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おっさん、勇者と魔王を拾う  作者: チョコカレー
6章:魔王候補フレシアラ
155/207

147:離ればなれの戦い


 突然地面に穴が開き、なす術もなく落とされたアレンとルナは長い穴の中を滑り続けていた。やがて穴の先に光が見え、アレンは出口が近いことに気が付くとすかさず風魔法を詠唱する。すると二人が出口から飛び出た瞬間風が巻き起こり、速度を落として地面に着地した。


「おわっと!」

「わわっ」


 ドテンと地面に尻もちをつき、アレンは痛そうにお尻を抑える。ルナも勢いよく落ち続けたせいで髪がボサボサになっており、起き上がりながらそれを直していた。


「大丈夫か? ルナ」

「うん、平気。お父さんこそ大丈夫?」

「ああ、目立った怪我はないみたいだ……運が良かったよ」


 ルナの安否を確認しながらアレンも起き上がり、周りの状況を確認する。

 どうやら自分達が落とされた場所は先程まで居た通路と同じような場所らしい。文字が刻まれている冷たい壁が無数に広がり、窓や装飾品が一切ない通路が続いている薄暗い空間。明かりの役割を担っているのか、ほのかに照らしてくれる壁の文字が周囲の状況を教えてくれる。状況を見る限り遺跡内の別の通路に落とされたようだ。アレンはそう判断し、腰をトントンと叩きながら大きく息を吐き出す。


「随分落とされちまったな……リーシャとシェルが無事だと良いんだが」


 高い天井を見上げ、アレンはその先に居るであろう二人の心配をする。

 突如現れた鎧の怪物。妙な能力を使い、かなりの実力を持っているようであった。それにアレンは鎧の怪物からそこらの魔物とは違う強い気配を感じ取っていた。圧倒的な強者と対峙した時に感じるプレッシャー。恐らく勇者のリーシャと大魔術師のシェルでも簡単には倒せない相手であろう。


「きっと大丈夫だよ。だってあの二人だよ。あんな鎧の怪物になんて負けないって」

「ああ……そうだな。リーシャ達が負ける訳ないか」


 アレンが不安を抱いているとルナは片方の手で拳を握り締め、元気づけるようにもう片方の手でアレンの手を握った。娘にそう言われてはアレンもただ悩んでいるわけにはいかない為、力強く頷いて意識を切り替える。


「と、なると今考えるべきことは自分達のことか。何とかして二人の所に戻らないとな」


 アレンはもう一度天井を見上げ、これからどう行動するべきかを考える。

 通路が全て繋がっていればまた元の場所に戻ることが出来るだろう。だが先程のように罠が仕掛けられている可能性は十分ある。すぐにリーシャ達の元に駆け付けたいが、慎重に動かなければならなかった。


「落ちて来た穴は閉じちゃったみたいだし……無理やりこじ開ける?」

「いや、危険だからやめておこう。別の罠が発動しても大変だし、遺跡が壊れる可能性もある」


 自分達が落ちて来た穴は何故か閉じてしまっている。壁がタイルのように分裂して勝手に穴を塞いでしまったのだ。恐らく遺跡自体に掛けられている魔法なのだろう。これだけ巨大で長い間維持しているところを見ると、やはり巨人族の技術は凄まじいようだ。


「じゃぁ探知系の魔法とかでまず通路を……」


 ふと喋っていたルナは口を閉じ、後ろへと振り返る。淡い緑色の光に包まれている通路。その先は暗闇が広がっており、異質な雰囲気を放っている。


「どうした? ルナ」

「今……何か妙な魔力を感じた気が……」


 ルナは警戒しながら暗闇の先を見つめ、アレンも短剣を握り締める。

 僅かに感じた魔力。生物から感じられる魔力と同じソレは、確かに暗闇の中から感じた。だがそれは周りに広がっており、一個の生命のはずなのに至る所から気配が漂って来る。


「これ、って……」


 明らかに異常な事態にルナは冷や汗を垂らす。するとその不安を暗闇の中から無数の植物の蔓が飛び出して来た。それはまるで意思を持っているように壁を這い、アレン達へと襲い掛かって来る。


「えっ……!?」

「ルナ、防御だ!!」


 瞬時にこれが敵意あるものだとアレンは判断し、ルナに指示を出しながら手の平を突き出す。そして魔法を詠唱すると小さな火の球を幾つも作り出し、それを同時に放った。火の球は見事植物の蔓に直撃するが、何本かは勢いを緩めずに二人に向かっていく。それを見てルナは反射的に腕を振るい、影の刃で蔓を斬り裂く。するとボロボロになった蔓達は怯むように下がっていき、暗闇の中へと隠れた。


「な、なにこれ?」

「遺跡に巻き付いていた蔓か? だが何でこんな内部まで……」


 不可解な攻撃にルナとアレンは困惑し、次の攻撃が来ないかと警戒する。

 これも遺跡の罠なのかは分からないが、妙な植物の蔓が自分達のことを狙っているようだ。アレンはまた落とし穴でも出てくるのではないかと不安になり、周囲に意識を向けた。

 すると暗闇の中から何かが蠢く音が聞こえて来る。それは複数の巨大な蔓であった。先程よりも太く、頑丈で鋭利に尖っている。それらが一斉に動き出し、アレン達へと襲い掛かって来る。

 

「ッ……凄い数だな。とにかく全部焼き払うぞ!」

「うん、分かった!」


 アレンは短剣に火属性の付加魔法を掛け、炎の刃で蔓を焼き斬る。一方でルナは無数の影を出現させ、冷静に蔓を斬り裂いていった。

 暗闇の中からは次々と巨大な蔓が現れて来る。まるで二人を弄ぶように、蔓達はジワジワと数を増やしていくが、執拗に追い詰めようとしない。

 長引く戦いが、幕を開けた。





 眼前には視界を埋め尽くすほどの無数の赤黒い槍。それらを全て躱し、剣圧だけで吹き飛ばしながらリーシャは稲妻のように駆け抜ける。そして一瞬で鎧の怪物の目の前まで距離を詰めると、怪物に槍を持たせる隙も与えずにその鎧に一閃を入れた。


「グッ……ガ……!」

「しっ……----!!」


 更に間髪入れず聖剣を横に振り払い、鎧の怪物の頭部を攻撃する。だが鎧の怪物は怯みながらも腕を振るい、宙に浮かせていた槍を操って反撃した。リーシャは至近距離で飛んで来た槍を瞬時に反射神経だけで躱し、聖剣に黄金の輝きを纏わせる。


「吹き飛べ!」

「グゥァアア……ッ!?」


 巨大な黄金の斬撃が放たれ、鎧の怪物はその輝きに飲み込まれて吹き飛ぶ。長い通路の暗闇の奥まで飛んでいき、やがて見えなくなる。


「はあっ……はぁっ……」

「リーシャちゃん、無理しないで。深追いは禁物だよ」

「う、うん……」


 凄まじい集中力で激しい動きをした為、流石のリーシャも息を切らして一度剣を下ろす。その隣にシェルが駆け寄り、心配そうな視線を彼女に向けた。

 今のリーシャは明らかに焦っている。アレンとルナが突如現れた穴でどこかに落とされてしまった為、二人の安否が心配なのだ。おまけに自分の目の前で消えてしまった為、責任を感じている。瞬時に気付いていれば、すぐに鎧の怪物に対処していれば防げていたのに、と後悔しているのである。


「でも今の攻撃なら流石にあの怪物も……」


 勇者であるリーシャの攻撃をあれだけ与えたのだから、鎧の怪物にも多少はダメージを与えられただろう。そう期待してシェルは暗闇の奥に視線を向けるが、そこから現れたのは全く負傷している様子の見られない鎧の怪物であった。精々錆びついた鎧に切り傷が付いたくらいだ。


「コノ……カラ……サカ、アナ……リー?」

「そんな……全然効いてない?」


 鎧の怪物が全く動じていない様子を見てリーシャもショックを受ける。聖剣で全力で攻撃したというのに、鎧を斬り裂くことすら出来なかった。自分の力が及ばなかったという事実を示され、自信が揺らいだのだ。すると鎧の怪物は顔を傾けながら何かを確かめるようにリーシャのことを見つめ、やがて拳を握り締めると周りの槍を出現させた。


「ナラバ……シハ……貴女ヲ……コソ……セル!」


 何か明確な意思を持ったように鎧の怪物は動き出し、手の平をリーシャに向ける。そして拳を握り締めると、周りの槍達が一斉に矛先をリーシャへと定めた。


「〈覇ジャ……ノ咎槍〉……〈乱ブ〉!!」


 先程までの人間味を感じさせない口調とは違う、ある種の怒りが込められたような強い言葉で鎧の怪物はそう言い放つ。その瞬間、宙に浮いていた槍が回転しながらリーシャへと向かって行った。その飛び方は先程までの一直線とは違い、右へ左へと入り乱れながら不規則に飛んでいく。


「ッ……!!」

「リーシャちゃん、下がって!」


 これは避けられないと判断したシェルはすかさずリーシャの前に立ち、杖を振るって幾つもの氷の壁を出現させる。

 一枚目の壁に一本目の槍が突き刺さり、印が浮かび上がる。すると残りの槍達がそこに向かって集中的に突き刺さり、簡単に氷の壁が壊されてしまった。後に控えている氷の壁にも次々と槍が突き刺さっていき、まるで木材のように呆気なく壊されていく。


「くぅ……!!」


 最後の氷の壁も無残に破壊されるが、何とか槍は全て撃ち落とすことが出来た。だが衝撃が凄まじく、空中に綺麗な氷の粉が舞いながらシェルは後ろに吹き飛ばされてしまった。リーシャは慌ててシェルの元に駆け寄る。


「シェルさん! 大丈夫!?」

「ん、平気……ちょっと危なかったけどね」


 シェルは頬に付いた氷の粉を拭いながら起き上がり、無事であることを伝える。それを聞いてリーシャは安心したように頬を緩ませ、聖剣を握り締め直すと鎧の怪物の方へ視線を向けた。

 怪物は相変わらずそこに佇んでおり、大きな動きを見せることはない。だが腕を振るうと再び周りに無数の槍を出現させ、追撃の準備に入っていた。


「あいつ……無限に槍を出現させられるの?」


 リーシャは通路内に浮かんでいる無数の赤黒い槍を睨みながら忌々しそうに目を細める。

 触れればすぐに印が付き、槍達が向かって来るという恐ろしい能力。更にその破壊力は凄まじく、シェルが作り出した氷の壁も粉々にしてしまう程。ただの槍のはずが、何十発もの砲弾のような威力を持っている武器であった。


「多分、あれは〈聖槍〉よ」

「えっ……」


 ふとシェルが何かに気が付いたようにそう言い、リーシャもその言葉を聞いて彼女の方に顔を向ける。


「リーシャちゃんの聖剣と同じ、伝説の武器……特殊な力を備え、選ばれた者にしか扱えない武器」

「それを、あの怪物が使っているって言うの?」

「恐らくね……何で使いこなせるのかは分からないけど」


 通常、聖なる武器に選ばれた者は英雄の才能がある者や、強い心を持った人格者の傾向がある。貪欲に力だけを求める魔武器とは違い、真に選ばれた者しか扱えないのだ。故にシェルは解せなかった。何故見るからに凶暴で、アンデットのように虚ろな気配を漂わせる鎧の怪物が、伝説の聖槍を手にしているのかを。


「〈覇者の咎槍〉、古の王が四人のドワーフによって作らせた聖槍。その矛に傷つけられた者は咎人とされ、命を絶つまで槍に貫かれる……って伝説だったかな」

「それ……凄い怖い伝説だね」


 およそ聖槍とは思えない伝説にリーシャは身震いし、シェルも同意するように苦笑する。

 もっともこれはあくまで伝説の為、実際にあった話とは限らない。鍛冶師や商人が武器を広める為に話を飛躍させるのはよくあることだ。だが、あの槍の能力を見る限り、伝説が嘘だったとは決めつけられないが。

 そんなことを話している内に鎧の怪物は槍を大量に出現させ終え、再び手の平をリーシャへと向ける。あくまでも狙っているのは彼女だけのようだ。


「……シノ槍ハ……ノタメニ……コソ、メザメ……ル!」


 叫ぶようにそう言葉を放つと、鎧の怪物は拳を握り締める。無数の槍が再び回転しながら放たれ、通路の壁を削りながらリーシャへと向かっていく。その様子はさながら嵐のようで、巻き込まれれば間違いなく身体がバラバラになる程の威力であった。


「また来る……!」

「くっ……」


 先程よりも圧倒的に規模の大きい攻撃。これを防ぐのは難しいとシェルは怯んでしまう。リーシャも無数の槍をどうすれば一度に防ぐことが出来るのか分からず、聖剣を握り締めたまま呆然としてしまう。すると次の瞬間、そこに無数の蝶が現れた。どこから入り込んで来たのか、明らかにこの場に似つかわしくない綺麗な蝶達。その蝶達に槍が触れた瞬間、槍は甲高い金属音を奏でながら弾かれ、周囲に落下した。


「だから言っただろう? 勇者様。ここにだけは、君は来るべきではなかった」


 蝶達が舞い、そこから一人の青年が現れる。民族衣装のような着物を纏い、背中に虫のような羽を生やした糸目の青年。明らかに普通の人間とは違う見た目をしており、周囲には鱗粉のように小さな光の球が舞っている。


「ッ……! 妖精王!」

「やれやれ、やっぱり目覚めていたか。何でこんなことになっちゃうかなぁ」


 羽を生やした青年妖精王は鎧の怪物の方に視線を向け、何かを残念がるように頭に手を置いた。妖精王が何故そのような態度を取るのか分からないリーシャは疑問の視線を彼に向ける。


「どういう意味? あいつのことを知っているの?」

「まぁ、知っていると言えば知っているんだけど……ちょっとね」


 妖精王は言い辛そうに髪を掻きながら曖昧な答え方をする。何か話したくない事情があるのだろう。その相変わらずな態度にリーシャは苛立ちを覚えるが、その苛立ちよりも更に怒りを覚えている者が居た。


「……サマァ……妖精ぉ……ゥ! ナゼ、オ前ガァッ……!!」


 妖精王の姿を見た瞬間、鎧の怪物が咆哮を上げて明確な敵意を向ける。むしろその様子は最初の頃よりも言葉をはっきりと話すようになり、感情も出始めて人間のようになっていた。


「貴様ダケハッ……! ワ……がッ……コロス!!」


 鎧の怪物は出現させた一本の赤黒い槍を手にし、走り出す。壁を蹴りながら凄まじい勢いで通路内を跳躍し、次の瞬間には妖精王の目の前まで移動していた。

 赤黒い槍から紅の光が漏れ出す。そして鎧の怪物が槍を振るった瞬間、その場に紅の衝撃波が放たれ、周囲の壁を崩壊させる程の突風が巻き起こった。


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