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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第三章 自由行動編
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第46話 やすらぎのひと時

「どうだったよ、ビフテキ」

 システムルームに戻ってきたビフテキに、ハンバーグが尋ねた。

「ああ、視聴者を喜ばせるための演出だと言ったら納得して頂けたよ。陛下は寛大な御方だ」

 そう言ったビフテキを、ハンバーグは白々しい目で見る。

「先程ハバネロさんから連絡がありました。手筈通りに殺れたとのことです」

 ザルソバがパソコンにデータを入力しながら言う。

「ただ、カクテルは穂村幸次郎に何やら記憶処理をしたとかで……」

「ふむ……」


 幸次郎を救出したハバネロは、アンドロメダホテルのエントランスに来ていた。

 ソファに寝かせたところで、幸次郎は目を覚ます。

「気が付いたか」

「え……? うわっ!?」

 目覚めていきなり強面のモヒカン男がいたことに驚き、幸次郎はびくりと飛び起きる。

「その様子なら元気そうだな。お前、自分の名前がわかるか?」

「あ、はい。穂村幸次郎です」

「この場所がどこかわかるか?」

「アンドロメダホテルですよね。どうして急にそんな質問を……」

「いや、何でもない」

「僕は一体どうしてここに……さっきまで寝てたんですか?」

「最終予選の疲れで倒れちまったのさ。異常な身体能力を持つ最強寺や場数を踏んでるデスサイズと違って、お前は普通のガキなんだからな」

「そうですか……」

「まあ、部屋に戻ってゆっくり休むこった。部屋の場所は覚えてるか?」

「はい、大丈夫です。助けて頂き、ありがとうございました」

 幸次郎は丁寧に礼を言うと、エレベータに歩いていった。

(見たところ記憶を消された影響で生活が不自由になるようなことは無い……消されたのはカクテルにとって不都合な記憶だけか。それなら今のところは安心と言えるが……)

 ハバネロは脚を組んでふてぶてしく座り、幸次郎の後姿を見ていた。エントランスを通るホテルの客や従業員は、ハバネロに極力近づかないよう歩いていた。


 一方その頃、花梨は引き続きホテルの備品をチェックしていた。

 妖精界の様々な不思議アイテムには、ザルソバが半ば趣味で書いた説明書が逐一付けられている。どれもこれも人間界より高性能な中、最も花梨の目を引いたのは洗濯乾燥機である。

 浴室前の脱衣所に据え付けられた樽状の機械。中世ファンタジーのような世界にあっても違和感の無いデザインの反面、中身は案の定人間界のそれを上回る機能を持っている。

 魔法の水により新品同然にまで汚れを落とすことができ、乾燥の後に皺を伸ばしてハンガーに掛けるまでやってくれるスーパー家電ならぬスーパー家庭用魔導機械である。

(いいなーこれ、うちにも欲しい……)

 説明に心躍らせすぐにでも使ってみたいと思った花梨は、着ている服を脱いで洗濯を始めてみる。樽の中に魔法の水が注がれ、人間界の洗濯機のように回転を始めた。

 ふとその時、机の上に置いてあったスマートフォンが着信を知らせた。こちらの世界では魔法少女バトルアプリを除き一切の通信ができないので、これがバトル運営からのメッセージであることは明白である。花梨は下着姿のまま脱衣所を出て、スマートフォンを取った。

 メッセージの内容は、正午からのランチバイキングを知らせるものであった。レストランの場所は地下である。

(妖精界の料理って、一体どんなだろ?)

 未知の味を想像して期待が膨らむ。

 と、その時だった。部屋のドアが急に開いた。

「おーすチビ助」

 軽い口調で挨拶をする拳凰。直後、その視線は花梨の下着姿に向いた。今日の色は上下セットのパステルオレンジである。

 花梨の額に汗が流れる。ここで初めて、鍵を閉め忘れていたことに気が付いたのだ。家でも花梨の部屋には鍵が付いておらず、タイミングを見計らったかの如く着替え中に拳凰が入ってくるのは珍しいことではない。

 拳凰は花梨のジュニアブラ姿をガン見しながら、ずけずけと部屋に足を踏み入れベッドに腰を下ろす。花梨はむすっとしながらもそんな拳凰を追い出すでもなく、その場で鞄から出した服を着た。

「もー、ケン兄ってば本っ当にエッチなんだから」

「バカ言え、ガキの下着なんか見ても面白かねーっつの」

 いつものやりとりを交わしつつ、花梨は拳凰の隣に座る。

「よくこの部屋だってわかったね。誰かから聞いたの?」

「いや、こいつに載ってたんだ」

 拳凰はフェアリーフォンを取り出し、魔法少女バトルアプリの画面を見せる。

「それ、ケン兄のスマホじゃないよね?」

「俺のスマホはあっちの世界に置いてきちまったからよ、騎士団のビフテキってジジイがこの世界のスマホくれたんだ」

「へー……ほんとだ、ムニちゃんが持ってたのと一緒。もしかしてその服も?」

「ああ、この世界の服を色々貰ったんだ。さっきの試合で着てたやつもそうだぜ」

「そうなんだ。そういえばケン兄は、急にいなくなった日からずっとこっちに来てたの?」

「おう、それもそのジジイに連れてこられてよ。つーかお前、さっき何で脱いでたんだ? そんなに暑かねーだろエアコン効いてるし」

「私はケン兄みたいに暑いから裸になったりとかしないから! ただここの洗濯機使ってみたくて……」

「ああ、あの樽みてーなやつ」

「うんそれ」

 そうして話していると、ふと花梨は時計が目に止まった。

「あっ、そうだケン兄、もうすぐご飯だけど、一緒に食べに行く?」

「おう、行こうぜ。ここの飯は美味いぞ」


 二人は部屋を出て、エレベーターで地下へと向かった。

 レストランには、既に多くの少女が集まっていた。

「うわぁ、すっごい……」

 美味しそうな料理が沢山並ぶ光景に、花梨は目を輝かす。

 二人が料理を取る列に並んだところで、丁度料理を載せたトレイを自分の机に運ぶデスサイズとすれ違った。

「よう、デっさん」

 デスサイズのおっさん、略してデっさんである。

「急にいなくなったかと思えば、女連れで飯か」

「ちげーよ。こいつは俺の弟みてーなもんだ」

「ちょっとケン兄! 弟って言うのはやめてって言ってるでしょ!」

 そのやりとりを見て、デスサイズは鼻で笑う。

「可愛い彼女だな。大切にしてやれよ」

「だからちげーって!」

 むきになる拳凰を尻目に、デスサイズは自分の席へと戻る。

「あの人、ハンターの傭兵の人だよね。ケン兄、あの人と仲良くなったの?」

 彼女だと思われてとてもご機嫌な花梨は、満天の笑顔で拳凰に尋ねる。

「ああ、部屋が一緒だからな。お前んとこの一個上の階にある四人部屋で、俺と幸次郎とあのおっさんの三人で泊まってる」

 拳凰は花梨から目を逸らしつつ、ぶっきらぼうに答えた。


 二人はそれぞれ食べたい料理を取った後、空いている席に向かい合って座る。

「どうだ、美味いだろ」

「うん、すっごく美味しいよ」

 初めて食べる妖精界の料理に、花梨は舌鼓を打つ。

「これ魔獣の肉らしいぜ。魔獣って美味いんだな……ん?」

 ふと拳凰は視線に気付いて振り返る。そこにはトレイに大量の料理を載せた幸次郎がいた。

「何だ幸次郎かよ」

「すいません、なんか、見ちゃってて……」

「今日は随分と食うじゃねーか」

「あ、はい。さっき疲れで倒れてしまったので、しっかり栄養をとっておこうかと」

「鍛え方が足りねーんじゃねーのか?」

「まあ、最強寺さんと比べれば……」

「顔が赤いぞ。熱でもあんじゃねーか」

「あ、いえ、心配しなくて結構です」

 拳凰と花梨が一緒にいるのを見て、最終予選での熱い抱擁を思い出してつい恥ずかしくなってしまったのである。

(あの二人、やっぱりそういう関係なのかな)

 ぼーっとしながら空いている席に着いたところで、幸次郎はふと空いている席に誰かが座っていることに気付いた。

 清楚な白いワンピースを着た、濃褐色の肌に銀色の髪の少女。豊かなバストと胸元にちらつく谷間を見た時、幸次郎ははっと目が覚めた。

「いただきま……あっ、貴方は!?」

 最終予選で胸に顔を埋めたことがフラッシュバックし、顔から火が出る幸次郎。恋々愛はぽかんとした顔で幸次郎を見るも、すぐまた昼食を再開した。

「え、えーと……すいません、ぼーっとしてたから、そこ座ってるの気付かなくて……」

「?」

 恋々愛は何故幸次郎が謝っているのかわかっていない様子だった。

 幸次郎がふと恋々愛の食べている料理を見ると、自分が盛ったものより更に多く盛られている。

「それ、一人で食べるんですか?」

「うん……」

 道理で背も胸もでかくなるわけだと、幸次郎は納得した。


「ほらほら梓、早く取らないと無くなっちゃうよ!」

 智恵理と梓は、丁度今レストランに来たところだった。

「げっ、デスサイズ!」

 はしゃいでいたところで急にデスサイズの後姿が目に入り、智恵理は退く。

「ちょっと智恵理、失礼でしょ」

「で、でも、復讐とかされるんじゃ……」

「そんなことをして何になる?」

 デスサイズは振り返らず答える。

「最終予選で俺を倒した二人組だな。お前達のことは何も恨んじゃいないさ。むしろ賞賛したいくらいだよ。あの息の合ったコンビネーションは、お互いを完璧に信頼していなければ成し得ないものだ」

「お褒め頂きありがとうございます」

 梓は丁寧に頭を下げた後、智恵理と共に列に並ぶ。料理を取って空いた席に座ったところで、梓は話を切り出した。

「ねえ智恵理、さっきのビフテキさんの話、どう思う?」

「え? 何のこと?」

「ほら、おむつ男が実はイベントだったってやつよ」

「ああ、別にいいんじゃない? 単なる演出で本当は誰も怪我してなかったんだし」

「……そうね」

 梓の浮かない顔を、智恵理は不思議に思う。

「どうかしたの?」

「いいえ、何でもないわ」

 妖精界と魔法少女バトルへの不信感は、ますます高まるばかりであった。


 一方幸次郎は、料理を取りすぎたことを今になって後悔していた。

(疲れて倒れたからって無理してこんなに取るんじゃなかった……)

 取った以上は残さず食べるのが礼儀だが、これ以上食べたら余計に体調を崩すというもの。

 幸次郎は視線に気が付き前を見ると、既に自分の分を完食した恋々愛がこちらをじーっと見ていた。

「え、えーと……よかったら、食べます?」

 幸次郎がそう言うと、恋々愛はぱっと花が咲いたように笑う。

「ありがとう……」

 天使のような笑顔に、幸次郎の心臓が高鳴る。直視することができず、手で顔を隠しながら俯いた。

「ど、どういたしまして……」


 食事を終えた拳凰と花梨は、席についたまま次の予定を立てていた。

「凄いねこのホテル。遊技場とかスポーツセンターとか、プールまであるよ」

 アプリ内にはホテルの見取り図もあり、花梨はそれを見ながら次の行き先を拳凰に相談する。

 初日の行動範囲がホテルの中だけだということもあって、少女達を飽きさせないようホテルの娯楽施設は豊富なのである。

「ずっとトレーニング漬けでその辺行ったことなかったんだよな。よし、片っ端から回ってこうぜ」

「悪いが最強寺、そいつはお預けだ」

 自分を呼ぶ声がしたので振り返ると、そこにいたのは獅子座(レオ)のハンバーグ。

「んだよ。何か用か?」

「飯食い終わったんなら俺と一緒に来い。てめえが俺に勝つための秘密を教えてやる」

 拳凰のだらけていた表情が、一瞬で真剣に変わる。

「悪いなチビ助、一緒に遊ぶのはまた明日にしてくれ」

「あ、うん……」

 花梨は寂しそうにしながらも、それを素直に受け入れ拳凰を見送った。


 昼食を終えた智恵理と梓は、レストランと同じ地下階にある遊技場に来ていた。

「ヒャッホーッ! 遊ぶぞーっ!」

「またはしゃいじゃって……」

 今はとてもそんな気になれない梓は、智恵理の様子を見て呆れる。

「真面目なのも良いが、羽目を外して楽しむのも時には必要なのだよ。いつも真面目では疲れてしまうからね」

 突然後ろから現れたホーレンソーが、ねっとりとした声で梓に話しかけてきた。

「……貴方に言われると説得力があるわね」

 突然の出来事にも驚かず、梓は冷静に返す。ホーレンソーはその答えを想定していなかったようで、疑問符を浮べたような表情をしていた。

「まあ、その話には一理あるわ。細かいことは忘れて、思いっきり楽しもうかしら」

「ホーレンソー、俺達も遊ぶカニー」

 ホーレンソーの後ろにいたカニミソはいつものスーツではなく私服を着ており、遊ぶ気満々の様子であった。

 妖精騎士団のイケメン二人組が現れたことで、この場にいた少女達はキャーキャーと色めき立つ。

「相変わらずおもてになられることで」

 梓は軽蔑の目でホーレンソーを見る。

「最終予選で貴方のファンクラブを名乗る連中に絡まれたのだけど、あの子達もセクハラで手篭めにしたのかしら」

「それは誤解なのだよ。君以外にそんなことしやしないさ」


 一方カニミソは、一人ゲームに興じる智恵理へと歩み寄っていた。

「智恵理ー、最終予選突破おめでとうカニー!」

「カ、カカカカニミソ!?」

 急に話しかけられてびっくりした智恵理は、焦ってゲームオーバー。

「あ、ごめんカニ」

「い、いいの。それでどうかしたの?」

「いや、単にそれを言いに来ただけカニ。それとここで遊びに」

「そ、そう……」

 子供のようにはしゃいでいるところを好きな人に見られ、智恵理は恥ずかしさで縮こまった。


「ところで三日月君、あのことは忘れてはいまいね?」

 ホーレンソーからその言葉を聞き、梓は忘れていたことをはっと思い出す。

「……デートだったかしら?」

「しらばっくれるかと思っていたが、ちゃんと覚えていてくれたようで安心なのだよ。明日は早速私と共に街を回ろうではないか」

 試合のことやら朝香のことやらミスターNAZOのことやらで頭が一杯になり忘れていたことを急に思い出させられ、梓は頭が痛くなった。

「……ええ、まあ、約束は守るわ」

「ちょ、ちょっと梓! デートってどういうこと!?」

 二人の話を聞いて、智恵理が走り寄ってきた。

「まあ何というか……賭けに負けて不本意ながらそうなっちゃったというか……」

 梓は気まずそうに答える。

「そういうわけだ。明日は三日月君をお借りするのだよ」

「ええー……明日は梓と街を回るつもりだったのに……」

「ごめん智恵理……」

 梓は申し訳無さそうに手を合わせて謝る。

(梓がデートかぁ……それもあの少女漫画から出てきたような超イケメンと。まあ梓くらいの美人となるとすっごくお似合いだけど)

 どこか疎外感を覚えた智恵理がふと顔を上げると、先程の自分のようにはしゃいでゲームを遊ぶカニミソの姿が目に入った。

(うわっ、カワイイ……)

 かっこいいばかりでなく人懐っこく子供っぽい一面もまた彼の魅力であると、智恵理は感じていた。

 その時、智恵理の心の中に一つの考えが浮かんだ。

(いや……でも、そんな……)

 心臓が高鳴る。勇気を出せと自分に言い聞かせる。脱落の危険を冒してでも、梓の溜めの時間を稼ぐために一人デスサイズに立ち向かった時の気持ちを思い出せと。

「あ、あのさカニミソ」

 智恵理が話しかけると、カニミソは振り返る。

「明日……あたしと一緒に街行かない?」

 照れと緊張で顔を引き攣らせながらも、精一杯の笑顔。勇気を振り絞って、少女は一歩踏み出した。



<キャラクター紹介>

名前:白布(しらぬの)芽衣(めい)

性別:女

学年:中一

身長:149

3サイズ:78-56-80(Bカップ)

髪色:茶

髪色(変身後):白

星座:乙女座

衣装:羊風

武器:無し

魔法:もこもこのウールを生成する

趣味:ノートに漫画を描く


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