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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第151話 人形使いは笑う

 ガリの背後にワープした恋々愛が斧を振り下ろすと、ガリは素早く前に出て回避。すぐさま後ろに糸を飛ばして恋々愛を切り裂こうとするが、瞬時にワープで避けられる。

 恋々愛のワープ魔法は、ある程度の物質がある場所にはワープしないようになっている。つまりどこにワープしてもその瞬間に恋々愛をバラバラにできるようステージ全域に糸を張り巡らせても無駄なのだ。

 だが恋々愛は糸の張られていない隙間に的確に現れては斧で糸を叩き切り、ガリへと迫る。どれだけ糸の強度を上げようと恋々愛の馬鹿力には敵わず、容易く切断されてゆく。

「いやぁお強い。流石は今大会最強の魔法少女です。ではこれならどうです?」

 ガリが次に取った手は、ワープ可能な隙間が無いほど大量の糸を張り巡らすこと。これで恋々愛はワープ魔法自体を使用不能になった。

 だがそんなものは、恋々愛が荒ぶることを封じるには至らない。大降りに薙ぎ払って糸を一網打尽にし道を切り開くと、次こそは当てるとばかりに狙いすまして斧を振り下ろす。

 が、ガリに当たる前に突如恋々愛の手は宙で止まった。ガリの前に出現した魔法陣から出てくる人影。それを見て恋々愛は攻撃を止めたのである。

「さぁ~て、次のお人形さんの登場ですよ!」

 大量の糸を放ったのは、召喚が完了するまでの時間稼ぎ。その“人形”は濃褐色の肌に、長い銀色の髪。そして高い背丈と抜群のプロポーション。驚くほど恋々愛と瓜二つの容姿をした美女であった。

「ご紹介致しましょう。先代乙女座(バルゴ)、ティラミス・ディフダさんです。貴方のお母さんですよ、古竜恋々愛さん」

 歓喜に沸き立つような声色で、ガリはせせら笑う。

 魔法少女バトルで優勝したら叶えてもらうつもりだった願いは、思わぬ形で叶った。ホーレンソーと同じように虚ろな目で立つティラミスは、殺意に溢れた巨大な斧を両手で掴んでいる。

「お母さん……? どうして……?」

「陛下に許可を頂き、投獄されていた彼女を私の手駒にしました。腐っても元妖精騎士、戦力としてはこの上ない代物です。長年に渡る獄中生活で精神が疲弊していましたからね、支配することも簡単でしたよ」

 ガリのあまりに非道な手段に、一行は揃って絶句した。

「おやおや、どうしてそんな顔をするんです? 貴方の願いを叶えてさしあげたのですよ? 尤も、今から貴方はそのずっと会いたかった母親によって斬り殺されるのですがね!」

 ティラミスは虚空を見つめるような表情のまま斧で大きく横薙ぎにする。恋々愛はそれを斧で受け止めるが、パワーで押し切られ後退。その背後には鋭利な糸のトラップが仕掛けられていたが、瞬時にワープしてそちらは回避。


「なんてパワーだカニ! 騎士団にいた頃から全く衰えを感じさせない……」

 観戦していたカニミソは愕然とする。だがすぐに、その理由を察した。

「カクテル……いやガリはティラミスさんの肉体の限界を超えて動かしてるんだカニ! たとえ体が壊れようと構わないつもりで!」

「そんな!」

「あんな奴を仲間の一員として野放しにしていたのは俺達騎士団の責任だカニ……」

 悔しさに拳を握り歯を食いしばるカニミソを、智恵理は何も言えずに見つめていた。


「お母さんやめて!」

 斧と斧で押し合う母子。恋々愛は虚ろな目をした母の顔に自らの顔を近づけ必死に叫び続けるが、その訴えはティラミスには届かない。母を攻撃することができず防戦一方となる恋々愛を眺めながら、ガリは愉悦に震えていた。

「さあさあ親子で殺し合って下さい! 親が子を殺すか! 子が親を殺すか! どちらに転んでも最高のショーですよ!」

 悪趣味極まる言いように皆は怒りを募らせるが、相手が結界の中にいる以上手出しはできない。どうにか恋々愛がこの邪悪の化身をぶちのめしてくれることを願うしかない。

「お母さんっ!!!」

 恋々愛は斧を大きく上に押し上げ、ティラミスの斧を弾き飛ばす。

「おや、これは……」

 子が親を斬る。その瞬間をガリは心待ちにしていた。だが恋々愛の取った行動は、その想像を覆すものだったのである。

 自らも斧を投げ捨て、大きく腕を広げてティラミスを抱きしめる。智恵理がカニミソにやったのと同じことだ。

 だがカニミソは正気だったから、それで説得できた。完全に精神を支配されているティラミスには何の効き目も無く、ただ隙を晒すだけの行動だ。

「殺れ! ティラミス!!」

 ガリが叫ぶ。だがその瞬間、恋々愛の身体が強い光を放った。何も見えなくなるほどの眩い閃光が辺り一帯を包み、そして皆が目を開けた時、ステージ上にはガリしか残されていなかった。

「これは一体――なるほどそういうことですか。己の魔力を全て使ってワープの魔法を極限にまで高め、ティラミスと共に自ら魔石へ……母親と戦いたくないが故の行為ですか。とんだ茶番ですね。まったくどいつもこいつも私の楽しみをキャンセルして……不愉快ですよ」

「不愉快なのは貴方の方よ」

 ガリのこめかみを矢が掠める。ステージに上がった梓に、一本の尾が生えた。

「次は貴方ですか。貴方こそは私に惨殺されて、ちゃんと私を楽しませて下さいよ!!」

 梓を切り刻まんと襲い来る、網目状の鋭利な糸。だが梓は弓の弦に魔力を伝わせ、剣のように薙いで糸を切り払った。そのままの流れで矢を番え、ガリを狙い撃つ。

「残念! 当たりませんよ!」

 これまた紙一重で回避するガリ。その前方には魔法陣が出現する。

(また操り人形にした人を召喚する気!?)

 それを阻止せんと三本目の矢を放つが、それは何やら盾のようなものに防がれた。否、それは黄色い傘。梓はその瞬間、魔法陣から出てくる人物を察した。

「朝香ちゃん……」

 黄色いレインコートに身を包んだ、あどけない少女。梓や智恵理と同じチームで交流してきた、あの天戸朝香である。

「貴方を殺す人形はこちらです。私に従順な改造魔法少女――私の作り上げた最高傑作。如何です?」

 怒りに奥歯を噛み締める梓の前で、朝香は虚ろな目をした顔が黒い影に染まる。そしてレインコートと傘の色が血のような赤に変わり、耳を劈くような金切り声を響かせた。

「さあ殺しなさい朝香!」

 傘から撃ち出される、弾丸の如き赤い雨。二度に渡って梓を苦しめたトラウマ級の攻撃が、今再び梓に襲い来る。

「そう何度も何度も同じ手は喰らわないわよ!」

 梓が床に向けて矢を射ると、矢が光の盾へと変化。それに当たった赤い雨は消滅する。梓はすぐさま傘に向かって矢を放ち、傘を消滅させた。これで梓に生えた尾は五本。

「その尻尾、九本になったら必殺技が出せるんでしたねぇ。そうなる前に殺しておかなければ!」

 梓を拘束せんと糸を打ち出すガリ。細い糸を梓はしっかりと見極めて避けつつ、次の矢を朝香に撃つ。

「ごめん朝香ちゃん!」

 朝香に当たった矢は光の鎖となり、朝香をぐるぐる巻きにして拘束した。

「大賢者ガリ! これ以上貴方に誰かを侮辱させたりなんかしない! ホーレンソーも、双子座の騎士も、古竜さんのお母さんも、朝香ちゃんも、貴方が踏みにじった人々の思いを籠めて貴方を討つ!」

 三本の矢を同時に生成した梓はそれを一度に番えて放つと、一本はまっすぐ正面に飛んでいき残りの二本は左右に広がる。三方向からガリを攻める算段だったが、それらは全て糸に絡め捕られて塞き止められる。

 だがこれが止められるのは織り込み済み。梓の真の狙いは矢を撃つことそのものにあり、それによって三本の尾が一気に生えたのである。これで梓の尾は九本。究極進化した究極奥義を撃つ準備は完了した。

「消えなさい! 狐烈……」

 溜めた魔力を光の矢に注ぎ込んで弓を引く梓。だがその時、突如としてそれは中断された。

 弦が手から離れて緩み、途中まで生成されていた光の矢は消える。

 そしてステージの床には、先程まで弦を掴んでいた梓の右手が落ちていた。

 誰もが絶句する。ガリが密かに仕掛けた糸が、梓の右手首から先を切り落としたのだ。

「アッハハハハハ!! 手が無ければ弓は引けませんねぇ!!!」

 ガリの高笑いが響く中、梓は地に膝をつく。悲鳴を上げたくも歯を食いしばって堪え、顔を上げてまっすぐガリを睨んだ。

「ではさようなら。無惨なバラバラ死体になって下さい」

 そして再び、無数の糸が梓へと迫るのである。


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