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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第五章 フォアグラ教団編
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第82話 死神の鎌VS宣教師

 試合が終わった後の王立競技場では、観客達がそこから帰らせて貰えずにいた。この場にいた方が安全だという騎士団の判断である。

「アハハハハ!!」

 そこに響き渡る笑い声。観客達の注目は、ステージへと向く。そこに立っていたのは、一人の道化師であった。

「やあ、魔法少女バトルを見に来たみんな。私は第十六使徒・死の道化師ジャンバラヤ。これから君達を使って虐殺ショーを行うよ」

 器用にジャグリングをしながら堂々と言い放つジャンバラヤ。だがそこに差し込む一筋の光。

「そうはいかない的なー」

 ジャンバラヤの背後に華麗に着地したのは、牡羊座(アリエス)のポタージュである。

「観客の皆さんも、魔法少女バトル観に来たらテロが起こって閉じ込められて途方に暮れてる的でしょ? そこでここは僕がスペシャルエキシビジョンマッチを開催してあげる的な。対戦カードは僕VSこの教団幹部。楽しんでいって的なー」


 一方別の場所では。

「我が名は第十三使徒・不吉のソーメン。この国を滅ぼす者だ!」

 大剣を手にした長髪の男が、街中で叫ぶ。だが周囲の市民は皆避難しているため返事は無い。苛立つソーメンは、近くの建物目掛けて片手で大剣を叩きつけ、壁を粉砕した。

「ちっ、こいつは一体どうなって……」

「2ゲットォー! ズサー!」

 と、そこに奇妙な叫びを上げながらスライディングで現れたのは、双子座(ジェミニ)のソーセージ。

「謝罪と賠償を要求する、と言ってみるテスト」

「テロリストに謝罪を求めるとは、とんだお花畑もいたもんだ」

 獲物の出現に歓喜するように、ソーメンは笑った。


「男は見逃してやる! 女は全員殺させろ!」

 創世の女神オムスビを祀る神殿近くで叫ぶのは、二本の剣を手にした黒装束の男。

「あら、こんな聖地にテロリストが来るのは不釣合いではなくて? 第八使徒・無敵のトリガラさん」

 それと対峙するのは、乙女座(バルゴ)のミルフィーユ。

「女の分際で騎士の座に就くとは……許さん! 殺す!」



 騎士と使徒が次々と戦闘開始する中、敵が王宮内に侵入した可能性を聞かされたザルソバは、指が見えぬほどの速さでキーボードを叩き敵の居場所を検索していた。

「見つけました!」

 それはあっという間に割り出された。敵は妖精王オーデンの私室に向かう途中トラップにかかり足止めされている様子だった。

「誰が行く?」

「ここは私が向かうとしましょう」

 ハンバーグの尋ねに答えたザルソバは少しコンピュータを操作すると、席を立ち魔法陣へと走った。


 シャッターによって廊下に閉じ込められて立ち往生していたのは、フォアグラ教団第十八使徒・暗殺のネギトロである。要人暗殺に特化した技術を持つ教団幹部であったが、頑丈なシャッターに阻まれた今の状況において、彼に成す術は無かった。

 転移の魔法陣から、ザルソバはネギトロの前に姿を現す。この密閉された狭い空間で、二人の男は対峙する。

「教団幹部、暗殺のネギトロですね。妖精王陛下の暗殺を狙っていたようですが、四年前の王族暗殺事件以降、王宮のセキュリティは格段に強化されています。貴方を陛下の所までは行かせませんよ」

 人差し指で眼鏡を上げ、ザルソバは言う。その右手には拳銃が握られていた。

「ちっ、妖精王は仕留められなくとも、騎士の首一つ獲れれば十分な手柄だ!」

 ネギトロはナイフを逆手に構え、交戦の意思を示す。だが次の瞬間、ザルソバの姿が消えた。

 この狭い空間を雷光の如きスピードで縦横無尽に駆け巡り、四方八方から発砲。着弾するより先に別の位置に回り込んでは次の弾を撃つのを繰り返す。全ての弾がほぼ同時に当たり、一面電光が迸った。雷に打たれたかのように黒焦げになったネギトロが、その場に倒れる。シャッターが開くと、兵士達が一斉に雪崩れ込みネギトロを拘束した。

「ミッションコンプリート。これより司令室に戻ります」

 ザルソバは眼鏡を指で上げると、電気を纏った脚で一瞬にして走り去っていった。


 天秤座(ライブラ)のザルソバ。本名、ザルソバ・リゲル。王宮事務員から騎士になった異色の経歴を持つ男。

 リゲル家は幾人も宰相を輩出してきた名門であり、ザルソバはその三男坊として誕生した。物覚えがよく薀蓄好きで他者に何かを解説するのが得意な少年であった。

 元々は親の推薦で王宮に就職したが、事務員としての天性の素質からスピード出世。位が高くなるにつれ重要な機密文書を扱うことも増え、それを守るため銃を携帯するようになった。結果彼は銃の才能に開花。更に文書を狙う敵から逃げ果せるために鍛え上げた脚力に雷の魔法を纏わせ、妖精界最速のスピードを実現した。戦闘力の高さは軍部にも伝わり、冗談交じりに騎士試験を受けてみないかと誘われるほどだった。

 だがザルソバはそれを真に受けた。事務員の身ながら騎士試験参加を表明したのである。軍人達を蹴散らし騎士試験を勝ち進む事務員の姿は、妖精界に衝撃を与えた。

 騎士としての彼はそのスピードもさることながら、何より注目されたのは事務能力であった。武闘派揃いの妖精騎士団において彼の技能は他に替えの利かないものだったのである。彼の存在によって魔法少女バトルの運営は前回までの非ではないほどスムーズに進むこととなった。


天秤座(ライブラ)のザルソバ、只今戻りました」

 雷速ダッシュで司令室に帰還したザルソバは、息一つ乱すことなく席につく。

「戦局はどうなっています?」

「各自、敵と交戦を始めました。ただ一箇所、問題が発生しているようです」

 ショウチューが答える。その目線の先のモニターに映るのは、大きな橋が真ん中から倒壊した様子であった。



 時は数分前に遡る。王都に流れるアクエリア川に架かっていたオリンポス大橋。そこにハバネロが到着した時、既に橋は破壊されていた。その場に倒れている一人の軍人に、ハバネロは駆け寄る。

「おいどうした、ザンギ中佐!?」

「も、申し訳ありません……できる限り時間を稼ぐつもりだったのですが……一秒たりとも持ちませんでした……」

 ザンギは息絶え絶えになりながらも、力を振り絞って話す。彼の両腕と両脚は失われており、体中焼け焦げた跡が見て取れる。

「まずはとにかくお前の手当てが先だ。俺も多少は治癒魔法が使えるんでね。応急処置だけして衛生兵の所に連れてくぞ」

 ハバネロは掌に魔力を集め、ザンギにかざす。

「汚物は消毒だッ!」

 傷口から入った雑菌を消し去りつつ止血。治療を行う間も、ハバネロはこの場の様子を観察していた。

(ザンギ中佐は次期妖精騎士最有力候補とされる実力者だ。それが一秒と持たず倒されるとは……そして頑丈に作られたオリンポス大橋を木っ端微塵にする破壊力と、この爆発痕……どうやら、相当ヤバい奴が来ているようだ)

 応急処置が終わったところで、ハバネロはフェアリーフォンからバイクを召喚。ザンギを肩に担いでバイクに跨ると、エンジンを噴かして走り去った。


 一方、宣教師フリッターと対峙したデスサイズ。

 速攻で倒せとの命令を受けて、一先ずは死角からの狙撃を試みる。スコープの先にはフリッターのこめかみ。相手は洗脳中の軍人に教義を説くのに夢中でこちらには気付いていない。この隙だらけの相手を仕留めることなど、デスサイズにとっては容易いことだ。しっかりと狙いを定め、引き金を引く。が、デスサイズはその寸前に手を止めた。教義を説かれていた軍人が、瞬時にフリッターを庇う体勢に入ったためである。

(ちっ、気付かれたか)

 デスサイズはライフルを下ろす。

「おやおや、私を攻撃する気ですか? そうすれば死ぬのは洗脳兵士達ですよ」

 不気味に目を見開き、フリッターは隠れているデスサイズに語りかける。

「丁度よかった。優秀な洗脳兵士が一人欲しかったところです。貴方も我々の手駒にすると致しましょう」

 複数の洗脳兵士が建物の影から姿を現し、フリッターの周囲を取り囲む。完全防御の陣形を取って、フリッターはデスサイズへと歩み寄った。

「フォアグラ様こそこの世で唯一の神。フォアグラ様こそ常に正しい。さあ、フォアグラ様を信じるのです」

 布教するフリッターの口から、何やら波動のようなものが放たれる。それを浴びたデスサイズの脳内に、フリッターの言葉が響き渡った。

「さあ、これで貴方も我々の仲間だ。共に愚かな異教徒どもを滅ぼそう」

 フリッターはにこやかに微笑み、周りの洗脳兵士が道を開ける。が、それを好機とばかりにデスサイズは銃口をフリッターに向けた。

「な!?」

 すぐさま、洗脳兵士が再び庇う体勢に入る。

(ちっ、なかなか反応が早いな。こいつは骨が折れる仕事になりそうだ)

 フリッター本人は完全に油断していたにも関わらず、洗脳兵士は自発的に庇った。あくまでも洗脳兵士の意思は自律していることが窺える。そしてデスサイズが洗脳兵士に当たるリスクを考え撃つのを躊躇ったせいもあるが、洗脳兵士の幹部を守るという命令遂行能力は侮れない。

「ば、馬鹿な。何故私の洗脳が効かない!?」

「生憎だが俺は神を信じていないのでね」

 洗脳兵士が無言で優秀な動きを見せたのとは対照的に、フリッターはこの状況を全く想定していなかったかのように醜く焦っていた。


「彼を向かわせて正解でしたね」

 司令室でデスサイズの様子を見ていたザルソバは、そう発言する。

 妖精界の民は基本的に皆オムスビ教を信じている。フリッターの洗脳魔法はその信仰心に付け込み、信仰の対象をフォアグラに上書きしているのである。だがデスサイズは宗教が原因の争いを幾度となく見てきたが故に、無宗教を信念としていた。そのため洗脳魔法が一切通じなかったのだ。


「ならばもういい! 殺せ!」

 慌ててフリッターが命令を変更すると、洗脳兵士達は銃を抜き発砲してきた。デスサイズはすぐさま壁の裏に回り込んでそれを防ぐ。

(いよいよ本気か……指揮官はともかく、あの兵士達の練度の高さは厄介だな。それもこちらからは攻撃できないときた)

 洗脳兵士を皆殺しにするならば簡単なことだが、今回のミッションでそれは許されない。今はただチャンスが来るまで逃げ回るしかない。敵はフリッターの側から離れない銃部隊が連射で逃げ道を塞ぎつつ、近接部隊がこちらを追ってくる。それに対してデスサイズは壁を登ったり屋根を走ったり、市街地の地形を活かして立体的に立ち回る。そしてその間もフリッターの方に注意を向けることは欠かさず、狙撃できるチャンスを常に窺っていた。

(奴らも哀れなものだ。意思を奪われ、ただ命令を遂行するだけの人形にさせられている……)

 逃げ回りながらも、デスサイズの脳裏にそんな考えが過ぎる。フォアグラについていけばこの国はよくなると信じていた者も、その者達に拉致された者も、皆一律で洗脳兵士にされてしまった。

 お国のため、信じる神のため、望まぬ戦いに身を投じる。そんな者達とは沢山会ってきたし、沢山殺してきた。そして少年兵時代の自分自身もまた、そういう者であった。

「えーい鬱陶しい! こうなれば奥の手だ!」

 同じ箇所をぐるぐると逃げ続けるデスサイズに痺れを切らし、フリッターは頭に血が上っていた。

「洗脳兵士には爆弾が仕掛けられている! これ以上逃げればこいつらを自爆させるぞ!」

 脅しをかけても、デスサイズは動じない。

「それが貴様の答えか。ならば望み通りこいつらを死なせてやる!」

 フリッターは両手を上げて天を仰ぐ。それまで戦闘行動をとっていた洗脳兵士達の動きが止まった。

「ははははは! 全部お前のせいだぞーっ!」

 静まり返った市街地に響き渡る高笑い。ただその声だけが木霊する。

「あ、あれ?」

 洗脳兵士達は自爆しないばかりか静止したままピクリとも動かない。そしてその隙を見逃さず、屋根の上から飛び降りたデスサイズが落下しながらフリッターの脳天にハンドガンの銃口を突きつけた。決して洗脳兵士が庇えぬ零距離で、即座に発砲。弾はフリッターの頭を貫き、その命を刈り取った。

 何が何だかわからぬまま死んだフリッター。彼は王都のテロ対策システムについて知らなかった。過去に地方で行われた自爆テロを魔法によって解析し、王都内で洗脳兵士爆弾が作動しないよう全域に魔導結界を張っていたのである。

 デスサイズは銃をホルスターに収めると、すぐ司令室に報告。

「こちらデスサイズ。敵幹部は撃破した。洗脳兵士は固まったまま動かない」

 とりあえず一番近くにいる一人の脈を確認する。

「脈はある。とりあえず生きているようだ」

「問題ありません。彼らは眠っているだけです。暫くすれば目を覚ますでしょう。それよりもいち早く病院に連れて行き治療が必要です。ショウチュー大佐、指示を」

「全軍に告ぐ。洗脳が解けた市民を至急回収し、病院に搬送せよ」

 大佐の指示を受けた兵士達はすぐに行動を開始。デスサイズも一安心し、壁にもたれかかった。


 洗脳兵士の洗脳が解かれたのは、フリッター周辺だけではなかった。王都襲撃に使われた洗脳兵士は全てフリッターの魔法によって洗脳されたものであり、術者が死んだことで一斉に魔法が解除されたのである。

「くそっ、動け! 動け! 何やってんだフリッターの奴!」

 自動ガードに頼りきっていたホルモンは、その恩恵を受けられなくなって焦る。

「こ、こうなったら……」

 洗脳が解けた市民の服を鉤爪で引っ掛けて盾にしようとするも、拳凰はすかさず拳で鉤爪を砕く。

「なっ!?」

 ホルモンの魔法は金属の硬度を強化するというもの。その効果を受けた鋼鉄の鉤爪が素手に砕かれるとは信じ難いことであった。

「こいつらさえいなければもうこっちのもんだぜ!」

 驚いたホルモンの間抜け面に、拳凰の鉄拳が呻りを上げる。顔面を凹ます一撃で吹っ飛ばされ、後ろの壁に頭から突っ込んだ。

「はっ、手下ども無しじゃてんで大したことねーな」

 拳凰は振り返り、ハンペンの方を見る。後ろではハンペンの部下の兵士達が、一人ずつ丁寧に市民達を運んでいた。

「おう、ナントカ大佐だっけ? こっちは片付いたぜ」

「あ、ハンペン大尉です。流石お強いですね」

「俺も手伝おうか? どこに運びゃいい?」

 と、拳凰が言ったところだった。拳凰の背後で爆音が鳴り、強い風が背中に打ちつける。振り返ると、道の向こうで煙が上がっていた。

「わりーな、ちょっくら行ってくる」

 次なる戦いを求め、拳凰は煙に向かって駆け出した。


 向かった先には、瓦礫の上に一人の男が立っていた。勿論こんなテロの最中に堂々と一人で街中にいる男が、ただの市民であるわけがない。

 褐色の肌に黒いレザーの服を着たその男の何よりの特徴は、大きな黒いアフロヘアーである。しかも頭頂部だけちょんまげのように結っており、その先端の毛だけ赤く染まっている。その髪型は、さながら導火線に火の点いた球形爆弾を頭に被っているかのようだった。

 だがそのふざけているようにしか見えない容姿とは裏腹に、この場には不思議と緊張感が漂っていた。粉々にされた建物と、焼け焦げた痕跡。まるで見た目通り爆弾でも使ったかのような様子だ。

「てめー、何もんだ?」

 拳凰が尋ねると、男は右手の指を四本立てて見せる。

「第四使徒、殺戮爆殺拳のプルコギ」

 拳凰の方を見もせずに、男は答える。それを聞いた途端、拳凰は全身の毛が逆立ったような気がした。額を汗が伝い、武者震いする。

「ナンバー4……上級幹部かよ。上等じゃねーの」



<キャラクター紹介>

名前:ショウチュー

性別:男

年齢:48

身長:178

髪色:銀

星座:牡牛座

階級:大佐

趣味:テレビ観賞


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