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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第二章 最終予選編
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第44話 最強の目覚め

 負傷者の治療を行う花梨は、一つの問題に直面していた。

「どうしよう……MPが足りない!」

 麗羅の蝙蝠が更に三人見つけてきて、元々ギリギリだったMPが完全に足りなくなってしまったのである。

「このままじゃ全員治せないよ! 一体どうしたら……」

 全員を治す前にMP切れして脱落するわけにはいかない。だがどうやってMPを補充すればよいのか。この場には魔法少女がいくらでもいる。彼女達を倒せばMPを回復することはできるが、そのために脱落してくれなどという虫のいい話をするわけにはいかない。

「だったら私を攻撃して!」

 その声に花梨は振り向く。声の主は織江であった。

「で、でも……」

「私が君のMPを回復させたげる。エッチなパンツ見せてもらったお礼よ」

 明るく言う織江。花梨は暫く不審に思っていたが、今は藁にも縋りたい状況である。ここは彼女の意思を汲む他無い。

「わかりました」

 花梨は頷き、織江の周囲に無数の注射器を出現させる。

「すみません……MP頂きます」

 注射器は一斉に織江に針を向け、雨の如く降り注ぐ。一瞬でHPを奪うその攻撃によって変身は解除され、その場にバリアが残される。

「え……え?」

 バリアの中の魔法少女が困惑の声を漏らす。花梨はその声に違和感を覚えた。織江の声ではなかったのだ。

 バリアの中にいるのは、真紀である。既に怪我を治して他の魔法少女と雑談をしていたはずの真紀が、織江のいたはずの場所にいる。そして織江は、近くの木の枝に立っていた。

「ま、真紀さん!? 何で!?」

「私のMPをあげるとは一言も言ってないよ」

 樹上の織江はそう言って笑う。その頭には真紀のパンツ。攻撃を受ける瞬間に、忍法空蝉の術で真紀を身代わりにしたのだ。

 当然、納得できないのは真紀である。

「ちょ、ちょっとーーーー!!!」

「私のお蔭で命が助かったんだから、その恩返しってことで、ね?」

 織江はウインクをしながら手を合わせ、謝るポーズをとる。

「こ、こんな負け方って……」

 がっくり項垂れながら強制送還される真紀。見ていた魔法少女達も、呆気にとられていた。

「さ、最低だあいつ……」

「ぶっ倒せあんな奴!」

 怒りに燃える魔法少女が、織江への攻撃を開始する。向かってきた魔法少女に対し、織江はパンツコピーで体を操り矛先を他の魔法少女に向けた。

「ムフフフフ、ここにいる魔法少女全員のパンツをコレクションに加えてあげる!」

 次々と操る魔法少女を切り替えながら、自分への攻撃を防ぎつつ乱戦を展開。一度は中断されたバトルが、突然の再開である。

「あ、あのっ、戦うなら怪我人に攻撃が当たらないようにしてください!」

「オッケー!」

 花梨の頼みに、織江は快く答えた。

 何はともあれ、花梨のMPは全回復した。これで残りの患者も治療できる。織江が他を手玉に取ったバトルが展開される横で、花梨はひたすら治療に専念した。織江を含む魔法少女達は、皆花梨に救われた恩があるためちゃんと花梨に迷惑をかけないように戦っていた。



 拳凰とコロッセオの死闘。

 チェーンソーの刃が拳凰の背中に触れる。残虐なる刃が今にも拳凰の身を引き裂かんとしたその時、拳凰は力の限り踏み込んでブレーキをかけた。背中を削られてもなお怯まず、そのままの体勢で前進する。背中の肉を多少持っていかれはしたが、致命傷は回避した。

 コロッセオの股下をスライディングで潜り抜け、後ろに回り込む。コロッセオが振り返るより速くジャンプし、後頭部をぶん殴った。コロッセオはチェーンソーを支えにして転倒を防ぐも、拳凰は更に追撃の連打。コロッセオは奇声を上げながら頭を持ち上げ、後頭部で拳凰を跳ね飛ばした。

 空中に投げ出された拳凰。コロッセオは体をコマのように回転させ、チェーンソーで拳凰を狙う。拳凰は空中を蹴って風を起こし体の位置をずらすが、完全には避けきれず。少し脇腹を掠っただけで、噴水のように血が出た。拳凰は上半身裸になり、脱いだ服を腹に巻きつけ強く縛って止血。樹の幹を蹴って加速しながら着地すると、振り下ろされたチェーンソーを韋駄天の如く走ってかわし、割れた地面から飛んできた岩片を拳で叩き落す。

(くそったれが……一撃一撃のパワーに差がありすぎる!)

 こちらの攻撃をどれだけ浴びせてもあまり効いている様子が無く、あちらの攻撃は一発一発が非常に重くまともに当たれば即死は確実。理不尽なまでの力の差。この状況で一体どう勝てというのか。だがそれでも、拳凰はこの怪物を倒さなければならない。花梨を傷つけたコロッセオを、この手で倒さなければ気が済まない。

「っざっけんじゃねえぞコラ!!!」

 懐に飛び込んで鳩尾を殴るも、やはり効いているようには見えない。コロッセオが左手で掴みかかろうとしてきたのを避け、脇腹にハイキック。虫を掃うように振り下ろされたチェーンソーを横に飛んで避け、手首にパンチ。続けて胴体にも。一発一発が軽くとも効いていることに賭け、小回りが利くことを武器に畳み掛ける。

(駄目だ……埒が明かねえ!)

 頭上にできたチェーンソーの影。チェーンソー本体こそ避けることができたものの、割れた地面から飛んできた岩片を体に受ける。吹っ飛んで地面を転がる拳凰に、コロッセオは追撃のチェーンソー。拳凰は掌を地面に押し当て、腕の力だけで強引に跳び上がり回避。空中で体勢を立て直して着地するも、一瞬足がもつれた。

「ぐ……!」

 興奮で痛みを忘れていたが、体へのダメージは想像以上に大きい。それを自覚した途端に、全身の痛みが襲い掛かる。

「どうやったら……あいつを倒せる!」

 自分自身の弱さに、怒りを爆発させる。この世界に来てあれだけ特訓をしたにも関わらず、まだ自分のレベルはこの程度でしかなかったのだ。

「勝たなくちゃいけねえ……たとえ絶対勝てない相手だとしても、絶対勝たなくちゃいけねえんだ!」

 己を鼓舞しコロッセオをまっすぐ睨むも、それは最早強がりでしかない。それでも尚拳凰は前を向き、絶望に屈しはしない。

 眼前に迫るチェーンソー。死の間際に脳裏に浮かんだもの、それは強さを求めるに至った原点。

「もっと強くなりてえ……もっと……もっと……」

 一瞬の煌き。鋭い金属音が響く。拳凰をミンチにするはずだったチェーンソーは、突如として砕け散った。

 チェーンソーを砕いたのは、居合いの如き拳凰の手刀。かつて戦った強敵の技が、無意識に出た。続けて拳凰はコロッセオの右手首を両腕で抱えるように掴み、持ち上げて逆さにし頭から叩き落す。そして頭を地面に埋められたコロッセオの鳩尾に、正拳突きを喰らわせた。逆さまのまま吹っ飛んだコロッセオは後ろの樹に背中をぶつけ、樹の幹と一緒に倒れる。


「カニミソの手刀、ミルフィーユの投げ、ハンバーグの突き……あやつ我ら騎士団の技を」

 二人の戦いを見守る騎士団から、そんな声が上がった。

「正確に言えばミルフィーユさんが古竜恋々愛に教えた投げ技です。最強寺拳凰は自分と戦った強敵の技を吸収し己のものとしたのです」

 先程までの攻撃と違い、明確に効いているのが判る。拳凰の逆転劇に、騎士団の面々も釘付けにされる。この手応えに、ビフテキもニヤリ。


 だがコロッセオも、この程度で戦闘不能になる男ではない。起き上がり、折れたチェーンソーを振り回しながらやけっぱちの突撃。拳凰はこちらも真正面から突撃で迎え撃つ。

「うおおおおおおおお!!!」

 声が枯れるほどの絶叫。コロッセオの眼前で拳凰は跳び上がり、腕を振り上げる。その一発に全てを籠めて、顔面を貫かんばかりの必殺パンチ。頭蓋骨は砕け、顔面は陥没。コロッセオが叩きつけられた地面にはクレーターができた。

 コロッセオはピクリとも動かなくなり、体が縮んで人間の姿に戻った。

「倒した……のか……?」

 満身創痍の拳凰は、コロッセオの顔を恐る恐る覗き込む。かろうじて生きてはいるようだが、気を失っていた。たとえ目が覚めても、顔面がこの状態で戦うことは難しいだろう。相手の戦闘不能を確認した拳凰は、気を失うまいと必死に目を見開きながらその場を離れた。


「あの小僧、勝っちまいやがった」

「最強寺さん、凄い……!」

 先に脱落した二人のハンターは、拳凰の勝利を称える。それに続くように、ビフテキが拍手。

「見たかね諸君。我々は今、稀代の天才を目の当たりにしている。彼こそまさに最強と呼ぶに相応しい男だ」

「本っ当、恐ろしい奴だカニ……」

(わかってねえなカニミソ。本当に恐ろしいのはこのジジイだ)

 ハンバーグはビフテキを見る。

 ビフテキだけが使える究極にして万能の幻覚魔法、プレアデスミラージュ。それを使えばピンポイントでも広範囲複数でも、あらゆる者にビフテキのイメージした幻覚を見せられる。更に映像に幻覚を加えて編集を行うことも可能である。

 ビフテキは魔法少女が致命傷を負う前にそれを使い、魔法少女が死んだ幻覚をコロッセオに見せた。相手を甚振ることが好きなコロッセオは既に死んだ相手には興味を示さないので、とどめを刺されるのを未然に防ぎ魔法少女を守ったのだ。

 更に花梨にも幻覚を見せ、負傷した魔法少女の下に誘導。負傷者の捜索や治療に役立つ魔法少女も同様に花梨の下に誘導させ、更に拳凰にも花梨がコロッセオに襲われる幻覚を見せてコロッセオと戦うよう促した。

 その目論見は見事成功を収め、一人の犠牲者も出すことなく全ての魔法少女をコロッセオの魔の手から救い出したのである。

「最強寺もコロッセオも魔法少女も、全部あんたのシナリオに沿って動かされるマリオネットかよ」

 ハンバーグはビフテキだけに聞こえるよう小声で言う。

「魔法少女達は自らの意思で捜索や治療に協力し、拳凰様は己の力だけでコロッセオを倒した。私はそれをお膳立てしたまでだ。治療や戦闘そのものには何の手出しもしてはおらん。特に拳凰様に関しては、自分の力だけであれに勝てねば何の意味も無いのだからな」

 一方カクテルは、自分の手駒が倒されたことに不服な表情をしていた。

「……所用を思い出したので私はこれで失礼します」

「貴様、どこに行く気じゃ」

 転送の魔法陣を復活させてシステムルームを出て行こうとするカクテルを、ムニエルが呼び止めた。

「構いませんよムニエル様。好きにさせてやりましょう」

「しかし……」

 ビフテキがムニエルを静止したので、カクテルはそのまま魔法陣に入って姿を消す。

「カクテルは頭の切れる男。私の仕業であることにはとっくに気付いて、陛下に告げ口に行ったのでしょうな。ですがそうなることは織り込み済みです故、ムニエル様が御気になさる必要はありませぬ」

 カクテルが去るのを見送った後、ビフテキは再び拳凰の映るモニターを注視する。花梨の居場所に誘導するための幻覚を見せているのだ。拳凰はそれに導かれるまま、花梨のいる方へと足を進めた。


 やっと全員の治療を終えた花梨は、蓮華と共に一息ついた。

「これでようやく、肩の荷が下りましたね」

 治療された魔法少女達は、皆してバトルに興じている。初めは織江に制裁を加え潰すための戦いだったが、いつしか操られていない魔法少女同士でも戦い合い普通の乱戦に変わっていた。

「どうかしましたか、花梨さん」

 話していた花梨が急に別の方向を向いたので、蓮華が尋ねる。

 花梨の目線の先、一人の男がこちらに歩いてくる。

「ケン兄!」

 花梨は叫んで駆け出した。コロッセオを倒した拳凰が、血まみれで現れたのだ。

「チビ助……」

 駆け寄ってくる花梨を見るや否や、拳凰はいきなり抱きついた。

「ひゃっ!?」

 突然のことに、びくりとして慌てふためく花梨。後ろで蓮華がぽかんとした顔で見ている。

「よかった……お前が無事で……」

「ケ、ケン兄?」

 普段なら絶対あり得ないような甘い声で話しかけられ、花梨はますます混乱した。

 魔法少女達も戦いの手を止め見入ってしまう程の熱い抱擁。意識が朦朧としている拳凰は理性が吹っ飛び、本音が口と行動に出たのだ。

 あまりの事態に意識が飛びそうな花梨であったが、拳凰の体から流れる血を見て冷静になる。

「血、血がっ! 早く治さないとっ!」

 拳凰の体に包帯を巻き、傷の治療を開始した。




「へぇー、まさかそういう関係だったとはねー」

「ちっげーよ、ただの従兄弟だっつの」

 暫く治療を続けると拳凰の意識もはっきりし出し、元気に会話ができるようになった。夏樹からからかわれる拳凰は、ぶっきらぼうに返す。花梨や魔法少女達には背中を向けて顔を合わせようともしない。恥ずかしい所を見られて拗ねているのである。

「おいチビ助、もう大丈夫だ。そこのお前ら、俺と戦え。全員まとめて相手してやる」

 照れを誤魔化したい拳凰はまだ完治していないにも関わらず立ち上がり、魔法少女達にバトルを申し込んだ。

「遠慮しときまーす」

 ハンターとは戦わず逃げるのがセオリー。魔法少女達は一目散に逃げ出す。

「おい、待ちやがれ!」

 追いかけようとする拳凰のズボンを、花梨が摘んで引っ張る。

「まだ治療の途中だよ、ケン兄」

 拳凰は渋々と腰を下ろした。

「またこんなボロボロになって……本当ケン兄は無茶ばっかりするんだから」

 二人っきりになったところで、花梨は拳凰に小言を言う。

「でも、ケン兄のお蔭でみんな助かったんだよ。さっきの人達も、みんな本当はケン兄に感謝してるはずだよ」

「別に何だっていいぜ。俺は強そうな奴を見つけたから戦っただけだ」

 強がる拳凰を見て、花梨は微笑ましそうに苦笑い。

「それにさっきのも……私、すっごく嬉しかった」

「忘れろチビ助」

 拳凰は恥ずかしくてたまらず、花梨のお尻を掌で軽く叩いた。

「ひゃっ!? もう、ケン兄のバカ!」

 むすっとしている花梨に対し、拳凰は顔を背けて掌で目を覆っている。

「はい、これで全部治ったよ」

「……おう」

 と、そこでタイミングを見計らったかのようにザルソバのアナウンスが入る。

『残り人数が六十四名になりました。これにて最終予選を終了致します』

 それと同時に花梨の変身が解け、私服姿に戻る。

「よかった、終わる前に全部治せて」

 花梨はほっと一息。拳凰は俯いていた顔を上げ、ザルソバの声響く空を見上げた。

『魔法少女の皆様を王立競技場に転送いたします。最終予選通過、おめでとうございます』

「……だそうだぜ。よく頑張ったな、チビ助」

 やっと花梨の目をはっきり見て、拳凰は言う。

「うん、ありがとうケン兄」

 そう言ったところで、拳凰と花梨は共にその場から姿を消した。



<キャラクター紹介>

名前:藍上(あいうえ)織江(おりえ)

性別:女

学年:中三

身長:157

3サイズ:82-60-80(Cカップ)

髪色:黒

髪色(変身後):白

星座:双子座

衣装:全身にパンツびっしり

武器:パンツ

魔法:パンツをコピーした相手を操れる

趣味:下着研究

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