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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第148話 操られし射手

 第八の宮、人馬宮へと向かう階段の先陣を切るのは三日月梓。この先に控える射手座(サジタリアス)のホーレンソーと幾度となく交流を重ねてきた彼女は、目の前に迫る戦いに何を思うか。

(ホーレンソー……こんな形で戦うことになるだなんて……)

「梓……」

 不機嫌そうに目を細める梓を見て、智恵理はおずおずと声をかける。

「大丈夫だよ、あのホーレンソーさんだよ? 梓に頼まれたらあたし達の味方になってくれるって!」

「そうだったらいいけれど、妖精騎士団なんてどいつもこいつも戦う気満々だったじゃない。あの馬鹿が人間界侵略に加担するつもりなら、私がぶん殴ってやるわ」

「ホーレンソー、騎士団会議の時に様子がおかしかったカニ」

「え、それって……」

 カニミソの発言を聞いて智恵理が尋ねるも、カニミソが答える前に人馬宮へと到着、会話は打ち切られた。

 これまでの騎士と同じくステージ中央に待ち構えるホーレンソーは、虚ろな目で棒立ちしていた。その表情は、一言で表現するならば虚無。全てが空っぽになったかのような、生きているのか死んでいるのかさえはっきりしない人形のような顔。

「ホーレンソー、貴方が戦う気なら容赦しないわ」

 強気で啖呵を切る梓。対するホーレンソーは、梓がステージに上がる前に無言で弓を引いた。梓達を取り囲むように現れる魔法陣が現れると、そこから黒い光の矢が一斉に射出。

「またこのパターンかよ!」

 身構える拳凰。幸次郎は慌てて青のオーブを剣に嵌めるが、それより早く梓が弓を引いた。足元の床に向けて射られた矢は一行を包み込むバリアへと変化し、黒い光の矢を全てかき消した。

「貴方の相手は私よ。他の皆に手を出さないで」

 まっすぐホーレンソーを見ると、あちらは虚ろな目をしたまま無言で次の矢を番える。

「ホーレンソー、やっぱり様子がおかしいカニ! 騎士団会議の時もこんな風に無言で、人形みたいだったんカニよ!」

「そう、じゃああいつが正気じゃなさそうなのは確かね。少しだけ安心したわ」

 カニミソにそう告げると、梓はステージに上がって素早く矢を射る。ホーレンソーにそれに合わせて放った矢で相殺した。

「貴方が本心から侵略に加担するような奴じゃないってのはわかってる。どうせ魔法で洗脳でもされて従わされてるんでしょう? だったら私が目を覚まさせてあげる!」

 三本の矢を同時に番え、三方向に向けて射出。一本は正面から突っ込み、残りの二本は両サイドから回り込む。ホーレンソーはその場で大きくジャンプして三本全て避けると、矢をペン回しのように回転させて勢いをつけて即座に番え、空中から地上の梓を狙い撃った。

 しっかりと見切って避ける梓であったが、動いた先に飛来するのは雨霰の如く飛来する無数の矢。機関銃の如き勢いでなだれ込むそれを、梓は先程と同じく床に向けて撃ったバリアの矢でブロック。すると今度はまた矢を回転させて勢いをつけ、貫通力の高い一撃でバリアを粉砕する。

(強い……どこまで行っても私の上を行く……)

 たとえこんな状態になっても、ホーレンソーの弓術は通常時と何も変わらない。超絶技巧の達人技をいとも容易く放ってきて、梓の度肝を抜いてくる。

(それでも……私は勝つ!)

 梓の逃げ道を塞ぐように放たれた矢の弾幕。梓は弓を扇風機のように回転させて盾とし、飛来する矢を弾きながら突進。

「あいつ、接近戦をしかける気か!」

 拳凰が声を上げる。ホーレンソーの猛攻を掻い潜り接近した梓は、拳凰があっと驚く行動に出た。

「いい加減目を覚ましなさい!」

 気持ちのいい音が人馬宮に鳴り響く。梓のとった行動、それは右手を振り上げてホーレンソーの頬を平手で思いっきりぶつ――所謂ところのビンタであったのだ。

 それが存外威力があったのか、予想外の攻撃に反応できなかったのか、もろに喰らったホーレンソーは吹っ飛んでいく。

 拳凰も他の皆も口あんぐりであったが、ただ一人智恵理だけはガッツポーズ。

「やるじゃん梓!」


 だが当然それは決定打にはならず、ホーレンソーは体を震わせながら起き上がってくる。

「……三日月君……」

 ここに来てから初めてホーレンソーが声を発したので、その場はざわめいた。梓は警戒して矢先を向ける。

「今のは……効いたよ……愛のビンタとでも言おうか……お陰で少しだけ……ガリの支配から戻ってこられた……」

 顔を上げたホーレンソーの瞳には光が戻っており、歯の浮くようなキザな台詞を織り交ぜる辺り本当に彼が意識を取り戻したことを窺わせる。

 だがたとえ台詞はキザでも声は掠れ息も絶え絶えで、見るからに満身創痍という様子である。

「フ……精神は戻ってきても……体は支配されたままのようだ……」

 苦虫を噛み潰したような表情で弓を引くホーレンソー。その体は本人の意思に反して、梓を射殺(いころ)さんと動いていた。

「待ってホーレンソー、今ガリと……」

 矢を避けながら尋ねる梓。その名に反応したのは、梓だけでなくカニミソもだ。

「ガリって……あの大賢者ガリカニか!?」

「誰だよ、その大賢なんとかって!?」

「妖精界の歴史上の人物で、王都オリンポスを滅ぼしかけた大犯罪者カニ。でもそれがホーレンソーを支配してるってどういうことカニ!?」

 カニミソが尋ねると、ホーレンソーは攻撃を続けつつもどこか安らいだ表情。

「カニミソ……君がそちら側についてくれたこと、感謝する……さて、皆驚かずに聞いてくれ……カクテルの正体は大賢者ガリだ……」

 ホーレンソーはガリ自らの口から語られたことを話し始めた。耳を疑う衝撃の事実に、誰もが揃って絶句する。


「……以上が、私の聞いた全てだ。奴こそこの戦争を引き起こした黒幕……陛下でさえも……奴の手駒の一つに過ぎないのだ……」

「そんな、カクテルさんが……」

 カクテルととりわけ交流のあった幸次郎は特にショックを受けており、動揺に目を泳がせていた。

 と、その時。幸次郎は突如電流が走ったような痛みを頭部に感じる。

(うっ……何だ……? これは……一体……)

 カクテルが黒幕だと聞いたことで、脳裏に流れ込んでくる消されたはずの記憶。

(カクテルさんが魔法少女バトルをデスゲームに……カクテルさんが姉さんを改造……?)

「どうかしたのか幸次郎」

「……いえ、大丈夫です」

 片目をつぶり掌で頭を押さえる幸次郎を心配して拳凰は声をかけるも、幸次郎は何でもないとばかりに振舞った。


 ガリの件について話している間にも交戦は続いており、ステージ上は無数の矢が飛び交っていた。

「まったく無様なものだよ……故郷の仇を討てないばかりかその相手に操り人形にされるとは……惨めな敗北者を笑いたまえ三日月君」

「笑えるわけがないでしょう。自分を蔑むのはやめなさいよ!」

 お互いステージ上を駆け巡りながら矢を射りつつ防御と回避を完璧に行い、決定打となる一撃が一向に入らない。

「貴方は立派よ。たとえ敗けたとしても、その巨悪にたった一人で戦いを挑んだのでしょう。だったら自分を恥じることなんてない」

 戦いに集中しながらも言葉を交わす二人。梓の叱咤を受けて、ホーレンソーの泣きそうな表情が少し和らぐ。

「貴方の意思は私達が受け継ぐ。ガリもオーデンも必ず倒してみせる」

 決意に満ちた眼差し。ホーレンソーは自らの意思に反しその瞳の中心目掛けて矢を放つが、梓は瞬時に避ける。

「だから安心して私に倒されなさい!」

 それと同時に弓を引き、ホーレンソーの回避を読んだ先へと放つ。だがそれも紙一重で避けられる。なかなか攻撃が当たらないことに苛立ちを覚える梓。舞い落ちる木の葉のような華麗な回避にはこれまでの手合わせでも散々手を焼かされてきたが、当然操り人形化されたホーレンソーもその体術は当然のように駆使してくるのだ。

「……三日月君、どうにか私の意思でこの体の動きを止められないか試みてみよう」

「お願いするわ」

 ホーレンソーの提案を、梓は承諾。自力で破れなかったことに悔しさが滲むも、梓にとって断る道理はない。ホーレンソーは目を閉じて歯を食いしばり、魔力を練り上げる。歯茎から滲んだ血が口元から垂れ、弓を持つ手が震え始めた。

 ホーレンソーの動きが鈍っている。梓はそこをすかさず、ホーレンソーの頭上目掛けて矢を放った。矢は魔法陣へと変化し、そこから光の矢を雨のように降らせる。とどまることなく延々と降る光の矢はホーレンソーをその場から逃がすまいと拘束するためのものだ。本命の一撃は、その後に控える。弓に番えた光の矢は、まっすぐ的を捉えていた。

「どうせならこんな形じゃなく、万全の状態の貴方に勝ちたかったわ」

「フ……ガリとオーデンを倒し平和を取り戻したら、いつでも相手になろう」

 安堵したように微笑んだホーレンソーの胸の中心を、光の矢が射抜いた。ホーレンソーは優しい眼差しを梓に向けた後、カニミソに視線を向ける。カニミソが無言で頷くと、ホーレンソーは再びフッと笑い消えていった。

 次の宮への扉が開く。緊張が解けた梓は弓を掴んだ手を下ろし、扉の先を見ながら呼吸を整えた。

(見ていてホーレンソー……貴方の頑張りを無駄になんかさせないわ)

 新たな決意を胸に、一行は次の宮へと足を進める。真の黒幕を知れたのは大きな収穫だった。だがそれは同時に敵の強大さを知ったに等しく、この先に控える戦いの厳しさを否が応でも認識させられたのである。


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