―水の都ウンディード―
大変長らくお待たせしました。
仕事の都合であまりできなくて遅くなりましたが今日も私は元気です。
あれから数日経った昼過ぎ。俺たちは数日分の着替えを入れたカバンを持ってウンディードで開かれる祭りの手伝いをするためにナーディナルのゲート前の広場に来ていた。そこには同じ生徒会と風紀委員の生徒たちが集まっていた。
「ふぁ~………ねむいわ………楽しみすぎて寝れなかったわ………」
「おいおい、ガキじゃないんだから………って一応まだガキだったな。もうすぐみんな来ると思うから早く目を覚ませろよ」
「んぅ~………しょうがないわね………『リカバリー』」
アイリスはゆっくりと目を閉じ小さく深呼吸をしたあと『リカバリー』の魔法を唱える。すると彼女の目の下にあったくまが完全に消えた。
『リカバリー』とはあらゆる毒や麻痺、呪いなどの状態異常を回復・排除する魔法で、眠気は状態異常と認識させることで回復ができるのだ。
「ふぅ~すっきりした~」
「………ったく、この調子で大丈夫かこのあとのこと考えると心配になってくるぞ」
「あはは、ごめんごめん。それにしてもやっぱこの魔法は便利ね。マジックアイテムにできたらいいんだけど、いちいち認識しないといけないからね~」
………こいつ本当に反省してんのか?………してないんだろうな、元同じ人物だったしな~。この世界で寝なくても済むスキル持ちがいたら絶対碌なことにならないに決まってる。
そういえば、こっちきてからスキルの選別してなかったな。俺には不要なスキルもあるし暇なときに確認してみるかな。
俺はそう思いながらアイリスをジト目で睨んでいると別の方向の転移門からシエル以外のフレデリカ、ザックス、ジャックの3人がやって来た。シエルがいないのは俺たちが泊まる場所が彼女の家だから今頃準備している頃だろう。
「………お~っす、2人とも………ふぁ~」
「おはよう2人とも、今日はいい天気だね」
「んにゅ~………おはお~………ごじゃります………ぐぅ………」
3人中2人ほど眠たそうにしていた。どうやらアイリスと同じように眠れなかった奴がいたようだ。特にフレデリカの口調がおかしくなっている。
「おはよう、ジャック以外の2人は眠そうだな。楽しみすぎて誰かと同じく寝てないんだな」
そう俺がちらっとアイリスを見るとあさっての方向を見て「確かにいい天気ね~」と空を見ていた。
そうして話していると何人かの役員が「そろそろ時間ですので移動しますよー」と声をかけていた。
「さあ、そろそろウンディードにへ行くためのゲートが開く時間ですし出発しましょうか?」
「そうだな。おい、2人とも早く行くぞ!」
「ふえ~ま、まって~」
この街のゲートはゲートを設置している村や街はナーディナルにのみ続く道しかなく、それ以外の道は時間帯によって切り替え、村や街へと続く道を開いている。村への道は数分ごとに切り替え、街への道は数時間ごとに切り替わっている。
そんなこんなで俺たちはウンディードへと繋がる時間帯に向かい、そのゲートをくぐった。
この先やっていけるのだろうか……
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「………おお、ここが『水の都ウンディード』か」
ゲートをくぐるとまずは潮の香りがし、目の前には白い街並みに彼方にはいくつもの船と広大な海が広がっていた。俺たちはその光景にしばらく釘付けになっていた。
この街は中央にある『アクアマリンの塔』を中心に多くの水路が張り巡らされており、移動するには帆のない船で移動するか泳いで移動するしかない。
「海か………この匂い、懐かしいわね……」
「ん?アイリスなんか言った?」
「いいえ、何でもないわ。ただ、綺麗だなって………」
「そう?まあいいわ。それより2人は海に来たことある?あそこに広がる水ってしょっぱいのよ!」
そうフレデリカは腰に手を当てドヤ顔で言った。海ぐらいは知ってるけどせっかくだし知らないふりしてみる。
「しょっぱいの?どうしてしょっぱいのかしら?」
「ふふーん、それは大昔に神様が大量の塩を海に落としちゃってしょっぱくなっているのよ!」
残念だけど違う。塩素を含んだ水に岩石に含まれるナトリウムが溶けて塩水になったからよ。でもそのドヤ顔可愛いから許しちゃう!
フレデリカが海についての知識(間違っているけど)を語っていて、アイリスがそれを微笑みながら聞いている光景を見ていると何代もの馬車が止まり、先頭の御者席から一人の老人が降りてきた。
「失礼します、あなた方がアルグリース学園の学生様御一行様でよろしかったでしょうか?」
「はいそうです。私はアルグリース学園、生徒会会長のシルヴィア・セイレーンです。本日はよろしくお願いします。」
「同じく僕は風紀委員会会長のブランダール・グレムといいます。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。では、馬車は用意ができていますのでお乗りください。」
「ありがとうございます。では皆さん、走らないで慌てず馬車に乗ってくださいね」
「はーい」と返事をして次々に馬車へと乗っていった。しかし、馬車は4人乗りのため男女で分かれることになった。一人ぼっちは寂しいもんな。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
現在馬車の乗った私たちは祭り中に泊まる場所へと移動中なのだけど………
「――――――って感じでフレデリカはかわいかったのよ~。今でも可愛いんだけどね~」
「や、やめてよ会長!恥ずかしい!」
「もぉ~、『会長』じゃなくていつもどおり『おねえちゃん』って呼んでいいのよ~?」
「う、うううう!お、おねえちゃん(ボソ)」
「うふふ~やっぱりフレデリカは可愛いわ~」
目の前でシルヴィア会長におもちゃにされているフレデリカを私は温かい目で見ている。そんなシルヴィア会長はシルフィード家とは公爵と伯爵の関係であるが親同士で仲がよく、2人は姉妹のように育ったそうだ。普段はまったりした感じだけど、仕事の時はキリっとして的確な指示を出すことができるカリスマ溢れた、通称『会長スーパーモード』になれる。
いや~普段見れないフレデリカのテレ姿は見てて飽きないわ~。いや~最高だわ~あはははは~。
「………………(じーーーーーーーー)」
この視線さえなければもっといいんだったんだけどな~。………なんでこんなに睨まれているのかしら?私この子に対して睨まれることはしてないはずなんだけどな~
彼女の名はメリシア。違うクラスの同じ生徒会役員の子で、口数は少ないけど真面目で仕事をそつなくこなす優秀な子なのだが………目つきが悪いかったり相手の心に的確に刺さる毒舌から『ドS姫』という二つ名が付いている。
シルヴィア会長に一度聞いてみたんだけど「彼女は勘違いされやすいけど、とても優しいくて一生懸命な子なのよ~あと、とっても可愛い子よ~」と言ってた。確かにあの目つきと毒舌を抜けば超美少女なんだよね~
その頃ゼロスたちは………
「―――であるからして筋肉は素晴らしいのである!!」
「おお!だよな~やっぱ男は筋肉つけねーとな!」
「「……………………」」
と風紀委員副顧問であるエンジョー先生が永遠と筋肉談義をしてそれにザックスがノリノリに聞いていた。そんな俺はジャックと一緒にひたすら外を眺めていた。
早くこの空間から出たい………
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
馬車で移動してから30分くらいがたち、窓から外を覗くと大きな屋敷が見えてきた。位置的には中央にある塔の近くである。屋敷の目の前につき馬車から降りると左右に数人のメイドさんが出迎えてくれた。そしてぞろぞろと館の中に入ると1人の男性が出迎えてくれた。
「ようこそ、ウンディード家へいらしてくれた。私はアウディ・ウンディード公爵だ。祭りのことはよろしく頼むよ」
「ありがとうございます。私はアルグリース学園、生徒会会長のシルヴィア・セイレーンです。」
「同じく僕は風紀委員会会長のブランダール・グレムといいます。祭りの間ですがお世話になります。よろしくお願いします」
『よろしくおねがいします!』
このあと俺たちは各自割り当てられた部屋に行き荷物を置いたあとそれぞれのリーダー同士の打ち合わせが終わるまで待機し、その後生徒会と風紀委員で分かれて今後の予定を聞くことになった。
まず俺たち風紀委員は当日一班4人で分かれて午前午後の交代制で街中を見回ることになっている。
メンバーは俺とザックス、フレデリカ、ブランダール会長の4人で午前中を担当することになった。午後からは自由行動で夜9時までには屋敷に戻らなくてならなくなっている。
そしてアイリスたち生徒会は同じく一班4人で分かれて交代制で担当に入った出店や案内所の手伝いをすることになっている。女子は受付または売り子として手伝いをし、男子は力仕事をさせられる。
メンバーはアイリス、シエル、ザックス、シルヴィア会長の4人で俺たちと同じく午前中を担当することになっている。だが、シルヴィア会長はある程度休憩したら他の班の様子を見に行くため離れてしまうそうだ。
予定を聞いたあと会議に入り、その後は夕食の時間まで自由時間となった。ただ、街に行くことは禁止されているため大体は屋敷の中を見学するか自室でゆっくりするしかない。
俺たちはシエルと合流して屋敷の中を案内してもらうことにした。
ちなみにサックスとフレデリカは寝不足で寝ている。ジャックは付き添いで本を読んでいる。
「そうだ。アイリス、ゼロスくん。あのね、私の家族を紹介したいんだけどいいかな?」
「シエルの家族に?べつにいいぞ。どうせ夕食まで暇だしな」
「そうね、私もいいわよ」
いい機会だからここで会ったおいた方がいいだろう。恐らくアイリスも同じことを考えているだろう。
「そう?じゃあついてきてね」
「ええ、行きましょう。うふふ、ご両親にはしっかり挨拶しないとね………」
あ、こいつ違うこと考えてやがる。まあ、似た様なもんだしいっか(諦め)
それからシエルの案内でひとつの扉の前に来た。シエルがノックすると中から「入りたまえ」と聞こえた。中に入ると1人の男性と2人の女性が待っていた。
「おお、君たちがシエルの友達の……」
「はい、僕がゼロス・エーデルベインです。こちらが双子の姉のアイリス・エーデルベインです」
「アイリスです。シエルとは仲良くさせていただいています」
そういい俺右手を胸にそえ、アイリスは軽くスカートを摘みながら軽く頭を下げた。
「まあ、まだお若いのに綺麗に挨拶してくださるなんて将来有望ですわね。わたくしの名前はシーラ・ウンディードですわ。彼の妻でシエルの母ですわ。こちらは同じ娘の……」
「シエルの姉のアリア・ウンディードなのです。妹と仲良くしていただいてありがとうなのです」
「そして先ほど挨拶したアウディ・ウンディードだ。助けてくれるどころか友達となってくれるとはありがたい」
そういいアウディは深々と頭を下げた。
「いえいえ、たまたま運良く助けることができただけですよ」
「ははは、謙遜することはないよ。ふむ、流石あの2人の子だ。魔力もなかなかのものであるな」
「あはは、ありがとうございます。父と母をご存知で?」
「ああ、彼らとは古い付き合いでね。私が学生だった頃一緒だったんだが、何度か助けられてな。卒業したあとは冒険者となってからも文通のはしていたからな」
「へ~そうなんですね」
ふむ、たまに手紙が届いていたのはこの人とやり取りをしていたからかのか………
「それで今回は挨拶も兼ねてお礼を言いたくてな。ぜひこれを受け取ってくれたまえ」
そういい俺たちに一枚のカードを渡してくれた。表には水を流している壺を持った人魚の絵が描かれていた。
「これは?」
「それには私の家紋が入っていてね。冒険者の時にこの街の近くあるダンジョンでそれを見せれば優先して入らせてくれるはずだ。他にも少しばかり店の値段が安くなる。なくすのではないぞ?」
「分かりました。ありがたくいただきます」
いわゆるお得な許可書って感じだろう。ここに来てこれを手に入れることができたのは行幸だろう。
それから学校のことや家族のことなどを話していたらいつの間にかいい時間になっていた。
「……ふむ、そろそろ夕食の時間であるな。2人とも今日はありがとう。祭りの間だけだがよろしく頼む」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
そうして俺たちは部屋を後にし、夕食を美味しく頂いた。明日は祭りの準備だ、しっかり仕事しないとな。
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