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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第二章 最終予選編
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第39話 悠木姉妹・姉

 蘭は横倒しにしたジャンプ台を空中に出現させ、それを踏んで地面と水平に跳ぶ。加速力をつけて寿々菜に突っ込むつもりだ。

 だが寿々菜は瓦を盾にして防ぎ、破片で蘭を攻撃。大量の破片を体に浴びて怯んだ蘭に、寿々菜は正拳突きを喰らわせる。

 吹っ飛んだ蘭はバネの短いジャンプ台をクッションにして体勢を立て直す。更に続けて、寿々菜の真下にジャンプ台を出現させた。寿々菜は素早くそれを察知し、地面を割る勢いで放った力強いパンチでジャンプ台を粉砕。空中に投げ出されるのを防いだ。蘭はそれを隙とばかりに、四つのジャンプ台を空中に設置。自分の足下に出現させたジャンプ台を使って寿々菜にキックを繰り出すと、そこから反射して空中のジャンプ台に飛び移り再び寿々菜にキック。四つのジャンプ台を巧みに利用し、ピンボールのように加速しながらキックの連撃を寿々菜に浴びせる。

「どう? あたしの必殺エターナルジャンピングは!」

 無限コンボで寿々菜を追い詰め、勝ち誇る蘭。だが始めは蘭の思うがままに攻撃を受けていた寿々菜だったが、すぐにその軌道を読めるようになり空手仕込みの手捌きで攻撃を的確に防いでゆく。

「な……あたしの技が防がれている!?」

 蘭がそのことに気付いた時、既に寿々菜は必殺技の構えに入っていた。

「獅子頭聖拳!」

 ライオンを模った鬼瓦が、突っ込んできた蘭に強靭な顎で噛み付く。魔法少女でなければ骨ごと噛み砕かれ無惨な姿になっていたであろう、凄まじい威力の一撃。鬼瓦が消えると、バリアに包まれた蘭がいた。

「えーん、そんなー……」

 まさかの敗北に泣き言を言う蘭。拳凰を排除したまではよかったが、蓋を開けてみれば圧倒的な実力差で完敗を喫することとなった。彼女もまた、寿々菜のひ弱そうな容姿を見て舐めてかかった者だったのである。


 一方その頃、恋々愛に破れた幸次郎はシステムルームに転送されていた。

「おかえりなさい、幸次郎君」

「乙」

 カクテルとソーセージが幸次郎を労う。

「すみません、ご期待に沿えず脱落してしまって……」

「構いませんよ、貴方より先に脱落した最強の傭兵さんもいますから」

 息をするように他者を煽るカクテル。彼の酷く嫌味な性格には、騎士団の面々もほとほと手を焼いていた。

「カクテル、何故そなたはいつもそう……」

「構いませんよ王女殿下。自分が最初に脱落したのは事実ですから」

 カクテルを注意したムニエルを、デスサイズが宥める。

「ところで君、さっきいい思いしてた的なー? どんな感触だった的な?」

 ポタージュはそんなギスギスした空気を無視して、幸次郎に詰め寄った。

 そう言われた途端に、幸次郎は恋々愛の胸の感触を思い出し顔から火が出る。そしてそのまま、何も言わず部屋の隅っこで縮こまった。

「おおー、顔面灼熱紅蓮斬的な?」

「ウブな奴だな」

 そんな様子を見て、ハンバーグが吐き捨てた。

「ところで一つ気になることがあるのだが」

 デスサイズが話題を変える。

「幸次郎は魔法少女でもないのに何故魔法が使えるんだ?」

「正確に言えば、彼ではなく彼の剣が魔法を使っています。幸次郎君自身は魔力も持たない普通の人間なのです」

 いつもの如く、ザルソバが解説した。

「つまりその魔法の剣を持てば俺でも魔法が使えると?」

「いえ、そうではありません。幸次郎君の剣は元々彼の双子の姉である魔法少女、穂村瑠璃さんのもの。魔法少女と双子という特殊な立場にあるが故の、例外中の例外なのですよ。普通の人が魔法の武器を持っても魔法を使うことはできません」

「なるほどな……」


 一方その頃、織江との戦闘から逃れた花梨は、次の対戦相手を探していた。

(あれは……)

 目の先に見える、一人の魔法少女。花梨は手に注射器を持ち、戦闘態勢に入る。がだ相手の衣装を見て、考え直した。

 相手の魔法少女が着る衣装は、さながら和式トイレをイメージしたようなものであった。手に持つ武器はトイレの詰まりを直すラバーカップ。そして頭に被った帽子は茶色いとぐろ――言わずと知れたウの付く汚物を模ったものだ。

 関わってはいけないオーラをこれでもかと言うほど放つその少女。花梨は足音を立てないように回れ右し、来た道を引き返そうとする。

「逃がすかなのだ! うんこスプラッシュ!」

 少女が魔法のステッキの如くラバーカップを振ると、魔力によって生成された巻きグソが花梨に飛んでくる。

「ひぃっ!?」

 花梨は顔を青くして逃走。しかしうんこは花梨の頭上を跳び越えて、逃げ道を塞ぐように前に落ちる。

「何なのもー! この大会変な魔法少女多すぎ!」

 あまりのことに、花梨はつい愚痴を叫んだ。


「一体何ぜよ、あの下品な魔法少女は! 担当はどいつぜよ!?」

 システムルームではミソシルが怒り心頭に発していた。

「シラネーヨ」

「彼女の名は斑目(まだらめ)うゆゆ、小学五年生の双子座。つまり担当はソーセージですね」

「おのれかああああ!!!」

「ジサクジエンデシタ」

 しらばっくれるソーセージに、ミソシルが掴みかかる。だがその瞬間ソーセージはドロンと消えた。


 降り注ぐうんこの雨。うゆゆはそれに合わせて歌って踊り出す。

「うーんこうんこ、うーんこうんこ」

 うんこダンスを踊りながら、辺り一帯にうんこをばら撒く。

「しょ、消毒液っ!」

 花梨は必死の形相で薬瓶から消毒液を発射。消毒液に触れたうんこは跡形もなく消滅した。


「まさに汚物は消毒、ってか」

 システムルームでハバネロが自分のモヒカンを軽く撫でながら言った。

「ムニエル様、あのようなものを見てはなりませぬぜよ!」

「構わんぞミソシル。汚いものから目を背けてばかりいては王は務まらん」

 ムニエルの眼前に掌を広げるミソシルを、ビフテキが止めさせた。

(確かに汚いものだけど何か意味が違う気がする)

 幸次郎は心の中でツッコんだ。

「あのうんこ使い、黙ってりゃ美少女なんだがな」

「顔がよくても言動がアレじゃ台無しカニ」

「彼女の魔法は汚物を操り相手に毒を与えるというもの。更にそれに加えて生理的嫌悪感も武器の一つと言えるでしょう。ふざけているようで、意外と侮れませんよ」

 ザルソバの真面目な解説。事実、花梨はうゆゆの汚物攻撃にすっかり及び腰となっていた。

 ただ一つ幸運なのは、毒攻撃に対して圧倒的優位に立てる消毒液を自分が持っていたことである。それでひたすらうんこを消滅させながら、相手の隙を窺う。

「ぐぐぐ……毒使いに消毒液を使うとは汚いのだ!」

「汚いのはそっちでしょ!」

「だったらうゆゆも考えがあるのだ。うゆゆのもう一つの必殺技で、お前を倒すのだ!」

 うゆゆはそう言うと、突然花梨に背中を向けた。

「え? 何?」

 まさかの自分から隙を作ってくれた相手に、花梨は戸惑う。

「デストロイおならバズーカ!」

 技名を元気に叫び、うゆゆの尻からビームが発射された。

「ひいいいいっ!?」

 新たなるお下劣攻撃に、花梨は悲鳴を上げる。どうにか走って避ける花梨だったが、うゆゆは体の向きを変え、ビームで花梨を追う。

 花梨はどうにか反撃に出ようと注射器を生成。うゆゆの尻に向けて投げた。

「ふぎゃっ!?」

 刺さって驚いた拍子にビームが止む。

「ちょっ!? やめるのだ! うゆゆは注射キライなのだー!」

 急に焦り出すうゆゆ。花梨は更に三本の注射器を出した。

(あの子、注射が苦手みたい。このまま注射器で攻めていけば勝てる!)

「許さないのだー! うんこスプラッシュ!」

 うゆゆは再びうんこ攻撃に切り替える。こんな攻撃かすりもしたくない花梨は、慌てて消毒液をぶち撒けた。

「うんこにまみれればいいのだー!」

「絶対に嫌ー!」

 絶対に注射をされまいと必死になってうんこをばら撒くうゆゆと、絶対にうんこに触れたくないと消毒液でそれを消滅させる花梨。二人のバトルは消耗戦の様相を見せ始めていた。

 壮絶な魔法の撃ち合いの最中、突如異変は起こった。二人の周囲の木々に、満開の桜が花咲いたのである。

「な、何なのだ!?」

「わかんないよ!」

 妖精界の植物に人間界の桜が咲くはずがない。これが魔法少女の魔法であることは明白だった。

 二人は一旦バトルを中断し、キョロキョロと周囲を見回す。思わず見惚れてしまいそうなほどの豪勢な桜並木を、背筋を伸ばして優雅に歩く影が一つ。

 桜色のロングヘアに、桜模様の着物。手に扇子を持ち足には下駄を履いた、和装の魔法少女。全身桜の意匠のコスチュームを見て、二人はこの桜が彼女の仕業であることを理解した。

(あの人、さっきの子のお姉さん!)

 花梨は彼女の顔を開会式で見ていた。つい先程織江から花梨を救った悠木小梅の姉、悠木歳三である。

「新手なのだ! お前もうんこスプラッシュでやっつけてやるのだ!」

 うゆゆは早速必殺のうんこ攻撃で、歳三を狙い撃つ。対して歳三が舞を踊るような動きで扇子を振ると、木々に咲いた桜から花弁が舞い散った。汚いうんこと美しい桜の対決。花梨は危険を察知し全身に包帯の盾を纏わせる。

 花弁が付着すると、うんこは消毒液の時と同じように消滅した。花梨の包帯にも花弁は降りかかり、盾のように硬化した包帯はただの包帯のように柔らかくなる。

(包帯が柔らかく……これじゃ防御にならない!)

 花梨は包帯に魔力を送り硬度を復活させるも、満開の桜並木から絶えず花弁が供給されるためすぐにまた戻ってしまう。

「な、何なのだー!?」

 驚いていて防御を忘れたうゆゆは、体に直接花弁が降りかかる。体に花弁が付着すると、途端に全身の力が抜けた。

「お、おかしいのだ……体が、ふにゃって……」

 立っていられなくなり地面に膝をつくうゆゆを、歳三は扇子で扇ぐ。小さな風は竜巻となり、舞い散る花弁を桜吹雪へと変えた。

「なんて下品な子。女の子ならもっとお淑やかになさい」

 花弁の一枚一枚が刃となり、桜吹雪がうゆゆの全身を切り裂く。それはさながらミキサーの中にでも閉じ込められたかのような、凄まじい斬撃の嵐。

「なのだァーーーー!!!」

 変な悲鳴と共に一瞬でHPを削り切られたうゆゆは変身解除され、バリアに包まれた。

(つ、強い……!)

 圧倒的すぎる力に、花梨は血の気が引いた。この相手と戦って、勝てるビジョンが浮かばなかった。

 歳三の目線が花梨の方を向く。うゆゆを倒したら、当然次に狙われるのは花梨である。

(どうしよう……戦う? それとも逃げる……?)

 目に見える場所の木々は、ほぼ全て桜が咲いている。この周辺一帯が、彼女の領域。一体どこまで逃げれば逃げ切れるのか。途方も無い絶望感が、花梨を襲った。


「やはり恐ろしいな、魔力無力化の魔法って奴は」

「そうカニ! 本当に恐ろしいんだカニ!」

 歳三の強さに感服するハンバーグに対し、カニミソが感極まった表情でそう返す。

 当初蟹座の本命だった魔法少女、山田(やまだ)晴香(はるか)は、二次予選で歳三と対戦していた。晴香は少なくとも智恵理よりはずっと強い魔法少女であり、それまで無敗だった。本命同士の対決故に注目度も非常に高かったこの試合。しかしそこで晴香は完封負けを喫した。それがトラウマになったことで負け癖がつき、彼女は優勝本命の実力者にも関わらず二次予選で敗退してしまったのである。

「しかも相手の体に直接当てれば力を抜けさせるという効果もある。速くなることしか取り得のない妹とは格が違うぜよ」

 歳三の星座は山羊座。担当のミソシルも勝ち誇る。

「花梨……」

 ムニエルは不安げな目で花梨を見ていた。

「ところで皆さん、悠木歳三も宜しいのですが、こちらにも注目して頂きたい」

 カクテルが一つのモニターを指差す。先程ミスターNAZOが棒立ちしていた場所を映していたモニターである。

「何的な? ミスターNAZOに動きでもあった的な?」

 軽い気持ちでモニターを見るポタージュ。だが次の瞬間、ポタージュは口をあんぐり開いた。

 目を離している内に移動していたようで、既にそのモニターにミスターNAZOの姿は映っていなかった。その代わりに映っていたのは、先程までミスターNAZOの着ていた服一式である。

「どこに行った的な!? ていうか何で服脱いでる的な?」

「こっちにいるカニ!」

 カニミソの指差すモニターに映るのは一人の魔法少女と、それに迫る一つの影。

 涎を撒き散らし、目の焦点は合っておらず、その上おむつ一丁という出で立ちの中年男性。それが奇声を上げながら鉈を振り回し、魔法少女に切りかかったのだ。

「ゲェーッ! これがミスターNAZOの正体!」

「な、何的なあれは。あんなものがテレビに映るのは放送事故じゃない的な!?」

「ムニエル様! 今度こそ本当に見てはなりませぬぜよ!」

 阿鼻叫喚に包まれるシステムルーム。拘束されていた時よりも更に気味の悪い真の姿を見せられ、騎士団の面々は顔が引き攣る。その傍ら、カクテルは一人邪悪な笑みを浮べていた。

「ククク……さあここからがミスターNAZOのショータイムです!」



<キャラクター紹介>

名前:悠木(ゆうき)歳三(としみ)

性別:女

学年:高一

身長:160

3サイズ:85-59-89(Cカップ)

髪色:黒

髪色(変身後):桜色

星座:山羊座

衣装:桜柄の着物

武器:扇子

魔法:桜吹雪によって魔力を無力化する

趣味:日本舞踊

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