第155話 次元破壊砲、発射
とてつもない衝撃波が、辺り一帯を包み込む。
「ケン兄っ!!」
「呼んだか?」
花梨の叫びに呼応するように、拳凰はそのすぐ側に着地。
衝撃に衝撃をぶつけ無傷で乗り切った拳凰は、無事を花梨に伝えるだけしてすぐさま駆け出す。
すぐに切り返して大剣を振り下ろすオーデンに対し、拳凰はパンチの嵐をぶつけた。
「効かぬわ!」
圧倒的なパワーを以って拳凰の手数を打ち砕くオーデン。力の差をその身に感じながらも、拳凰の心は昂っていた。
「いいねぇ叔父さんよ。こういう奴との戦いを待ち望んでたぜ!」
手招きする拳凰の眉間目掛けて大剣の切先が突き出されるが、拳凰は瞬時に跳んで避けると大剣の上に足を乗せて駆けた。
思わぬ手段での接近に、オーデンは動じることなく身構えていた。
拳凰が殴りかかる寸前、オーデンは大剣を左手一つに持ち替えて右の拳でカウンターを打ち込む。が、拳凰は即座に腕の動きをパンチから掴みに切り替え。大剣を片手持ちに変えたことで重心バランスの悪くなったオーデンの二の腕を掴み、薙ぎ倒すように投げ伏せる。更に追撃とばかりに、着地がてら顔面を踏み蹴った。
否。拳凰が踵に感じたのは床を砕いた感触。オーデンは倒れながらも大剣を手放して瞬間移動が如き動きで回避。その流れで拳凰の後ろに回り込んだ。後頭部を掌で掴み、拳凰の顔面を床に打ち付ける。
「ケン兄!!」
花梨が叫ぶと、オーデンは右手で拳凰を掴んだまま左手だけを花梨に向ける。その時、拳凰が首の力だけで起き上がってオーデンの右腕を跳ね上げる。その勢いで回し蹴りを放ち、オーデンの左掌を狙い打った。掌から放とうとしていたビームはその場で爆発。拳凰の右足とオーデンの左手が焦げ付くが、大したダメージではない。
「花梨に手ェ出してんじゃねーよ!」
続けて、鳩尾にストレート。吹っ飛んだオーデンに追撃をかけるのは、回復を終えたムニエル。空中を突っ切り、オーデンの喉笛を掻っ切る勢いで双刃を振るう。
「ぬるい!」
一度は手放された大剣アレスが独りでに浮き上がって、ブーメランのように回転しながらオーデンの手に収まった。逆手に掴んだ大剣の刃で双剣を防ぐと、そのままムニエルを押し返す。
「あれほど力の差を見せつけられてもまだ我に挑んでくる気力が残っていたか。愚かな娘よ」
「ここは俺一人に任せて下がってろ。花梨を頼む!」
「いや……そうはいかぬ! 我は妖精王オーデンの娘として……父の所業に後始末をつけねばならぬ!」
再びオーデンへと向かって双剣を振るうムニエルだったが、軽くあしらうように振りかざされた大剣に阻まれる。
「一度防がれた技を二度も……」
そうオーデンが言いかけた時。ムニエルはクロスした双剣で挟んだ大剣を支柱にするようにして身体を時計回りに移動させ、突き出した左脚でオーデンの鳩尾に蹴りを入れた。
華奢な肢体からは想像もつかぬズンと重い音が鳴り、オーデンの煌びやかな鎧を凹ませる。魔力を乗せた一撃に抉られたオーデンは一度苦悶の表情を浮かべるも、すぐに邪悪な笑みへと戻る。
「失せろ愚か者が!」
オーデンは左の掌に集めた魔力を、ビームにして撃ち出す。瞬間、拳凰の拳がビームを打ち消した。
「下がってろっつったろ! あぶねーだろが! やりたかねーがクソロンゲから頼まれちまってんでな、あんたに死なれちゃ困るんだよ」
「ハンバーグが……」
ムニエルは頬を染めながら後退し、花梨の側へと戻る。
「ならば仕方があるまい。それにもう、時間稼ぎの必要もないからのう」
「何?」
その時一瞬オーデンの背後が光った。振り返ったオーデンの翠の瞳に映るのは、次元破壊砲に備え付けられた魔石が砕け散って消滅する光景。
拳凰とムニエルの戦闘の最中こっそりと次元破壊砲に近づいたカニミソが、封印された者達の解放を操作端末から入力したのである。
ムニエルが参戦したのは、オーデンの視線が次元破壊砲に向きそうになったので注意を引き付けるためだ。
「う、上手くいったカニ……」
心臓をバクバク言わせながら操作をしていたカニミソは、息を切らしてその場に腰を下ろした。その横で申し訳程度に護衛していた智恵理も、安心して気が抜ける。
「これで封印されていた者達――魔法少女も、ハンターも、そして妖精騎士団も、全員が解き放たれた。もう次元破壊砲は撃てぬ!」
「ムニエル貴様……!」
「そういうことかよ。よくやったカニホスト!」
激昂してカニミソにビームを撃とうと拳凰から目を離し隙を晒したオーデンの顔面目掛けて、右ストレートが打ち込まれる。吹っ飛んだオーデンに追撃をかけようとするが、吹っ飛ばされながらもカウンターに大剣を振ってきたので拳凰はブレーキ。
「おのれ貴様らよくも……よくも我が希望を……!」
大剣を勢いよく床に突き立てて固定したオーデンは両腕を広げ、そこから四方八方に向けてビームを乱射。拳凰はすぐさま花梨の側へと駆け寄り、拳でビームを無力化し花梨を守った。ムニエルも拳凰が花梨の方に行ったのを見てカニミソと智恵理を守りに行く。
「カニミソよ、素晴らしい働きであった。智恵理殿もよくやってくれた。我に守られながら花梨の所へ移動せよ!」
「了解カニ!」
双剣でビームを弾きながら指示を出すと、カニミソ慌てて立ち上がって敬礼。指示に従って移動したカニミソと智恵理は、花梨の横まで来てようやく一息つく。
「最強寺拳凰よ、三人の護りは我に任せよ。どうか父上を倒し、その野望を完全に打ち砕いてくれ」
「ああ、任されたぜ!」
こちらも花梨の護りをムニエルに託し、ビームを撃ち続けるオーデンへと足を進める。
全身に魔力を張り巡らせて強化した上で一瞬で間合いを詰め殴りかかった拳凰に対し、オーデンは即座にビームを撃ち止め大剣を抜く。
「許さんぞ……貴様ら如きが我を出し抜くなど……!」
怒りに震え唸るような声を出すオーデンは拳凰を左右に両断しようと頭上から大剣を振り下ろすが、斬られる寸前に横に跳んで回り込んだ拳凰から頬にパンチを打たれる。
オーデンが大剣を切り返すより早く、拳凰はラッシュで追い打ちをかけた。
「許されねーのはてめーの方だ! オーデン!!」
「ぬかせ!」
殴り続けられながらも強引に拳凰を叩き斬ろうとすると、拳凰は引いて溜めた右の拳を一気に突き出し大剣の刃を打つ。
パァンと音を響かせて砕け散る刃。オーデンは愕然として目を見開いた。
「馬鹿な! 神の剣が!」
だがそう言った直後、歯を食いしばって床にビームを放ち空中へと退避。宙に浮かびながら、恨めしい視線を拳凰に向けた。
「どこまでも……どこまでも我を苛立たせる! ならばこちらにも考えがある!」
オーデンは右の掌を広げると、何を思ったか次元破壊砲に向けてビームを放った。照射先は、先程まで巨大な魔石の載せられてた場所。オーデンの魔力を吸収した次元破壊砲は、再び息を吹き返したように稼働を始めた。砲口の先の壁に次元の裂け目が現れ、その先に映るは青い星、地球。
「何する気だ!」
「フハハハハ! たとえ生け贄がいなくとも、我が全ての力を注ぎ込めば次元破壊砲は撃てる! こいつの照準は日本にセットしてある。これで貴様の故郷は木端微塵だーっ!」
神の力を注がれて一瞬にしてエネルギーを溜め切った次元破壊砲は、人間界目掛けてその破壊の衝動を解き放った。
「させるかーっ!!!」
次元の裂け目を庇うように駆け出した拳凰は、ビームの一滴たりとも人間界には行かせまいと全身の魔力を振り絞り己の身にバリアを張って耐える。
(あいつの魔力ビームを見よう見まねでやってバリア化してみたが、案外とできるもんだな。腐っても親戚ってか。だが日本丸ごと消し去れるだけの威力だ。一体どれだけ耐えられるか……)
そう考えている間にも、魔力と体力をゴリゴリと削られてゆく。歯を食いしばり必死に堪えて踏ん張るも、神の力を増幅して放った次元をも穿つ砲撃が相手では分が悪い。
(く……俺がやられたら……何もかも終わっちまう! 絶対に……絶対に守る!!!)
根性で立ち向かう拳凰。だが次の魔の手は、もうすぐ側まで迫っていた。
(あいつ、これだけの魔力を使ってまだ動け……)
殺気を感じて振り向いた拳凰。エメラルドグリーンの瞳同士が、視線を重ね合う。折れた大剣のリーチまで接近したオーデンは、ビームの相手で手一杯の拳凰に怒りと憎しみを籠めた神の刃で一閃を放った。