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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第四章 本戦編Ⅰ
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第74話 チーム・桜吹雪

「それでは今回の対戦ルールを決めましょう」

 ザルソバは空高くサイコロを放り投げた。落ちたサイコロが示す目は、第一試合と同じく三。

「今回の対戦形式も、二点先取となりました。両チームは、ベンチにて先鋒の選手を選んで下さい」

 ベンチに行ったショート同盟の面々は、早速作戦会議を始める。

「で、誰が行く? とりあえずあたしは姉ちゃんと戦いたい!」

「小梅ちゃんのお姉さん、すっごく強かったけど大丈夫?」

「うん、それでもあたしは姉ちゃんと勝負したいんだ」

「でもどうするの? 対戦相手を指定することはできないと思うけど……」

 小梅は相手チームのベンチを見る。

「姉ちゃん! あたし大将戦に出るから! 姉ちゃんも大将戦に出てよ!」

 大声で叫び、歳三にアピール。そしてどや顔で花梨達の方を振り返った。

「どう? これで姉ちゃんと戦えるよ!」


 一方、桜吹雪側のベンチでは。

「ああ言ってるけど、どうすんだべか?」

「関係無いわ。私はあくまでも勝つためのオーダーを組むだけよ」

 歳三は小梅に背を向け、冷たく突き放した。実里はその様子を見ておろおろとする。


 ショート同盟側では、結局先鋒をジャンケンで決めることになっていた。参加者は大将を予約した小梅を除く三人である。

「せーの、ジャン、ケン、ポン」

 花梨がグー、残りの二人がチョキである。

「あ、私の勝ち。じゃあ先鋒戦は私が出るね」

「うん、頑張ってー」

 花梨がステージに上がると、相手側も一人が上がってくる。

 魔法少女のコスチュームとしてはあまりにシンプルな黄緑色の全身タイツを着て、右手にはカメレオンの頭部を模した篭手を装備した魔法少女。チーム・桜吹雪の先鋒は、駿河透子であった。

「チーム・桜吹雪、駿河透子! チーム・ショート同盟、白藤花梨!」

 向かい合う二人。透子の身長は一三五センチ。花梨はおろか朝香よりも低いが、こう見えて高校一年生。なお胸は身長から想像するイメージほど小さくはなく、歳相応にはある。

「行けーっ! チビ助ー!」

 観客席から拳凰の声が響いた。花梨は一度拳凰を見て頷いた後、再び透子の方を見る。

「それでは、試合開始!」

 開始の合図直後、透子の姿が消えた。

「出ましたね、駿河選手の透明化魔法」

「彼女は最終予選を一度もバトルすることなく、ひたすら隠れ続けて突破しています」

 タコワサの実況に合わせてザルソバは瞬時に実況席に戻り解説を行う。

 透子の姿は完全に透明となり、誰一人視認することはできない。花梨がどう対処していいか戸惑う中、透子は早速攻撃を仕掛けた。

 右の脇腹に、何かで叩かれたような衝撃。花梨は吹っ飛び、HPが削られる。

(見えない攻撃……一体どうしたら!?)

 花梨はふと、二次予選で珠子と対戦した時のことを思い出した。紙幣を顔に貼り付けられて視界を塞がれた時に自分がとった行動。花梨はそれに倣い、生成させた聴診器を床に当てて足音を聞こうとした。

 だが無音。相手の足音はおろか、相手が発している音が何一つ聞こえない。まるでこのステージ上には自分一人しかいないかのようだ。姿と共に音まで消せる、まさしく究極の隠れ魔法。

 無防備に床の音を聞いている花梨の背中に、またしても透子の攻撃が振り下ろされた。またしても削られるHP。このまま相手を見つけられず一方的に攻撃され続けるわけにはいかない。

 こちらに攻撃が当たる以上、相手は姿と音を消しているだけで物理的に体がすり抜けるわけではない。攻撃された瞬間に武器を掴めば、どうにか相手を捕捉することができるかもしれない。

 花梨は包帯のロールを生成すると、それを頭上に掲げた。包帯は新体操のリボンのように螺旋を描き、花梨の周囲を舞う。薄い包帯だが、これが花梨の身を守る防壁となる。

 その時、包帯の隙間を狙って一撃が放たれた。だが隙間を通すことは叶わず、その一撃は包帯に阻まれる。それと同時に、包帯が相手の武器に絡みついた。

(かかった!)

 花梨はすかさず包帯で一気に武器を縛り上げ逃がさぬよう固定。更に包帯を先端から伸ばし、武器を伝って相手の方へと向かわせた。やがて包帯は相手の腕に絡みつき、位置を完全に特定。花梨はそこを目掛けて注射器を投げた。

「ふぎゃっ!?」

 刺さった衝撃で透明化が解け、透子は姿を現す。武器の正体は、右手に付いたカメレオンの口から発射される舌を鞭にしたものだった。

「うっ、ぐぐぐぐぐ……」

 透子のパワーでは花梨の操る包帯を振り解けず。掴んで引っ張るも離れない。花梨は自分の背丈よりも大きな注射器を生成し、透子目掛けて発射した。

「こ、こんなところで負けてたまるかー!」

 透子は自分に気合を入れ姿を消す。透子を捉えた包帯が右に動いた。飛来する注射器を気合で躱したのだ。だが包帯で掴んでいる以上、花梨は透子の位置を捕捉できている。注射器は空中で旋回し、再び透子へと向かう。

「あっ、あれは!?」

 魔法少女用の観戦席から見るチーム・ウルトラセクシーの黄金珠子が声を上げた。自分が尻に注射器を刺されて敗北した屈辱的なシチュエーションと似た状況に、思わず口が開いたのだ。

 あわや透子も尻に注射器を刺されるのかという所で、またしてもかろうじて避ける。やはり姿が見えなくては花梨もなかなか狙いが定まらない。

 だが透子が防戦一方であり花梨有利の状況に変わりはない。透子はこの状況を変えるべく、一つの行動に出た。

 花梨に向かって走り出す透子。その様子は伸ばした包帯がたるむことで花梨にも判った。だが見えない相手にすぐ対応することはできず、透子の方が一手速かった。

 透子の取った手段は足払い。見えないのをいいことに、スライディングで脛を蹴って花梨を転ばせる。

 ショート同盟の面々が息を呑む。だが、透子の一撃は誤りだった。花梨の倒れ込んだ方向が、丁度透子の真上だったのである。重なるように倒れた花梨は初め何が起こったのかわからなかったが、やがて自分の下に透子がいることに気付いた。

 だが花梨の体重程度ならそれより軽い透子でも抜け出すのは難しいことではない。もがく透子を、花梨は必死で押さえつける。

「えいっ!」

 逃げられる前にどうにか一撃加えようと、花梨は通常サイズの注射器を手にして透子に思いっきり突き刺した。

「ふぎゃん!」

 悲鳴と共に透子が姿を現す。丁度体を反転させたタイミングで注射器が振り下ろされたため、刺さった位置は奇遇にも珠子の時と同じくお尻であった。

「あっ……ごめんなさい」

 これにはつい花梨も謝ってしまう。その隙に逃げ出そうとする透子だったが、花梨は空中に待機させておいた巨大注射器をすかさず落下させる。カメレオンの如く這って逃げる透子の背中に、太い注射針が突き刺さった。

「ぎょえっ!」

 透子の変身は解除され、バリアに包まれた状態で地に這いつくばった。

「勝者、白藤花梨!」

「やったなチビ助!」

 観客席から拳凰が叫ぶ。花梨は小さく手を振った。

「よかったですね最強寺さん」

 隣で幸次郎がそう言うと、拳凰は急に照れくさくなった。

「ハッ、あの程度の相手、勝てて当然だろ」

 拳凰が誤魔化すように言うと、幸次郎とデスサイズは目を見合わせた。


 花梨がベンチに戻ると、仲間達が勝利を称えに出迎えた。

「やったな花梨!」

「素晴らしい勝利でした」

「花梨なら勝てるって信じてたよ!」

「えへへ……ありがとう」

 勝利の喜びを分かち合うショート同盟の面々。一方で桜吹雪のベンチでは。

「ごめーん負けちゃったよー」

 目に涙を浮かべて戻ってきた透子を、歳三は拍手で出迎える。

「いい勝負だったわ。後は私達に任せて」

「てことは悠木さんが中堅戦に……」

 ひよのは歳三が姉妹対決を避けたがっているのではと、一瞬思った。

「山野さん、中堅戦はお願いするわ。相手側のどちらが来ても、貴方の実力なら負けるはずがないと信じてる」

 だがその予想と反し、歳三は実里に中堅戦を譲った。実里はガッツポーズをしやる気に満ちた表情。

「んだ、任せてけろ」

「大将戦には私が出るわ。これが確実に勝ちに行くオーダーよ」

 四人は顔を見合わせて頷く。

「山野さん、頑張って」

「私の分まで勝って!」

「んだ!」

 山野実里は鍬を肩に担ぎ、鼻息荒くステージに上がる。彼女の衣装は麦わら帽子にもんぺ姿の農村スタイル。先程の透子は魔法少女としてはシンプルすぎる衣装だったが、こちらは魔法少女としては野暮ったすぎる衣装だ。

 対するショート同盟側は、蓮華にジャンケンで勝利した夏樹がステージに上がった。彼女の衣装は華やかなセクシーマジシャン風。元々美脚でスタイルの良い彼女には黒のレオタードと網タイツがとても映える。

「夏樹ー! 頑張れー!」

 ベンチの小梅は、ここで夏樹が勝てば姉と戦えなくなることも構わず声援を送る。

「チーム・桜吹雪、山野実里! チーム・ショート同盟、二宮夏樹!」

「どーもどーも、ボク二宮夏樹。宜しくー」

「おらは山野実里だべ。宜しくお願いしますだ」

 挨拶が終わったところで、ザルソバは手を上げる。

「それでは……試合開始!」

 最初に仕掛けたのは夏樹である。シルクハットを取ると、その中から大量のトランプが飛び出した。

「見せてあげるよ、ボクのマジック!」

 夏樹は宙を舞うトランプの中から三つ選んで手に取り、絵柄を相手に見せる。ハート、スペード、ダイヤの三である。

「スリーカード!」

 三枚のカードは発光し、夏樹の手を離れ実里に飛んでゆく。

「うららーっ!」

 一方の実里は、突如鍬でステージを耕し始めた。固い岩盤のステージが、まるで柔らかい土のように耕されてゆく。そしてそこから、太い蔦が何本も出現しトランプを叩き落した。

「相手が植物ならこれだ! フォーカード!」

 ハート、スペード、ダイヤ、クラブの四を揃えて投げると、それが炎を纏って蔦へと突撃。暴れる蔦を燃やしてゆく。トランプ一枚一枚のパワーでは束になっても巨大な蔦には叶わないが、ポーカーの役を作ることで発生する能力を使えば、強大な相手にも対抗できるのだ。

 だが実里は燃える蔦に隠れて夏樹の左側に回り込む。そして再び床を耕し、次の蔦を出現させた。

「おらが村は年々人が減ってってるだ。んだばこの大会で優勝して村おこしするだ」

 横から蔦で薙ぎ払われ、夏樹は吹っ飛ぶ。ステージから落ちそうになるが、ステージの形に沿って張られた見えない結界にぶつかり落ちることはなかった。

「うっ、ぐぐぐ……なるほど、そういう事情が……でもボクだって負けないよ! ストレート!」

 夏樹はまた中に舞うトランプの中から何枚か掴む。四から八のカードを一枚ずつ、実里へと向ける。カードは一直線に進むビームへと変化し、実里へと当たった。吹き飛んだ実里は鍬を床に打ち付けてブレーキにしつつ、後ろに下がると同時に床を耕した。

 再び現れた蔦が、夏樹へと襲い掛かる。夏樹は攻撃の手を緩めぬべく更にシルクハットから沢山のトランプを出現させた。どんな攻撃が来ようと、これだけのトランプがあれば負けない。そんな自信があった。

 だが今度放った蔦は、鞭のようにぶつけて使うためのものではない。先程まで使っていたものよりも細い蔦が何本も伸び、夏樹の足下に向かう。伸びる蔦は夏樹の脚に絡みつき、体を持ち上げた。やがて蔦は全身に纏わり付き、締め上げる。

「こ、これはなんか色っぽい感じになっちゃうやつ~~!!」

 締められながら照れ焦りする夏樹。固定が甘くどうにか動く右手でカードを一枚手に取り、縁を刃のようにして蔦を切ろうとする。蔦の強度はそれほどでもなく、トランプでも十分切れる程度だ。鋸のようにカードを前後させて蔦に切れ込みを入れてゆくが、締める力はより強くなる。

 やがておどける余裕も無くなってきた辺りで、変身は解けバリアに包まれて落下した。

「勝者、山野実里!」

「勝ったべー!」

 実里は鍬を高く掲げ、勝利を喜ぶ。


 観戦していた梓は、今後の対戦に役立てるため試合の内容をノートに記録していた。

「あの山野実里という選手、要注意ね。拘束系は厄介よ」

(ヤバ……あたしがあれと当たったら勝てそうにないかも……)

 憲子戦での敗北が尾を引く智恵理は、ついネガティブなことを考えてしまう。

「そしてそれ以上に危険なのが、大将の彼女ね……」

 梓は再びステージに目を向ける。既に両チームとも大将の選手は決まっているため、早々に二人がステージに上がった。

「チーム・桜吹雪、悠木歳三!」

 桜模様の華やかな着物を身に纏い、腰まである桜色のロングヘアを靡かせて歳三が入場。扇を手に、凛とした佇まいで相手の姿をまっすぐに見据える。

 彼女は梓が最も警戒する魔法少女の一人。アプリのデータに記された魔法は、桜吹雪による広範囲攻撃と魔力無力化。片方だけでも十分強力な魔法を兼ね備えた、恐るべき実力者である。同じブロックで優勝の座を争う相手である故、ここでしっかりと対策を取らねばならない。梓の観戦する目にも自然と気合が篭った。

「チーム・ショート同盟、悠木小梅!」

 そして対するは、日に焼けた肌にボーイッシュな薄紅色の短髪の少女。レーシングカーの意匠を持たせたメカニカルなピンクのレオタードを身に纏い、やる気に満ちた表情で相手を見る。

 白い肌をあまり見せず清楚でお淑やかな雰囲気を漂わせる姉とは対照的に、競泳水着のように露出度高めの衣装で惜しげもなく素肌を晒す妹は元気で活発な印象を与える。何もかも正反対の姉妹が、一つのステージで向かい立つ。

「いよいよだな、姉ちゃん」

 嬉しそうに歯を見せて笑う小梅に対し、歳三は何も言わない。

「それでは参りましょう。試合……開始!」



<キャラクター紹介>

名前:駿河(するが)透子(とうこ)

性別:女

学年:高一

身長:135

3サイズ:72-49-75(Cカップ)

髪色:黒

髪色(変身後):黄緑

星座:射手座

衣装:黄緑色の全身タイツ

武器:カメレオンの頭部を模った篭手

魔法:姿と音を消せる

趣味:爬虫類の観察


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