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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第三章 自由行動編
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第57話 山篭り再び

 博物館内のレストランで昼食をとった拳凰と花梨は、博物館を出た後再び街を散策していた。

「あっ、これムニちゃんの……」

 露天の店先に掛けられているのは、ムニエルのプロマイド。

「よう魔法少女さん、あんた魚座の子かい?」

「あ、はい。ムニちゃん……あ、いえ、ムニエル様が担当なんです」

 店員から声をかけられ、花梨は答える。

「いやー羨ましいもんだ、あのムニエル様と間近でお話できるとは」

「なんかその……人間界にいた時はお姫様だとは知らなくて……」

「そういうところもムニエル様のいいところだ。ムニエル様は本当に素晴らしい方だよ。この辺りは二年前に反妖精王を掲げる連中の起こした暴動で相当破壊されてね、その時にムニエル様は国中の修復魔法使いをかき集め街を直してくれたんだ。お陰で今もこうして商売ができてる。まったく感謝しかないよ」

「そうなんですか」

「あの方の治世はきっと史上最高になるぞ。どうだね、ムニエル様のプロマイド一枚」

 店先に並ぶムニエルのプロマイドは結構な種類があり、かなり売れていることが伺える。

 花梨はとりあえず適当に一枚選んだ。

「これください」

「まいどー」

 プロマイドを鞄に入れて、花梨はまた歩き出す。

「お前の友達なんだっけか、そいつ」

 拳凰が尋ねた。

「うん、こっちに来たらまた一緒に遊べると思ってたけど……お姫様ともなるとそうもいかないのかな」

「まあ、なんとかなるだろ。担当なら仕事で接する機会も多いだろうしよ」

 拳凰は気楽に返す。

「そうだね……それにしてもムニちゃん、国の人達から凄く慕われてるんだね」

「騎士団の会議室で見た時も、他の連中から随分と大事にされてる様子だったな。俺から見たらずっと仏頂面でよくわかんねー奴って感じだったが」

「え、そうなの? 私と一緒にいた時はよく笑ってたけど」

「あいつもガキだしな、ああいう堅っ苦しい会議とかつまんねーんだろ。歳はお前と同じくらいなのに姫とか騎士とかで色々やらされて、ストレス溜まってんだろーぜ」



 王都オリンポスでたっぷり遊んで、いつの間にか夕方。

 夕食は街のレストランで済ませて、拳凰と花梨はホテルに戻ってきた。

「そんじゃあな、チビ助」

「うん、また明日」

 花梨を部屋まで送り届けたところで、二人は別れる。

「あ、そうだケン兄」

 エレベーターへと向かう拳凰を、花梨が呼び止める。

「明日から修行だったよね」

「おう、今から楽しみだぜ」

「その、ケン兄? その修行、危険だって聞いてたから、お守り買ってみたの。良かったら、持っていって」

「そいつはサンキューな。ありがたく貰っとくぜ」

 拳凰は受け取ったお守りをポケットに突っ込む。

「つか、そんなに心配すんなよチビ助。俺は今までだって何度死にかけたか知らねーが、こうして生きてるわけだしな」

 優しい笑顔で言いながら、花梨の頭を撫でる。そうされると花梨は強く言えなくなり、顔を赤くして縮こまった。

 と、そこにたまたま通りがかった二人組の魔法少女が拳凰と花梨を見ながらひそひそ話をする。

「何あの二人、できてんの?」

「廊下でイチャつくとかウケるー」

 軽く笑いものにされ、拳凰は舌打ち。

「ちっ、じゃあなチビ助」

「うん、またねケン兄」

 気を悪くして逃げるように去る拳凰を、花梨は優しく見送った。



 一方で外が明るい内にホテルに戻った梓は、部屋で一人で本を読んでいた。

「梓ー」

 と、そこで扉を叩く音と智恵理の声。

「どうしたの、智恵理」

 梓が扉を開けると、早速智恵理が飛び込んできた。

「どうしよう梓、あたしカニミソに誘われちゃった」

「え?」

 おろおろする智恵理を落ち着かせながら、梓はとりあえず智恵理を部屋に入れて話を聞く。

「なるほどねー」

「貴族の屋敷だよ貴族の屋敷! しかもパーティだよパーティ! あたしみたいな庶民がパーティドレスなんか持ってないよー!」

「落ち着いて智恵理。カニミソから何か詳しいこととか聞いてないの?」

「ううん、ただ招待するとだけ……」

「だったらそんなに気を張らず、普段どおりでいいんじゃないかしら。ある程度お淑やかな格好で行った方がいいとは思うけど」

「ていうか梓一緒に来てよ! 一人じゃ緊張するー!」

「……まあ、明日は予定入ってないし別に構わないけど」

「よかったー! やっぱり梓はあたしの親友だよー!」

 梓の手を握り感謝を伝える智恵理に、梓は呆れ顔。

(まったく、世話の焼ける親友なんだから)



 妖精騎士団訓練所では、訓練を終えたミソシルがベンチでポーションを飲んでいた。

「お疲れ様です、ミソシルさん」

 丁度訓練を終えたザルソバが、ポーションを手にして隣に座る。

「ザルソバか……」

「調子はどうです?」

「上々ぜよ。いつ敵が攻め込んできても問題無いわい」

「それはよかったです。ところでミソシルさん、カクテルが言っていた件について、どう思います?」

「魔法少女バトルをデスゲームにする、という話か」

「はい」

 ミソシルは目を閉じ、一息つく。

「それが陛下の望みであるというなら、わしはそれを支持したいと思う」

「あくまでも陛下の御意思に従う、と」

「それが騎士の務めじゃろうて」

「たとえそれが道に外れたことだったとしてもですか」

「別にあの連中のように、正しい人物のすることは全て正しい等という妄信をしているわけではない。陛下が悪となったならば、わしも共に悪に堕ちる覚悟があるというだけのことぜよ」

「……私はまだそこまで割り切れませんよ」

 ザルソバは俯き、ポーションの缶を握った。



 花梨と別れ自室に戻った拳凰は、早々にベッドに寝転がった。

 すると、隣のベッドでうつ伏せに寝転がり枕に顔をうずめている幸次郎が目に入った。

「お、どうした幸次郎」

「……何でもありません」

 幸次郎にとって恋々愛のやる事なす事が刺激が強く、今もまだ悶えていたのである。

「よし、風呂入るか。明日は修行だからな、早く寝てーぜ」

「修行ですか?」

「おう、騎士団の金髪ロンゲ野郎が連れてってくれるんだとよ」

「その修行、僕も付いていっていいですか?」

「別に構わねーが」

 拳凰から許可を受け、幸次郎は拳をぐっと握る。

(そうだ、いつまでもぼーっとしてちゃいけない。修行で煩悩を捨て去るんだ)



 そして夜が明ける。

 修行用の胴着に着替えた拳凰は、ハンバーグの待つロビーに来た。

「遅せえぞ最強寺」

「てめーが早く来すぎなんだよ」

 いつもの如く二人は火花を散らす。その様子を見て幸次郎はおろおろ。

「で、何でそいつがいるんだ?」

 ハンバーグの視線が、拳凰の隣にいる幸次郎に向く。

「こいつも一緒に修行したいんだとよ」

「まあ、俺は構わないぜ。どっちみちこっちももう一人修行に加えることになってたしな」

 ハンバーグがそう言うと、丁度準備を終えた一人の少女がこちらに向かってきていた。

「お待たせしました、師匠」

 空手の胴着を着た、三つ編み眼鏡の少女。

「こいつは俺の担当する魔法少女で、一応弟子ってことになってる美空寿々菜だ。最強寺は最終予選で会ってるはずだな」

「ああ、俺のこと慢心だのスカタンだの言ってたあのメガネか」

「そ、それは師匠が言えって言ったことですから!」

 拳凰に鋭い目で見下ろされ、寿々菜は焦る。

「そんじゃこの四人で修行場行くぞ。そこの受付嬢、ケルベルス山行きの魔法陣を頼む」

「畏まりました」

 受付嬢はハンバーグの足下に魔法陣を出現させる。

「ケルベルス山?」

「ああ、人呼んで地獄の修行場。生ぬるい場所だと思ってたら死ぬぜ」

 幸次郎は唾を飲む。拳凰は全く動揺することなく、平然と魔法陣に足を踏み入れた。

「上等じゃねーか。ますます楽しみになってきたぜ」

「地獄の修行場……なんだか凄くファンタジーって感じがします」

 寿々菜もワクワクしながら魔法陣に入る。

「え、ちょ……待って下さいよ、僕も行きます!」

 幸次郎は慌てて自分も魔法陣に入った。

 四人全員が入ったところで魔法陣の機能が作動し、四人の姿がその場から消えた。


 辺りの景色が変わり、拳凰達は見晴らしのいい崖の上に立っていた。

「おっ、随分と高い場所に来たじゃないか」

「てっきり足で山を登るんだと思ってましたが……」

 よく澄んだ空に、朝の日差し。爽やかな風と足下に揺れる草花。とても地獄の修行場といった雰囲気ではなく、まるで楽しいピクニックにでも来たような気分である。

「よし、それじゃ最強寺、早速ここから飛び降りろ」

「は?」

 崖を指差して言うハンバーグに、拳凰は素で疑問符を浮かべた。

「ちょちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

 幸次郎が割って入る。

「何言ってるんですかハンバーグさん! そんなことしたら最強寺さん死んじゃいますよ!」

「今更こいつがこの程度で死ぬかよ。それに万が一死んだとしたら、こいつはそこまでの雑魚でしかなかったってことだからな」

「ほー……」

 拳凰は崖を上から覗き込む。角度はほぼ垂直であり、底はとても遠い。

「お前らの世界の単位で言うとおよそ百メートル。ここから飛び降りて着地し、またこの崖を登ってここに戻ってくる。これを十往復だ。それが済むまで朝飯は食わせん」

「上等だ。こいつはいい修行になりそうだぜ」

「さ、最強寺さん!?」

 理不尽な無理難題をやらされようとしているのに、やる気に満ちている拳凰。幸次郎は思わず突っ込んだ。

「やると決まったんならさっさと行ってこい」

 ハンバーグは一瞬の早業で拳凰を蹴飛ばす。拳凰は何が起こったのかわからぬまま、崖を転がり落ちた。

「ぐおおおお!?」

「さ……最強寺さーーーーん!!!」

 幸次郎の叫びが、隣の山に響く。

「ひ、酷い……あんまりだ……」

「いいから黙って見とけ」

 三人が見守る中、拳凰は空中で体勢を立て直し、ニヤケ顔で見下ろすハンバーグを睨む。

(野郎……こっちは準備もしてねーのに不意打ちかましやがって)

 次は下を向く。自分は現在百メートルの高さから高速で落下しており、このままでは即死不可避である。地面に着く前に生き残る方法を考えなくてはならない。

 普通に両足で着地したのでは、どんなに鍛えた脚でも骨が砕けてお終いである。かといって受身を取ろうが、これだけの高さではそれすらも無意味だ。

 ならばどうするか。拳凰はその答えが自然と頭に浮かんだ。

 拳を握り締める。全ての気合を右手に籠める。地面にぶつかる寸前、拳凰は地面を思い切り殴った。まるで雷でも落ちたかのような爆音と共に、砂煙が立ち上がる。

「う、うわああああ!!!」

 取り乱す幸次郎と、言葉を失う寿々菜。砂煙の中には、一つの影が見えた。

 拳凰は平然とその場に立っていた。足下には大きなクレーター。地面を殴った衝撃で落下の衝撃を相殺したのである。

「す、凄い……流石最強寺さんだ……」

 幸次郎が愕然とする中、拳凰は崖の上を見上げながら腱を延ばして準備運動。

「よし、あいつが落ちても生きていられることはわかったな。そんじゃお前ら、朝飯にするぞ」

「えっ?」

「俺らだけで飯食うんだよ。あいつが苦しむ様を見ながらな」

 ハンバーグはそう言いながら地面にシートを敷き、弁当を広げ始める。

「ちょ……何なんですかそれ! 酷すぎますよ! いじめじゃないですか!」

「あいつの見てる前で同じこと言ってみろ。ああいうプライド高い奴は逆にそっちのが傷つくぜ」

 幸次郎の真っ当な指摘にも、ハンバーグは聞く耳を持たない。

「師匠はああいう人なんです。すみません……」

 頭を深々と下げて謝る寿々菜。幸次郎は渋々ハンバーグに従いシートの方へと歩いた。


 崖下の拳凰は準備運動を終えたところで、スタートダッシュ。

(言っとくが俺は、垂直走りは得意中の得意なんだよ!)

 助走の勢いで垂直の崖を走り抜ける。だが半分ほど進んだところで、その勢いも止まった。岸壁の出っ張りを手で掴んでぶら下がり落下を防ぐも、先は果てしなく長い。

(くっそー、行けると思ったんだがな……)

 仕方が無いと普通に崖をよじ登るが、これでは一体どれだけ時間がかかるか。これを十回繰り返すとなると、何時になったら朝食にありつけるやら。しかもそう考えると、空腹感が尚更に増してくるのである。

 なんとか根性で登り切って崖上に着いたところで見たものは、まるで楽しいピクニックのようにシートの上で弁当を食べる三人の姿であった。

「てめーら何食ってんだ!」

「お前は十往復するまで無しだぞ」

 口に食べ物を頬張ったままハンバーグが言う。

「こ、こいつ……」

 拳が震える拳凰だったが、すぐ拳を解いて三人に背を向ける。

「上等じゃねーか。俺の分ちゃんと残しとけよ!」

 捨て台詞を吐き、勢い良く飛び降りる。幸次郎は頭が痛くなった。

「美空さん、よくあんなのを師匠にできますね……」

「私の修行では別にあんなことしないんですが……何で最強寺さんにだけあんなに厳しいんでしょう?」

「早く終わらせねえと無くなっちまうぞー」

 ハンバーグが崖下に向かってそう叫ぶので、幸次郎と寿々菜は拳凰の分の朝食を取り分けて後ろに隠した。

「よし、お前らはここで飯食ってろ。俺はちょっくら向こうの採石場に行ってくる。最強寺に飯食わすんじゃねえぞ」

 そう言ってハンバーグは突然立ち上がり、後ろの林へと消えていった。


 少しして戻ってきたハンバーグは、一メートル程の岩を五つ担いでいた。

「おう、最強寺は今何週目だ?」

「さっき五週目を終えたところですけど」

「よし、丁度いい所だな」

 ハンバーグは岩を持ったまま崖の前に立つ。

「その岩一体何に……まさか!?」

 幸次郎がはっとする最中、ハンバーグは崖を登る拳凰に声をかける。

「最強寺! 後半からは難易度を上げてくぞ!」

 そして手にした岩の一つを、拳凰目掛けてぶん投げたのである。

「何ィーーー!?」

 これには流石の拳凰も驚愕。見ていた幸次郎は目玉が飛び出そうなほど驚いた。

「ひ、酷すぎる……正気じゃない……」

 あまりにも惨いハンバーグの所業に、幸次郎は顔面蒼白になっていた。



<キャラクター紹介>

名前:クラッカー

性別:男

年齢:享年50

身長:187

髪色:青紫

星座:獅子座

趣味:パズルゲーム


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