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おっさん、勇者と魔王を拾う  作者: チョコカレー
6章:魔王候補フレシアラ
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155:眠り姫



 戦いから数日後、アレン達はようやく村へと辿り着いた。そこでは村長や村人達がアレン達のことを心配して待っており、傷だらけで帰って来たアレンの姿を見て大いに驚いていた。そしてそれは子供達も同様。外の世界に強い興味があり、いつも楽しんで帰って来るリーシャとルナがどこか疲れた様子なのを見て、ダイやシファは何かを察し、励ますように彼女達に寄り添った。


 それからアレンは休息を取って傷を癒し、ナターシャに調査の報告をした。仲間は既に亡くなっていたこと、そして遺跡がどのような場所であったのかを細かく説明し、リーシャやルナのことは伏せて出来るだけ違和感のないように事の顛末を伝えた。ナターシャは分かっていたこととは言え仲間が亡くなっていたことにショックを受け、悔しそうに肩を震わせていた。だが最後には笑顔を見せてアレン達に改めてお礼を言った。


 その後ナターシャとシェルは今回の出来事を報告する為の書類を作り始め、リーシャとルナは疲れ切った気力を回復させる為にベッドで眠りに付いた。

 そしてアレンは、村長の家で今回の出来事を説明していた。


「ふむ……なるほど。今回の調査は随分と苦労したようじゃな。アレンよ」


 大体の話を聞き終えた後、村長はお茶を一口飲んでから大きく息を吐き出した。

 かつての英雄レクス、魔王候補フレシアラ、どれも辺境の村の長からすれば規格外の話であり、おとぎ話のようにすら思えた。だがアレンが嘘を吐くはずもなく、帰って来た彼の疲弊した姿を見ればそれなりに壮絶なことが起こったということは容易に想像出来た。


「ああ、流石に俺も駄目かと思ったよ……でも皆に助けられた」


 アレンも自分が経験した戦いを思い出し、恐れを抱くように肩を竦ませる。それくらい今回はギリギリであり、下手をすれば命を落としていたかも知れない戦いだった。だがリーシャ、ルナ、シェル達が支えてくれた。仲間が居てくれたから、アレンは生き残ることが出来たのだ。そのことに感謝し、アレンは手の平を見つめ後強く握り締める。


「ふぉふぉふぉ、良き家族を持ったの」

「そうだな。本当、俺にはもったいないくらいだよ」

「ふむ、自分を卑下するのは相変わらずじゃのぉ。いい加減自信を持ったどうじゃ?」

「ん……善処する」


 アレンの欠点を指摘し、村長は直すように注意する。だが長年の性格をすぐに変えられる訳もない為、アレンはとりあえず頷くだけしておいた。


「それで、今後ナターシャ殿はどうするつもりなのじゃ?」

「ああ、シェルと一緒に報告書を纏めたら街に帰るってさ。だから後数日はここに厄介になると」

「左様か。儂等はいつまで居ても構わぬから、傷に支障がないよう無理せぬようにと言っておいてくれ」


 療養する身にも関わらずナターシャは責任を取らなければならない、と言って必死に報告書を書いている。

 何せ今回は遺跡が崩壊する程の被害が起こり、魔王候補が潜んでいたという驚愕な出来事があったのだ。レウィアがフレシアラを封印したことは伏せ、皆で撃退したと説明したが、ナターシャには人族の天敵である魔王候補を報告しなければならない義務がある。責任感の強い彼女は今回の自身の独断で行ったことを詳細に報告し、少しでもきちんとしたケジメを付けたいのだろう。


「傷と言えばお主もじゃぞ。アレン。怪我をしているのに畑仕事などしたら治るものも治らんからな。ちゃんと休むのじゃぞ」

「うぐっ……分かったよ。しばらく療養する」

「うむ、それが良い。傷が癒えるまでは子供達やシェル殿に面倒を見てもらえ」


 村長に痛い部分を指摘されてしまい、アレンは渋々注意を受け入れる。過去のこともあり、村長はアレンにとって父親のような存在である為、中々逆らうことが出来なかった。アレンは恥ずかしそうに頭を掻き、ため息を吐く。


「お主は人付き合いは上手いが、人を頼ることを知らんからな。何でも自分でやろうとする」

「そんなことない。俺だってみんなに助けられたりもするさ」

「ただ助けられるのと、お主が助けを求めるのでは違うんじゃよ」


 アレンは反論するが、村長は首を横に振って否定する。

 何もこれは戦いに限った話ではない。アレンは無償で人の面倒を見たり、頼み事を聞いたりする。それで好意を持たれるが、アレン自身が何かを要求しようとはしない。それは美点でもあるが、あることに目を曇らせる欠点ともなる。

 

「これは日常的なことにも言えるぞ。アレン。お主はシェル殿と共に暮らしているが、何故シェル殿がそうしたがったか分かるか?」

「……それは」


 村長の質問にアレンは言葉が詰り、自分でも疑問そうに首を傾げる。

 最初シェルは調査という名目で村に滞在することとなった。その後はリーシャとルナの秘密を知り、彼女の厚意で力を貸してくれていると思ったが、確かにそれだけではない気がする。アレンにとってシェルはただの仲間以上に強い何かを感じており、シェル自身からもそのような信頼感ある行動が見て取られた。

 アレンはまだ、その何かの正体に気付けていない。


「お主に向けられている感情は好意だけとは限らん。お主の視点が変わらぬ限り、それには気付けんじゃろうな」

「なんだ、答えは教えてくれないのかよ?」

「それは自分自身で気付かねば意味がなかろうよ」


 アレンが答えを求めても村長は髭を弄りながら笑うだけで、思わせぶりな言葉を残しただけであった。

 結局アレンは手玉に取られるだけで、疲れたように肩を落とす。そして残っていたお茶を飲み干すと、村長の家を後にした。


「ふ~、相変わらず村長には敵わないな。注意ばかりされちまった」


 扉を閉め、頭を掻きながらアレンは道を歩く。そしてチラリと村長の家を見ながら、彼は自分がまだまだ未熟であることを実感した。


「あの人にとっては俺はいつまでも子供ってことか……」


 例えどれだけ歳を取ろうとも、村長からすればアレンはまだまだ子供。自分の存在意義を求め、外の世界に憧れていたはねっかえりな子供のままなのだろう。多少は変われたと思っているが、根っからの性格は中々変えられないもの。いつかは変わりたいと願いながら、アレンは真っ青な空を見上げる。


「アレンさーん」


 ふと誰かに声を掛けられる。見てみると、こちらに走り寄って来るナターシャの姿があった。相変わらず包帯だらけの格好だというのに明るく元気で、怪我など全く問題ないように見える。


「ナターシャ、どうかしたのか?」

「いえ、報告書の纏めが一区切りしたので、改めてお礼を言おうと思って……」


 どうやらもう一度話がしたくて出てきたらしい。アレンはそうか、と言って頷き、ナターシャと共に道を歩き始める。


「本当に今回は有難うございました。まさか魔王候補が絡んでいたなんて……もし発見が遅れたら大変な事になってたかも知れません」

「ああ、俺も驚いたよ。しかも遺跡まで崩壊しちまうし……報告書纏めるの大変だったろう? ごめんな」

「いやいや、元はと言えば私がアレンさんに頼んだんですから、謝る必要はありませんよ」


 今回の出来事で突如出現した遺跡が一瞬で崩壊し、無くなったという事態に街やギルドは大騒ぎであった。急いでナターシャ達はその詳細を纏めた報告書だけでも製作し、ギルドに説明しなければならず、こちらも大変であった。

 ただ報告さえしてしまえば後はギルド側が現場確認などをする為、その間に報告書だけ纏めてしまえば良い。むしろナターシャは中々融通が利かない上層部達が大慌てしていたという話を愉快がっていた。


「それよりも私の方こそごめんなさい。ろくな前情報もなかったのに依頼をしてしまって……そのせいでアレンさん達が危険な目に」


 急にナターシャは不安げな表情を浮かべ、頭を下げてそう謝罪をする。

 ただの調査依頼をしただけのつもりなのに、まさか魔王候補が絡んでいる事件とは思わなかったのだ。彼女からすれば、安易に調査を頼んでしまったことでアレン達を危険に晒してしまったこをと後悔しているのだろう。実際アレンは帰って来た時ボロボロの姿であり、その姿を見てナターシャはかなりのショックを受けていた。

 だがそんなナターシャに対してアレンは首を左右に振り、優しく声を掛ける。


「冒険に危険は付きものだろ? 俺達はそれを承知で引き受けたんだ。だから気にするな」


 冒険して何も起きないなど、それは最早冒険ではない。アレンも長い間冒険者であった為、そのことは十分理解していた。故にナターシャのことを責めるようなことはしない。

 アレンの励ましの言葉を聞いて、ナターシャもゆっくり顔を上げて少しだけ頬を緩ませる。それから彼女は報酬の話に入ろうとした。


「あの、報酬の方はちゃんと払うので、一度街に戻ったら……」

「いや、良いよ。今回は個人の依頼だし、そもそも俺はもう冒険者じゃないからな」


 報酬はきちんと払うと言おうとすると、アレンはナターシャの言葉を遮り、支払いを拒否した。当然そんな事を言われれば支払う気だったナターシャは驚き、目をぱちくりとさせてアレンのことを見る。


「ええっ、でも……」

「俺の方でも結構収穫があったんだ。だから報酬は要らんよ。どうしてもって言うなら、リーシャとルナに冒険の話をしてあげてくれ。あの子達は外の世界が好きだから」


 元教え子から報酬を貰うのも気が引けるし、フレシアラのことについても伏せている情報がある。リーシャとルナの正体を悟られない為にも仕方ないことだが、アレンはそこに負い目を感じていたのだ。故に報酬を貰う権利はないと考えていた。


「ッ……分かりました。アレンさんがそこまで言うなら、現役冒険者の武勇伝、どっぷりと語らせてもらいます」

「ハハハ、それは楽しみだな。お手柔らかに頼むよ」


 ナターシャもアレンの性格は理解している為、これ以上言っても無駄だと判断し、逆にリーシャ達に最高の話を聞かせてやろうと片腕を上げて気合を入れた。

 そんな怪我をしているのにやる気満々なナターシャを見てアレンは苦笑し、二人はそのまま道を歩いて行く。そして途中で別れると、アレンは家へと辿り着いて扉を開けた。


「ただいま」

「あ、お帰りなさい。先生」


 扉を開くと丁度紙束を纏めて運んでいるシェルの姿があった。どうやら彼女も報告書の作成で忙しいらしい。彼女の場合は大魔術師の立場として魔術師協会に色々と報告しなければならないのだろう。よく見ると髪も所々跳ねており、まだ体調が戻っていないのに無理しているのが良く分かる。何だかアレンは自分が何もしていないのを申し訳ない気持ちになりながら家の中に入り、扉を閉めた。


「リーシャとルナは?」

「二人共友達と遊びに出かけましたよ。元気ですよねぇ、子供って」

「ハハ、そうだな。でも良い事だ」


 どうやらリーシャ達はいつものメンバーで遊びに出掛けたらしい。と言うことは相手はシファとダイだろう。大方遺跡で体験したことや外で見たものを話したくて仕方ないのだ。そんなことを想像しながらアレンは廊下を歩き、リビングに向かう。


「ナターシャさんとは会いましたか? 改めてお礼がしたいって言ってましたけど……」

「ああ、会ったよ。相変わらず律儀な奴だよ。あいつは」


 ナターシャと会ったことを伝えるとシェルは良かった、と言い、胸を撫で下ろした。その間にアレンは服を着替え、もう一度シェルの元へと戻る。


「ところで何か手伝うことはあるか? 報告書とか。事務的なことは苦手だけど……」

「いえいえ、もう殆ど終わりましたから、大丈夫ですよ」


 わざわざアレンの手を煩わせる必要はないと言い、シェルは書類をテーブルの上に置くとぐっと拳を握り締める。まだまだ大丈夫、と言いたいらしい。そんな姿を見てアレンも笑みを零して分かった、と頷く。

 すると急に表情を変え、アレンは顔を廊下の方に向ける。そしてある部屋に様子を探るように視線を向けた。


「あの子は……? まだ起きないか?」

「……ええ。死んだように眠っています」


 確認を取ってからアレンはその部屋に向かう。そこはアレンの部屋で、扉を開けると奥には大きめのベッドがあった。そこに眠っている人物が居る。当然、アレンではない。華奢な身体つきをした黒髪の少女、レウィアであった。


「もう三日もこの状態です……大丈夫なんでしょうか?」

「体調は問題ない。ただ魔力がかなり枯渇しているから、身体が弱っているんだろう……それを回復させているんだ」


 ベッドで眠っているレウィアは寝返りを打つこともなく、全く動かずただ静かに眠り続けている。人形の様に整った顔つきをした彼女の容姿も相まって、その光景は本当に死人のようで何処か不気味であった。

 この状態がもう三日間も続いている。遺跡から帰る時、当然倒れているレウィアを放っておく訳にも行かずアレンは彼女を連れて帰ることにした。最初は復活した妖精王に渋られたが、リーシャが反論するとすぐに大人しくなった。そんな訳で色々と聞きたいこともある為、ひとまず村に連れて帰ることにしたのだ。その際村人達にはちょっとした知り合いとして説明している。


(セレネ……もしもあいつがセレーネ・アルティ、という人物ならば……ルナは……いや、まだ分からない。答えを知る為にも、レウィアには起きてもらわないと)


 アレンはもどかしそうに拳を握り締め、やり場のないモヤモヤとした感情を抑え込もうとする。

 かつて出会った黒髪の女剣士セレネ。彼女は魔族でありながら人族の大陸で生活し、冒険者として人々と交流していた不思議な少女であった。アレンにとっても忘れられない相手であり、人生の分岐点とも言える重要な場面で影響を与えられた者である。故に、もしもセレネとルナに繋がりがあるのだとすれば、アレンは真実から目を背けられなくなる。かつて突然居なくなってしまった少女の影を、再び追わなくてはならなくなる。確かめなくてはならないのだ。

 その答えが、すぐ目の前に居る。だが肝心のレウィアは言葉を語らず、その瞳は開かない。

 眠り姫は未だ、眠りに付いたまま。



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