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おっさん、勇者と魔王を拾う  作者: チョコカレー
7章:王を殺す者
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162:魔王候補の影



 後ろから奇声を上げながら触手のように身体の一部を伸ばし、攻撃して来るスライムからアレンは必死に逃げ続ける。狭い木々の間を掻い潜って足止めを練るが、巨大スライムはそんな木々すらなぎ倒し、アレンのことを追いかけてくる。


「ちっ……大分レウィアと引き離されちまったな」


 後ろから追いかけてくるスライムをチラリと見ながら、アレンはこれからの作戦を考える。

 レウィアが居た場所からは大分離れてしまった為、援護を期待することは出来ない。それに彼女の方にも分裂したスライムが向かっていた為、今頃は戦っているだろう。つまり今このスライムを対処出来るのは自分しか居ないということだ。その事実を改めて確認し、アレンは困ったように笑った。


「ギィィィイイイアアアア!!」

「とにかく、やるしかない……!」


 このまま逃げ続けていてもいずれは追いつめられる。そう考えたアレンは覚悟を決め、反撃へと出ることにした。

 腕に魔力を込め、複雑な魔術方式を組み込み、魔法の発動準備を整える。そして足を止めると、振り返ってスライムの方に手の平を向けた。


「禍々しく歪め! 毒の牙!!」


 紫色の魔法陣が浮かび上がり、その光がスライムのことを包み込む。すると一瞬スライムの動きが鈍くなり、その隙にアレンは次の魔法の準備に移る。


「自由を奪え! 麻痺の轟!!」


 二発目に放たれたのは稲妻のような閃光。鋭い電流がスライムの身体を襲い、その身体の自由を奪う。そしておまけと言わんばかりにアレンは地面に手を付け、ありったけの魔力を込めて魔法を発動した。


「囲め! 大地の壁!!」


 地面から巨大な土の壁が生成され、それがスライムのことを囲い組む。巨大スライムを隠す程その壁は大きく、スライムは完全に密閉された。その様子を見てアレンは大きく息を吐きだし、警戒するように目を細める。


(状態異常魔法に拘束魔法……これならどうだ!?)


 強力ではないが状態異常魔法を複数かけ、なおかつ動けないように壁に囲んだ。これなら多少はスライムを拘束出来るだろうとアレンは望みを抱くが、壁に亀裂が出来た瞬間、その願いは儚く砕け散った。


「ギィィィアアアアアアッ!!」

「当然、効いてないか……!」


 甲高い奇声を上げて壁を壊しながらスライムが現れる。そしてその液状の身体をうねらせ、一部が伸びて棘のように鋭くなりながらアレンへと襲い掛かってくる。


「うわっと……!」


 すぐさま身体を動かしてアレンはその攻撃を回避し、スライムから距離を取る。スライムの棘にようになった身体の一部は周囲の木々を破壊する程で、その威力の凄まじさを物語っていた。あんな一撃を叩き込まれれば、アレンなど一発で倒れてしまうだろう。


(火魔法も通用しないし水の拘束も失敗した……状態異常も効かないし……こいつ、一体どうすれば倒せるんだ?)


 アレンは額から流れる冷や汗を拭いながら思考する。

 既にスライムには自分の使用出来る魔法を大量に使い、様々な攻撃を仕掛けた。だがそれらは殆ど通用せず、残りの魔力は減るばかり。そろそろ限界は近かった。体力も減ってきている為、逆転の目が見つけられない以上、覚悟を決めなければならない。


「ギギ……ギ……」


 すると、スライムの動きが一瞬止まる。プルプルとその巨体を震わせ、何やら異様な魔力の巡りを感じ取る。状態異常魔法が効いたという訳でもなく、アレンは警戒して僅かに後ろへと下がった。次の瞬間、スライムの身体が半分に分かれ、そのまま同じ巨体のスライムが現れた。


「ギィィイイイイィィ!!」

「ギィァアアアアァァ!!」

「おいおい……冗談だろう?」


 目の前には周りの木々よりも高い大きさを誇る二体のスライム。攻撃も効かず、魔法も効かない謎の魔物。それが二体に増えてしまったとなれば、もうアレンには太刀打ちする術がなかった。


「グガ……ギ……フレシアラ……ドコ、ダ……!?」


 ふとスライムはその身体を震わせながら声のようなものを発した。それは確かにアレンの耳にも届き、彼は不可解そうな表情を浮かべる。そしてその言葉の意味を察し、目を見開いた。


「お前……まさか……!?」


 だがアレンが喋り終える前に二体のスライムは動き出し、その身体全体を駆使してアレンへと襲い掛かる。それを見てアレンはすぐに地面に手を付け、土魔法を発動した。目の前に巨大な土の壁が生成され、波のように襲い掛かってくるスライムの攻撃を何とか防ぐ。


「ぐっ……!!」


 アレンは思い切り魔力を込め、土の壁を強固にする。だがスライムが奇声を上げた瞬間、その壁は簡単に壊されてしまい、スライムは身体を伸ばして棘の形にし、アレンを突き刺そうとした。


「しまっ……!」


 アレンはそれを認識しても対応する程の反射力がなく、直感的にそれを回避出来ないことを悟る。そして少しでも致命傷を避けようと腕を前に出すが、突如二体のスライムの身体が吹き飛ばされ、その巨体が宙を舞って轟音を上げながら地面に落下した。何が起こったのかと思ってアレンが自分の前を確認すると、そこには純白の盾が浮遊していた。


「これは、婆さんの……聖盾〈写しの鏡〉!」


 それはアレンの育ての親であるレド・ホルダーが所有していた〈十二・聖魔武器〉の一つ。あらゆる攻撃を受け止め、反射する伝説の聖盾であった。防具でありながら攻撃を反射する性質を利用し、レドはそれを武器として扱い、戦いに活用していた。アレンもその盾は一度しか見たことなく、再びレドの忘れ形見が現れたことに思わず手を伸ばす。だがその盾に手を触れた瞬間、アレンの身体に激痛が走った。


「ぐっ……うぅ!?」


 思わず手を離し、アレンは顔を歪ませる。

 まるで拒絶するような現象。何かを反射されたように、盾はアレンに触れられることを拒んだ。つまり、アレンが所有することを許さなかったということだ。


「俺には扱う資格がないって訳か……」


 伝説の武具は選ばれた者にしか扱えない。リーシャが王殺しの剣に選ばれたように、選ばれていない者が武器を扱おうとしてもその性能を最大限引き出せないか、今のように拒絶されてしまうのだ。

 ふとアレンの目の前で空間に歪みが現れる。聖盾はそれに吸い込まれるように消えてしまい、完全に姿を消してしまった。


「ギィィイイイイアアアア!!!」


 そうしている間に吹き飛んでいた二体のスライムは起き上がり、再び奇声を上げてアレンに明らかな敵意を向けてきた。


「くっ……今はこいつらをどうにかしないと……!」


 何故自分の前にレドの武器が現れるのか、理由は分からないが、いずれにせよ助かった命。無駄にしない為にも今は目の前の敵に対処しなければならない。アレンは気持ちを引き締めなおし、スライム達と対峙する。


「だが良いヒントを貰ったぞ……!」


 アレンは両手に魔力を込め、それぞれ別の魔法の準備をする。すると二体のスライムが動き出し、アレンを潰そうと移動し始める。アレンも同じように走り出し、木々の合間を駆け回りながらスライム達の追撃を躱す。


「ギィイィアアアアア!」

「ここだ! 澄み渡れ、霧の闇!!」


 スライム達が分かれて挟み撃ちにしようとした瞬間、アレンは火魔法と水魔法を同時に発動し、その場に深い霧を発生させる。その中にアレンは姿を隠し、標的を見失ったスライム達はそのまま衝突してしまう。


「ゴァアアアアアアッ!!?」

「ギギィァアアアアッ!?」


 かなりの衝撃だったようで、二体のスライムの身体は崩壊し、砕け散ってしまう。そしてそのバラバラになった身体は修復せず、小さくなってしまったスライムも弱り切ったようにその場に崩れてしまった。それを確認し、アレンは霧の中から姿を現す。


「どうやら自分自身の攻撃は通用するみたいだな。写しの鏡のおかげで何とか気づけた……」


 聖盾〈写しの鏡〉は敵の攻撃をその性質のまま跳ね返す能力を持つ。先程スライム達が写しの鏡で吹き飛ばされていた時、スライム達はかなりのダメージを負っていた。それを見てアレンはこのスライムは自分自身の攻撃ならダメージがあるのだと見抜いたのだ。


「というかこのスライム、やはり……」


 再生しないスライム達の残骸を見下ろしてアレンは目を細める。

 通常のスライムとは明らかに性質が違う分裂。大抵の攻撃が通用しない謎の耐性。これらを考えてどう考えても普通のスライムではない。それに一瞬だがこのスライムは言葉を発した。そしてその時の内容を考慮すれば、やはりこのスライムは間違いなく魔族に深い関わりを持っているだろう。そこまで考えたところで、アレンの後ろから足音が聞こえてきた。


「おじさん、大丈夫だった?」

「おお、レウィアか。ああ、なんとかな」


 現れたのはレウィアであった。どうやら彼女に向かっていたスライム達も倒したようで、レウィアもアレンが無事だったことを知り、ほっと胸を撫で下ろす。


「……ごめんね。援護に行けなくて」

「いや、レウィアこそ無事で良かったよ。俺だって怪我はしてないから、平気さ」

「そう……良かった」


 アレンの言葉を聞いてレウィアは安心したように表情を緩ませ、スライムの方へと視線を向ける。その瞳は冷たく、普段の無表情な彼女の時の視線であった。


「レウィア……あのスライムは一体?」


 アレンは思わずスライムについて尋ねる。

 このスライムが魔族に深い関わりがあるならば、レウィアが何か知っているかも知れない。それに彼女は先程何かを言いかけていた。それが気になってアレンは問いかけた。するとレウィアは、視線をアレンに方に戻し、ゆっくりと口を開いた。


「あれは……魔王候補の一人、〈最低の魔王候補〉リーゼ……の一部だよ」


 魔王候補。再びその名を耳にし、アレンは自分の嫌な感が当たってしまったことに唇を噛み締める。更に嫌な単語が気になり、アレンは額に手を当てながら問いかけを続ける。


「一部……?」

「そう。見ての通り、あれは分裂する。さっきのはリーゼのほんの一部に過ぎない」

「……!」


 その事実を聞いてアレンは驚愕する。

 あの巨大なスライムがほんの一部。確かにスライムは分裂はするが、あれだけ巨大な分裂体が出来るなど聞いたことがない。ならばその本体は、どのような姿をしているのか、想像しただけでも恐怖してしまう。


「リーゼとフレシアラは一緒に行動することもあって、協力とはいかずとも互いに利用し合っていたんだ。そんな中、フレシアラの魔力が途切れたから、気になってこっちに一部を送ったんだろうね」


 レウィアは口元に手を当てて推測を立てながらその考えをアレンに伝える。

 フレシアラとリーゼは同じ時期に人族の大陸に侵入していた。恐らくその時からある程度意思の疎通は取り合っていたのだろう。どちらも人を捕食すると言う点で共通していた為、利用し合える関係だったのだ。そんな中、突如フレシアラの魔力が途切れた。仲間ではないとは言え、同じ魔王候補の魔力が消えたというのは異常現象。リーゼも何かが起こったのだと悟り、様子を確認する為自身の分裂体を送ったのだ。


「奴の面倒なところはいくらでも分裂出来ること……この魔力の感じからして、この地域にはまだ一部が散らばってるね」

「そんな……!」


 ほんの数体しか居なかったスライムがあれだけの巨体となり、木々をなぎ倒す程の猛威を振るう。そんな脅威がまだ散らばっているというのは、知りたくない情報であった。


「とにかく、今は一旦村に戻ろう」

「ああ、そうだな。この事を村の皆にも伝えないと……」


 二人はまず村へ戻ることにする。

 スライムも小さい個体のまま徘徊しているならば脅威はない。暴れまわっているという訳でもないので、遭遇さえしなければ放っておいても問題ないだろう。それよりも今はこの危機を村に伝えなくてはならない。

 アレンとレウィアは森の中を駆け、急いで村へと向かった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 毎回アレンを助けるレドの武具を例えると、聖闘士星矢のアイオロスの残留思念が宿ったサジタリアスのクロス。つまり、伝説の武具にレドの残留思念が宿っていてアレンを助けるのではないか。 [一言…
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