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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第143話 ライバル

「じゃあ、花梨は知ってたんだ」

 階段を下りながら、花梨は拳凰の出自のことを夏樹に話していた。

「うん、ケン兄とお付き合いするすることになった日に聞いたの。びっくりはしたけど、それでもケン兄はケン兄だから。何も変わらないよ」

「あはっ、いいなーそういう信頼関係」


 花梨と夏樹が楽しそうに話すのを聞いて、恋々愛は幸次郎の腕を抱き寄せた。

「幸次郎……幸次郎は私が妖精の血を引いてたら嫌?」

「そんなことないよ! というか胸! 胸当たって……!」


 焦る幸次郎と、攻め攻めの恋々愛。その様子を見た智恵理は自分もカニミソの腕を抱き寄せてみるが、悲しきかな胸が圧倒的に足りず。

「な、何か用カニ?」

「……別に」

「あ、俺は別に小さくても気にしないカニよ」

 いつものようにアピールが不発となった智恵理が不貞腐れると、カニミソは意図を察してフォロー。すると智恵理はカニミソの脛を蹴っ飛ばした。

「痛いカニ。何するカニ」

 察しの悪さに散々困らされてきたが、察しが良いのもそれはそれで困ると、智恵理は思った。


 戯れる智恵理とカニミソを後ろから眺めるのは、デスサイズである。

「拳凰、カニミソがスパイとしてこちらに潜り込んだ可能性を念のため警戒しておけ」

「大丈夫だろ。あいつは信頼できる奴だ」

「わかった。じゃあお前はもしもあいつが本当に味方だった時のためにこのまま信頼しておいてやれ。俺はもしスパイだった時のために警戒しておく。嫌われ役は俺が引き受けてやるさ」

「わりーなデッさん」

 たとえ冷徹に思われたとしても、作戦を遂行するためにあらゆる可能性を考慮する。デスサイズの思考や立場を、拳凰は汲んでいた。この二人の間にも、確かな信頼関係があったのである。



 暫し階段を下ったところで、開けた場所に出た。

 ステージ中央で腕を組み待ち構えるのは、獅子座(レオ)のハンバーグ。拳凰と幾度となく拳を交えてきた男である。

「ようカニミソ。てめえが裏切ったことは既に伝わってる。騎士団で一番弱いお前が裏切ったところで大した痛手じゃねえが、まあ相応の処分を覚悟しとけよ」

「勿論承知の上カニ」

 自分より遥かに強い騎士を前にしても、怯むことなく堂々と言葉を交わすカニミソ。ハンバーグは自分と対峙する面々を、ざっと見回した。

「寿々菜はここに来る前に脱落しちまったようだな。残念ではあるが、まあ仕方がねえ。で、誰が来るよ」

「勿論俺だ」

 拳凰が前に出る。

「最強寺さん、金牛宮で戦ったばかりなんですから……」

「いや、こいつとは俺が戦わなきゃなんねーんだ」

 幸次郎の静止を無視してステージに上がった拳凰は、腕を回して準備運動。

「さあ、ケリつけようぜクソロンゲ」

 拳凰が手招きすると、ハンバーグは間髪を入れず鉄拳を打ち込んできた。とてつもない破壊力を持つ必殺の一撃を僅かな動きで回避した拳凰は、カウンターの左フックをハンバーグの頬に入れる。

「ぐっ……!」

 吹っ飛んだハンバーグは空中で体を縦に回転させながら着地し、体勢を立て直す。

「どうしたクソロンゲ。弱くなったんじゃねーか」

 煽る拳凰の身体から、少しずつ魔力が湧き出る。ハンバーグは表情一つ変えることなく、次の出方を窺っていた。


 ハンバーグの操る魔法、獅子の威圧は、敵に弱体化を与える魔法である。その条件は、相手が自分よりも弱いこと。

 常に強者が弱者に勝てるとは限らない。拳闘士として常に死と隣り合わせの環境にいた幼少期の経験から編み出した、常に強者が弱者に勝つための魔法である。

 だがその最大の弱点は、自分より強い相手には一切の効果が無いこと。魔法の力を万全に活かすためには、とにかく鍛錬を重ね自分を強くするしかない魔法なのだ。


(野郎、更に強くなってやがる……)

 妖精王家の血筋のみが持つ神の力を自らの意思で使いこなせるようになり更なる高みへと達した拳凰には、獅子の威圧など微塵も通用しなくなっていた。かつてはハンバーグが拳凰を一方的に蹂躙していたが、それも最早過去の話だ。

 ビフテキの命令に従い、敬愛するムニエル様と将来結婚する立場になる男を自らの手で鍛え上げねばならぬことへの行き場のない怒り。それが拳凰への罵倒になっていた。だが拳凰に超えられた今となっては、それも虚しく感じる。

(だがよカニミソ……てめえが堂々と裏切ってくれたお陰で決心がついたぜ。わざわざビフテキの命令に従って今後もこいつを鍛えてやる必要なんか無えってな。俺がこいつをぶちのめしてムニエル様をぶんどったって別に構わねえわけだろ。俺は元々盗賊。欲しい物は奪い取って生きてきたんだからよ……!)

 両拳に魔力を集めたハンバーグは、それを重ねて獅子の頭部を形成。かつて拳凰を死の間際まで追い込んだ必殺の超絶奥義を、再び顕現する。

 花梨は目をつぶり祈った。あの日無惨なまでに打ちのめされた拳凰の姿は、花梨にとっても思い出しただけで辛くなるものだった。

「喰らってくたばれ! デス・アンド・デスキャノン!!!」

 誇り高き獅子が吼える。熱き咆哮と共に、この世の全てを焼き尽くさんとばかりにビームが発射された。

 対する拳凰はその場に立ったまま拳をぎゅっと握って身構える。ビームにパンチで迎え撃つつもりだ。

「てめーのその技、正面から打ち破りたかったぜ!」

 大きく後ろに引いた腕を一気に前に突き出し、位置をビームとぴったり合わせてぶん殴る。爆音と共に砂煙が巻き起こるが、強烈な拳圧がそれをも吹き飛ばし一瞬にして結界内を晴らす。拳一つでビームを消し飛ばした。これが修行の果てに得た、現在の拳凰の実力。

 だが、直後拳凰は目を見開いた。拳圧をものともせずに突っ込んでくるハンバーグの拳が、拳凰の頬を抉ったのである。

 さっきのお返しだとでも言わんばかりの一撃。吹っ飛んだ拳凰に、ハンバーグは追撃のラッシュをかける。

「てめえが俺を超えたってなら、俺はそれを更に超えていく! 戦いの中で成長してやらァ!!」

 嵐の如き爆裂パンチが降り注ぐ。拳凰は吹き飛ばされながらもそれをまっすぐ見据え、こちらもそれにラッシュを重ねた。拳に拳を一つずつ当ててゆき、相手の手を的確に潰してゆく。

「おおおっ!! どうだクソロンゲーっ!」

 ラッシュの速度が速すぎて拳の残像が一枚の壁のようになる二人。だが拳凰はラッシュを合わせるのに交えて、ハンバーグの拳と拳の間をすり抜けるように更なるスピードでパンチを打ち込んだ。

「っっぐ……!」

 鼻面をへし折る一撃に悔しさを滲ませながら、ラッシュを中断させられ吹き飛ぶハンバーグ。

(こいつどこまで……!)

 そう思ったのも束の間、吹っ飛ぶハンバーグに神速の踏み込みで追いついた拳凰は追撃のストレートをぶちかまし、鳩尾を強く打ち抜く。

「がっ……は……」

 一瞬の間の後、勢いよく吹き飛ばされ結界に背中を打つ。力無く肩を落としたハンバーグを見た拳凰は拳を引くが、気を緩めることなく相手を注視。

「ま、だだ……」

 拳凰の予感通り、ハンバーグは死力を振り絞って復活。全身から魔力のオーラを迸らせながら、やけっぱちで突っ込んでくる。

「感謝するぜ、獅子座(レオ)のハンバーグ。てめーのお陰で俺はここまで強くなれた」

 身構える拳凰は、襲い掛かるハンバーグ目掛けてカウンターの裏拳を一発。

「ムニエル様を、頼む……」

 倒れ際にそう告げるハンバーグを見下ろす拳凰は、眉に皺を寄せていた。

「そいつが結婚しろって意味なら生憎聞けねー相談だ。俺には心に決めた奴がいるからな」

「ケッ……どこまでも無様だぜ、俺はよ……」

 自嘲の言葉を吐きながらハンバーグの姿が消え、次の宮への扉が開く。

「ケン兄!」

 花梨がステージへと駆け上がり治癒の魔法をかけようとすると、拳凰は掌を向けてそれを止める。

「大したケガはしてねーよ。今はMP節約しとけ」

 ぽんぽんと花梨の頭を撫でて言うと、花梨は俯き頬を染める。

「もう全部あいつ一人でいいんじゃないカニ……」

 今の拳凰の圧倒的な強さを目の当たりにしたカニミソがそんなことを呟くが、拳凰は首を横に振る。

「いや、流石に一戦やったら後は疲れるからな。お前らのことは頼りにしてるぜ」

「そうカニか。その期待に応えられるよう頑張るカニ」


 皆が拳凰の勝利に喜ぶ最中、恋々愛は扉が開いた先に目を向ける。

「十二星座で、獅子座の次って……」

「乙女座だな」

 それに答えたのは玲である。

「妖精界最強の格闘家、乙女座(バルゴ)のミルフィーユ。俺の担当だ。是非とも本気のあいつと手合わせ願いたいもんだぜ」

 やる気を見せている玲。それとは対照的に、恋々愛は悲しそうに眉尻を下げていた。


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