力一杯に振り下ろした魔斧によって右腕が切断される。

 それからもリーシャとルナはアレンから渡される様々な聖魔武器を使い、確実にレオシャーリーンを削いでいく。


「うぐ、が……! うっとう、しい! こんな攻撃……!!」


 レオシャーリーンは黄金の斬撃を放って僅かな間を作り出す。その間に意識を集中させて〈再生〉の力を活発化させようとした。だがそこで彼女はある異変に気がつく。


(傷が、増えていく……? 出血が止まらない……何? どの武器の効果だ……!?)


 腹部に開いている穴から亀裂のような傷が出来上がっていく。切断された右腕が再生されず、絶えず血が流れていく。〈再生〉の力が間に合っていない。レオシャーリーンはその事実に驚愕し、顔を蒼くする。

 馬鹿な。まだ血は大量に残っている。〈再生者〉の力によってこの身体には大量の血が溜め込まれているのだ。この程度の傷で〈再生〉が遅くなるはずがない。彼女はそう考えるが、現実は自分の想像と違う。苛立ちから歯で唇を貫き、大切な血を流してしまう。


(そういえば、前もこんなことがあった……確か、百年前……)


 戦いながら、ふとレオシャーリーンの頭に過去の記憶が蘇る。それは大昔、まだ彼女が正しき勇者として活動していた時代。


(吸血鬼一族のまだ若い長と戦った時……受けた傷が勝手に広がっていた……その時の武器の名は……)


 もはや相手の顔は思い出せないが、吸血鬼の少女と戦った気がする。その少女は特殊な魔剣を使っており、勇者だったレオシャーリーンですらその力には敗北しそうになった程であった。

 ふらついている彼女の前にリーシャとルナが並んで現れる。その手には黄金の鎖に巻かれた漆黒の剣が握られており、二人はそれを一緒に持って振り上げていた。


「「魔剣〈戒めの黒剣〉!!!」」


 レオシャーリーンの身体に大きな斬り傷が出来上がる。大量の血が吹き出し、彼女はふらつく。身体に力が入らず、その場に膝を付いた。


「あ……が……ッ」


 胸元に手を当て彼女は受け入れられないように歯軋りをした。奥歯が噛み砕ける音が聞こえ、その瞳は真っ赤に染まって虚空を見つめている。

 そんな極限状態の彼女を見て、同じく膝を付いていたアレンは声を掛ける。


「〈戒めの黒剣〉……婆さんの話では、その剣で斬られた者は今まで受けた傷・・・・・・・が開き、血が止まらず、絶えず傷つき続けるらしい」


 〈戒めの黒剣〉はレドが所有する〈十二・聖魔武器〉の中でも特別な剣。曰くその力はあまりにも強力過ぎる為、神聖の鎖によって封印されているらしい。それでもなお、これだけ絶大な力を誇る。例え相手が伝説の勇者であろうと。


「君は百年の間、どれだけの傷を受けて来た? どれだけの傷を再生して来た?」

「あっ……ぁぁぁぁ……ッ!!」


 突如レオシャーリーンの身体から黒いモヤのようなものが溢れ出て来た。それは〈影〉。伝説の勇者の中で生まれたもう一人の彼女は耐えきれなくなり、とうとう崩壊を始めたのだ。


「アレン……ホルダーァァァァアア!!!」


 影が叫ぶ。人の形すら保って入れないそれは本体であるレオシャーリーンの身体から抜け出し、崩壊しながらアレンへと飛び掛かろうとする。だがその伸ばした腕は朽ち、霞のように散ってしまった。そして影は完全に消え、残された本体のシャーリーだけがその場に崩れ落ちる。


「ッ……シャーリーさん!」


 思わずリーシャが駆け出す。倒れているシャーリーの横に近づき、彼女の状態を確認した。


「リー……シャ……ちゃん……」

「だ、大丈夫? 今、傷を……!」


 傷は未だ開いまま、血は止まらない。戒めの黒剣の効力が切れていないのだ。彼女の細い身体に出来た裂け目を広げていき、再生が間に合っていない。

 リーシャはアレンに治癒魔法を頼もうとする。だがその時、シャーリーが彼女の腕を引いてそれを止めた。


「シャーリーさん……ッ?」

「ごめん、ね……謝って済む話じゃないけど、こんな私で……情けない母親で、ごめんなさい……」


 シャーリーは掠れた声で懺悔する。リーシャ自身は今それを責め立てるつもりはなかったのだが、彼女はどうしても謝罪を言いたかったらしく、弱々しく掴んでいる手からもその必死さは伝わって来た。


「ずっと、怖かったの……勇者じゃない私なんて誰も見てくれない……ただの強大な力を持った化け物なんだって……だから……」


 シャーリーの目から血と共に涙が溢れ出る。それはリーシャもかつては想像したことであった。どれだけ特別な存在で、勇者として崇められたところで、結局のところそれは異質な力。周りからすれば異端とも取られる。シャーリーはその恐怖に打ち勝つことが出来なかった。不安が勝ってしまったからこそ、影が生まれてしまった。

 そして彼女は僅かに顔を上げ、リーシャのことを見つめながら口を動かし、己の願いを伝える。


「だからお願い……このまま、私を死なせてください……許さないで……死なせてください」


 それはとても悲しく、残酷過ぎる願いであった。

 もうシャーリーには再生の力が働いていない。このまま傷を放置していれば死ぬことが出来る。リーシャは思わず彼女の手を掴み返し、握り閉める。嫌だ、と口から本音が溢れた。


「そしてリーシャちゃんは、幸せになって……勇者だとか、使命だとか、そんなの気にせず……魔王の妹と仲良く、私のことなんて忘れて……ください」


 血に塗られた手でリーシャの頬を撫で、シャーリーは更に願いを伝える。

 彼女も最初はリーシャという存在に困惑していた。新たな勇者という存在に拒否反応を示していた。だが今では自分の子供として愛おしさすら覚えていた。村で優しくされ、しっかり者だったリーシャを応援したいと願っていた。だが今更そんな都合の良過ぎる善意は押し付けられない。自分はあまりにも過ちを犯しすぎた。だから自分のことなど忘れ、勇者でも特別でもない、一人の村娘として幸せになって欲しいとシャーリーは願った。


「い、やだよ……そんなこと言わないで。まだ私、全然話せてない……もっと色々……」

「リーシャ、治癒魔法を掛けるから下がって……!」


 リーシャは目に涙を浮かべ、何かを言おうとする。だがその前にルナが間に入り、僅かに回復した魔力で治癒魔法を掛けようとする。だがその時、突如その場に異変が起こった。一瞬視界がブレるような、妙な感覚。そして気がつくと目の前からシャーリーの姿が失われていた。


「ーーーーーー!!?」


 リーシャとルナは絶句する。アレンも何が起こったのかさっぱり分からず、先程までシャーリーが倒れていた地面を見下ろしていた。そこには血溜まりが広がっており、今し方まで彼女が存在していたことを証明している。だが消えた。理解が出来ない。

 するとそんな三人の元に足音が聞こえて来る。その方向を見ると、そこには黒色のコートに黒の羽根つき帽子を被った男と、真っ黒なメイド服を着た女性が居た。


「いやぁ、感動的だったねぇ。母親である百年前の勇者との死闘。まさか兄弟が空間魔法の〈鍵〉を譲渡されていたとは……愛されてるねぇ。家族に」


 帽子の男、グレアはそう言って愉快そうに笑みを零す。その表情は本当に楽しんでいるようで、アレンは彼が何故そんな態度なのかが理解出来なかった。ただ何となく、不気味な気配だけを感じ取っていた。


「あんたは……!」

「誰!? シャーリーさんをどこにやった!?」

「……ッ」


 リーシャとルナは突然怪しい男が現れたことに警戒心を高める。同時にルナはグレアの魔力を感じ取り、何か嫌な予感を覚えた。


「おおっと、そんな怖い顔するなよ。大丈夫だって。彼女は安全な場所に移動させておいた。ほら、あのままだと〈戒めの黒剣〉の呪いで死んでただろ?」


 グレアは警戒している二人を安心させるように両腕を上げ、気さくな態度を取る。だがその何でも知っているかのような態度が逆に怪しく、リーシャとルナはより距離を置いた。するとグレアはルナの方に顔を向け、ニコリと歯を見せて笑った。


「初めまして、だな。俺の名はグレア・ディメイド・ルーラー。お前のお父さんだよ。ルナちゃん」

「……!!!」


 何てことないようにグレアは己の素性を明かす。その衝撃的な告白にルナは一瞬硬直するが、感じ取っていた妙に懐かしく感じる魔力で納得し、戸惑うように瞳を揺らしながらもグレアのことを真っ直ぐ見据えた。


「貴方、が……?」


 ルナが尋ねるとグレアは迷うことなく頷く。彼にとって嘘を吐く必要などないのだ。だがルナからすれば逆に疑問が沸くばかりであった。何故突然現れたのか? 今まで何をしていたのか? 母親であるセレーネはどうなっているのか? 問い正したい。だがグレアの視線をルナから外れ、アレンの方へと向けられる。


「さぁ兄弟。見事百年前の勇者を倒し、また一つ試練の壁を乗り越えたな。勇者と魔王も健在。うん、実に順調。じゃぁ、そろそろ最後のゲームを始めようぜ」

「……あんたは、何を言ってるんだ?」


 パンと手を叩き、グレアは意味の分からない言葉を述べる。その言葉は不穏な色を纏っており、アレンの額から雨とは違う冷たい汗が流れ落ちた。


「今現在、ここから少し離れた北東の港町に二人の〈魔王候補〉が向かっている。そいつらは候補の中でも特に強く、手の付けられない奴らでね。素の実力ならレウィアちゃんに匹敵する」


 グレアの言葉を聞いてリーシャとルナが動揺したように息を飲む。アレンも魔王候補が動き出している情報は聞いていたが、北東の港町に二人も向かっているのは知らなかった。だがそこならば馬を使えば時間は掛からずに行くことが出来る。


「そして同時に、それに対抗する為に人族側は四人の〈大魔術師〉を向かわせているらしい。つまりあと数刻もしない内に北東の港町は戦場と化す訳だ」


 これもアレンが予想していた通り。魔術師教会は戦力を集中させて魔王候補を迎え撃つつもりなのだろう。大魔術師の実力は相当だ。そこにメルフィスが居るなら尚更。魔王候補にも遅れを取らないはずである。だがそれでも、シェルが戦場へ向かっているというのは多少なりともアレンの心を不安にさせた。


「ど、どういうつもり!?」

「おっと、俺の指示じゃないぜ? 魔王候補達が勝手にやってんだ。全く、とんだ馬鹿息子と馬鹿娘達だよ。はっはっは」


 グレアが何故情報を渡して来るのか分からないリーシャは彼のことを睨みつける。何か裏があり、罠を仕掛けようとしているのではと考えたのだ。しかしグレアは身の潔白を主張し、わざとらしく頭を抱えた。


「さぁて、そこで質問だ。君達はこれからどうする? リーシャちゃん、ルナちゃん。勇者と魔王であることを隠している君達は、この話を聞いて義理の母親である大魔術師を助ける為に向かうか?」


 クルリと顔の向きを変えてグレアは三人の方に視線を向ける。その瞳は真っ黒で、意思を感じさせないような不気味さを放っている。


「それともリーシャちゃんは本当の母親であるレオシャーリーンを取り返す為に、俺に刃を向けるかな?」

「……!!」


 挑発するように笑い、手を向けるグレア。リーシャは獲物のない自身の手で虚空を握り締め、唇を噛み締める。


「……くっ」

「リーシャ、落ち着いて」


 明らかにグレアはリーシャを煽っている。そのことに気が付いたルナはリーシャの肩に手を乗せ、冷静になるように伝えた。


「あんたの目的は一体何だ? 何をしようとしているんだ?」

「別にぃ、ただ俺はもっと面白おかしくしたいだけさ。この物語をな……そしてその為には……うん、そうだな。シーラちゃん」

「御意に」


 グレアは真意を見せず、両手を合わせて何かを考えるように視線を動かした後、コクリと頷いて後に控えていたシーラを呼んだ。それだけで彼の意思を理解し、シーラは一歩前へと出る。反射的にリーシャとルナは臨戦態勢を取る。だが次の瞬間、再び視界がブレた。気が付いた時にはアレンの姿がなく、二人は目を見開く。


「兄弟の存在は少し邪魔だな。悪いな。こっからは子供達を主役にしようぜ」

「父さん!?」

「お父さん!!」


 愉快そうにグレアは指を鳴らす。リーシャはすぐさまアレンの気配を探ろうとし、ルナも魔力を探ってアレンの居場所を特定しようとした。だが気配も魔力反応も全くなく、二人は声を失う。


「さぁこれでもっと分かりやすくなったな!! 義理の父親と義理の母親、どっちを先に助けたい? それとも今すぐ俺を倒して父親と母親を取り返し、魔王候補達の所へと向かうかい!?」


 放心している二人にグレアは大きな声で問い掛ける。その言葉に真っ先に反応したのはリーシャであった。その瞳からは光が消え、黒く禍々しい何かに埋め尽くされてしまっている。


「お前、は……!!」

「リーシャ、だめ!! 乗せられないで!!」


 リーシャはおもむろに右腕を上げる。そして勇者としての本能なのか、それとも最初から意識してそれを使用しようと思ったのか、口を開いた。


「〈神殺し〉!!!」


 離れた場所に落ちていた聖剣神殺しが一人でに動き出し、リーシャの元へと飛んで来る。そして彼女はその柄を荒々しく掴み、構えを取った。

 その剣は初めて握ったとは思えないくらい、よく手に馴染んだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語が佳境に入りっ放しで、気が抜けない [気になる点] ルナの魔力はレオシャーリーンの影がいなくなった時点で戻ったという感じなんですかね [一言] 続き楽しみに待ってます、おなしゃす<(_…
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