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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第146話 騎士の宿命

 ミルフィーユとの辛い戦いを乗り越えて、一行は黄道十二宮後半へと足を進める。

 第七の宮、天秤宮を守護するは魔法少女バトル解説でお馴染みのこの男。

「皆さんよくぞいらっしゃいました。ここでは私、天秤座(ライブラ)のザルソバがお相手致します」

 丁寧な口調で挨拶しながら、銃口を向けてくるザルソバ。緊張感が走る中、前に出たのは恋々愛である。

「おい、二回続けてやる気か!?」

 拳凰の尋ねに対し、恋々愛は首を横に振った。

「ううん、ただ訊きたいことがあるだけ……あなた解説が得意なんでしょう。だったら教えて、消えちゃったミルフィーユを助ける方法を」

 懇願する恋々愛を見て、ザルソバは人差し指で眼鏡をクイッと上げた。光る眼鏡の奥の表情は窺い知れない。

「彼女は助かりませんよ」

 恋々愛を絶望させる一言。恋々愛は口元に手を当て後ずさりした。

「せっかくなので解説致しましょう。この黄道十二宮で戦いに敗れた騎士は、魔法少女達と共に封印されています。陛下にとって有益な者は封印から解放され今後も騎士として陛下に尽くし、陛下に害成す者は次元破壊砲の生け贄として消費されるのです。ミルフィーユさんは……残念ながら後者でしょう」

「ああ……そんな……」

 崩れ落ちるようにその場に座り込む恋々愛。

「酷いこと言うなよザルソバ。あんたはそんな奴じゃなかっただろ」

 そう言って小梅が、恋々愛の前に出た。

「あんたの楽しくてためになる解説、あたしは好きだったんだよ」

「それはどうもありがとうございます」

 ザルソバは礼を言いつつも銃口を小梅に向ける。小梅は怯むことなく、ザルソバをキッと見つめ返した。

「丁度いい。お前の相手はあたしがしてやるよ。ここまで出番が無くて体も鈍ってたとこだしな」

 小梅は準備運動に両腕をブンブンと回した後、その場で屈伸。最後にお尻に食い込んだレオタードを両側から人差し指を引っかけてパチンと直し、準備完了。ステージへと足を進めた。

「君を優勝の狙える逸材としてスカウトした日が懐かしいですね。このような形で君と戦うことになるとは、残念なことです」

 そう言い終える前に発砲したザルソバであったが、小梅はあえてそれに飛び込むように超加速ダッシュ。ソニックブームを身に纏い、すれ違った弾丸を弾き飛ばす。そのままの勢いでザルソバにぶつかってゆくが、ザルソバは雷光の如きスピードで跳び上がり回避した。

 次の瞬間、小梅は得意の大開脚ハイキックで空中のザルソバを狙い打つ。だがザルソバは銃身でその爪先を叩き、小梅の脚が下がった所に銃弾を撃ち込んだ。

「うあっ!」

 悲鳴を上げて怯んだ小梅に、ザルソバは更なる追撃の発砲を繰り返す。小梅は加速しながら吹っ飛び銃弾より早く後退、結界を背にしたところで九十度方向転換。更にもう一度方向転換し、コの字を描くようにしてザルソバへと接近する。

「させませんよ!」

 こちらも電速のダッシュを合わせ、小梅と正面からぶつかり合う。閃光が迸り、一旦離れた二人は再び高速でかち合う。超速で動き回る二人とその間を飛び交う弾丸。最速の魔法少女と最速の妖精騎士。あまりの速さに、観戦する者達は二人の姿を目で捉えることができない。ただ光と音だけが、ステージ上を舞い続けるのである。

(やれやれ……嫌な戦いですね。これも騎士の宿命ですか)

 高速の攻防を繰り広げながらも、ザルソバは思う。今自分のやっていることが善か悪かと言われれば、間違いなく悪だ。

 妖精騎士は妖精王に決して逆らえない。フォアグラの謀反をきっかけとして作られた法であるが、オーデンからしてみればそれは先の計画のため騎士団の権力を縛りたかったところに都合よく謀反を起こしてくれたという感覚だろう。

 おかげでこんな非道な作戦にも、ただ黙って従うことしかできないのである。主君が悪に堕ちたのだから自分も共に堕ちるという割り切りもできず、もやがかかった心のまま戦うばかりだ。

(余計なことは考えなくていい……私はただ仕事をするのみ……)

 そう自分に言い聞かせ、無感情に引き金を引く。

 吹っ飛んだ小梅は、花梨達を背に結界へと体を叩きつけられた。

「小梅ちゃん!」

「っ……悪いな花梨、あたしは多分ここまでだ……」

 心配して声をかける花梨に結界越しで振り向きながら、辛くても笑顔を作って言う。

「そんな……」

「だけどただで負けてやるつもりはないからな!」

 追撃の弾丸を超加速で避け、ステージ上を高速で駆け巡り翻弄を狙う。ザルソバは今度はステージ中央にどっしりと構え、小梅の移動先を予測して射撃した。

 電撃を纏った弾丸をその身に受けながらも、小梅は加速を繰り返す。最早HPは残り僅か。このHPが尽きる寸前にタイミングを見計らい、小梅はザルソバ目掛けて渾身の超加速。

「超速ブーストナックル!!!」

 ザルソバの高速回避すら間に合わない、最速の限界を超える一撃。前に真っ直ぐ突き出した拳が、ザルソバの鳩尾を抉る。爆音と共に衝撃波がステージを揺らし、ザルソバは後ろの結界に叩き付けられた。

 ぶん殴った位置で拳を突き出したポーズのまま静止していた小梅であったが、ほどなくして変身解除されバリアに包まれる。限界を超えた一撃は使った本人の体力をも削り取り、宣言通りここでの脱落を確定させた。

 そして気になるのはザルソバの状態だ。決死の覚悟で放った一撃で、果たして倒せているのか。ザルソバはぐったりと力なく床に腰を下ろし、トレードマークの眼鏡はレンズが粉々に砕け散っていた。

「……見事なパンチでした」

 ぐったりと俯いたまま、ザルソバは言う。まだ意識はある。一行に一転して緊張感が走った。

「貴方の勝ちですよ、小梅」

 その一言で、小梅はガッツポーズ。仲間達に振り返り、満天の笑顔でピースした。

「さて、それでは私に勝った褒美に一つ教えてあげましょう。先程言った通り、我々妖精騎士団は魔法少女達と共に封印されることになっています。それはつまり、魔法少女達を救出すれば同時に我々も助け出せるということです。尤もそのためには、妖精界最強たるオーデン陛下を倒さねばなりませんがね」

 希望が見えて、恋々愛の表情が明るくなる。

「……解説好きの性分ですかね、喋りすぎてしまいました。これで私も、生け贄にされる側でしょうか」

「安心しろよザルソバ。あたしの仲間達があんたも助けてくれるからさ!」

 そう言う小梅を見てザルソバは一瞬笑顔になったかと思うと、二人揃ってステージ上から消えた。軋む音を立てて、奥の鉄扉が開く。

「行こうみんな、小梅ちゃんが切り開いた道を」

 小梅の言葉をしかと胸に刻んだ花梨が言うと、一行は頷いた。




 階段を下りた先は第八の宮、天蝎宮。そしてそれを護るはモヒカン頭にサングラスという奇怪なルックスの騎士、蠍座(スコーピオン)のハバネロ。

「ここまで残ったのは八人か……四人しか倒せねえとは、ここまでの連中も甘いな」

 ハバネロがそう言うと、一行の周囲に直径一メートルはあろうかという火球が次々と出現した。ステージに上がる前に攻撃、それが闇の一族(ダークマター)のやり方。

「みんな避けろ!」

 拳凰がそう叫ぶも、既に一行は包囲されていた。

「汚物は消毒だ」

 冷徹に言い放ち、一斉に火球が爆発する。全滅狙いの、全く容赦のない攻撃。そして煙が晴れると――皆を覆い包んだ氷の防壁が融けて水になった。

「ま、間に合った……」

 青のオーブを嵌めた剣を地面に突き刺した幸次郎が、息を切らしながら言う。背筋をヒヤリとさせられたが、かろうじて全員無傷だ。

「随分なご挨拶じゃねーか」

 拳凰が睨みつけると、ステージ上のハバネロはニヤリと口角を上げる。

「来るか、最強寺拳凰」

「俺をご指名か?」

 ステージに上がろうとする拳凰。だがそれを遮るように腕を出したのはデスサイズだった。

「戦いすぎだ拳凰。お前がオーデンを倒さなければ何もかもが終わりになるんだぞ」

「だったらお前が戦うか?」

 背後でそう呟いたハバネロに反応してデスサイズが振り返ると、デスサイズと拳凰の間の足元から炎が噴き出した。二人は即座に一歩下がり、直撃を避ける。

 地面から噴出した炎は一枚の壁となり、デスサイズ一人をステージ側に残して残りの者と分断した。

「見たところ経験豊富なお前が参謀を務めているようだしな、真っ先に潰しておくのはお前だと認識した。ステージに上がれよ、最強の傭兵」

 サングラスの奥の目を暫し見つめていたデスサイズであったが、やがて沈黙したままステージへと足を進めた。結界内に入ると、分断していた炎の壁はすっと消える。

「デッさん!」

 ステージ上に立つデスサイズを見て拳凰が名を呼ぶが、デスサイズは振り向かない。

「魔法の使えない俺は、はっきし言って足手纏い。今回は参謀役に徹するつもりでいたが、こうなった以上は仕方があるまい。ひと暴れさせてもらうとしよう」

 腰に携帯していたハンドガンを抜きいつでも撃てる状態にしつつ、幾多の武器を収めた鞄を背中から床に下ろす。そこから取り出したライフルを右手に持ち、大小の二丁銃を構えて見せた。

「上等じゃねえの。汚物は消毒だ」


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