表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第二章 最終予選編
31/157

第30話 最終予選

 最終予選当日の早朝。決戦に向けての最終調整を終えた拳凰達は、ビフテキの指示に従って別の場所へとワープしていた。

「ここは魔法少女バトル本戦以降で使われる王立競技場のシステムルームです」

 そこには競技場内の映像を映す多数のモニターと、放送設備があった。部屋内にいるのはザルソバ一人である。部屋の奥には、一つの銅像が飾られている。

「おっ、エロい銅像があるじゃねーか」

 案の定拳凰はその銅像を見に行く。それは所謂裸婦像というやつで、モデルは十代前半の少女。現代人の感覚からしてもなかなかの美少女で、顔立ちからして人種はアフリカ系のように見える。手に持った杖を高く掲げて立つ勇ましいポーズで、少女はこの部屋を見守っていた。

「それは第一回魔法少女バトル優勝者の像ですよ」

 中央にあるメインモニター操作部の前に座るザルソバが、振り返って言った。

「最初の魔法少女バトルはアフリカの貧しい国で行われました。試験的なものだったため参加者も少なく小規模な大会だったそうです」

 裸婦像を堂々と見る拳凰に対し、幸次郎は直視できず横目でチラチラと見ている。普通の裸婦像ならまだしも、本人を忠実に再現したためかアンダーヘアまでしっかりと掘り込まれたこの像は芸術品というより何やらいやらしいもののように見えて仕方が無いのだ。

「つーか腋毛ボーボーだなこいつ。昔の人だから剃ってないのか?」

 少女は手を挙げて腋を見せるポーズをしていたため、嫌でも腋毛が目立ってしまっていた。

「我々妖精には腋毛を始め所謂無駄毛の類いは生えませんからね。人間の腋毛が珍しがられていたのでしょう。まあ、我々にも男性の髭と男女問わず陰毛は生えますが」

「そういうもんなのか」

「ここでその像に関する薀蓄をもう一つ。当初その像は競技場入り口近くの目立つ場所に設置されていたのですが、参加する魔法少女の方々から不評でしたもので。近代に入ってからその場所には当時のコスチュームを着た像が新たに設置され、この裸の像はシステムルームに移されたのです」

「実際エロいもんなこの像。女が見てあんまいい気がしねーのもわかるわ」

「自分も裸の像を作られちゃうんじゃないかとか、思っちゃいますよね……」

 そうして話していると、この部屋に更に二人の男が入ってきた。一人はカクテル、もう一人は目隠しをされ全身を拘束された不気味な男であった。男の首輪から伸びる鎖は、カクテルが握っている。

「やあやあ皆さん、四人目のハンターを連れてきましたよ」

「ようやく四人目のおでましですか。我々の前にも一切姿を見せずその管理をカクテルさんに一任されていた四人目のハンター……危険な人物だとは聞いていましたが、なるほど確かにこれは危険そうです」

 訓練所にも現れたことはなく、拳凰達も会うのは初めて。そしてザルソバの言うとおり、妖精騎士団の殆ども彼の姿を見るのはこれが初めてであった。

 一目見ただけで異常だと解るその姿に、緊張感が走る。

「彼の名はミスターNAZO。全てが謎に包まれた謎の男です。調整は私の方でしっかりとしておきましたので、ご安心を」

 そう言われてもこんなわけのわからない人物を見せられては、誰一人安心はできなかった。

「……さて、ハンターも全員揃ったことだし、そろそろ本題に入ろうか。ザルソバ、頼む」

 ビフテキが言う。

「はい。現在ここにいる三名とムニエル様を除く八名の騎士が、魔法少女達をこちらに移動させております。騎士達は魔法少女よりも先に世界移動を完了し、このシステムルームで我々と合流。その後魔法少女達がモニターに映る競技場内にワープされます。開会式を終わらせた後、皆さんは魔法少女と共にユニコーンの森へとワープし、試合開始です」

「ユニコーンの森……ユニコーンがいるんですか? あの角の生えた馬の」

「いえ、本物のユニコーンはいません。一角獣座から名前を取っただけですので。そもそもユニコーンとは人間界の架空の生物であり、それが妖精界にいるわけがありません。勿論、角の生えていない馬も妖精界にはいませんよ」

「何だ、スライムとかドラゴンとかゴブリンとかもいねーのか。戦ってみたかったんだがな」

「スライムやドラゴンはそういう名前はしていませんが、似たような魔獣がいないこともないですね。ゴブリンは明確にいないと言い切れます。妖精界において知性を持ち文明を築くことのできる生物は我々妖精だけです。人間界の架空の生物で言うところのゴブリンやヴァンパイア、或いはオークやワーウルフ等といった亜人や獣人に類するような生物は存在しないのです」

「確かに、僕達の世界でも文明を築ける生物は人間しかいませんからね。あ、そういえばこの世界って、星座は人間界と同じものを使っているんですね。夜にホテルの窓から天の川が見えましたけど、もしかして星空は人間界と同じだったりするんですか?」

「いいことを聞いてくれました!」

 ザルソバは歓喜して幸次郎に顔を近づけた。

「そう、妖精界の星空は人間界と全く同じなのです。何故かと言いますと、妖精界が作られた時、創世の女神オムスビが人間界の空を写し取って妖精界の天球に貼り付けたと言われているからです」

「天球?」

「はい。人間界の星は宇宙に浮かぶ天体が見えているものですが、妖精界の星は違います。地球を取り囲む天球と呼ばれる球体の内側に付いている平面の発光物体、それが星です」

「何だそりゃ? この世界の宇宙はどうなってんだ?」

「プラネタリウムの星を想像していただければ解り易いかと思われます。勿論、太陽と月も同じです」

「なるほど、つまりこの世界に本物の星は地球しかなくて、空の星は全部偽者ってことか」

「そうなりますね。そもそも、妖精界には宇宙という概念自体が無いのです。天球は強固な壁であり、向こう側に行くことはおろか向こう側がどうなっているのか観測することすら不可能。そもそも天球の向こう側なるものが存在するのかさえも解りません」

「宇宙の無い世界……小さく狭い世界というのは、そういう意味でもあったんですね」

「星座は星空を写し取った際にオムスビが広めたと言われています。まだ人間界に行く技術が確立されていなかった時代、妖精界の民は星座から人間界のことを知っていたのです。そのため山羊は下半身が魚の生物だと思われていましたし、ペガサスやドラゴンは人間界に実在する生物だと思われていたとか……」

「ザルソバ、流石に話が脱線し過ぎているぞ」

 ビフテキに注意され、ザルソバは名残惜しそうに解説を止める。

「えー、ごほん。では最終予選概要を再開致しましょう」


 拳凰達がザルソバによる最終予選の解説を受けていると、魔法陣から一人の妖精騎士が現れた。

蟹座(キャンサー)のカニミソ、ただいま戻りましたカニ」

「おや、流石担当する魔法少女が一人しかいない方はお早いですね」

「いやー、それなら誰か俺に任せてくれればよかったのにカニ」

 カクテルの嫌味に対し、カニミソはすっとぼけて返す。

「貴方に任せるのは少々不安でしたもので……」

 ザルソバが淡々と答えた。ちなみに魚座をハンバーグが代理輸送している他は牡牛座をハバネロ、天秤座をミルフィーユ、水瓶座をソーセージが代理している。

 カニミソの到着後少ししてから、他の騎士達も一人一人こちらに戻ってきた。そして最後に、人間界に行かずこちらの世界で別の準備をしていたムニエルが姿を現した。

「全員揃ったようじゃな、諸君」

「ムニエル様!」

 ハンバーグが頬を染めながら、喜びの声を上げた。

「おおハンバーグ、どうじゃ、この衣装は」

 開会式のために用意した衣装を見せながら、ムニエルは言う。三日前に見た仏頂面の印象とは打って変わって、今日の彼女は歳相応の無邪気な表情をしていた。

 だがそれ以上に拳凰の中で大きく印象を変えたのは、何と言ってもハンバーグである。

「とてもお似合いです、ムニエル様」

 跪き、畏まった口調で話すその姿は、拳凰と戦っていた時の粗暴な印象と比べて別人のようにすら見える。

「あの野郎、お姫様の前じゃキャラ変わってやがる」

 ハンバーグの意外な一面を見て、拳凰は呆れていた。

 褒められたムニエルは、ぱっと光り輝くような笑顔を見せた。

「さて、ムニエル様の準備も終わったことだし、そろそろ魔法少女達をこちらに転送するとしよう。ムニエル様もお立ち台へ」

「うむ、そうじゃな」

 ムニエルが魔法陣に行きシステムルームを後にすると、ビフテキがザルソバとアイコンタクトをとる。ザルソバは手元のパネルを操作し、別室にいる司会者に情報を伝えた。それを受けた司会者は魔法少女転送の準備が整ったことを観客にアナウンスし、盛り上がるBGMが流れ出す。そして競技場中央が光に包まれ、二百人の魔法少女が満を持して降臨した。

『ご覧ください! 彼女達が一次予選・二次予選を勝ち抜いた二百名の魔法少女です!』

 司会者の声が響く。二百人の強敵に、拳凰の目はモニターに釘付けとなった。騎士達は慣れた様子で、感想を言ったり解説をしたり、自分の担当する魔法少女を自慢したりしている。

 少ししたところで、ビフテキは競技場内に向けてアナウンスをする。そしてムニエルの演説が行われた後、入れ替わりにザルソバが魔法陣に向かい壇上へとワープした。魔法少女達に最終予選の解説が行われたら、次はハンターの紹介である。ハンター達は先程ザルソバから説明された手筈通りに魔法陣へと入り、壇上で紹介を受けていった。

「よし、最後は俺だな」

 ミスターNAZOの紹介が終わると、次はいよいよ拳凰の番である。この晴れ舞台に心躍らせる拳凰は、ビフテキから貰った胴着の帯を強く締め自分に気合を入れた。

『そして最後に紹介するのは……圧倒的な強さに妖精界でもファンを多数生み出し、今回の魔法少女バトルを盛り上げてくれた噂の乱入男!』

 ザルソバのアナウンスに合わせて、拳凰は壇上に上る。

『最強寺拳凰ー!』

 アナウンスを掻き消すほどの歓声。威風堂々たる佇まいで仁王立ちし、緑の瞳で見下ろす拳凰に観客達は沸き立った。

 まさかの再会に驚き鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている花梨を、拳凰は魔法少女の中から見つける。

(チビ助の奴、何て顔してやがる)

 花梨と目を合わせる拳凰。当の花梨はひっくり返りそうなほど驚いていたが、やがてこの状況を理解した。

(そ、そっか、ケン兄がもっと強くなれる方法ってこういうことだったんだ……)

 少し落ち着いたところで、花梨はふと後ろの声に気が付く。

「ねーねー、あん中だったら誰が好みー?」

 丁度花梨の後ろにいた四人組の一人が、他の三人に尋ねていた。

「急にどしたの清美(きよみ)? まあ、あん中で選ぶならやっぱ剣士の子でしょ」

悠里(ゆうり)は無難だねー。まああたしもそれ選ぶけどさ。沙希(さき)は?」

「私はあの外人の人かなー」

「え? 乱入男? あの人ハーフじゃないの名前日本人だし」

「そっちじゃなくてー、あの渋い傭兵の人ー」

「えー意外。沙希ってああいうおじさんが好みだったんだ」

「私は知ってたよ沙希がおじさん好きなの」

 これから最終予選が始まろうという時に、緊張感も無くハンター達を品定めする四人組。

(あの四人、友達同士なのかな?)

 花梨はもしかしたら自分も唯と一緒にここに来られたかもしれなかったのにと思うと、少し寂しくなった。

「剣士の子も可愛くていいけど、乱入男も結構イケメンだよな」

「おー、(まい)は乱入男派ですか」

 四人の話が拳凰のことになったので、花梨は耳を澄ます。

「あー、でも乱入男って聞いた話によれば戦闘狂なんだろ? 付き合ったら絶対DVとかされそう」

(ケン兄はそんなことしないよ!)

 拳凰を悪く言われ、花梨はむすっとした。

「ミスターNAZOだけは無いわな」

「同意ー。あいつキモすぎ」

「でも意外とああいうのに限って素顔イケメンだったりするかもよ」

「ないわー。いくら素顔イケメンでもアレは無理。だって拘束されてんだよ? 何かウーウー言ってるし。絶対変態だよ。ていうか犯罪者でしょ」

 ミスターNAZOに対する圧倒的ダメ出し。事実、この男は誰でも関わり合いを拒否したくなるような異様さを全身から放っていた。


 四人組が暢気に話をしている中も、開会式は進行する。

「それではこれより、魔法少女とハンターの皆様をユニコーンの森に転送致します」

 ザルソバはそう言いながら、手元のフェアリーフォンを操作。花梨の目に映る景色が、一瞬にして森の中に変わった。周りに沢山いた魔法少女達の姿も見えない。全員がバラバラの場所に転送されているのだ。

「魔法少女の皆様、まずは変身をお願いします。なお衆人環視の中で変身するのが恥ずかしい方のために、変身用ボックスをご用意致しました。どうぞご自由にお使いください」

 花梨の横に、試着室のような箱が出現した。花梨は当然その中に入り、魔法少女バトルアプリを立ち上げ変身する。他の魔法少女達もその多くが同様にボックス内で変身を行っていた。

 だが二百人もいれば、中には変身を人に見られることを恥ずかしいと思わない者もいるにはいるのである。

(わたくし)にはこんな箱必要ありませんわ! テレビの前の皆様、私に注目なさい! マジカルチェーンジ!」

 二次予選で花梨と対戦したセレブ魔法少女、黄金珠子である。着ている服が粒子となって消え、彼女は自身の裸体を惜しげもなく晒す。

 珠子は自身のプロポーションに絶大な自信があった。中二にしてEカップ。小柄でスレンダー巨乳の理想的ボディを、他者に自慢したくてたまらないのだ。コスチュームの上半身が両胸に紙幣を一枚ずつ貼り付けただけのほぼ裸であるのも、それを反映したことによるものであった。

 変身用ボックスをあえて使わないという選択をした魔法少女は、珠子のように見せたくてやっている者ばかりではない。単にそういうことに無頓着な恋々愛も、ボックスを使わずに変身していた。

 他にも非日常感を楽しみたい、魔法少女が変身にこんなものを使うのは無粋、罠が仕掛けられている可能性を警戒、恥ずかしいけど使ったら負けな気がする……等といった理由でボックスを使わない魔法少女もいた。

 システムルームでは、今回の変身用ボックスの使用者不使用者の統計を取っている。

「二百名中、ボックス不使用者は十三名ですか」

「前回大会よりも減ってる的なー?」

「ドイツ人はそういうことに大らかなところがありますからね」

 ザルソバとポタージュはモニターに映る変身中の裸体を見ながら、そんな会話をする。

 妖精界の女性は普段からボディラインをはっきりと出す服装をしていることもあり、隠す場所さえ隠れていれば何も問題無いという考えが普通である。体が発光して隠すべき場所が隠れていたとしても恥ずかしいと感じる人間の考え方は、妖精にとっては不思議に感じるのだ。


 変身が終わると変身ボックスは消滅するが、全員が変身を終わらせるまではその場から動くことができず魔法も使えない。

 少ししたところで、ザルソバのアナウンスが入った。

「只今全員の変身が完了致しました。十秒後に最終予選を開始致します」

 そう言った後、カウントダウンが始まる。

 変身の必要がない拳凰は魔法少女達が変身する間ずっと動けない状態で待たされていたため、やっと来たかと心を躍らせていた。

 秒を刻む毎に高鳴る胸。更なる強敵との激戦への期待。ザルソバが「試合開始!」と宣言すると同時に体は自由を取り戻し、拳凰は勢いよく走り出す。

「よっしゃあ! 行くぜーっ!」

 最終予選の火蓋は、切って落とされた。



<キャラクター紹介>

名前:蠍座(スコーピオン)のハバネロ

性別:男

年齢:40

身長:186

髪色:真紅

星座:蠍座

趣味:掃除


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ