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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第五章 フォアグラ教団編
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第90話 新たなる戦い

 目を覚ました時、拳凰は病室のベッドにいた。

(ん……どこだ、ここは?)

 体を起こした拳凰は、自分の両腕を確認する。腕は両方ともちゃんと付いている。

 拳凰が目覚めたことを察知したかのように、病室に誰かが入ってきた。白いローブを着た中年男性だ。

「目が覚めたようだね。私は君の治療を担当したホートーという者だ」

「あんた、医者か?」

「正確には治癒魔法師だよ。人間界のような医術ではなく、治癒魔法を用いた治療を行うんだ。それにしても君の回復力は凄まじいね。あれだけの重傷が一晩で完治とは」

 ホートーの声が普通に聞こえていることで、拳凰は耳も治っていることに気付いた。

「ん……つーか、テロはどーなった?」

「昨日の時点で完全に鎮圧完了しましたよ。今日はもうすっかり平和なものです」

「それはよかったぜ」

「ああ、そうそう。目が覚めたら地下二階、北端の扉まで来るようにと、ミルフィーユ様よりの伝言です」

「おう、ありがとな」

 拳凰はそう言うとすぐにベッドから降り、病室を出て行った。


 エレベーターで地下二階に降り、院内見取り図を頼りに北端の扉へ。するとそこには、幸次郎とデスサイズが待っていた。

「おう、お前らもここに来てたのか」

「はい。最強寺さん、酷い怪我だと聞いていましたが、大丈夫なんですか?」

「まあな。すげーんだぜここの病院。両腕吹っ飛んで耳も聞こえなくなってたのに、一晩ですっかり元通りの健康体だ」

 自身の怪我の様子を嬉々として語る拳凰に、幸次郎は顔を青くして引いていた。

「そんで、お前らもここに呼ばれたのか?」

「ああ、俺達も昨日一晩入院したのだが、今朝起きたら担当の治癒魔法師からここに行くよう言われてな」

「僕も同じです」

 三人がそう話していると、件の扉が開いた。中から出てきたのは、ラタトゥイユである。

「おっ、エロメイド」

「皆さんお揃いのようですね。それではこちらにお入り下さい」

 ラタトゥイユが扉を開けると、その先には床に大きな魔法陣が設置された部屋があった。

「こちらは王宮直通の魔法陣になっております。これから始まる会議に皆様もご参加頂きたく存じます」

「会議? かったるそうだな」

「今後の教団との戦いのことについて、あなた方も交えて相談するとのことです」

「よし、行くぜ」

 急に乗り気になった拳凰を見て、幸次郎は呆れ顔。

「デスサイズさん、なんか僕ら普通に戦力として扱われてますね」

「俺は元々有事の際には王国の戦力として働く契約だ。何も異存はない」

「いえその……デスサイズさんは仕事ですし最強寺さんは戦闘狂ですからいいにしても、僕は普通の中学生なんですけどね」

「おーい二人とも、さっさと行くぞー」

 拳凰に急かされ、二人は魔法陣へと入った。王宮と病院を直通で結ぶという、有事の際に重要な役割を持つ転送魔法陣。大人数を一度に運べるよう設計されており、四人同時の転送くらい余裕なものである。

 転送された先は、御馴染みの騎士団会議室であった。そこにいるのは御馴染みの妖精騎士団とショウチュー大佐。

「よくぞいらっしゃいました。御身体の様子は如何ですかな?」

 ビフテキが拳凰の方を見て尋ねる。

「ああ、もうすっかりよくなったぜ」

 三人は案内された席につく。ラタトゥイユもその後席についた。

 すると幸次郎はふと、あることに気がついた。

「あの、一人いらっしゃらないようですが……」

 騎士団の席が一つ空いている。この場にいる面々から考えて、いないのはカニミソである。

「カニミソは昨日の戦闘で重傷を負っており、現在集中治療を終えて安静にしている状態です。そのため本日の会議は欠席となります」

 ザルソバが解説した。

「それは……ご無事に回復することを祈ってます」

「同じくらいの大怪我した奴が何故か一晩で全快してここに来てるわけだがな」

 ハンバーグが拳凰の方を見て言った。

「ん? これって俺がおかしいのか?」

 拳凰が尋ねると、治癒魔法の専門家であるミルフィーユが答える。

「治癒魔法の効力は術者の魔力だけでなく、治癒を受ける側の回復力にも左右されるの。いかにこの世界の治癒魔法が優れていたとしてもあれほどの重傷が一晩で完治するというのは、貴方の回復力がずば抜けているということに他ならないわ」

「そういうもんなのか」

「さて、それでは本題に入ろう。ザルソバ、解説を」

 ビフテキが切り出す。

「了解です。先日の王都テロについてですが、我々の完全勝利と言っていいでしょう。まず最大の功績は、一人の犠牲も出なかったことです。民間人、軍人、そして教団の洗脳兵士、いずれも死者ゼロ名となりました。迅速な避難指示と保護、そして負傷者の救護。王国軍の皆さんはこの上ない働きをして下さいました。まさしく拍手を贈りたい仕事ぶりです」

「軍では今回の作戦に参加した者全員に特別ボーナスが支給されることが決まっております。そして魔法少女バトルのチケットを取っていながら今回のために観戦を断念した者達には、明日以降の試合にて特別観戦席へ招待することも決まりました」

「うむ、ご苦労であったショウチュー大佐。彼らにとって良い労いになるじゃろう」

「身に余ることです、ムニエル様」

「大きな働きをして下さったのはデスサイズさんもですね。貴方が早期に全洗脳兵士を無力化してくれたお陰で防衛作戦はスムーズに進みました」

「お安い御用だ」

 デスサイズはふっと鼻で笑う。

「さて、敵についてですが……第四使徒プルコギ、第八使徒トリガラ、第十使徒アブラーゲ、第十四使徒サシミ、第十六使徒ジャンバラヤ、第十七使徒ホルモン、第十八使徒ネギトロの七名を拘束。第九使徒ピクルス、第十一使徒フリッター、第十二使徒ターメリック、第十三使徒ソーメン、第十五使徒ガーリックの五名は死亡を確認。今回出現した教団幹部十二名を一人も取り逃すことなく全員無力化できたのは素晴らしいことです。中でも注目すべきは第四使徒プルコギ。これまで幾度と無く煮え湯を飲まされてきた七聖者の一角を捕らえることができたのは、我々にとって大きな躍進となりました。既にフォアグラ大聖堂のゲートキーは押収済み。これでいよいよこちらから敵の本拠地に攻め込むことができます」

「拳凰様、貴方の勝利のお陰です。我々一同感謝しております」

 ビフテキは拳凰に深々と頭を下げる。

「構わねーぜ。俺も強い奴と戦えてよかったしな」

「ま、別に僕が戦っても勝ってた的だけど。ていうか僕の倒した奴、びっくりするほど弱かった的な?」

「所詮下級幹部なぞ、雑魚に毛が生えた程度のもんぜよ。改造によって多少強くなろうが、わしらの相手ではない」

「ですが、その相手の弱さこそ問題といえるかもしれません」

 ザルソバの言葉に、全員がそちらを向く。

「敵の一人が、このような発言をしていました。騙したなポトフめ、今の俺ならば妖精騎士団に勝てるんじゃなかったのか――と」

「つまり今回の部隊は全員捨て駒だった、と?」

「ええ、大規模な王都テロで我々を陽動し、その間に別働隊が何かを遂行する……という作戦だった可能性はあります。ただし現時点では、王都以外の場所で教団によるテロが行われた報告はありません」

「妙な話だな……敵は一体何がしたかったんだ?」

 デスサイズが尋ねる。

「今回の敵の作戦概要はあえて妖精騎士団と戦って倒すことで、自分達の力を誇示するというものでした。それも殆ど下級幹部のみで倒すことができれば、尚更その効果も高まるというものです。しかし結果は我々の圧勝。その作戦は大失敗に終わったわけです」

「懸念とされていた魔法少女狙いに関しても、敵の一人が個人的な思想から魔法少女への攻撃を試みたに留まり、組織全体の方針として魔法少女を狙っている様子は見られなかった」

 ホーレンソーは自身の対戦相手との問答を思い出しながら言った。

「力量を完璧に見誤ったあまりにも稚拙な作戦……これではまるで自滅しに来ているとしか思えません。果たしてあの狡猾なフォアグラが、こんな馬鹿げたことをするでしょうか? きっと何か裏があると、私はそう考えています」

「どうでしょうねえ? 案外、相手は本気で勝てると思ってこの作戦を提案したのかもしれませんよ?」

 反論したのは、カクテルである。

「皆さんは豊臣秀吉という方をご存知ですか?」

「日本の武将だろ? 一年も日本に住んでたからな、そのくらい知ってるさ」

「彼は若い頃こそ偉大な名将でしたが、天下人となってからは失策を繰り返し晩節を汚すこととなりました。私はフォアグラさんもそれと一緒ではないかと踏んでいるんですよ」

「つまりどういうことだよ」

「一騎士でしかなかった頃の彼はとても有能でしたが、教団という組織のトップに立った結果駄目になった。周りをイエスマンばかりで固めたことによる慢心でしょう」

「フォアグラが急にバカになったお陰でバカな作戦をして自滅したと? くだらんぜよ……」

「何にせよ、敵の次の作戦に向けて警戒はせねばならん」

「で、結局いつこっちから攻め込むんだよ? 敵がどんな作戦企んでようがさっさとぶっ倒しちまえばいーだろ」

 話の腰を折ったのは拳凰である。

「それについては本日、この会議が終わり次第すぐにでも決行する予定です」

「おっ、そいつは楽しみだぜ」

「魔法少女バトルはどうするんですか?」

「本日行われる予定でした本戦二日目は、明日に延期となりました。これは致し方ありません」

 あくまで延期は一日だけ。魔法少女達を預かっている以上、これ以上は伸ばせないという判断である。

「さて、まずは敵について知っておく必要がありますね。残る敵は八名。先日捕縛した第四使徒プルコギを除く七聖者六名と、教祖フォアグラ。それに第二十使徒チクワです」

「二十番? 一番弱い奴も残ってるってことか? 戦力外通告ってやつかよ」

「いえ、彼は非戦闘員です。第二十使徒・永遠のチクワ。元は大企業の社長であり、社員全員を洗脳し会社そのものを教団の下部組織にしてしまうというとんでもないことをしでかした男です。その役割は、教団の資金面での援助。彼の存在無くして教団は成り立たないと言われるほどの重要ポストにいる人物であり、非戦闘員故にナンバーは全幹部中最下位ですが上級幹部相応の待遇を受けています」

「どこの世界でも、悪の組織にはパトロンをやってる金持ちが付き物か……」

 デスサイズは過去の仕事を色々と思い出しながら言う。

「さて、七聖者も下から順番に紹介していきましょう。まずは第七使徒・天空のチュロス。反オムスビ教を掲げる活動家でしたが、利害の一致からフォアグラ教に入信。七聖者の中では最下位ですが、その実力は下級幹部を大きく引き離しています。次に第六使徒・闇の芸術家マジパン。彫刻家で殺人鬼。かつて落選したコンクールの受賞者達を、自らの作品を凶器にして殺害して回った異常者です」

「また殺人鬼ですか……」

 幸次郎はすっかり気が滅入ってしまった。

「第五使徒・神槍のレバー。本名レバー・アンタレス、旧王族五家に名を連ねる貴族の嫡子で、先祖はケフェウス王家。ケフェウスの将軍を祖とするホーレンソーとは、過去二度対戦していますが決着はついていません」

「先祖の仕えた王家の末裔がテロリストに堕ちるとは、まったく嘆かわしいことなのだよ」

 ホーレンソーは手で目を覆うような仕草をする。が、すぐにその目つきは鋭くなる。

「奴を二度も取り逃がしたのは私の落ち度だ。今度こそこの手で落とし前をつけたい」

「どうでしょうねえ? 先祖の仕えた王家の末裔でしょう? 未だ敬意が抜けずわざと逃がしてるんじゃありません?」

 茶々を入れたのはカクテルである。

「君の言っていることは尤もだ。疑われても仕方が無い。だからこそ私は騎士生命を賭けて、奴を捕らえると宣言する」

「うむ、ホーレンソー、其方に任せよう」

「ムニエル様」

「カニミソはその手で因縁に決着をつけた。ならば其方もそれに続くのが筋というものじゃろう」

「有り難いお言葉、感謝致します」

 ホーレンソーは深々と頭を下げた。

「さて次は、第三使徒・大将軍カイセンドン。元王国軍中佐であり、先代蟹座の騎士ドリア殺害の主犯。次期妖精騎士筆頭となるほどの優秀な軍人でしたが、部下に対するいじめやパワハラを繰り返していたことが発覚して更迭された経歴を持っています」

「こやつは私がやろう。国民を守る軍人の身でありながらテロリストに寝返った大馬鹿者に、お灸を据えてやらねばならん」

 ビフテキがどっしりと構えて言う。

「第二使徒・至高の天才ポトフ。カクテルと肩を並べる魔法科学の技術者です。教団幹部の多くはこの男によって強化改造を受けており、彼自身もまた全身改造兵器と言われています。しかし実のところ、彼が直接テロに出向いた事例がなく戦闘能力に関する詳細はわかっていません」

 ザルソバが解説を始めると、すぐにカクテルが立ち上がった。

「ここは勿論私の出番でしょう。天才魔法科学者は二人も必要ありません。どちらが本物の天才か思い知らせてさしあげます」

「そして第一使徒・絶対零度のジェラート。大陸北部の小貴族アルゴル家の当主でしたが、領地と領民を全て氷漬けにするという異常な行動の後失踪した男。その後フォアグラ教に入信して第一使徒の地位を得たことはわかっているのですが、彼もまた直接テロに出向いた事例がなく詳細はわかっていません」

「相手が氷なら、炎使いの俺が適任だ」

 名乗りを上げたのは、ハバネロである。

「だがラタトゥイユ、どうしてもと言うならお前に譲ってやっても構わんが……」

「どうして私がやらなければならないのでしょう? 私は王都に残り陛下のお世話をしたいのですが」

 ラタトゥイユは素で疑問に思っている様子で答えた。

「……そうかい、じゃあ俺がやらせてもらう」

「最後に、教祖フォアグラ。先王ラザニア様に取り入り、事実上の摂政として国政を牛耳っていた男。騎士団在籍時から実力は格段に高く、現在はポトフの改造で更に強くなっていると聞きます。複数人の騎士で協力して倒すのが望ましいでしょう」

「ほー、そいつは是非とも戦ってみたいもんだぜ」

「やめとけ。お前如きが勝てる相手じゃねえ」

 やる気を出している拳凰をハンバーグが一蹴。拳凰は舌打ちをして腰を下ろした。

「対フォアグラ用戦力として俺も今回の作戦には参加させてもらう。獅子座の後任者として負けられねえからな」

「これで作戦の参加者は五人ですか。あと一人誰か……」

「ソーセージはいかがですか?」

「おk」

 ザルソバの質問にカクテルが答えると、ソーセージは間髪を入れず返事をした。

「そうですね、潜入工作に長けた彼がいれば何かと役に立つでしょう」

 そこまで決まったところで、ビフテキが咳払いをしてムニエルに一枚の紙を手渡す。

「ではムニエル様、作戦の発表をお願いします」

「うむ。ビフテキ、ソーセージ、ハンバーグ、ハバネロ、ホーレンソー、カクテルの六名は敵のアジトに向かいフォアグラ及び残りの幹部を討伐。最強寺拳凰、穂村幸次郎、デスサイズの三名は王国軍と共にそれを補佐。残りの者は王都にて待機しつつ、もしも再び敵が王都に侵入した場合には迎撃せよ」

「了解!」

 騎士団の面々は、一同に敬礼。

「ではこれにて解散!」

 ムニエルの指示と共に、騎士団の面々は手早く準備に取り掛かる。

 だがそんな中、拳凰は不満そうにしていた。

「ちっ、俺は補佐役かよ」



<キャラクター紹介>

名前:第十五使徒・光刃のガーリック

性別:男

年齢:23

身長:170

髪色:黒

星座:牡牛座

趣味:SNS


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