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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第二章 最終予選編
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第29話 男三人

 拳凰達がビフテキに連れてこられたのは、宮殿に併設され広大な敷地を取って作られた訓練所であった。

「ここは我々妖精騎士団専用の訓練所です。しかし今回は特例として、あなた方三名に開放致します。最終予選で陛下の期待通り活躍して頂くためには体作りも必要でしょう」

「この訓練所で、騎士団の方々が日々腕を磨いているんですね」

「はい、ここでの訓練効果は我々のお墨付きです。三日後の試合までの間自由に出入りできますので、存分にお鍛え下さい」

「そいつは楽しみだな。早速使わせてもらっていいのか?」

「いえ、もう一つご案内する場所がございますので、その後でお願いします」

「わかったぜ。じゃあ早速次に案内していってくれ」

 拳凰は早くトレーニングがしたくてたまらない様子で、ビフテキを急かした。


 続いて連れてこられたのは、先程の王宮とはまた別の城のような建物であった。

「こちらがあなた方が妖精界に滞在する間宿泊して頂く王立アンドロメダホテルです」

「こ、これがホテル!? てっきりお城かと……」

「元々魔法少女の宿泊施設として建てられたホテルですからね。妖精界に魔力エネルギーの恵みをもたらす魔法少女達をもてなすため、豪勢に作ってあるのですよ」

「てことはチビ助達もここに泊まることになるのか」

「はい、最終予選を突破した魔法少女の方々もこちらで宿泊して頂きます」

「ほー。じゃ早速中見せてくれよ」

「かしこまりました」


 ホテルに入ると、出迎えの従業員が一斉に頭を下げた。ホテルの内装は王宮と似た妖精界の伝統様式で、庶民は足を踏み入れるだけでもおこがましいとでも言うような気品を漂わせている。

「す、凄いですね……」

「本当にVIP待遇だな。こいつはいいぜ。飯にも期待できそうだ」

 緊張でぎこちない挙動になる幸次郎とは対照的に、拳凰はこの非日常感に胸を躍らせていた。

 三人のハンターはビフテキの案内でエレベーターに乗り、上の階へと向かう。

「このエレベーターも魔力で動いてるのか?」

「はい。魔力による反重力浮遊方式を採用しております」

「ほー、宙に浮かんでるのか。すげーなー」

 拳凰の好感触な反応に、ビフテキは満足そうに微笑んだ。


 エレベーターは最上階に止まり、三人はその中の一室に案内された。

「こちらが、あなた方のお部屋です。一番広い最上等の部屋をご用意致しました」

「ほー、俺ら随分と歓迎されてるじゃねーか」

「ベッドが四つありますけど、もう一人の方もこちらに?」

「いえ、彼は別の場所に宿泊致します。こちらの部屋は三人でお使い下さい」

「一人だけ特別扱いか。どんだけ強いんだそいつは」

「……本当に特別扱いされてるのは誰だかな」

 口数の少なかったデスサイズが、拳凰の発言に反応したことに幸次郎は驚き振り返った。

「訓練所には準備が出来次第再度ご案内致しますので、暫くはお部屋でお寛ぎ下さい。それと、拳凰様にはこちらを」

 ビフテキは魔法で出現させた大きな鞄を拳凰に手渡した。

 部屋では幸次郎とデスサイズが荷物を降ろし、部屋内の備品を確かめていた。

「流石高級ホテル……大体何でもありますね。あ、最強寺さんどうしたんですかそれ」

 拳凰は鞄から服を取り出すと、胴着を脱いでそれに着替え始めた。

「あのマッチョジジイが普段着用にってこの世界の服を沢山くれたんだ。他にも日用品とか、訓練用の胴着とか……げっ、あの貴公子服も入ってやがる」

「最強寺さん、何も持たずにこの世界に来たんですか? 最初の服もホームレスみたいでしたし」

「まあ、急だったからよ」

 幸次郎とデスサイズは、ちゃんと着替えや日用品を入れた鞄を持って妖精界に来ている。手ぶらで来たのは拳凰だけなのだ。

 訓練用の胴着に着替えた拳凰は、ビフテキが戻ってくるまでの間とりあえずベッドに寝転がって待つ。だがふとしたことを思い出し、起き上がった。

「そうだデスサイズのおっさん、戦場の話してくれよ。どんな強敵と戦ったのかとかさ」

「話をするのは別に構わんが……戦場の光景や無惨な死体が夢に出てくるのが嫌ならやめておくのが懸命だぞ」

「ぼ、僕はご遠慮しておきます!」

 幸次郎はびくりとしながら手を挙げて拒否を宣言。

 その直後、ビフテキがワープで姿を現した。

「お待たせ致しました拳凰様。こちらのワープパネルから訓練所まで直通となります」

 部屋の隅に出現した正方形のワープパネルを、三人は見た。

「こっから直接行けるのか。便利だな」

「訓練所からもこちらの部屋に直通ワープできますので、是非ご利用下さい」

「そんじゃ早速行こうぜ幸次郎。デスサイズのおっさんも」

「あっ、はい」

 拳凰はすぐにでもトレーニングを始めたいとばかりに、ワープパネルに飛び込んだ。幸次郎もそれに付いていく。デスサイズは一人、部屋に残っていた。

「君は行かないのかね?」

 拳凰がいた時とは違う口調で、ビフテキが尋ねた。

「いや……まるでホテルと訓練所以外の場所に行くなとでも言っているようでな」

「妖精界に人間の男性が来るということ自体過去に前例が無いのでな。余計なトラブルを避けるためだ。了承できないかね?」

「いや、ただ少し気になっただけだ。あんたには恩義があるし、それに今は俺の雇い主だ。指示には従うさ」

 デスサイズはビフテキに背を向け、武器を入れた鞄を担ぎワープパネルへと向かった。


 訓練所ではハンター達に使い方を説明することを兼ねて、実際に妖精騎士達が訓練を行っていた。

「汚物は消毒だー!」

 叫び声を上げながら、広範囲に設置された的を火炎放射器で一斉に焼き払うのはモヒカン妖精騎士のハバネロである。

 その後ろのスペースではホーレンソーが弓で、ザルソバが拳銃で的の中央を正確に撃ち抜いていた。

「ここは射撃訓練用のスペースのようだな。俺が使わせてもらう」

 デスサイズは鞄からライフルを取り出し、射撃訓練を始めた。

「この世界にも銃ってあるんだな」

「現代的な銃と昔ながらの弓が並んで訓練してるのって、何か不思議な光景ですね」

 現代とファンタジーが混ざり合った妖精界の独特の世界観を、拳凰と幸次郎は改めて不思議に思った。

「弓と銃なら銃の方が強いというのは人間界だけの話なのだよ。妖精界の魔法弓術は銃より遥かに強力だ」

 ホーレンソーが前髪を掻き揚げて言う。

「確かにこの世界では剣や弓や素手で銃と互角に戦える技術が発達しているため、人間界のように銃が圧倒的に強い武器というわけではありません」

 ザルソバは眼鏡を光らせつつ、手元のパネルを操作。先程まであった的が消え、新たな的が十個出現。更にそれが不規則に高速移動を始め、射撃訓練の難易度を大幅に上げた。ザルソバは目線を動かさず正面を見据えたまま、弾をリロード。

「ですが決して弱い武器でもありませんよ」

 引き金を引き、銃口から放たれた弾は一つの的の中心を撃ち抜く。次の瞬間、的の中心から電撃が迸り的が砕け散った。飛び散った破片はその全てが周囲にある九つの的の中央を撃ち抜く。

「弦の引き方でいくらでも応用を利かせられる弓と違って、銃は引き金を引くだけ。素人でもある程度使い物になることが銃の利点の一つですが、私ほどの達人ともなれば銃で他の武器にも劣らぬ応用を見せることも可能です」

 的の動きや破片の飛び散る方向を完璧に計算しての射撃。一発の弾で十の的を撃ち抜く脅威の技術を目の当たりにし、拳凰は武者震いした。

「やっぱり凄えぜ……妖精騎士団!」

 一方デスサイズは、一度自身の手を止めザルソバの神業を横目で見ていた。ザルソバもそれに気付き、デスサイズの方を向く。

「いかがですか、人間界最強の傭兵さん」

「……銃の腕もさることながら、真に恐るべきは魔法の力だな。拳銃でそれだけの威力と正確さを出すには魔法無しでは不可能だろう」

「ええ。私はこの銃に雷の魔法をかけています。言っておきますがインチキというわけではありませんよ。この世界では魔法の技術は武器の技術と同等に重要視されるものですから」

「ああ、わかっている」

「ところでどうでしょう、貴方もその実力、見せて頂けませんか」

「別に構わんが、生憎俺は一つの弾で十の的を壊す曲芸は持ち合わせていないのでな。普通に十発撃たせてもらう」

 デスサイズはライフルを構え、高速で動く的に鋭い眼光で狙いを定めた。一つ、また一つと的確に的の中央が撃ち抜かれてゆく。機械のように正確な射撃に、見ている者達は息を呑む。

 だが順調に九つまで撃ち抜いたところで、異変は起こった。それまでデスサイズに近づき過ぎないように動いていた的が、突如不自然に軌道を変えデスサイズに突っ込んできたのだ。

「あっ、危な……」

 だが幸次郎が叫び終わる前に、デスサイズは銃を手放し腰に差したナイフの柄を掴んだ。目にも留まらぬ居合い抜きが、飛んできた的を粉砕。これにて十の的は全て壊した。

「おっと、言い忘れていましたがこの的は一定時間が経つとこちらに襲い掛かってきます。とはいえ、貴方にとっては大した問題ではなかったようですね」

 説明好きのこの男が大事なことを言い忘れたという時点で、わざと言わなかったであろうことは誰もが理解していた。そしてそんな不測の事態にも冷静に対応し最善の策をとるデスサイズの実力の高さも、誰もが理解したのである。

「妖精騎士団も凄えが、このおっさんも凄え……俺も負けてらんねえぜ!」

「それはそうと、お二人はこんなところで油を売っていてよろしいのですか?」

「っと、そうだったな。俺らも自分のトレーニングに行こうぜ幸次郎」

「は、はい」


 拳凰と幸次郎が次にやってきたのは、主に近接武器で戦う騎士の使用するスペースである。

 ミソシルがランスを手にマシンガンの如き連続突きを繰り出し大きな岩の塊を粉砕する横で、ムニエルが二本の剣で素振りをしている。

「それでは、僕はここで」

「おう。お前も頑張れよ幸次郎」

 幸次郎と別れた拳凰は、更に奥にある格闘用のスペースへと向かった。

 スペースの一角にはガラス張りの部屋が一つあり、その中ではハンバーグが一人でひたすらスクワットをしている。拳凰はとりあえずそちらに行ってみた。

 拳凰が近づくとハンバーグはスクワットを止め、近くにあったパネルを操作して扉を開いた。

「入ってこいよ、最強寺拳凰」

 ハンバーグは挑発するかのように手招き。拳凰はあえてそれに乗り、ガラス張りの部屋に入った。

 扉が閉まる。次の瞬間、突然拳凰は体が重くなったようになり、体重を支えきれず床に片膝をついた。

「ぐ……てめえ何のつもりだ……」

「ここは重力魔法による加重トレーニングルームだ。どうだ、重力二倍の世界は。普段俺が使う時はもっと倍率を上げてるんだが、今回はお前に合わせて優しくしてやってるのさ。悔しかったら俺についてきてみな」

 ハンバーグは拳凰を煽ると、さながら早送り再生のような高速スクワットを始めた。

「野郎……上等だ。やってやる!」

 拳凰は根性で立ち上がり、ハンバーグに続けてスクワットを始めた。


 初めて体験する魔法式トレーニングの数々。

 様々なトレーニングをして疲れ果てた拳凰は、床に大の字で寝転がった。

「くそっ……妖精騎士団の連中はいつもこんなトレーニングをしてやがったのか……」

 立ち上がることすらままならない拳凰に対し、ハンバーグはいい汗かいたとばかりの様子でピンピンしていた。

「ほらよ、疲労回復のポーションだ」

 ハンバーグが自販機で買ったドリンクを拳凰の顔面に放り投げる。中身の入った缶を鼻面にぶつけられ、拳凰は声を漏らした。

「その様子じゃ缶も開けられないか? 俺は開けてやんねーけどな。ククッ、俺と競いながらやるのは流石にキツかったかもなあ。次は俺のいない時にやることをお勧めするぜ。今日よりは楽になるだろうからよ」

 拳凰を煽るだけ煽り、自分のポーションを飲みながらハンバーグは去っていった。

 ハンバーグがいなくなった後、拳凰は力を振り絞って上体を起こし、缶を開けてポーションを飲む。ポーションの効果は覿面で、すっと疲れが引いて立ち上って歩けるまでになった。

「あのクソ野郎め、今に見てろよ!」

 この行き所の無い怒りを拳に籠め、近くにあったサンドバッグをぶん殴る。拳はサンドバッグにめり込み、今にも突き破らんとばかりしていた。

「あ、最強寺さん、いたいた」

 幸次郎の声がした。拳凰がそちらを向くと、幸次郎も猛特訓を重ねていたようですっかり疲れ果てた様子だった。

「トレーニングに夢中になって気付きませんでしたが、いつの間にか日が暮れていたみたいです。そろそろホテルに戻りませんか」

「そうだな。風呂にでも入って、残りの疲れも取りてーしな」

 拳凰と幸次郎は途中でデスサイズも拾い、ワープパネルでホテルへと飛んだ。拳凰は早速浴室へと直行する。

「よーし風呂入ろうぜー。おっ、ここの風呂広いなー。三人一緒に入れるんじゃねーか?」

「ぼ、僕は一人で結構ですので……」

「せっかくだから一緒に入ろうぜ。これから暫く寝食を共にする仲間なんだからよ。ほらデスサイズのおっさんも」

 拳凰は子供のようなテンションで二人を風呂に誘う。デスサイズは断ってしつこく纏わり付かれるのも面倒なので承諾。幸次郎も渋々承諾した。

(困るなー……僕、風呂は一人で入りたいのに)

 幸次郎はタオルで下半身を隠しながら縮こまる。一度心を許すと途端に馴れ馴れしくなる拳凰の態度には、ほとほと困り果てた。

(それにしても……)

 拳凰とデスサイズの鍛え上げられた肉体を、幸次郎は横目で見た。自分もそれなりに鍛えてはいるが、所詮は中学生。この二人と比べたら酷く貧相にしか見えなかった。

 男として完敗した気になった幸次郎は、ますます縮こまったのである。



<キャラクター紹介>

名前:魚座(ピスケス)のムニエル

性別:女

年齢:12

身長:150

3サイズ:82-54-85(Dカップ)

髪色:薄紫

星座:魚座

趣味:水泳


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