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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第142話 恋する魔法少女

 幸次郎の単独勝利で仲間達に希望を見せたことから一転、階段を下りる智恵理の足取りは重かった。

「智恵理、辛いなら無理しなくても……」

「ううん、カニミソの相手はあたしにやらせて。あたしがやらなきゃいけないの」

 梓に心配されたことで、智恵理はかえって決意が固まった。足を速め、先陣を切って巨蟹宮へと足を踏み入れる。

「カニミソ! あたしが相手よ!」

 力いっぱい気合を籠めて、声を張り上げる。ステージ中央に立つカニミソは、険しい顔で腕を組みこちらを見つめていた。

「よくぞ巨蟹宮まで来た。この蟹座(キャンサー)のカニミソが相手をしてやる」

「何? そのカッコつけた口調。語尾にカニ付けるのはどうしたの?」

 少し動揺しつつも、智恵理は強がりながらステージに上がる。

「智恵理……お前が相手だろうと容赦はしない」

 指をピンと伸ばして手刀を構えるカニミソを見て、智恵理はぎゅっと杖を握った。

「勿論そんなこと期待してないから」

 杖の先端に星型の魔力を光らせ、闘いの意思を示す。

「あんたがクソみたいな王様の戦争計画に加担するなんて……絶対許さないから!」

 不意打ち気味に魔法弾を発射してカニミソを狙い撃つ智恵理。だがカニミソは右手の手刀一発でそれを真っ二つにしかき消した。

 怯まず魔法弾を撃ち続ける智恵理と、それを防ぎ続けるカニミソ。星型の魔力弾一発一発を的確に見極め、手刀によってその魔力を断つ。

「そんなものか智恵理。妖精騎士団で最も弱いこのカニミソに、微塵も攻撃が通じていないぞ!」

「それならこうするまで!」

 次に智恵理の取った手は、杖の先端に魔力を溜めた状態で突撃。本来遠距離用の武器を近接戦に活用する智恵理の得意技だ。

 杖の先端でギラギラ輝く星は、強い魔力を高圧縮している。それでぶん殴れば爆発を起こし、見た目以上の威力が出るのだ。

 だが鬼気迫る表情で突っ込んでくる智恵理に対し、カニミソは冷静であった。フルスイングされた杖の先端を、爆弾の導火線の如くスッパリ切り落とす。宙へと跳ね上げられた杖の先端は溜め込んでいた魔力を暴発させて砕け散るも、カニミソに爆風は当たらない。

 智恵理は柄だけになった杖で強引に殴りかかるも、そんな苦し紛れの攻撃が通じるはずもなく。柄を掴まれてそのまま床に張り倒された。

「智恵理!」

 梓の声が響く。ダウンを取られ大きな隙を晒した智恵理は、とどめを刺されるのを待つばかりだ。だが智恵理を見下ろす朱色の瞳は、どこか非情になりきれぬ優しさを湛えていた。

「カニミソ……あんた本気で人間界と戦争しようとか思ってるわけ!? 牡羊座の騎士は割り切ってるって言ってた。あんたもそうなの!?」

 床に伏したまま顔だけ上げ、智恵理はカニミソを問い詰める。

「それが騎士の職務だ」

 ポタージュ同様の融通の利かない答えを返され、智恵理は歯を食いしばった。

「だったら……!」

 不意に足払いをされてバランスを崩したカニミソ。その隙に智恵理は杖を再生成し、魔法弾を発射した衝撃で起き上がりつつ退避。

「もうあったまきた! あんたなんか本気でぶちのめしてやる!」

 感情的になって叫ぶ智恵理だったが、既にカニミソは次の攻撃の準備に出ていた。両脚を開いて立ち、指先で天を衝くようにを垂直に挙げられた左腕。指先と爪先の三つの点でデルタを形作るようなその姿は、かつて一撃の下拳凰の右腕を切り落とした大技の構え。

「マズい! 左の手刀が来るぞ!」

 拳凰が叫ぶ。勿論智恵理とてカニミソの利き手が左であることくらいは知っている。だがこれまで、カニミソが智恵理とのスパーリングで左の手刀を使ったことはなかった。智恵理は拳凰の忠告を無視して、無策で突っ込む。

 瞬間、手が振り下ろされると共に一直線に放たれた衝撃波が杖を真っ二つにし智恵理を吹き飛ばした。

「うああああっ!!」

 悲鳴と共に結界に叩き付けられた智恵理は力なく尻餅をつくが、まだ変身解除までは至らず。キッとカニミソを睨みつけ、まだ闘志が消えていないことを見せつける。

「落ち着いて智恵理! 冷静さを欠けば相手の思う壺よ!」

「っ……」

 結界越しに梓から窘められて、智恵理は胸が苦しくなった。好きな男が敵に回って、辛くないはずがない。強がるあまり、知らず知らずのうちに自棄になったような戦い方をしてしまっていたことに気付く。自分がやらなければと言っておきながらこの醜態に、恥ずかしくてたまらなくなった。

「梓……あたし、どうしたらいい?」

「智恵理のやりたいように戦えばいいよ。大丈夫、智恵理は強いんだから」

「……わかった。ありがとう梓。それと……あたしはこの一戦に全てを賭けるつもりだから。もしここであたしが消えても、梓達が絶対助けに来てくれるって信じてるから」

 そんなことを言われ一瞬驚いた梓であるが、覚悟の決まった智恵理の姿を見て頷く。

「ええ、任せて」

 目と目を合わせて通じ合う二人。この一戦に惜しみなく全力を賭す決意を固めた智恵理は、再び杖の先端に魔力を集める。

「話は終わったカニ?」

「あんた口調戻ってるわよ」

 悠長に待ってくれていたカニミソに、智恵理は軽口を返す。

「こっからはあたしのやりたいように戦うから。覚悟してよ」

「そうカニ」

 身構えるカニミソ。智恵理は魔力を溜めた杖を手に、再び駆け出した。

 馬鹿の一つ覚えか、否。先程のそれとは様子が異なる。光り輝く杖の先端からは、彗星のように煌めく尾を引いていたのだ。

(俺の知らない技が来るカニ!)

 警戒心を強めるカニミソは、しっかりとカウンターの構え。近づいてきた智恵理に左の手刀をお見舞いしようとする。

「コメットブレイカー!!!」

 技名を叫んだのも束の間、智恵理は独楽のように一回転して衝撃波を回避。そのままの勢いでハンマーのように杖を振り回し、カニミソの鳩尾に杖の先端の魔力をぶち当てた。

 吹っ飛んで結界に叩き付けられるカニミソ。だが智恵理の攻撃はそれだけでは終わらなかった。彗星の尾として放出された魔力は宙へと浮かび上がり、星空を形成する。

「これがあたしの二段構えの攻撃! シャイニングスターストーム!!!」

 空に散りばめられた星の一つ一つが、光を纏ってカニミソへと降り注ぐ。それはまさしく、流星群の如く。カニミソはそれを両手の手刀を振り回して一つ一つ叩き落してゆくが、圧倒的な数を前に手が足らず。その身に流星を受けて血を流す。

(智恵理……強くなったカニな……)

 いくつもの傷を負いながらもどうにか流星群を凌ぎ切ったカニミソ。だが智恵理が次にとった行動は、そのカニミソを愕然とさせた。

 結界を背にするカニミソ目掛けて一直線に突進してくる智恵理。その動きは隙だらけのようで、カウンターは容易く見えた。だが何を思ったか、智恵理はカニミソの目の前まで来たところで杖を投げ捨てた。思いもよらぬ行動に虚を突かれたカニミソは反撃の一手が遅れ、智恵理の接触を許してしまったのだ。

 そこから続く行動もまた、カニミソにとって予想だにしないものであった。両腕を広げてカニミソをギュっと抱きしめ、小さな胸を精一杯押し当ててきたのである。

「カニミソ……あたしはあんたが好き。あたしと付き合って」

「は? カニャ?」

 戦闘中に言うこととは思えぬ発言が飛び出し、カニミソは理解不能の事態に困惑するばかり。だがほどなくしてその言葉の意味を理解し、頬を赤く染めた。

「なっ、何言ってるカニ!?」

「だからあんたが好きなの!!」

 もう二度と聞き返しはさせないと、大声ではっきりと告げる。大胆すぎる告白を受けたカニミソは蟹の甲羅のように赤くなった顔を引き攣らせていた。

 まさかの事態に、このバトルを見ていた魔法少女とハンター達もぽかんとするばかり。

「ま、待つカニ智恵理。法律的にそれは……」

「あたしが高校生であんたが大人だから? そんなのどうだっていいじゃない! 小学生と付き合ってるロリコンだってそこにいるんだし!」

「おい待て、花梨は中学生だ。つーか誰がロリコンだ!」

 とばっちり喰らった拳凰がそこはきっちりと訂正。

「いや年齢とかそういうことじゃなく……妖精と人間が恋愛しちゃ駄目って法律があるんカニよ!」

「うっさい! そんな法律破っちゃえばいいじゃない! それでそのまま国も裏切ってあたし達の仲間になって!」

「言ってること無茶苦茶カニよ!? 何言ってるかわかってるカニか智恵理!?」

 ギャグかと思うくらいあまりに非常識なことを堂々と言うので、カニミソは愕然。

「たとえ智恵理の頼みでも、陛下を裏切るわけには……」

「悪い王様裏切って何が悪いの!?」

 ある意味正論。カニミソは絶句した。

「本当は納得してないんでしょ、人間界と戦争すること」

「……当たり前だカニ」

「あたしは好きな人と殺し合うのも、あたしの故郷と好きな人の故郷が争うのも嫌。だからこの戦争を止めるために……あたし達の仲間になって」

 抱きしめる腕の力をぎゅっと強め、カニミソの胸板に額を付けて懇願。カニミソは暫しの沈黙の後、唾を呑んで口を開いた。

「……わかったカニ」

 結界が解け、次の宮への扉が開く。

「や、やりやがった! こんな方法で扉を開きやがったぜ!」

「それも新たな味方の補充まで付いてきた。あの功績は計り知れないな」

 意外な決着を見ていた拳凰はそれでもガッツポーズで智恵理を称え、玲も微笑を浮かべて称賛。

「これで俺は裏切り者。フォアグラの同類に堕ちたカニ。陛下もこの様子は監視してるだろうし、今頃実家には闇の一族(ダークマター)が送り込まれているだろうカニ」

「え」

 後先考えず勢いでカニミソを説得していた智恵理は、それを聞いて顔が青くなった。

「気にすることはないカニ。万が一俺が陛下の命に背いた時のために軍隊を配備しておくよう、事前に父上に伝えてあるカニ」

「あんた裏切る気満々だったんじゃない!」

「あくまでも万が一カニよ。かつてケフェウス王国の軍勢を一人たりとも通さなかったシリウス要塞が、闇の一族(ダークマター)如きに落とされはしないカニ。それにあそこには、父上がいるカニ」

 屋敷に招待された際に智恵理と梓は会ったことがある、カニミソの父。先代牡羊座の騎士にして、かつては騎士の中の騎士と呼ばれた男、ジンギスカン・シリウスである。

「そういうわけだから俺の実家のことは気にすることないカニ」

「そう……よかった」

 智恵理は胸を撫で下ろすと、今度は上目遣いでカニミソを見上げる。

「それで……さっきの告白の返事は?」

「あー……実は、智恵理が俺のこと好きなのは前々から気付いてたカニ。でも法律の件があるから気付かないふりしてたカニよ」

「は? ちょっ……!」

 明かされた衝撃の真実。さっきまで青くなっていた智恵理の顔は、羞恥に赤く染まる。

「何それ!? どういう……!」

「でももう国を裏切ってしまった以上はどうにでもなれだカニ。智恵理、俺とお付き合いするカニよ」

「は、はい」

 随分あっさりとした調子で交際を承諾され、智恵理は何だか現実感が無くぽかんとしてしまった。

「おめでとう智恵理」

「え、えへへ……」

 梓に祝福され、智恵理は恥ずかしそうに頭を掻く。

「二人が結ばれて本当によかった……」

 目に涙を浮かべて喜ぶのは、恋々愛である。普段無表情な彼女が涙ぐむ姿に、幸次郎は可愛いと思いつつ驚いていた。

「恋々愛さん?」

「私、人間と妖精のハーフだから……人間と妖精のカップルができたの凄く嬉しい……」

 このタイミングでまさかの爆弾発言が飛び出し、全員の視線が恋々愛に向いた。

「え、お前も?」

 拳凰がそう言うと、今度は視線が拳凰に向く。

「もってことは……」

「ああ、俺も親父が妖精だ」

 さらりと拳凰が答え、皆して呆気に取られた表情。

「妖精と人間が結ばれることって、案外と多いんカニな……」


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