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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第153話 双剣のプリンセス

 拳凰達一行は、黄道十二宮最後の宮へと到達していた。

 ステージに待ち構える薄紫色の長い髪をツインテールに結った少女は、高貴なオーラを放つが如き凛とした佇まいでまっすぐこちらを見据えていた。

 年齢や背丈の割に大人びたプロポーションを見せつけるが如きぴっちりとした水色のレオタードに身を包み、腰に巻いたベルトには二本の宝剣を差している。

 妖精騎士団最後の一人にして、妖精王国王女たる魚座(ピスケス)のムニエル。花梨にとっての、大切な友達でもあった。

「ムニちゃん……」

「よくぞ来た、花梨。其方と刃を交える覚悟はできておる」

 腰の両側に差した剣の柄を逆手に握ったムニエルは、それを引き抜くと共に指で回し順手に持ち変えた。

 ステージに上がろうとする花梨だったが、その前に拳凰が手を広げ止める。

「待て花梨。ここまで散々俺達の回復に魔力使ってきたんだ、もう殆ど魔力残ってないのに無理するな」

 だが花梨は、首を横に振るのである。

「ううん、私にやらせて。我儘なのはわかってる。でもムニちゃんとだけは、私がやらなきゃいけないの」

 拳凰の静止を拒んでステージに上がった花梨は、ムニエルの二刀流に対抗するように巨大な注射器を二つ生成して両手に一本ずつ持った。

「お願いムニちゃん、剣を収めて。私はムニちゃんと傷つけ合いたくない」

「それは無理な相談じゃ。我は妖精騎士として、父上に従う義務がある」

 ムニエルは踏み込んで駆け出し、瞬時に花梨の眼前まで現れると二本の剣を揃えて振り下ろす。花梨は注射器の針を×の字を描くように重ね、刃を受け止めた。

「ムニちゃんのお父さんへの気持ちはわかるよ。でもこんな戦争間違ってる!」

 注射針に魔力を籠めて、ムニエルを押し返す。ムニエルはふわりと宙を跳ね、しなやかに着地。

「わかっておる……わかっておるのじゃ……」

「だったら戦う必要なんてない! ムニちゃんは王様になるんでしょ! それならたとえお父さんでも悪い王様なんかに従ってちゃ駄目だよ!」

 再び接近して花梨と切り結ぶムニエルだったが、その言葉を聞きムニエルの手が止まった。



 それはオーデンの恐るべき計画が明らかになる前のこと。ムニエルはハバネロから呼び出されていた。

「ムニエル様」

「何用じゃハバネロ」

「貴方様が王位に就かれた際の闇の一族(ダークマター)の処遇について、現在のお考えをお聞かせ願いたく存じます」

 ハバネロがサングラスを外して跪き尋ねると、ムニエルは戸惑いつつもハバネロの目を見て頷いた。

「うむ……其方も知っての通り、我は闇の一族(ダークマター)を快くは思っておらぬ。あれは民に恐怖を与えるものであり、民の王家に対する信頼を失わせるものじゃ。其方らには申し訳ないとは思うが、我の代で廃止したいと考えておる」

「構いませんよ。我ら一族は妖精王陛下の命令に従うのみ。貴方様が解散せよと命じれば、我々は即刻その役目を放棄することでしょう」

 ムニエルの意向を肯定するハバネロ。だがそれだけでは終わらず、ハバネロは続ける。

「しかしお言葉ですがムニエル様。これまでにも数多くの若き王族が同じ理想を掲げ、やがて現実を知り我々を頼ってきたのです。貴方様と同じ闇の一族(ダークマター)否定派であるかのユドーフ様でさえ、己の目的を成すためならば闇の一族(ダークマター)の行使を辞さない意向を示しておられました」

「それでも我は――」

「貴方様はハンバーグに想いを寄せておられる」

 ムニエルが反論しようとした所に被せてハバネロは図星を突く一言。

「彼は軍人や騎士として、そして孤児救済の慈善活動において優れた実績を持っていますが、それでも卑しい身分の出である上に犯罪歴もある身。王家に婿入りすることに反対する者は多いことでしょう。ですが闇の一族(ダークマター)の力を使えば、貴方様の結婚に反対する者を黙らせることができます」

「だからどうしたというのじゃ。我は民に恥じぬ王となる。闇の一族(ダークマター)が王家を堕落させると言うのなら、尚更廃止せねばならぬ!」

 強い口調でそう言い切ると、ハバネロはフッと笑いサングラスをかけて立ち上がりムニエルに背を向けた。

「畏まりました。貴方様がその御意思を貫き通せるか、臣下として見守らせて頂きます」



 花梨との交戦の最中、ムニエルの脳裏に浮かんだのはハバネロとの一件。

 果たしてオーデンの野望に加担することが、自分の目指す王の姿なのか。葛藤の中、ムニエルは剣を下ろした。

「……すまぬ花梨。我が間違っていた」

「ムニちゃん……」

「共に父上を止めよう。それが我の王女としての責任じゃ」

 そうムニエルが言った瞬間、ヒュンと風を切る音。

「下がれ花梨!」

 ムニエルは花梨を突き飛ばし、自身も飛び退く。

 バシンと大きな音を立てて、先程までムニエルの立っていた場所に向かって伸びた鞭がステージの床を打つ。

「やはり裏切りましたねムニエル様」

 どこからともなくステージ上に現れたのは、きわどいハイレグカットにTバックというかなり露出度と高い黒のレオタードの上から白いエプロンを着用し、頭にはホワイトブリムを付けた妖艶な美女。長い黒髪を揺らめかせながら、手にした鞭を再びムニエル目掛けて振り下ろす。

「ラタトゥイユ! 何故其方がここにおる!?」

 花梨を抱えて回避したムニエルは、翠色の瞳で睨んだ。

 ムニエルを狙ったのは、先代魚座(ピスケス)でもある蛇遣座(オフュカス)のラタトゥイユである。

「勿論陛下のご命令ですよ。陛下は貴方のことなんて微塵も信頼していなかった。だから私を遣わして、貴方が裏切った時に始末できるようにしていたのです」

「そうか……ならば我は其方を倒さねばならぬな」

 花梨を背にして立ち、双剣を構える。花梨は不安げにムニエルを見ていた。

「ムニちゃん……」

「下がっておれ花梨。今の其方では、一撃でも貰えば終わりじゃ」

「いくら貴方が王女でも、その足手纏いを守りながら私と戦えますかしら? 私とて神の血の端くれ、貴方と戦えるだけの力は備えていますのよ?」

 鞭に打たれた二か所の床から、鞭の音が繰り返し再生される。その音は繰り返される度大きくなり、やがて衝撃を発生させる。床の石材が砕けて、ムニエルへと襲い掛かった。

 剣で石を弾くムニエル。だがその隙を狙って、ラタトゥイユは直接鞭を叩きこもうとしてきた。

 ラタトゥイユの魔法は、鞭で打った場所に音を残し、その音を衝撃に変えるというもの。しかも時間がたつ毎に音は大きくなるため、長期戦ほど不利になる。たとえ防御してもそれに使用した武器や防具に音を設置され、身体に直接鞭を喰らえばそれは死を意味する。とにかく避けるしか防ぐ術はない、恐ろしい攻撃なのだ。

「ムニエル! お前を殺して私が陛下の子を産むのよ!!!」

 激しくうねる鞭は無数に分身して見え、回避の方向を惑わす。一歩間違えば即死の一撃を身に刻まれる。そこでムニエルの取った手段とは――どっしり構えて迎え撃つことだった。

「ムニちゃん危ない!」

 だが花梨の心配とは裏腹に、ムニエルの高速の乱れ斬りは容易く鞭を切り刻んだ。魔力によって研ぎ澄まされた刃は、音すら鳴らすことなく鞭を切り裂く。

「馬鹿な!?」

 バラバラにされて柄しか残らない自慢の鞭を見て、ラタトゥイユは驚嘆の声を上げた。

 その一瞬の隙に接近したムニエル。ラタトゥイユが慌てて視線を前方に向けた時にはもう遅かった。すれ違いざまに二つの傷を身に刻まれたラタトゥイユは前のめりに倒れ、ステージを血に染めたのである。

「申し訳ございません……陛下……」

 ラタトゥイユの姿が消え、結界が解ける。そして妖精王オーデンの待つ最奥への扉が、鈍い音を立てて開いたのである。

「やった!」

 智恵理がガッツポーズ。ムニエルは花梨と共に、そちらへと歩み寄った。

「諸君ら、我も共に戦おう。カニミソよ、よくぞ彼らに味方してくれた」

「己の正義に従ったまでですカニ」

 カニミソはムニエルの前に跪く。拳凰はにっと笑顔を見せた。

「あんたがいれば百人力だぜ。よろしくなお姫様。ああそうだ、クソロンゲがあんたのことを心配してたぜ」

「そうか、ハンバーグが……」

 ムニエルが俯くと、拳凰の視線は開いた扉の先に向けられる。

「いよいよだな……この先に最後の敵が……妖精王オーデンがいる」


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