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核開発を止めろ 名探偵藤崎誠が挑む

作者: さきら天悟
掲載日:2017/05/23

「どうした?」

藤崎は肩を落とし、丸くした背中に声をかけた。

男はスツールを回転させ、藤崎の方を向いた。


「総理ッ?」

と藤崎の後ろの客が驚きの声を上げた。


総理大臣の太田は、微笑み、軽く手を上げて答えた。

だが、これ以上寄せ付けない威厳も放った。



「お前が呼び出したんだろうが?

こんなバーに、名探偵さん」

太田は答えた。

太田と藤崎は官僚時代の同期で、政治家へ転身後、

いろいろ藤崎に知恵を借り、とうとう総理まで登り詰めた。


「まあな、行き詰っていると思って」

藤崎はバンと太田の背中を叩いた。

「元気出せよ。

日本の総理だろう」


太田は小さく笑った。

そして、驚いたように呟いた。

「最近、笑ってなかったな」


あの国のせいであろう。

ミサイル発射実験。

それに核実験。

安保理国の警告さえ無視するK国。



「やばいのか、K国」

藤崎は切り出した。


太田は首を振った。

「いや、そんなこともない」


「それは、そうだろう。

打ったら、おしまいだ」

藤崎は頷く。

「彼らにとって核は守り神のようなものだろう。

他から侵略を許さない。

それに核を持つ国々が造るなというのも変な話だ」


「そうだ。

だから、K国周辺以外は無関心だ。

逆に白けている」

太田は苦虫を潰したような顔をする。

「だから、国際世論がまとまらない」


「じゃあ、米国が本気なのか?

米国本土にとどく大陸間弾道弾を恐れているというのか?」

藤崎は詰め寄る。


また、太田は首を振った。

「政府じゃないんだ」

太田の顔に影が差す。

「戦争してみたい奴がいるんだ」


「奴らか」

藤崎はやっぱりという顔をした。

「軍産複合体・・・」


「奴ら、新兵器を試したいんだ。

無人の戦闘機、ドローン、戦車とか。

それを世界に見せつけたいんだ」


「K国を武器の見本市にする・・・」

藤崎は黙り込む。


「奴らはソウルや東京に被害が出ようが、お構いなしだ。

逆に被害を大きくなった方が、武器が売れると思っているくらいだ」

太田はそう言うと頭を抱えた。



沈黙が続く、藤崎は太田をちょっと元気づけようと思って呼び出した。

だが、予想以上の事態がせまっていることに驚かされた。


藤崎はニヤリとした。

異常である。

こんな話を民間人にしていいはずがない。

これは太田からの無言の依頼だ、と。

藤崎は頭脳をフル回転させた。


ロックグラスの氷は完全に溶けていた。

ずっと握り締めている手を雫が濡らす。

藤崎はすっと顔を上げ、立ち上がる。

胸に手をあて、深く頭を下げた。


「名探偵にお任せあれ」





それから、3日を総理の太田はK国首都に電撃訪問した。

世界中を驚かしたが、

「日本に何ができる」という批判は海外メディアだけでなく、

国内でも同じ、いや、それ以上だった。


滞在2日で帰国した太田に手土産が無かった時、

落胆というより、やっぱりそうだろうと評せられた。

いや、選挙を見すえたパフォーマンスとさせ、酷評された。



だが、その一週間後、K国と米国との会談が実現した。

K国は核とミサイルの開発を完全に放棄することを約束した。

当然その見返りとして、総額10兆円の支援を求めた。

米国は、国連監視団の無制限の調査権を要求し、K国はそれを受領した。



世界中は驚いたが、K国の作戦だろうという見方が強かった。

だが、K国は即座に調査団を受け入れた。

調査団は、核爆弾がミサイルの弾頭のサイズになっていることに驚かされた。

調査団はプルトニウムの量を徹底的に洗い出した。

実験で使用された量、未精製原料、精製された量、

それを米国がつかんでいる輸入量と比較した。

それを確認した時点で支援が始まった。

それから、順次、実験施設を廃止していく。

最終的には5年はかかる予定だ、

その間、約100名の調査団が駐留する。

そして、核廃棄終了後、米国大統領とK国指導者に

ノーベル平和賞が贈られるのは確実だった。




は~、藤崎はため息をついた。

その吐き出した分を埋めるように、ロックグラスを掲げ、一口含んだ。

依頼、いや頼みごとは果たしたが・・・

今回もジュリアとの関係に進展はなかった。

ダム湖をヴァーチャルリアリティ技術で沖縄の海にする、

いいアイデアだったが。

は~、とまたため息をつき、背中を丸めた。


バシっ、と響くと、藤崎の背中が熱くなった。


「名探偵さん、またふられたのか」

太田は笑い声を上げた。


「そんなんじゃない」

藤崎は両方の肩甲骨を回し、痛みを和らげようとした。


「ありがとうな、この前は」

太田は神妙な顔をした。

「でも、驚いたよ。

あんな事をいうなんて。

米国を滅ぼす方法をK国に教えてやれなんて」


藤崎は鼻で笑う。

「米国だけじゃない、日本も中国も滅ぶ。

まあ、滅ぶと言っても人が死ぬわけじゃない。

政治体制が変わるだけだどな」


「でも、本当に資本主義、民主主義は滅ぶのかな」

太田は呟く。


「22世紀にこのままの国の体系を維持できるのはK国くらいだろう。

米国、日本、中国も変わるざる得ない。

そういうことを準備して、政治の舵を取らなきゃいけない。

CO2問題よりよほど深刻だぞ」


「本当に来るのか。

大失業時代が・・・」


「分からない。

予想がつかない。

人工知能の進化は」

藤崎は眉間にシワを寄せる。


「民主・資本主義の最大の敵は、失業者・・・」

太田は呟く。


失業者が増えれば、共産主義的な議員が増え、

政治体系が変わると予想される。

それを防ぐために、政府は失業手当を厚くするだろうが、

それで人間の生甲斐まで作れるのか危うい。


「でも、K国は違う。

全部、軍人に回せばいいからな」

藤崎はずっと遠くを見つめているように言った。


「でも、お前は恐ろしい男だな。

核開発を止めて、人工知能で米国を滅ぼせ、

と日本の総理にK国へアドバイスさせるなんて」


「今なら核廃棄は高く売れる。

その金を全部ツッコめば、人工知能の開発のトップに踊り出られる。

それに他の国は、失業者がでれば導入に歯止めがかかる。

でもK国は違う。

突き進むことができる」


「でも、本当に恐ろしいよ、お前は。

人工知能が発達すれば、今までのデータで

核実験も弾道ミサイルの実験もできると言わせるなんて。

まあ、そこまで言わないと、納得しなかっただろうがな」



藤崎はニヤリとする。

「人工知能の発達で人類は岐路に立たされる。

日米の在り方が正しいのか、果たしてK国が正しいのか」


「第二の幕末か」

太田は嬉しそう呟く。


幕末、政治思想が一変した時代だ。

二人とも幕末の人物が好きだった。

それも幕府側の。

小栗上野介、河井継之助、土方歳三、松平容保・・・

彼らは時代にあがない、多くは命を落とした。

だが、後世彼らを評価する人もいる。



二人はグラスを合わせる。


「K国に」と藤崎が言うと、

「K国に負けない日本に」と太田が言った。




「あっそうだ」

太田はワザとらしく言った。

「今度、その祝賀パーティーがあるんだ。

政界、財界人が大勢来る。

国内だけじゃなく、海外も」


藤崎は興味なさげだった。


「お前も来いよ」

太田は招待状を藤崎の前に置く。


藤崎は見つめるだけで、手に取らない。


「夫人同伴だから、無理か~」

太田はその招待状を取ろうとする。


すっと藤崎は手を伸ばし、

招待状を掴み、上着の内ポケットにしまう。

「ありがとう」

藤崎は太田の真意を理解した。

ジュリアをパーティーに誘えというのだ。



「総理に」と藤崎は言い、

太田をグラスを合わせた。

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