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双子エルフは破王様  作者: アナログ牛蒡
8/22

―ドラゴンでメイドです 前編―

 新しくだされた予言から1年半がたったとある大陸端にある村。そこは様々な獣人たちが暮らしている。ここの村は殆ど年寄りしかおらず、牧場や畑仕事を営む平和な村だ。たまに村の外から冒険者が通るが、それでも人口が少ない村である。


 そんな村には1つの言い伝えがあった。村の近くには山があり、その山には昔世界を救うために戦った女神の眷属が、戦後人々を見守るために住み着いており、世界の危機が訪れた時にその山から光と共に現れると言われている。


「うむ、こんなものだろうか。リルちゃん、そろそろ休憩をしよう」

「ふう、分かったよアドルフさん」


 そうケモ耳が出ている麦わら帽子をかぶった中年の男の獣人アドルフが同じ麦わら帽子をかぶった肩まで伸びたボサボサの水色の髪の女の子の獣人が手に持っていた鍬を肩に乗せて答えた。


 彼女の名はリル・フロスト、狼族の獣人少女である。この獣人の村にいる3人の子供の内の1人で、両親はいない。彼女が生まれて物心がつく前に病気で亡くなっている。今は両親の知り合いの家族の長女として今日もアドルフと共に畑仕事をしていた。2人は畑仕事を一度中断して近くの切り株に腰を下ろした。


 すると2人はある方向から気配を感じ、麦わら帽子から出ている耳がピクっと動いた。気配のする方を見ると「ドドドドドドドドドドドドドド」という音と土煙をあげながら何かが近づいてくる。


「リルおねえええええええええええちゃああああああああああああん!!」


 2人は声がそう叫びながら近づいてくる炎のような赤色のツインテールで猫耳の女の子がものすごいスピードで走ってきた。


「エクレア?走ると危なだろ、いますぐそこで止まれ!」

「んにゃ?はーい!!」


 キキーとブレーキをかけるがなかなか止まりそうにない。それを見てアドルフはオロオロと焦るが、一緒にいたリルがため息を吐きながら立ち上がった。


「にゃにゃ!と、とまらないいいいいいいいいいいいいい!!」

「……しょうがないな、――――――風よ吹け!『ウインド』」


 リルは止まらないエクレアという女の子の前に出て右手をかざしながら詠唱する。そして彼女に向かって風の魔法を放つ。そのおかげていくらかスピードは落ちたがそれでも止まらなかったが、すぐさま腰を落としてエクレアを受け止めた。数センチ後ろに下がってから止まったが、その衝撃に耐えられずにそのままエクレアと一緒に倒れた。


「いてて、エクレア、お前また早くなってんじゃないか?」

「えへへーそうかな?それよりだいじょうぶ、リルおねえちゃん?」

「俺は全然平気だ。お前も怪我ないと思うが、大丈夫か?」

「うん!リルおねえちゃんのおかげでぜんぜんいたくないよ!」


 エクレアは満面の笑みでリルの胸に頭を擦り付ける。リルも困った顔をしたがいつものことなのでエクレアの頭をそのまま撫でる。


 リルの胸の中にいる猫族の獣人の少女の名はエクレア・シャンシャー。リルが住んでいる家の近所で住んでいる。リルより3つ下で、リルを実の姉のようになついており、村の中で一番で足が速い。そこでアドルフが走りながら近づいた。


「おーい、大丈夫かいー?」

「おーう、大丈夫だぞー!そういえばエクレアはなんで走ってきたんだ?」

「あ、わすれてたーえっとね……はい、おべんとう!」


 そういいエクレアは方にかけていた鞄から2つの弁当箱を取り出した。彼女が持っている鞄はただの鞄だが、彼女の持っているスキル『なんでもボックス』というスキルのおかげで、どんなものでもアイテムボックスとして使え、いくら揺れても中には問題ない。また、中の時間を調整できるので、温かい状態で弁当を持っていくこともできる。2人はエクレアから弁当をもらって一緒に3人で食べ始めた。


「むぐむぐ、リルおねえちゃんおいしい?」

「モグモグ、うん、おいしいぞ。いつも届けてくれてありがとうな」


 リルは一旦箸を置いてエクレアの頭を撫でる。彼女は「えへへへ~」と言いながら気持ちよさそうに頭を撫でられ続けた。


「はっはっは、2人は本当に仲がいいな。そういえばアウラちゃんはどうしているんだい?」

「うにゅ~えっとね、おうちでおひるねしてた!」


 アウラとは去年村で新しく生まれた鷲族の母と獅子族の父との間に生まれた獣人の女の子アウラ・テンペルのことである。テンペル家はリルがお世話になっている場所で、父親とアドルフとは従兄弟である。


 3人は弁当を食べ終わると空が曇り始めていた。


「あらま、空が曇ってきたな。コイツは一雨きそうだな……」

「まずいじゃん、急いで帰って洗濯物片付けなきゃ!いくよ、エクレア!」

「にゃにゃ!まってほしいんだよー!」


 リルは走り出そうとした瞬間ドゴーン!という大きな爆発音が響いた。その後爆破の衝撃波が彼女たちのところを来た。


「な、なんだ、爆発?あっちは村の方角だったはず……まさか!」


 アドルフがそう叫んだ時には、リルはかなり遠くまで走って行ってしまっていた。


「な!リ、リル!行ってはいかん!」

「リルおねえちゃん!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 リルが村に到着して見た光景は、あちこちで燃える民家、鎧を着た兵士から逃げ惑う様々な人々の悲鳴、怒声、金属音。何かが焦げ付くような臭い。そこらかしこに倒れる人々………まるで地獄のようだった、


 彼女は走った。家にはまだテンペル夫妻とその子供アウラがいる。それを知っている彼女はひたすら走った。すれ違いざまに近所にいたおじさんが斬られた。どうやら抵抗しようとしたが力負けしてそのまま切られてしまったようだ。


 だが、そこで止まってはいけない。そう本能で感じ、彼女は再び走りだした。しばらく走っているとようやく夫妻たちが住んでいる家に着いた。


「アニルさん!セルニルさん!アウラ!」


 夫妻の名とアウラの名を叫びながら、家のドアを空ける。そこには奥にいる赤ん坊を守るように抱いている女性アニルとそれを守るように前に出て剣を構えている男性セルニル、そんな彼らの前にいるロングソードを右手に持っている鎧を着た兵士がいた。兵士が着ている鎧の胸元にはイグニド帝国の紋章が描かれていた。


「リル!うおおおおおおおお!!」

「っち!」


 セルニルはリルが現れて兵士が視線がそれ、隙ができたため兵士に向かって斬りかかった。だが、兵士はすぐに反応してその攻撃を受け止める。つばぜり合いが続く中セルニルが叫んだ。


「リル、早く逃げるんだ!!」


 彼女はその時頭の中が真っ白になっていた。セルニルを助けるために加勢したほうがいいのか、それとも逃げたほうがいいのか。


「リルちゃん、しっかり!急いで!!」


 そうアニルの叫びと共に自分の腕が引っ張られた。それによって意識を戻した彼女は彼女の手をしっかりと握り締め、髪を引かれつつも走り出した。


 彼女は再び走る。少しでも早く逃げるために走り続けた。村のあちらこちらから悲鳴や怒声が聴こえてくる。しばらく走っているとその先に2人の兵士が現れた。


「いたぞ、他の連中も呼べ!」


 2人の兵士は周りにいる兵士に声をかけながら彼女たちの方へ走り始めた。


「リルちゃん、この子をお願い!」


 アニルはリルにアウラを託し、『獣化』を使い大きな鷲へと変身した。リルは口をかみ締めその場から離れた。


 彼女はしっかりと抱え、少しでもその場から離れようと走る。決して後ろを振り向かなかった。獣人化した獣人は普通の兵士よりは強いはずなので、あの場にいた兵士を片付けてすぐ来るだろうと信じた。


 しばらく走り、村の外れが近づきはじめていると後ろから騒がしい金属音が聞こえた。彼女は後ろを一瞬だけ見ると、そこには2人の兵士がこちらに追って走ってきていた。


 彼女は疲れている足に力を入れて再び走り出した。走っている最中彼女は足止めに魔法を使うために詠唱した。


「――――――風よ吹け!『ウインド』」


 詠唱が終わり彼女は2人の兵士に向かって風を放つ。兵士は放たれた風で足が止まり、少しだけ時間を稼げた。その隙に彼女はさらに足に力を入れて走り出した。


 少し走ると小さな洞窟が見えてきた。その洞窟は村の言い伝えに出てくる女神の眷属が住み着いる場所に行ける洞窟である。彼女はそこに逃げ込むようにその洞窟の中へと入って行った。


 洞窟の中は一本道になっておりかなり長い距離をあり、しばらく歩いていると開けた場所に着いた。そこには天井に穴があいており、そこから光が入り、部屋全体が明るく見渡せた。


 部屋の奥には小さな祭壇のようなものがあり、そこに何者かの気配を感じた。


「……誰かいるの?」

「……………………リルおねえちゃん?」


 そう答え、祭壇の影から小さな女の子エクレアが顔を出した。


「エクレア、無事だったんだな!」

「う、ぐす、リルおねえええええええええええちゃあああああああああん!!」


 エクレアは泣きながらリルの方へ走り抱きついた。泣いてる彼女の頭をリルは優しく撫でた。


「よかった、本当に無事で……アドルフさんはどうしたんだ?はぐれたのか?」

「うう、ぐす……おじちゃんはリルおねえちゃんおいかけてたとちゅうでこわいひとたちにであっちゃって、おじちゃんがわたしのことにがしてくれたの……」

「………そうか、大丈夫だ!アドルフさんも無事のはずさ!」


 リルはエクレアを落ち着かせるために精一杯の笑顔を作って答えた。彼女もそれを聞いた「うん」と答えた。


 彼女が泣き終わると遠くから騒がしい金属音が聞こえた。リルは嫌な予感がし、すぐさま祭壇の後ろにエクレアとアウラを隠すように下がった。


 少しすると先ほど追いかけてきた2人に加えて数人の兵士が来た道から走ってきた。


「はぁ、はぁ、やっと追い詰めたぞ。ったく、手間かけさせるんじゃねえよ!」

「全くだぜ、途中で獅子に獣化したやつのせいで逃げられたが、もう逃げられないぞ!」


 それを聞いたエクレアはその兵士に向かって叫んだ。


「おじちゃんをどうしたんだ!」

「ああん?そんもん殺したに決まってんだろ。安心しろ、すぐそのおじちゃんと同じとこに送ってやるよ、へへへ!」

「そ、そんな………」


 そう言いながらジリジリと近づいていく兵士たち、リルは唇を噛み締め、彼らの方に手を向け、風の魔法を詠唱をする。


「っへ、やらせるかよ!」

「!あぐぅ!」


 兵士の一人がナイフをリルに向けて投げ、投げたナイフはリルの左肩に命中した。その衝撃で詠唱を中断してしまった。彼女は刺さったナイフを抜き、右手で傷口を抑える。その間にも兵士たちはじりじりと近づく。


「へへへ、よく見たらなかなか可愛いじゃないか。喜べ、お前らを生かしてやる。ただし、手足縛って楽しんだ後に奴隷商に売ってやるよ!」

「っく!」


 廃止たちはすぐそばまで来て彼女たちを捕まえようとする。リルは少しでも抵抗するために噛み付こうとした。


 その時伸ばしかけていた1人の兵士の手が止まった。リルは一体どうしたんだろうと思った。すると後ろからエクレアたちではない気配を感じた。


 彼女たちも恐る恐る後ろを振り向くと、黒い亀裂が走っていた。


 そこから1人の女性が現れた。その女性は腰まで伸びたまるで黒曜石のように綺麗な黒髪に闇を照らす黄金の月ような瞳、悪魔のような漆黒の角と翼、スカートの下から伸びる蜥蜴のような尻尾。そして頭には黒い髪とは反対の白いふりふりのカチューシャを付けたメイドが現れた。スタイルも抜群で、特に上半身の一部分がかなり大きかった。


 まるで場違いのような姿をした。メイドは兵士たちに向かってこう答えた。


「申し訳ございません、皆様は私のご主人様である破王様の居場所をご存知でしょうか?」

誤字脱字がございましたらご報告のお願いします。今回は長くなりそうなのでちょっと分けます。

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