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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第145話 二人の乙女座

 妖精王ラザニアには、双子の妹がいた。

 一人は妖精界の医療を牛耳る名門貴族ベガ家に、もう一人は旧王族五家の一つでありアルゴ王家直系の血筋であるディフダ家に嫁いだ。

 双子の王女は、奇しくも同じ日に子供を産んだ。ミルフィーユ・ベガとティラミス・ディフダ。全く同じ日に生を受けた二人の少女は、やがて親友の間柄となる。

 すくすくと成長してゆく中で、やがて騎士を志すようになったミルフィーユとティラミス。だが忘れてはならない。同じ日に生まれたということは、同じ誕生星座であるということ。騎士の席は、一つしかないのである。


 二人が可憐に成長した十八歳の時のことである。乙女座の騎士試験トーナメントの決勝戦で、二人はぶつかり合うこととなった。

 二人の戦い方は対照的である。ベガ式格闘術・柔の型により敵の攻撃を受け流し投げ伏せてきたミルフィーユに対し、ティラミスは巨大な戦斧をぶん回し圧倒的なパワーで粉砕する。

 そしてその一戦を制したのは、ティラミスの方であった。

 可憐な容姿からは想像もできぬ剛腕から繰り出される斧の一撃は、ミルフィーユの卓越した技をもってしても受け流すことなどできなかった。

 親友相手に悔しい敗北を喫し、騎士の座を得られなかったミルフィーユ。彼女に転機が訪れたのはそれから二年後、魔法少女バトルアメリカ大会の時であった。

 一次予選の最中、突如としてティラミスは行方を晦ました。妖精騎士団は大混乱となったが、大会の進行を優先。妖精界からミルフィーユを緊急招集し後任に据えることとなったのである。

 ただでさえ全く予期せぬ形で騎士団入りすることになったばかりか、失踪した親友が心配で気が気でない中で行う初めての人間界任務。ティラミスを探しに行く余裕など、全く無かった。よりにもよって開催地がアメリカという広大な国であることが、尚更にティラミスの所在を掴めなくしていた。

 とうとうティラミスが見つからないまま二次予選が終わり、ミルフィーユら妖精騎士団は最終予選以降のため妖精界へと帰国。そこからは大会も順調に進み、無事優勝者が決定した。

 大会終了後、ミルフィーユはティラミス捜索任務を志願。必ずや見つけ出すと宣言して人間界へと旅立った。

 少しずつ情報を集めながらティラミスの歩んだ道筋を突き止め、終ぞ見つけ出したのは遠く離れた日本であった。

 そこで明らかとなった驚愕の事実。ティラミスは人間の男性と結婚しており、子供も生まれていたのである。

 妖精界の法律において、人間との間に子を設けることは罪となる。ミルフィーユは騎士の立場としてティラミスを捕え罰せなければならなかった。

 当然、ティラミスは強く抵抗した。騎士試験以来の交戦となり、王家の血筋同士による激しい戦闘が繰り広げられたのである。

 かつて一度はティラミスに敗れたミルフィーユ。だがその敗北をばねに、本来女性では習得し得ないと言われていたベガ式格闘術・豪の型を完全に物にした。

 圧倒的な力と力のぶつかり合いの果てに、ミルフィーユは勝利を収めた。ティラミスは拘束され、夫は記憶処理を施されティラミスのことを忘れた。

 本来であれば、娘も殺さなければならないのがルール。だが生まれて間もない乳飲み子を手に掛けることも、親友をこれ以上苦しませることも憚られたミルフィーユはあえて娘を見逃すことにしたのである。

 夫と娘と引き離され妖精界に強制送還されたティラミスは、罪人として投獄されることとなった。

 それはあくまでも任務に従ってのことだった。だが親友を心身共に傷付け幸せを奪ったことは、少なからずミルフィーユを堪えさせた。

 親友の幸せを奪っておきながら自分が幸せになることなんて許されない。その思いから、ミルフィーユは生涯未婚を誓ったのである。


 それから十一年の月日が流れた。その年の魔法少女バトル開催地はミルフィーユにとって苦い思い出の地、日本。そしてそこには、魔法少女バトル出場の条件を満たす歳になったティラミスの娘、恋々愛がいたのである。

 ミルフィーユの中で浮かんだ一つの考え。それは恋々愛を魔法少女バトルで優勝させ願いを叶えるという形で、ティラミスを牢獄から解き放つということであった。

 父親の再婚相手から虐待されていた恋々愛を救い出し、同居生活を始めたミルフィーユ。恋々愛を確実に優勝できる選手に鍛え上げつつ、ティラミスに代わって本当の母親の如く愛情を持って接した。

 ただでさえ生まれつき魔力、それも王家の魔力を持っていた恋々愛は他の魔法少女を遥かに上回る力を発揮。今大会最強の魔法少女として瞬く間に頭角を現した。連勝に連勝を重ね、無敗のまま決勝トーナメントへと駒を進める。

 だがそこでミルフィーユの恐れていたことが起こってしまう。恋々愛の正体がオーデンに知られたのである。

 オーデンはミルフィーユが黄道十二宮での魔法少女との対戦において好成績を収めれば、恋々愛の件を不問にするとの取引を持ち掛けた。

 勿論それを真に受けてはいない。従妹として長年接してきたオーデンの性格はよく知っているし、恐らくこの先何をやっても自分は消されるであろうことは解っていた。

 だからこそ、ミルフィーユはあえて本気で玲や恋々愛ら魔法少女達を迎え撃つのである。立ちはだかる壁として、魔法少女達を鍛え上げるために。




 恋々愛に投げ飛ばされたミルフィーユは、起き上がるや否やくすくすと笑っていた。

「……流石は私の親友、ティラミスの子ね」

「お母さんの名前……」

「魔法少女バトルが中止になった以上、貴方を母親に会わせてあげることもできなくなった。さあ、約束を果たせなかった私を倒してみせなさい」

 空気が震える。ミルフィーユは黄金のオーラを身に纏い、ピンクの髪が逆立つ。かつて恋々愛の母親を沈めたベガ式格闘術・豪の型で、恋々愛さえも打ち倒さんとする。

 修羅の如く掴みかかるミルフィーユに対し、恋々愛はワープで退避。だが次の瞬間、恋々愛は投げられていた。床に全身を強く打ち付け悶える恋々愛を、ミルフィーユは容赦なく再び掴む。より遠く空中までワープで逃げた恋々愛だったが、ミルフィーユは瞬時にそこに追いつく。恋々愛は次は逃げない。両腕を広げ、正面から迎え撃った。包み込むようにミルフィーユをぎゅっと抱きしめ、大きな胸を大きな胸に押し当てる。

「あれは……!」

 驚きの表情を見せたのは智恵理である。自分がカニミソにやったのと同じことを試みようとしているのは、見て明らか。だがミルフィーユは最初に言っていた。カニミソのように説得で味方に引き入れようとは考えないように、と。

 その行動は無謀。誰もがそう思っていた。それをされたミルフィーユ自身も含めて。

 だが次の瞬間、恋々愛はミルフィーユ諸共地面すれすれにワープし、勢いよくミルフィーユを床に叩き付けた。続けて空中で体勢を変え、仰向けに倒れたミルフィーユ目掛けて大きなお尻によるヒップドロップで追撃をかける。

 が、ミルフィーユは下から両手でお尻を鷲掴みにするようにして支え恋々愛を受け止めた。

「甘いわよ、恋々愛」

 その体勢のまま、トスするように恋々愛を垂直にリフトアップ。恋々愛は瞬時にワープするも、たとえワープしても慣性は止まらない。そこから吹っ飛んで結局天井の結界に叩き付けられた。

 逆転からのまた逆転。ひとたび優勢に出ても、すぐにひっくり返される。ならばまたひっくり返せばよいとばかりに、恋々愛は手に斧を生成し急降下しながら狙った。だが地上のミルフィーユは刃を躱すと同時にがっしりと柄を掴み、斧ごと恋々愛をぶん投げた。

 恋々愛がヒュンと消える。またワープで逃げても、先程と同じく慣性で結界に叩き付けられるだけ。そう思った矢先、ミルフィーユの眼前に現れたのは大きなお尻であった。ミルフィーユに投げられた慣性を逆に利用し、爆裂ヒップアタックをぶちかます。

「っ……!」

 吹っ飛びかけたミルフィーユだったが、恋々愛はすぐさまその首の後ろに腕を回しがっしりとホールド。レベッカから教わったネックブリーカーで勢いよく床に叩き付けた。

「ミルフィーユ……私は甘くなんかないよ」

 掴み返される前に恋々愛はミルフィーユを抑え込み、その体勢のまま空中にワープ。空を切るように脚をぶん回してミルフィーユごと体を回転させ上昇、先程の意趣返しのようにミルフィーユを天井の結界に叩き付けた。更にそこからほぼ同じ地点にワープして、再び叩き付ける。

(これは……無限投げ!)

 ミルフィーユが恋々愛の修行の際にやって見せた、ベガ式格闘術奥義。それを恋々愛が自身の魔法を活用してアレンジした新たな超必殺技。

 一通り叩き付けた後は、床側にワープして床へと強烈にぶつけフィニッシュ。床の岩盤が砕け散り、大きな凹みの中にミルフィーユは倒れ伏していた。

「……おめでとう。よくぞ私を倒したわ」

 まだ余裕のありそうな口調でミルフィーユが言うので、その場に緊張感が走った。恋々愛に向けた掌が発光すると、この一戦で恋々愛が負った傷がすっと癒えた。

「やっぱり貴方には傷だらけの身体よりも、綺麗な肌の方が似合っているわ。貴方の武運を祈ってる」

 そう言い残し、ミルフィーユはその場から姿を消した。

「ありがとう……ミルフィーユ……」

 一筋の涙が頬を伝う。闘いの最中は非情に徹していたが、恩人と戦うことが辛くないはずがない。

 最後にかけてくれた治癒魔法は、ミルフィーユからの愛情の証だ。それを胸にしかと刻み、恋々愛は開いた扉の先を見据えた。


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