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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第150話 大賢者ガリ

 宝瓶宮。黄道十二宮の十一番目に位置するこの宮を守る騎士は、水瓶座(アクエリアス)のカクテル――否、五百年の時を生きる不死身の大賢者、ガリである。

「ようこそ皆さん、歓迎しますよ」

 入って早々、ガリは小馬鹿にしたようなニヤケ面で挨拶をしてきた。だが、対する拳凰一行は険しい表情。

 まずガリを強く睨みつけるのは梓である。

「友好的なふりをしても無駄よ。貴方の正体は割れてるんだから。ねえ、大賢者ガリ!!」

 力強く言い放つ梓に対して、ガリは歯を見せてニカァと笑った。不気味さを感じさせる歓喜の笑みに、一行は戦慄する。

「そうですか。意識を取り戻したホーレンソーさんから聞いたんです? 彼はなかなか精神力が強く、私の調教中も度々意識を取り戻しなかなか人形になってくれませんでしたからね。その度に何度も体を痛めつけましたから、無駄な抵抗をせず素直に人形になっていた方が彼にとって楽だったのですが……」

「どこまでも外道ね。反吐が出るわ」

 いつもの調子で神経を逆撫ですることを言うが、対する梓は眉をひくつかせつつも冷静な態度をとる。

「それでどうします? 貴方が私と戦いますか?」

「お前の相手は僕だ」

 が、そこに割り込んだのは幸次郎である。

「カクテルさん……いや、ガリ! お前のせいで姉さんは……」

 剣先をガリに向け威嚇しながら、迸る眼力で睨む。

「おや、穂村瑠璃のことでしたら、魔法少女バトル脱落に際して昏睡状態が解け今は普通に生活を送っているはずですが?」

「知っている! だが姉さんの失った時間は戻らないんだ! 僕はお前を許さない!」

「ほう、それはそれは……では是非こちらに上がって来て下さい」

 手招きするガリ。幸次郎は迷わず足を進める。

「罠に気をつけろよ、幸次郎!」

 拳凰がそうアドバイスした矢先、幸次郎は結界を通ると同時に剣を振った。入口に仕掛けられた鋭利な糸は、一撃の下排除される。

「おや、気付いていたんですか」

「お前の性格はよく知ってる。こういうのを仕掛けてるのは予想してたし、神経を研ぎ澄ませれば見えないものじゃない」

 もしも気付かないままステージに上がっていたら、あっという間に細切れにされていただろう。

 肉眼で目視するのは非常に難しいほど繊細な糸を感知する幸次郎に、ガリも驚いた様子だった。

「お前を斬るのは僕のこの剣だ! ガリ!!」

 無数に仕掛けられた糸のトラップを切り刻みながら突っ込む幸次郎。が、途中硬い糸に刃を阻まれる。

(糸の硬度が上がった!? だったら!)

 幸次郎は即座に判断し、刃から糸に電気を流す。糸はガリ本体と繋がっており、ガリはホギョギョとおどけた声を出して痺れた。

「ほう……その白のオーブ、サンダーオーブの機能も持っていたとは」

 剣の柄に嵌められているのは、白のアルティメットオーブ。幸次郎は硬化した糸を排除するために、剣に炎を纏わせて焼き切る。そしてその振った剣から氷柱が三本発射されたのである。

「なるほど……三属性全てを……」

 ガリの指先から延びる糸が氷柱を掴んで縛り塞き止めている。ミサイルの如く発射された氷柱を細い糸がいとも容易く止める姿に、幸次郎は愕然とした。

(強い……ソーセージさんとは格が違う!)

「新能力を試したくて仕方が無い、という奴ですかね?」

 もう一方の手から出した糸で氷柱をすっぱりと切って消滅させながら、ガリは煽る。

「全ての魔法少女が朝香のように強いわけではありません。貴方のお姉さんは弱い魔法少女でした。強い魔法少女と弱い魔法少女、覚醒システムのサンプルとしてそれぞれ選ばれたのが朝香と穂村瑠璃だったのです。尤も彼女は弱すぎて覚醒の負荷に耐えきれずああなってしまいましたが。その点貴方は強くていいですね。あの姉と同じ能力ながらここまで成長するとは予想外でしたよ」

 せせら笑うガリ。安い挑発だとはわかっていても、幸次郎を怒らせるには十分だ。

「ふざけるな!」

 直接切りかかる幸次郎。ガリは隙だらけのその身体に糸をぶつけるが、絶対防御モードとなった幸次郎には触れる前に弾かれる。

 三つの属性と絶対防御。三属性の剣(トリニティーソード)が持つ全ての能力を同時に扱える、それこそが究極形態アルティメットフォームの力だ。

「ふむなるほど……体の表面に薄いバリアのようなものを……確かにこれは厄介そうですねぇ」

 余裕そうな調子で分析するガリに、強烈な袈裟斬りが直撃する。が、その攻撃は阻まれた。ガリの手にした禍々しい剣に。

「貴方は最強の剣士を目指しているんでしたね。ではせっかくなので私も剣術でお相手致しましょうか。この体の元々の持ち主は、学者であると同時に剣士としても優れた才能の持ち主でした。尤も、私はあまり趣味ではありませんが……」

 幸次郎の剣を受け止めた途端に、禍々しい剣は無数の糸へと変化。剣術で相手するとは何だったのか、その糸は幸次郎の身体に絡み付いた。

「な!?」

 まさかの出来事にぎょっとする幸次郎。絶対防御のバリアによって糸が直接身体に触れることはないが、前身をがっしりと拘束され身動きがとれなくなった。

「何やってんだ幸次郎!」

 拳凰が叫ぶ。ガリはニヤニヤとほくそ笑んだ。

「攻撃はできなくても拘束は可能……これは貴方も想定外でしたか? そりゃあそうでしょう。新しく目覚めた能力というのは、自分でもその全てを把握しきれないものです」

 幸次郎の額に冷や汗が垂れる。またも絶対防御を過信してピンチに陥ってしまった。たとえ能力が進化しても、そういう根っこの部分までは変えられない。

「さて、ここからは力比べです。私の糸が貴方のバリアを砕き貴方をバラバラに切り刻むか、或いは耐え抜くか……楽しませて下さいよ」

 ガリは幸次郎を拘束する糸に魔力を注ぎ、より強く締め付けた。幸次郎は慌てて自分もバリアに魔力を送り強度を上げる。

 だが、力比べとはいってもあちらが攻撃側でこちらが防御側である以上こちらの一方的なピンチではあるのだ。幸次郎の焦りは加速した。

(どうしよう……そ、そうだ!)

 幸次郎は剣に魔力を送って自分を巻き込んだ炎で糸を燃やそうとする。だがするとバリアに送る魔力が減り、糸の締め付けに押し負けてミシミシと音が鳴った。

(しまった!)

 慌てて魔力をバリアに戻すが、既に糸は深くバリアに食い込んで幸次郎本体に迫っていた。

 少し強度を緩めただけでこれなのだ、糸が燃えるより先に幸次郎が切り刻まれるのは間違いない。

「クククッ……恐怖に顔を歪めても構いませんよ。私はそういうのが大好きなので」

 そう言うガリの隣に、ドロンと現れた男が一人。黒装束に身を包んだ、幸次郎にとって見慣れた男。先程幸次郎が倒したはずの、双子座(ジェミニ)のソーセージだ。

「+激しく忍者+」

「な、何でソーセージさんが……!」

「せっかくですからね、彼にも参戦してもらうことにしました。彼は私が妖精騎士団に席を二つ置くために用意した人形です。疑似的な人格を持たせていますから自立行動もできますがね。ちなみに中の人は王国軍の将校です。それなりに強くて私の理想に合致していたので利用させて貰いました」

「お、お前はどこまで……!」

 怒りに震える幸次郎目掛けて、ソーセージはクナイを投げ続ける。糸が食い込んで脆くなった場所を的確に狙って、バリアを砕く補助を行うのである。

(ど、どうしよう……!)

 目の前に迫る惨殺。カクテルことガリの猟奇趣味はよく知っているだけに、尚更恐怖に駆られた。

「さあさあさあ、内臓ブチ撒けて惨めな死にざまを晒して下さいよ!」

「あっ……あああ……」

 パニックになりだす幸次郎を見て、ガリはますます愉悦した。

「幸次郎!」

 と、その時。恋々愛の声が響いた。

「死なないで幸次郎!」

 恋々愛の悲痛の叫び。幸次郎ははっとした。

(そ、そうだ! せめて死なないために……)

 白いオーブがカッと光る。幸次郎が炎に包まれたかと思うと、次の瞬間にはその場から消えていた。

「ほう、殺される前に自分から魔石に封印されましたか。私に対する嫌がらせも甚だしい、なかなかいやらしい判断をするものです」

 溜息をつきながらそう言うガリの顔面目掛けて飛んでくる巨大な戦斧。瞬時にソーセージが庇って吹っ飛ばされ、一撃の下に消えて魔石に封印された。

「許さない……幸次郎をあんなに苦しめて!」

 ガリの背後にワープして斧を掴んだ恋々愛が、怒りの視線を向ける。ガリはそれに下劣な笑いを返した。

「次は貴方ですか。これはこれは……惨殺のし甲斐がありそうな体ではありませんか」

 舐め回すように恋々愛を見て、ガリは舌なめずりをしたのである。


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