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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第147話 灼熱の死闘

 死神の鎌(デスサイズ)は思う。自分にとって戦闘とはビジネス。そこには感情も無ければ正義も無く、ただ金を稼ぐためだけに引き金を引く。生きるため、家族を養うためならば、人殺しの道具として使われるのも厭わない。

 魔法少女バトル最終予選でハンターとして戦ったのも、フォアグラ教団との戦いに参加したのも、そして拳凰の強化のためトレーニングに付き合ったのも、全ては金を貰って依頼されたからやっているに過ぎない。

 だが今デスサイズは――ドーマ・アズライルは、自らの生まれた世界を守るため無償の戦いに身を投じている。負ければ家族の命が危険に晒される、負けられない戦いに。



 ステージ上に絶え間なく響く銃声。デスサイズはハンドガンの弾を散らして牽制しつつ、ライフルでの必殺の一撃を狙っていた。

 ハバネロはステージ上を駆け巡って銃弾を躱しながら、火炎放射器で炎を撃ち出す。デスサイズの周囲を取り囲むように床に設置された炎は移動を封じるためのものであるが、当然デスサイズもそれは読んでいる。囲まれる前に素早く脱出し、左手だけでリロード。再び射撃を始める。

(やれやれ、炎使いとは……厄介な相手を当たってしまったものだ)

 炎の恐ろしさは、戦場で嫌と言うほど知っている。魔法少女ならHPが減るだけでしかない炎も、生身の人間であるデスサイズにとっては触れただけで致命傷になり得る。あまりにも脆い身体であまりにも高い殺傷力を持つ相手に挑まされる、とにかく厳しい戦いだ。

 一度フィールドに点いた炎は消えることはなく、デスサイズの動きを阻害し続ける。戦いが長引けば長引くほど不利になり、決着を急ぐことを強いられる。

 一瞬ハバネロが隙を見せると、デスサイズはそこにすかさずライフル弾を撃ち込む。が、ハバネロはそれを目視で回避。しかしデスサイズはそれを見越してハバネロの足元に手榴弾を転がしておいた。ハバネロが瞬時にそれに気が付き蹴飛ばすと、手榴弾は空中で爆発。デスサイズはその光と音に惑わされることなく相手だけをまっすぐ見て二度目の射撃を行うが、こちらも避けられる。そればかりかハバネロはその回避から一連の動きでデスサイズに接近してみせた。

(ちっ、バケモノめ!)

 驚愕の動きを見せられて心の中で悪態をつくデスサイズ。妖精騎士団の戦闘力は、少年時代からよく知っている。彼らはたった十二人で人間界の国家間戦争を止められるだけの能力を持った最強の戦闘集団。それが本気で侵略しに来たら、人間界はただでは済まない。

 デスサイズはライフルを投げ捨て、ナイフを抜く。カウンター気味に首筋を切りつけると、デスサイズは後ろに体を逸らせ回避。続けて火炎放射器から炎の剣を噴出させて切りつけ反撃に出た。デスサイズは至近距離でハンドガンを発砲、その一撃は火炎放射器に当たって相手の手を痺れさせ、動きを一時止めた。一瞬の隙を突いて踏み込みナイフを当てにかかるが――それより早く、炎の刃がデスサイズの腹部を貫いた。

「甘いな、最強の傭兵」

「……ここまでか」

 デスサイズのナイフを振る速度は、決して遅くはなかった。相手が人間の兵士であれば、これに反応できる者はほんの一握りだろう。だがハバネロは瞬時に痺れから回復し、ナイフが自らの首筋に触れるより先に反撃を当てた。

 互いに熟練の技を惜しみなく使っての激しい攻防、そのスキルの差は互角と言えよう。だが魔法の有無による身体能力の差で、ハバネロが圧倒的に上回っていた。

「ざまあねえな。勝てないことは最初から判っていたが、ここまで手も足も出ないとは」

 血を吐きながら自嘲するデスサイズを、ハバネロのサングラスの奥の目がじっと見つめる。

「あんたは強いぜ。ただの人間がここまで俺に喰らいつくとはな」

「そんな慰めは求めちゃいねえさ。負けは負けだ」

 デスサイズは首を動かし、拳凰の顔を見る。

「だがこれで多少の役に立てたなら、駒としちゃ上等だ……」

 そう告げた途端、爆炎が巻き起こりデスサイズを跡形もなく消し去った。

「デッさん!」

 拳凰が駆け出し結界を割ってでもステージに上がろうと拳を振り上げると、結界はすんなりと拳凰を受け入れ中に招き入れた。それ即ち、ハバネロの次の対戦相手として拳凰を認めたということだ。

「てめーよくもデッさんを殺しやがったな!」

「おっと、誤解して貰っちゃ困る。魔法少女達と一緒に封印されただけだ。魔石の中では傷も全て治るからな、お前が陛下を倒して封印を解けば無事に助け出せるぜ」

 燃え盛るステージの上を勢い任せに突っ込んできた拳凰のパンチを避け、誤解を解こうとそこは明言しておく。

(フ……あの日殺し損ねたガキが、こうして敵として立ちはだかるか。まあこれも予想はしていたこと。ある意味計画通りか)

 そう考えるハバネロは、自然と笑みが顔に出ていた。何故そこで笑ったのかわからない拳凰は、不思議そうに顔を顰める。

「まあいいぜ。生きてるんならそれに越したことはねーからな。お陰でお前との勝負だけに集中できるってもんだ」

「そうこなくっちゃな」

 ファイティングポーズを構え仕切り直す拳凰と、それに火炎放射器を向けるハバネロ。一瞬その場から拳凰が消えたかと思うと、ハバネロの腹部を拳が抉っていた。デスサイズが炎の剣を刺されたことへの意趣返しの如く。

 吹っ飛んだハバネロは後方に火炎放射して勢いを殺し結界への衝突を防ぐが、拳凰はそこに一気に間合いを詰めて追撃にかかる。

「させねえよ」

 と、その時。拳凰の真下の床から魔法陣が現れ、そこから縄状の炎が噴き出し拳凰に巻き付いた。

「何!?」

 拘束して動きを封じつつ体を焼く、驚異的なトラップ。一気に形勢逆転したハバネロは火炎放射器を向け、灼熱の炎を一気に放出する。

「汚物は消毒だーっ!」

 眼前に迫り来る熱き業火。拳凰は全身に魔力を籠めて筋力を増強し、炎の縄を気合でぶち破った。縛られた部分がその形に沿って焼け焦げているが、そんなことは構わない。拳で炎に立ち向かい、渾身のストレートが炎を打ち砕く。巻き起こる検圧がステージ上の炎をもかき消し、ハバネロの身を震わせた。

 だがその直後、背後から来る巨大な火球に拳凰は背中を焼かれる。床を転がって消火し、追撃が来る前に素早く起き上がる。

「罠に不意打ち……戦いづれー相手だぜ」

 再び背後から飛んできた火球は魔力でコーティングした足でハバネロ本体に蹴り返すも、火炎放射器がそれを吸収し自身の魔力へと変換する。

「俺に炎が効くとでも?」

「知らねーよ!」

 当然そんなものは単なる囮。拳凰の狙いは再びの接近だ。しかしハバネロはそれを阻むべく、拳凰の進行線上に炎の壁を出現させた。だが拳凰は体が焼き焦げようが構わず突っ込み、炎の壁を拳で粉砕。だがその直後、拳凰の瞳に映るのは眼前に迫る炎の剣。

 拳凰の性格から、炎の壁を破壊して突っ込んでくるのは読んでいた。そこに炎の剣を重ねて、一撃の下に切り捨てる。そのつもりで考えていた。だが拳凰のパンチが、それより早く火炎放射器をぶち抜いた。

「はっ、そんなこったろーと思ったぜ!」

 勝ち誇る拳凰。武器を破壊されたハバネロは一歩退くが、彼とて火炎放射器が無ければ炎の魔法が使えないわけではない。今度は炎を纏った掌で拳凰に掴みかかる。だが、格闘の技術は拳凰が優っていた。姿勢を低くしてハバネロの伸ばした腕の下へ潜り込み、斜め上の顔面へと拳を打ち込んだ。不意を突かれたハバネロは防御できず、その一撃をまともに喰らう。吹っ飛ばされて後ろの結界へと背を打ち付け、サングラスが砕け散った。

「ぐあ……」

 ハバネロは苦悶の声を漏らすが、まだ意識を失ってはいない。拳凰は身構えつつ、様子を見ていた。


 意識が朦朧とする中、ハバネロは思う。

 自分は闇の一族(ダークマター)の工作員として、王家のために様々な後ろめたい行為をしてきた。暗殺、拷問、情報操作、全ては王家を――妖精王オーデンを守るために。

 一方で騎士として魔法少女バトル運営に関わる仕事をしている時は、非道な行いから自分を遠ざけ本当の自分でいられることができた。

 だが現在、ハバネロは騎士の職務として非道な行為に手を染めようとしている。罪無き魔法少女達を、自らの故郷を破壊する兵器の弾丸として消費する残虐極まりない計画への加担。それが妖精王の命令であり、それを果たすことが騎士の務めなのだから。

(まったくよくできた話だぜ。あの日俺がこの男を殺し損なったのは、神が与えた天啓だったのかもしれねえな。本当に消毒されるべき汚物はオーデン、あんたの方だぜ)

 ハバネロが不意に鼻で笑うと、拳凰は警戒心を強めた。が、何かを仕掛けてくる気配は無い。

(ユドーフ様……貴方の忘れ形見は、立派に成長致しましたよ……)

 目を閉じ、力なく床に腰を下ろす。ハバネロの姿はその場からすっと消え、奥の鉄扉が開いた。

「どうやら、勝ったみてーだな」

 拳凰は腕を下ろし、呼吸を整えた。すかさずステージ上に、花梨が走ってくる。

「ケン兄! 凄い火傷!」

「ああ、流石に今回はちーとばかしキツかったぜ」

 ただでさえ燃えるステージでの戦いでその身を焼かれ続け、その上強力な火炎攻撃を立て続けに喰らったのだ。体中が焼け爛れ、炭のように焦げた場所もある。前二回の戦闘とは比較にならない負傷量だ。花梨はすぐに魔法で包帯を生成し、拳凰の傷を癒し始めた。


 辛くも拳凰が勝利を収めた中、梓の視線は次の宮へと続く階段に向けられていた。

「梓、次に出てくる騎士は……」

「わかってる。次に戦うのは……私よ」


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