129:激闘の末
「……ッ!!」
身体全体に広がる痛みにアレンは声にならない悲鳴を漏らす。
たった一撃。攻撃とも呼べない軽い動作。それだけで身体が吹き飛ばされる程の威力。あまりにも規格外過ぎる。アレンはその事実に歯を食いしばり、地面に膝を付きながら折れた剣を忌々しそうに睨んだ。
「アレン君……!!」
「大丈夫だ……だが、くそっ……強いぞ。こいつ」
アレンは心配そうな表情を浮かべているメルフィスにそう言い、無理やり身体を起こす。
まだ身体は動く。問題はない。自分はまだ戦える。そうアレンは自分自身に言い聞かせ、折れた剣を手放すと腰から短刀を取り出した。武器としては少々心もとないが、それでもないよりは幾分かマシである。
「ォォォォォォォオオオオオオオオオオッ!!!」
巨大な悪魔が咆哮を上げる。ダンジョン全体が地震のように揺れ動き、天井から砂が落ちて来た。
他の冒険者達はそれを聞いただけで戦意を失っており、武器を構えることすら忘れている。良くて戦えそうなのはリーダー格の男だけであった。
「く、来るぞ!!」
男が叫ぶと同時にヘビーデーモンが拳を地面に叩きつけ、身体を前のめりにすると突進を仕掛けて来る。それを見て冒険者達は慌てて横へと広がり、突進を回避した。そのまま通路の壁に激突したヘビーデーモンは壁を破壊し、別の通路に繋がる大きな穴を作り出す。
「うぉわッ……あんなの喰らったらひとたまりもねぇ!」
「ひぃぃぃ……!」
バンダナの男と女魔法使いはヘビーデーモンの攻撃に恐怖し、腰を抜かす。
通路を破壊する程の一撃。あのような攻撃を一発でも喰らえば間違いなく普通の人間は死に絶える。それが砲弾のように飛んでくるのだ。あまりにも恐ろし過ぎる。
「カァァァアアアアアアアアア!!」
別の通路にまで貫通していたヘビーデーモンが起き上がり、アレン達の方へとゆらりと振り返る。嗤っているのか、その醜い顔を更に歪ませ、不気味な声を鳴らす。
するとヘビーデーモンはぱかりと口を開けた。そこから濁った不気味な光を放ち始め、次の瞬間光線が放たれた。
「なっ……!?」
「えっ……?」
目で追えない程のその光線は一瞬で冒険者達の近くの壁に命中する。すると大爆発が巻き起こり、その近くに居たバンダナの男が吹き飛ばされた。身体には力が入っておらず、地面に激突すると力なく転がっていく。
「そ、そんな……!!」
「集中しろ! お仲間もあれくらいじゃ死んでないはずだ! 今は敵に意識を向けろ!!」
仲間がやられたのを見て女魔法使いは思わず駆け寄ろうとするが、アレンはそれを制止する。
今現在も敵は目の前におり、いつ攻撃して来るか分からないのだ。そんな状況で敵に背を向けるのは自殺行為である。
「ルルルゥゥゥァァァ……」
悪魔はアレン達のことを嘲笑うかのように不気味な声を漏らし、首をカクカクと揺らす。
アレン達を大した脅威と思っていないのか、まるで虫でも相手にしているかのような態度だ。恐らく向こうからすれば人間はまさしく虫と同じように感じているのだろう。すぐに追撃して来ようとはせず、アレン達の出方を伺っている。
アレンもどう出るべきかを考えていると、メルフィスが駆け寄って来た。
「どうだい? アレン君。倒せそうな気するかい?」
「さぁな……正直あの巨体であのスピード、それに光線なんか吐かれちゃ、倒せる気なんて全然しねぇよ」
こちらの様子を伺っているヘビーデーモンを見ながらメルフィスはそう尋ねてくる。その質問に対してアレンは弱々しい笑みを共に返事をした。
状況は絶望的。他の冒険者達は戦力にならず、ヘビーデーモンの実力は自分達が束になっても敵わない程。おまけにこの通路は敵に対して有利過ぎる。
「じゃぁ撤退を考えようか? 状況を見る限り、僕と君だけなら逃げれるはずだ」
「…………」
するとメルフィスは普段の優しい表情のままそんなことを言って来た。アレンはそれを聞いて意外そうに目を見開くが、すぐに表情を戻し、もう一度冷静に状況を分析した。
(確かに、俺とメルフィスだけなら逃げられる……あいつ等を囮にすれば)
ヘビーデーモンと対峙はしているが、戦う意思が感じられない冒険者パーティ。既に仲間の一人が意識を失っており、殆ど壊滅状態。彼らにヘビーデーモンのことを任せれば、その間にアレンとメルフィスは逃げることが出来る。
破壊されてしまった通路も土魔法を使えば二人くらいは渡れる橋が創れるだろう。それくらいの時間は稼げるはずである。アレンはその選択肢があることを、ただ冷静に受け止めていた。恐らく自分がもっとも安全に生き残れる選択肢だ。だがアレンは顔を顰めた。
「……撤退はしない。俺は戦う」
「へぇ、ちょっと意外。君なら脱出を優先すると思った」
「俺だって本当は逃げたいさ。正直こんな化け物に勝てる気がしねぇ……」
アレンは短刀を握り直し、ヘビーデーモンのことを睨みつける。その瞳には強い意思が込められていた。迷いが一切ない、覚悟を決めた者の瞳。
「だが、今倒せないなら、今から倒せるようになれば良い」
単純な戦闘力だけでは奴には敵わない。戦力も足りていないし、情報も足りていない。普通なら逃げるだろう。だがそんなことはアレンには関係ない。彼は小さい頃からずっと自分よりもはるか長い年月を生き、数多の技術を磨き、人智を超えた力を持つ者と戦って来たのだ。勝てないことなど分かっている。だがそんな状況の中でも少ない手札をどのように活かし、自分が優位に立てるかを考え続けて来たのだ。今回もただそれと同じことをすれば良い。
「攻略するぞ。こいつを」
「了解、僕はアレン君に従うよ」
アレンは短刀に手を添え、魔法を詠唱する。すると氷属性が付加され、アレンの短刀は氷の刃へと変化した。メルフィスも杖を持ち直し、辺りに光の球を放って視野を確保する。それを見てヘビーデーモンもアレン達が攻撃を仕掛けて来ると判断し、戦闘態勢に入った。
「グォォォォァアアアアアアアア!!!」
悪魔が咆哮を上げ、その場から跳躍する。天井をすり減らしながらその醜い腹を揺らし、アレン達へと飛び掛かって来た。
「ちっ……勘弁してくれよ!」
アレンはこれを防ぐ手立てはないと判断し、回避に専念する。だが隣に居たメルフィスは動かず、杖を横に構え直した。
「ここは僕に任せて」
メルフィスは呪文を詠唱し杖をクルリと回転させる。すると二人の前に巨大な光の円が出現した。落下していたヘビーデーモンはそれにぶつかり、円が輝くと同時に弾き飛ばされる。
「ゴガッ……!?」
アンバランスな身体をしているヘビーデーモンはそのまま背中から地面に倒れ込み、動けなくなる。短い脚が地面に付かないからだ。その隙にアレンは走り出し、悪魔の身体を斬り付ける。すると氷の刃が触れた箇所から氷が発生し、悪魔の身体が地面に繋がれ始めた。
「ギガァガ!」
「このまま、氷漬けになれ!!」
更にアレンはヘビーデーモンの上に飛び乗り、氷の刃を腹に突き刺す。するとその部分から氷が溢れ、悪魔の身体全体を覆い始めた。
まずは相手の機動力を奪う。どれだけの力を持っていても、動けなければ脅威はなくなる。だが氷がヘビーデーモンの顔まで広がり始めた時、悪魔の口から濁った光が漏れだした。
「ガアッ……!!」
「……ッ!!」
光に気が付いた瞬間、アレンは氷の刃を手放してその場から飛び降りた。その直後に光線が放たれ、天井に直撃して大爆発を起こす。天井に大穴が空き、土砂崩れのように土が落ちて来た。
「くそっ……あんなの何発も撃たれたら身体がもたないぞ!」
氷漬けになっているヘビーデーモンは咆哮を上げ、身体を覆っていた氷を破りながら転がる。そしてその勢いを利用し、器用に起き上がった。
アレンも一度距離を取り、メルフィスが居る場所まで下がる。武器がなくなってしまった以上、立ち回りを考えなければならない。
「そうだね。でも生物なら何らかの弱点があるはずだ」
「ああ、その為には武器が必要だな」
メルフィスの言葉にアレンも同意し、後ろに居る冒険者の男に視線を向ける。アレンは素早く移動し、彼が持っている剣を奪い取った。
「これ、借りるぞ」
「えっ……」
ヘビーデーモンのあまりの恐ろしさに立っていることしか出来なかった男はろくに反応出来ず、ただ情けない声を漏らす。上等な剣を手に入れたアレンは手に馴染ませるようにそれを振るい、もう一度ヘビーデーモンと対峙する。
「メルフィス、何か状況を変えられる手立てはあるか?」
「……えーと、一応特大魔法ならあるよ。ただちょっと、撃つのに時間が掛かる。他にも幾つか問題はあるんだけど……まぁこの場所なら関係ないね」
アレンの質問にメルフィスは迷うように頬を掻きながらそう答えた。
どうやら何か必殺の技があるらしい。幾つか問題点もあるらしいが、そこをカバーするのが仲間の役割だ。アレンは頷くと剣を握り直す。
「分かった。なら俺が時間を稼ぐ」
メルフィスと作戦を立てると、アレンは勢いよく走り出した。それを見てヘビーデーモンは雄たけびを上げて地面に拳を叩きつける。地面から振動が伝わって来るが、アレンは怯むことなく走り続け、魔法を詠唱した。周りに炎の球を出現させ、ヘビーデーモンにぶつける。大したダメージにはならないが、一瞬ならば隙を作れる。アレンは足元に滑り込むように移動すると、剣で脚を斬り付けた。最初の時のように折れることはなく、浅い傷が出来上がる。
「よし、この剣ならやれる……!」
分厚い皮膚を切り裂く程の切れ味、刃こぼれもなし。それを確認してアレンは満足そうに頷き、もう片方の脚に剣を突き刺した。今度のは多少深く入ったのか、悪魔が悲鳴を上げて脚を持ち上げる。
アレンはすぐに剣を引き抜き、拳を振るって来たヘビーデーモンから距離を取る。そして目を細め、何か観察するように視線を動かす。
「グルゥゥゥォァアアアアアアア!!!」
「……お前の動き、単調なんだよ。どんなに速くても攻撃が来るタイミングが分かれば、簡単に避けられる……!」
樹木のように太い腕を振るい、ヘビーデーモンはアレンを叩き潰そうとして来る。しかし魔物であるが故か、その攻撃は真っすぐでアレンは簡単に避けることが出来た。そしてすかさず懐に入り込み、片足に剣を突き刺す。両方の脚を傷つけられた為膝を付いた悪魔は怒りを含んだ咆哮を上げた。そしてアレンの方に向き、光線を放つ。
「そんで、その光線も……! 撃った後お前は動きが鈍くなる!」
「ガッ……!!?」
ヘビーデーモンの股を潜って光線を避け、アレンは背中へと飛び移る。そして剣で何度も身体を切りつけた。動けなくなっているヘビーデーモンはろくに抵抗することが出来ず、低い呻き声を漏らす。
「はっ! 大したことないな!! てめぇなんざ!!」
「ゴォォォァァアアアアアアア!!!」
光線を撃ったばかりで動くことが出来ないのを良いことに、アレンは鬼神の如き動きで剣を振るう。ヘビーデーモンの身体は次々と切り刻まれていき、肉片が飛び散った。だが徐々に動きを取り戻していき、悪魔の醜い顔が更に歪み始める。
それに気が付き、アレンはすばやくその場から飛び降りる。直後に悪魔の太い腕が動き出し、襲い掛かって来た。アレンはそれを剣で受け止めようとするが、その前に悪魔の腕に炎の球が直撃する。
「ッ……! 私も援護するわ!」
「助かる……!」
炎が飛んで来た方向を見ると、そこには女魔法使いが立っていた。ようやく戦う気力を取り戻したらしく、恐怖で身体を震わせながらも必死に杖を握り締めている。
「ギィィィァアアアアアアアアアアアアア!!」
「俺だって、白銀級なんだ! こんなところでへばってられるか!!」
するとリーダー格の男も走り出し、予備の短めの剣を持ち出してヘビーデーモンに斬り掛かった。メインの武器ではない為有効な攻撃にはならないが、白銀級の実力なだけあって上手く立ち回っていた。アレンもそれに続いて攻撃を仕掛ける。だがヘビーデーモンは雄たけびを上げ、周りに衝撃波を放った。それを受けてアレン達は一度下がる。
「ちっ……タフな奴だ」
あれだけ斬り付けてもちっとも致命傷になっていない。アレンはその事実に悔しそうに拳を握り締める。だが今回は倒すことが目的ではない。アレンはヘビーデーモンから十分距離を取ると、後ろを向いた。
「メルフィス! もう良いか?!」
「ああ。十分だ」
後ろではメルフィスが杖を握り締め、詠唱を行っていた。木製の杖が淡い緑色に輝き、彼の身体に魔力が満ち溢れている。アレンはそれを見て頷くと、射線の邪魔にならないよう横へと移動した。
「ゴォォォァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
ヘビーデーモンもメルフィスの魔力を感じ取ったのか、何かを仕掛けて来ると判断して動き出した。大口を開けて濁った光を漏らし、光線を放つ準備をする。だがその前にメルフィスは杖を前へと振るった。
「満ちよ、満ちよ、全てを照らす光よ。闇を払い、安寧を齎せ……我が放つ光は無情の翠。全てを、滅せ……〈光嵐〉!!!」
メルフィスの杖が緑色の光に包まれ、次の瞬間無数の光の刃を放出した。その刃は壁や天井を切り裂きながら飛翔し、前方へ向かって行く。同時にヘビーデーモンも濁った光線を放った。だがその光線は一瞬で光の刃に斬り裂かれ、無数の光の刃に捉えられたヘビーデーモンの身体から血の嵐が舞った。
「ギィ……ァ……ッガアアアアアアアアアアアアアアア!!!??」
光の刃は何度もヘビーデーモンの身体を切り裂かり、光が消え去るまでその肉を切り刻んだ。
ようやく嵐が収まった時には悪魔の身体は最初の時のような肉塊ではなくなり、ズタズタに引き裂かれていた。ヘビーデーモンはその場に力なく倒れ、動かなくなる。
メルフィスはそれを見て小さくため息を吐き、杖を下ろした。周りの冒険者達も武器を下ろし、力が抜けたのかその場に膝を付く。
「……えぐい魔法だな」
「ハハ、そうだね……実はまだ改良中で、本当はあまり使いたくなかったんだ」
アレンはメルフィスの傍に寄りながらそう声を掛ける。メルフィスも魔法の危険性については自覚があるらしく、恥ずかしそうに頬を掻いた。
「と、とにかく、終わったんでしょう? なら早くこのダンジョンから出ましょう。あいつを起こさないと……」
「ああ、そうだな。ギルドにも報告を……」
まだ疲労が見られる女魔法使いはそう言って倒れているバンダナの男を起こそうとする。リーダー格の男も予備の剣を鞘に収め、脱出の準備を始める。だがその時、ヘビーデーモンの身体がピクリと動き出した。
「……ッ!」
それに気付けたのは、偶々視線を向けていたアレンだけだった。アレンでさえメルフィスのあれだけの魔法を喰らえば息絶えていると思っている程だった。故にそれを見てもすぐに反応出来ず、アレンに一瞬の遅れが生じる。その間にヘビーデーモンは地面を叩きつけて起き上がり、腕を動かして身体を引きずるようにしながらアレン達へと襲い掛かって来た。
「ゴォォォァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ぜ、全員散れ!!」
「えっ……?」
すぐさまアレンは全員の前に出ると地面に手を付け、魔法を詠唱する。アレンの前に土の壁が出来上がり、更に地面から氷が伝わり、突風が巻き起こった。だがヘビーデーモンの勢いはそれくらいで収まることはなく、覆って来る氷を打ち破り、風に怯むことなく土の壁も粉砕し、アレンをその太い腕で吹き飛ばした。
「ぐっ……--ーー!!」
「アレン君!!!」
アレンは壁に激突し、剣を手放す。そのまま地面に倒れると、あまりの痛みに起き上がることが出来なかった。真正面からヘビーデーモンの攻撃を喰らってしまったのだ。その一撃にただの人間が耐えられる訳がない。それでもアレンはまだ意識があり、戦おうとする気合いだけは残っていた。何とか身体を動かし、遠くに落ちている剣を拾おうと手を伸ばす。
「そ、そんな……まだ動けるなんて!?」
「こいつ、どうやったら死ぬんだ!!?」
「グゥゥゥォォォァアアアアアアアア!!!」
冒険者達は自分達の前に立つ血だらけの悪魔を見て絶望の表情を浮かべる。メルフィスも特大魔法を使用したばかりである為、すぐに魔法を放つことが出来ずにいた。
「く、そ……が! 俺は、まだ……ッ!!」
アレンは口から血を吐き出し、悔しそうに声を震わせる。伸ばした手は剣に届かず、少しずつ力が抜けて行った。
敵わない。何もかもが足りない。自分はまた、何も出来ないまま負けてしまう。敵の実力はあまりにも自分とかけ離れている。いつだってその存在に自分の手は届かないのだ。その超えられない壁にアレンは打ちのめされる。だがその時、通路の陰から何かが走り抜けた。
「……え?」
冒険者達もその違和感に気が付く。すると次の瞬間、ヘビーデーモンの腕が斬り裂かれ、宙を舞った。
「ギィアッ……!?」
ヘビーデーモン自身も何が起こったのか分からず、遅れてやって来る痛みに戸惑いの声を漏らす。すると続けて影が揺らめき、斬撃の音と共にもう片方の腕も斬り裂かれた。ようやくヘビーデーモンは自分が襲われていることに気付いたが、時は既に遅く、頭部が果物のようにぱっくりと斬り裂かれた。
「グギャアアアアアアアアアアァァァァァァ……ッ!!!?」
ヘビーデーモンは苦しそうに悲鳴を上げる。だが既に敵を薙ぎ払う為の腕もなく、頭を切り裂かれたせいで意識も消え、すぐにその場に崩れ落ちると沈黙した。するとその肉塊の上に一人の少女が降り立つ。
「な、なに? 何が起こったの……?」
「ま、まさか……彼女は……」
女魔法使いも何が起こったのか分からず、怯えたように杖を握り絞める。するとリーダー格の男が目の前に現れた黒いローブを羽織った少女の存在に気が付き、驚愕の表情を浮かべる。同時に少女の方も冒険者達の方に振り返り、真っ黒な瞳を向ける。そしてニコリと太陽のように満面の笑みを浮かべた。
「大丈夫? 救援に来たよ!」
黒髪に黒目、全身が黒で覆われた漆黒の少女。まるで闇に溶け込むかのような見た目をしているが、その表情は眩しい程明るく、全員に安心感を与えて来る。倒れているアレンも、思わず少女の笑顔に見入ってしまった。
「〈黒衣の剣士〉……」
ふと誰かがそう呟いた。黒衣の少女は肉塊から飛び降り、冒険者達が彼女の元へ駆け寄る。アレンも身体を起こそうとしたが、全身の痛みに耐えられず、意識が途切れる。視界が暗闇に広がった。アレンの意識は深い闇の中へと沈んで行った。
「おっさん、勇者と魔王を拾う」2巻、8月10日に発売致します!
詳しくは活動報告を見て頂ければ幸いです!!