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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第四章 本戦編Ⅰ
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第71話 アザトース様ご降臨

 一回戦第一試合中堅戦。出場する二人の選手が、ステージに上がる。

「チーム・ヴァンパイアロード、三日月梓! チーム・ラブリープリンセス、菅由奈!」

 梓の対戦相手は、ギャルメイクにピンクゴールドの髪と小悪魔風の衣装の派手な魔法少女である。

「宜しくお願いします」

「おじぎしてるよコイツ。ウケるー」

 相手と向かい合い、梓は一礼。対して由奈はそれを小馬鹿にして返した。失礼な態度をとられても、梓は眉一つ動かさない。

「梓ちゃん、頑張れー!」

 麗羅が声援を送る。

「さてさて、ここで菅選手が勝てば大将戦を待たずしてラブリープリンセスが勝利となります。しかしヴァンパイアロードも実力者揃いの超強豪です。ここからそう易々と負けさせてはくれないでしょうね」

 実況席でタコワサが言った。

「さて、試合の準備が整ったようです」

 ステージ脇に立つザルソバは、右手を上げる。

「それでは……試合開始!」

 突如、由奈の体が宙に浮いた。背中に付いた小さな悪魔の羽は明らかに人間を持ち上げられるサイズではないが、それを羽ばたかせて余裕で飛んでいる。これが彼女の魔法の力である。

「そんじゃサクっとやっつけちゃうしー」

 由奈が手にしているのは三叉の槍。武器まで実に悪魔チックである。

 槍の先を向けて、空中から襲い掛かる由奈。梓は冷静に弓を引き迎撃体勢。放たれた矢は空中で錐揉み回転する由奈に弾かれた。突き出された槍を、梓は軽やかに避ける。

「お前如き倒すのは余裕だし!」

 次の由奈の攻撃は旋回して後ろに回り込み、背中に槍を突き立てる。梓は弓の弦を槍に引っ掛けると、そのまま引っ張って半回転し投げ飛ばした。

「出ましたね、近接弓術。弓使いは接近すれば簡単に勝てるという先入観を利用した、この地方伝来の弓術です」

 ザルソバが解説を入れる。

 由奈はすぐに空中でバランスを立て直すと、垂直に上昇。空中で槍を構え、投げる。矢と槍がすれ違い、お互いに避ける。由奈が再び槍を生成する間に、梓は次の矢を放った。だがそれは由奈を外れて、空高く飛んでいく。

「どこ狙ってるし」

 由奈がそう言った途端、空に向けて放たれた矢が大きな魔法陣に変化。空中に設置した魔法陣から、大量の光の矢が雨の如く降り注ぐ。梓の得意技で地上に叩き落すつもりだ。

 だがその光の矢は、由奈本体に当たることなく弾かれてゆく。由奈は三本の槍を頭上で回転させて傘にしたのである。右手と左手、そして悪魔の尻尾の先端で槍を持ち、三本の槍を器用に回している。

「じゃじゃーん、これがうちの三槍流だし!」

 矢の雨が止んだところで、由奈は再び急降下。

「喰らうし! トリプルトライデント!」

 三叉の槍が三本、総勢九本の槍先が梓に迫る。間一髪で避ける梓だったが、尻尾で持った槍が左腕を掠める。梓は光の矢を生成し弓に番えるが、槍で両手の甲を同時に突かれ弓と矢を手放した。

「もう近接弓術は使わせないし!」

 更に今度は本体狙い。梓はすぐに弓を再生成し、横に飛び退いて躱す。

 尻尾を手のように操り、羽で空中を自在に舞う。由奈のアクロバットな戦い方に翻弄される魔法少女は多い。梓も平静を装っていたが、不可思議な動きをする相手への対応策には迷っていた。

「梓お姉ちゃん、大丈夫かな……」

 ベンチでは朝香が手に汗を握り不安そうな声を出す。智恵理はそれを聞いてはっとした。

(そうだ、親友のピンチなんだ。落ち込んでる場合じゃない!)

 智恵理は立ち上がり、大きな声を上げる。

「梓ーーーー!! 頑張れーーーー!! そんな虫歯菌に負けるなーーーー!!!」

 喝を入れられた梓は一瞬ビクリとするものの、すぐ表情が精悍になる。

「ありがとう智恵理」

「ちょっ、誰が虫歯菌だし!」

 防戦一方の状況を変えるべく、梓は床に向けて光の矢を撃つ。何が狙いか由奈には一瞬理解できなかったが、直後梓はその勢いで空へ飛び上がった。

「うちに空中戦を挑むとはいい度胸だし!」

 由奈も空へと梓を追う。梓を追い抜いてより高い位置に着くと、後は落ちるだけの梓に槍を向ける。

 梓は由奈目掛けて矢を射るが、それは外れて空高くに魔法陣を作り出す。それを呼んでいた由奈はいつでも槍を回して防御できるよう構えた。

「二度も同じ手は通用しないし!」

 だがその時、床に大きな魔法陣が展開された。元となったのは、飛び上がる際に床に放った光の矢。それをあえて消さず床に刺さったまま残しておいたのである。

 床の魔法陣から、大量の光の矢が発射され上空の魔法陣へと吸い込まれてゆく。それはまるで逆に降る雨。大量の矢に突き上げられた由奈は、更に空高く飛ばされる。

 梓は実体の矢を生成すると指でペン回しの如く回転させ、慣性を保ったまますぐに射る。一番高い位置でドンピシャ。矢は由奈の腹部に当たった。その一撃がとどめとなり、由奈は空中で変身が解除された。バリアに包まれて落下するが、バリアが衝撃を吸収し身体へのダメージは無い。

「勝者、三日月梓!」

 ザルソバが勝者の名を告げると、観客席から大歓声が巻き起こった。

「は? うち負けたのかし!?」

 梓がステージから降りると、由奈のバリアが消える。

「やったね梓!」

 ベンチに戻ってきた梓に、智恵理が抱きついた。

「ありがとう勝ってくれてー」

「智恵理の応援のお陰よ」

 抱き合う二人に、朝香と麗羅も駆け寄る。

「梓お姉ちゃん凄い!」

「凄くいい試合だったね」

 和気藹々と勝利を喜ぶヴァンパイアロード陣営に対し、ラブリープリンセス陣営は。

「やっぱ由奈ちゃんは駄目ねー。何度も戦ったよしみでチームに入れてあげたのに、結局役に立たないし。まあ由奈ちゃんが負けてくれたお陰でリーダーのらぶり姫に出番が回ってきたことだけは感謝してあげるけどー。あっ、由奈ちゃんどんまーい」

 らぶり姫は由奈がステージにいる間は悪口三昧で、こちらに戻ってきたら猫を被って愛想を良くする。

「てめー今うちの悪口言ってたろ。聞こえてるからし」

「えー、何のことー? らぶり姫わかんなーい」

 すっとぼけるらぶり姫を、由奈は青筋を立てて睨む。

(このチーム辞めたい……)

 芽衣は雰囲気の悪さが辛く、そんなことを思った。その横で憲子が、目の前の喧嘩には無関心でスマートフォンをいじっている。

「じゃあ、最後はらぶり姫が勝ってくるねー」

 由奈との喧嘩が面倒くさくなったらぶり姫は、途中で切り上げてステージに向かう。

「いよいよらぶり姫のためのステージが始まっちゃうよー」

 大活躍する自分の姿を妄想し、にやつきながらステージへと上がる。らぶり姫の衣装は、さながら御伽噺のプリンセス。まさしく自分がこの世界の主人公であるとアピールしているかのようだった。

(さあ、来なさい。らぶり姫への大歓声!)

 こちらがステージに上がったのを見て、相手側の選手も上がってきた。途端に湧き上がる、耳を突き破りそうな大歓声。

「え? な、何?」

 自分の時とは比較にならない歓声の多さに困惑するらぶり姫を他所に、対戦相手は観客席に向けて大きく手を振る。

「お聞き下さいこの大歓声。前回大会でも活躍した彼女が、再びこのステージに舞い戻ってきました。二大会連続出場、小鳥遊麗羅の登場です!」

 更に盛り上がる会場。

「前回大会では惜しくも本戦で敗退となりましたが、その後奇しくも日本に引っ越したことで今大会の出場権を獲得。更に前回大会で願う予定だったアイドルになりたいという夢を自力で叶え、現在高橋麗子の芸名でアイドルとして活動しております」

「ア、アイドル!?」

 よくよく見ればテレビで度々見る顔。らぶり姫と対峙するのは、本物のアイドルである。

(ふざけんな! もう夢叶えたんならこんなのに出場すんじゃねーよ!)

 至極尤もなことを思いながら、らぶり姫は心の中で悪態を吐く。

 ちなみに彼女はアイドルのオーディションを受けて落選したことがある。それだけに本物のアイドルへの対抗心は強かった。

「それでは選手紹介と参りましょう。チーム・ヴァンパイアロード、小鳥遊麗羅!」

 ザルソバが改めて名前を呼び上げると、またしても歓声が沸き上がった。

(さっき紹介したんだからもういいだろ!)

 麗羅への歓声が飛ぶ度、らぶり姫は心の中でキレる。

「チーム・ラブリープリンセス、田中らぶり姫!」

「はぁーい」

 名前を呼ばれた途端、らぶり姫は満点の笑顔を観客に向けた。麗羅の時よりは小さいが歓声が上がる。露骨に人気の差を見せ付けられているような状況に、らぶり姫の笑顔が引き攣った。

「それでは……試合開始!」

 開始の合図と同時に、らぶり姫は両手を空に向かって上げる。

(ムカつくムカつくムカつく! あんな奴ボッコボコのギッタンギッタンにしてやる!)

 らぶり姫の頭上に、何やら禍々しいオーラの塊が生成される。

「おいでませ! あざとさの神アザトース様!」

 オーラの塊に、ぎょろりとした一つ目と無数の牙が並んだ大きな口が現れる。この不気味な召喚獣に、見る者は皆圧倒された。

 だが麗羅は、警戒しつつも気圧されることなく冷静に相手を見る。

「……ふーん、じゃあ私の使い魔もお見せしようかしら」

 麗羅は両手でマントを大きく広げる。そしてそこから、沢山のコウモリが姿を現した。そしてそのまま、らぶり姫へと突撃してゆく。

「いやーん、アザトース様守ってー」

 攻撃を受けようとしているらぶり姫は、何を思ったか急にぶりっ子ポーズを取りながら体をクネクネさせた。

 この戦闘中に一体何をやっているのか。否、これが彼女の戦闘行動。

 アザトース様が咆哮を上げる。そして口から、強烈なビームを発射した。

 一撃の下に焼き払われるコウモリ達。貧弱なコウモリでは盾にもならず、貫通して向かってきたビームを麗羅は跳んで避ける。

(なんて威力……あんなでもここまで勝ち上がってきただけのことはある、か)

 しなやかに着地し、アザトース様を見上げる。この凶悪極まりない面構え。お姫様のようならぶり姫と並んだ姿のギャップは大きい。

「いやー恐ろしいですねあざとさの神アザトース様。私も長年魔法少女バトルを見てきましたが、あそこまで禍々しい召喚獣はなかなかいませんよ」

「恐ろしいのは見た目だけではありません。あれは本体があざとい言動をする度強くなるという恐ろしい怪物です」

「ふえーん、あの人怖いよぉ、アザトース様やっつけてー」

 ザルソバの解説通りらぶり姫がやたらと媚びるような口調で指示を出すと、アザトース様は体が少し大きくなる。そして咆哮を上げながら再びビーム発射の準備に入った。麗羅はまたマントからコウモリを召喚する。

「えいっ、やっちゃえ!」

 発射されるビーム。その一撃は見事麗羅のいた位置で爆発した。

「やったー! もうらぶり姫ったら強すぎー。てへぺろ」

 だが、砂煙が晴れるとそこに麗羅はいない。一瞬で身体を無数のコウモリに変化させ移動したのだ。麗羅の居場所は上空。マントが大きなコウモリの翼に変化しており、それで飛行している。

「あいつ、空も飛べるのかし!?」

 驚いたのはベンチで観ていた由奈である。自分の魔法が翼で飛べるだけなのに対し、麗羅はコウモリを操る魔法の派生として翼で飛ぶ魔法が使える。言わば自分の魔法の上位互換に近いものであり、不公平だと言わざるを得ない事態だった。

 空中にいる麗羅は、いちいちぶりっ子するらぶり姫とそれによって巨大化してゆくアザトース様を観察する。

(あざといほど強くなる召喚獣ね……だったら試してみようかな)

 次のビームの発射体勢に入ったアザトース様を見ながら、麗羅はとある行動に出た。

「みんなー、来てくれてありがとー!! 今日は私の歌、心行くまで聴いていってねー!」

 彼女が一体何を言っているのかわからず、困惑するらぶり姫。そして麗羅は、先程の宣言通り歌い始めた。曲はチーム名の由来にもなった、高橋麗子のヒット曲「ヴァンパイアロード」である。

 宙を舞いビームを次々と躱しながら、麗羅はマイクも無しに一番後ろの観客席まで届く歌声を響かせる。自身の魔法を存分に活かした空中ライブである。

 歌いながらでも戦える余裕を見せ付けられて、らぶり姫はご立腹であった。

「くそっ、何なんだあいつ……じゃなかった。もー、なんなのあの人ー、プンプンだぞ」

 らぶり姫を完全に蚊帳の外にして盛り上がる会場。チーム・ヴァンパイアロード側のベンチでは朝香が傘をサイリウム代わりにブンブン振っていた。

 更に、いつの間にかコウモリがらぶり姫の周りに集まっていた。集団で噛み付き、近接攻撃の手段が無いらぶり姫のHPを奪ってゆく。

「は、離れろよキモいー! ア、アザトース様、さっさとやっつけちゃって下さい~!」

 そう言ってアザトース様を見上げると、歌のリズムに合わせてアザトース様が体を揺らしていた。

「ノッてんじゃねーよ!!」

 思わず変顔を晒してツッコみを入れるらぶり姫。上空の麗羅はその隙を見逃さなかった。沢山のコウモリを右手に集め、漆黒の鞭へと変化させる。鞭は一振りで長く伸び、その一撃でアザトース様を真っ二つに。そしてその下にいたらぶり姫をも叩き潰した。

「ぐげーーーーっ!!」

 可愛くない悲鳴と共に変身解除。ただの一撃も麗羅に与えることなく完敗であった。

「勝者、小鳥遊麗羅!」

 すぐさま、ザルソバが勝者の名を叫ぶ。

「みんなー、応援ありがとー!」

 麗羅は観客席へと手を振る。ベンチの朝香は麗羅の生歌に感涙するほどであった。

 ベンチに戻ってきた麗羅を、三人の仲間が出迎える。

「麗子ちゃん凄いです最高です感動しました!」

 早口になる朝香の手を、麗羅は笑顔で握る。

「どうもどうもー」

「ほんと凄かったよー。あんな強そうなのに圧勝しちゃうだなんて」

「貴方が歌い出した途端あの召喚獣の攻撃が止んだけど、一体何が起こったのかしら」

 梓が尋ねると、麗羅は悪戯そうな笑みを見せた。

「あの召喚獣、あざとさに反応してるみたいだから、私もあざといことしてみたの」

 何てったってアイドル、あざとくなければやっていけない仕事である。そのあざとさはらぶり姫の比ではなかった。

「両チーム、ステージに整列して下さい」

 そうして話していると、ザルソバがアナウンスした。

「行きましょう」

 勝った梓達は、胸を張ってステージに上がる。対するラブリープリンセス、とりわけ由奈とらぶり姫は悔しそうな表情でステージに並んでいた。

「一回戦第一試合の勝者は――チーム・ヴァンパイアロード!!」

 ザルソバがそう言うと同時に花火が上がり、大型モニターにヴァンパイアロード四人の顔写真が映される。雪崩のように飛んでくる歓声に、麗羅は両手を振って感謝をアピールした。

「みんなー、次の試合も応援よろしくねー!」

 そう観客に声をかけると、多くの返事が返ってきた。

「ひゃあー、流石注目慣れしてる……」

 チームの中で一人だけ負けた智恵理は、少し肩身が狭い思いだった。

「私達は勝ったのよ。胸を張っていきましょう智恵理」

 そんな智恵理を、梓は優しく励ました。



<キャラクター紹介>

名前:(すが)由奈(ゆな)

性別:女

学年:中二

身長:154

3サイズ:79-55-77(Cカップ)

髪色:金

髪色(変身後):ピンクゴールド

星座:獅子座

衣装:小悪魔風

武器:三叉の槍

魔法:羽で空を飛べる

趣味:ネイルアート


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