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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第144話 最強の格闘家

 第六の宮、処女宮を護るは乙女座(バルゴ)のミルフィーユ。黄道十二宮の折り返し地点を守護する、妖精界最強の格闘家である。

 だがその容姿は、一見すると格闘家のイメージすら湧かない淑やかでおっとりとした雰囲気の美女であった。

「よくぞ参られましたね、皆さん」

 ステージ中央に立つミルフィーユは、丁寧な挨拶で出迎える。だがその穏やかな微笑には、どことなく威圧感を感じさせた。

「ミルフィーユ……」

 恋々愛が話しかけると、ミルフィーユは一転して険しい表情になる。

「そこのカニミソのように、説得で味方に引き入れようなどとは考えないことです」

 突き放すようにきっぱりと断言され、恋々愛はしょんぼりと俯いた。

「じゃあ、ここは俺に任せて貰おうか」

 沈む恋々愛を押しのけて、玲がステージに上がる。

「これまで世話になったなミルフィーユ。体の半分は男である俺を魔法少女にしてくれたあんたには本当に感謝してる。この戦いに勝つことで、あんたへの借りは返させて貰うぜ」

「手加減はしませんよ。では始めましょうか。そちらから、いつでもどうぞ」

 そう言い終わるや否や、玲は瞬時に間合いを詰め掌底を打つ。それと同時に掌から炎を撃ち出し、二段構えの攻撃。だがミルフィーユは床につけた足は動かさず上体だけの動きで容易く躱すと、伸ばした腕を抱え込むように掴む。瞬間、玲は天地がひっくり返ったような感覚と共に投げ伏せられた。

 ひとたびダウンさせられれば、次の投げが来る。玲は両掌から出した炎を爆発させて後ろに吹き飛び、ミルフィーユの腕の射程から脱した。

「あんたにはこうやって何度も投げられたな。その度に悔しい思いをさせられてきたぜ」

「先程も変わらず投げられたようでしたが……」

「ああ、だが次は無いぜ」

 玲の脳裏に浮かぶのは、つい先程の獅子宮での拳凰とハンバーグの一戦だ。二人が繰り広げたハイレベルな格闘戦は、玲の格闘家魂に火を点けた。

 駆け出した玲は勢いをつけてハイキック。先程と同じように避けつつカウンターで掴もうとしたミルフィーユだったが、脚から噴き出す火炎によってその手は阻まれる。

(これで決める!)

 玲がそう思った矢先のことだった。ミルフィーユは構わず玲の脚を掴んで投げ伏せたのだ。

「ぐあ……!」

「この程度の火傷、私ならば瞬時に治せます」

 そう言い放ったミルフィーユの掌は光を放ち、火傷は綺麗さっぱり消えて白く美しい肌に戻った。

 最強の格闘家であると同時に、最強の治癒魔法師でもある。それがミルフィーユの恐ろしい所だ。

「くそっ、無敵じゃあるまいし! だったら治すスピードを上回る速度で焼く!」

 両腕から灼熱の炎を放出させ、巨大な炎の龍を生成した玲。拳にそれを乗せてパンチと共に解き放ち、ミルフィーユの身を包み込む。

「無駄です」

 全身に治癒魔法をかけて焼けた側から治しつつ、渦巻く流水のように腕を動かし炎を丸め込む。

「バカな……俺の炎が!」

 驚いた玲の瞳に映るのは、高圧縮された炎をボールのように投げ返してくるミルフィーユの姿。不意を突かれてそれをまともに喰らった玲は爆炎を受けて吹き飛ばされる。

「ぐあっ……!」

 苦しみの声を上げつつも追撃に備える玲であったが、ミルフィーユはあえてその場を動かず待ちの姿勢。

(ちっ、あくまでそっちから攻めてくるつもりはないってか。奴が柔よく剛を制す技の達人なのは知ってたし、だからこそそれを正面から打ち破ることに意味があると思ってた。あの最強寺拳凰のような戦い方でな。だが奴と俺の実力差がここまで開いてるとあっちゃ、そうも言ってられなくなったな)

 玲は構えを変える。あえてこちらも柔の技で挑むという寸法だ。

「かかってこいよ。次は俺があんたにカウンターを決めてやる」

「宜しいでしょう。その勝負、受けて立ちます」

 瞬間、ミルフィーユの全身から凄まじい魔力が溢れ出し、ピンクの髪が天に向かって逆立つ。ミルフィーユの姿が消えたかと思うと瞬時に玲の前に現れ、胸倉を掴んだ。

 掴んだままアッパーカットを繰り出すように空高く垂直にぶん投げられた玲は、天井の結界に打ち付けられ変身解除。バリアに包まれた状態で床に落ちた。

 ハンバーグをも優に超える圧倒的なパワーを以って、剛よく柔を断つ。最強格闘家の圧倒的な武は、自ら攻める上でも他者の追随を許さない。

「つ、強すぎる……」

 完敗を喫した玲はそう呟いた。決勝トーナメントまで勝ち進んだ実力者ですら、出す技が何一つ通用することがなかった。

 幸次郎、智恵理、そして拳凰が立て続けに単独で勝利し、自分も騎士に勝てるという空気が出来てきていた魔法少女達を一気に叩き落す現実。

「ミルフィーユはオーデン陛下の従妹、つまり神の血を引いているカニ。その強さは俺なんか足元にも及ばないカニし、ここまでのどの騎士よりも圧倒的に上カニよ」

 顔を青くしながら言うカニミソに、皆の注目が集まった。

「つまり奴を倒すためにはこちらも神の血筋をぶつけろと?」

 デスサイズが視線を拳凰に向ける。

「俺は構わねーぜ。あれだけ強い相手と戦えるなら願ったり叶ったりだ」

「だがお前はつい先程戦ったばかりだ。妖精王との決戦を考えるならば今は休養に徹した方がいい。尤も無暗に味方の人数を減らしていくくらいならここで拳凰をぶつけるのも一理あるが……」

 考え込むデスサイズであったが、そこで一人の魔法少女が手を挙げた。

「私が……戦う」

 澄んだ声でそう宣言するのは、恋々愛であった。

「私も、妖精王家の血筋だから……」

「は? お前そこも俺と一緒なのか!?」

 驚いている拳凰の横を素通りし、恋々愛はステージに上がる。巨大な戦斧を生成してその先をミルフィーユに向ける姿は、勇ましき戦士そのもの。

「エロい恰好してるばかりじゃねーとは思ってたが、道理で強いわけだぜ」

 恋々愛の後ろ姿を眺めながら、顎に手を当てて拳凰が言う。かつて拳凰と互角の戦いを繰り広げ、終ぞ決着の付かなかった相手。それが恋々愛である。

 だがそんな拳凰が実際に見ているのはTバック状のふんどしビキニ一枚で大部分が丸見えの大きなお尻であるため、花梨に太腿をつねられた。


 恋々愛と対峙するミルフィーユは、手塩に掛けて育ててきた我が子同然の少女から武器を突き付けられても穏やかな表情を崩さない。

「恋々愛、貴方との戦いは最初から予感していたわ」

 玲の時とは口調を変え、恋々愛に話しかける。

「人間界を滅ぼさせたりなんかさせない。私はミルフィーユと戦う」

「そうね、じゃあかかっていらっしゃい」

 ミルフィーユがそう言うと、恋々愛の両手首両足首に付けられた四つの黄金リングが外れた。これによって恋々愛の肉体は魔法少女から妖精へと変わり、強力な瞬間移動の魔法が行使可能になる。

 瞬時にミルフィーユの後ろにワープした恋々愛は、後ろから手を伸ばし捕えようとする。だがその瞬間ミルフィーユが恋々愛の後ろに回り込み、腕を取って投げ伏せた。

 ワープと見紛うが如き高速移動を、素でやってのける。恋々愛のお株を奪う超絶技に、誰もがあっと驚かされた。

 だが恋々愛は床に背を打つ寸前にワープで退避。ミルフィーユと距離を取る。

 いつの間にか恋々愛の手元から消えていた斧は、時間差でミルフィーユの頭上に落下してくる。だがそれも容易く回避され、斧は虚しく床に突き刺さった。

「次は私から攻めてもいいかしら?」

 そう言い終わるや否や、ミルフィーユは突進して掴みかかった。ワープで回避する恋々愛であったが、ミルフィーユが手を正面に伸ばそうとしたのはフェイント。移動先を予測して掴みかかる先を真横に変え、見事的中。恋々愛の衣裳の胸部、ほぼ帯一枚でバストトップを隠している部分をがっしりと掴んでいた。

 つい男の本能がポロリを期待してしまう拳凰と幸次郎であったが、魔法少女のコスチュームは安心設計。見えちゃいけない部分はどんなに激しい戦闘やアクシデントでも決して脱げたり破れたりすることがないようになっている。

 またも投げられるかに見えた恋々愛だったが、今度は負けじとミルフィーユの腕を掴み返す。ここからどちらが投げられるかは、純粋な力比べだ。

「やっぱり、似ているカニ……」

 膠着状態となった二人を見るカニミソは、そんな言葉を口にした。

「え、何が?」

 智恵理が尋ねると、カニミソはそちらを見た後考え込むような表情。

「濃褐色の肌に、銀色の髪。それでいて王家の血を引いているということは……」

 そうしている間に二人の勝負が動き、カニミソは慌てて顔をステージの方に向けた。

 力比べを制したのは、恋々愛の方であった。ミルフィーユの腕を抱え込むようにして全身を持ち上げ一気に投げ飛ばしたのだ。

「……流石は私の親友、ティラミスの子ね」

 ゆらりと起き上がりながらミルフィーユが言うと、カニミソは目を丸くしていた。

「やはり……先代乙女座(バルゴ)カニか!」


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