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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第138話 魔法少女VS妖精騎士団

「おう花梨、一回戦勝ったな!」

 花梨の部屋にやってきた拳凰は、早速笑顔で祝福。

「えへへ……ありがとうケン兄」

 和んでいた花梨であるが、突如としてけたたましく鳴り響いたスマートフォンがその気持ちに水を差した。

「何だ? 俺のも鳴ってやがる」

 拳凰が妖精騎士団から支給されたフェアリーフォンも、全く同じタイミングで同じ音を立てた。

 そして二つの携帯端末には、同時に同じ映像が表示されたのである。

『魔法少女の皆さんこんにちは。水瓶座(アクエリアス)のカクテルです』

 二つの画面に映ったのは、毎度お馴染みのマッドサイエンティスト。黒い背景を背に不気味な笑みを湛えながら登場する。

「何だ、バトル運営からの連絡かよ。でも何で俺のにまで」

 拳凰が疑問に思ったのも束の間、画面の中のカクテルは話を続ける。

『まずは一回戦突破おめでとうございます。ですがここで、魔法少女バトル日本大会の中止をご連絡させて頂きます』

「えっ!?」

 耳を疑う宣告に、花梨はぎょっとする。

「皆さん驚かれているでしょうが、これからその理由を説明致します。まずはこちらの動画を御覧下さい」

 画面に映る映像が切り替わり、そこは拳凰にとって見慣れた妖精騎士団の会議室。魔法陣からオーデンとガリが現れ、オーデンが更に耳を疑う言葉を告げる。


「これより我々は――人間界に侵攻する」

 妖精騎士達がざわつく。

「何を仰るのです陛下!」

 眉唾物の発言を受けて、ザルソバが声を上げる。

「ザルソバよ、其方は思わぬのかね、人間界が欲しいと。我ら妖精は長らく、この小さく狭い妖精界に閉じ込められて生きてきた。だからこそ、あの広大な人間界を手に入れたいと思うのが当然だろう」

(建前だな)

 即座にそう思ったのは、王族暗殺事件の真相を知るハバネロである。

(陛下が人間界侵攻を企てた本当の理由は、人間への復讐だ。ユドーフ様が人間と結婚したせいでマカロン様が自殺したという逆恨みで、人間という種全てに復讐しようとしているのだ)

 誰もが愕然とした表情をしている中で、真っ先に反対の意思を示しそうなホーレンソーは不思議と表情すら変えることなく沈黙を続けていた。

(ホーレンソー……一体どうしてしまったんだカニ……)

 皆の反応を窺っていたガリは、頃合を見計らって次の話を始める。

「そしてその開戦を告げる兵器についても、私の方から説明させて頂きましょう」

 ガリが手をかざした先に、禍々しいデザインの大砲のようなものが立体映像として現れる。

「次元破壊砲。私が秘密裏に開発し完成させた魔導兵器です。妖精界から直接人間界を砲撃できる優れものであり、その威力は例えば東京に照準を合わせて発射した場合、日本列島丸ごと更地に変えられるほどです」

 騎士達が再びざわめく中、ガリは更に説明を続ける。

「そして特筆すべきは、この砲のエネルギー源です。最終予選から本日の決勝トーナメント一回戦までに敗退した魔法少女は人間界に送還されたということになっていますが、実は私がシステムを改竄しており実際は送還されておりません。彼女達はこの砲に接続された魔石に封印されているのです。そしてお察しの通り、彼女達こそがこの砲のエネルギー源。生け贄として消費され、己の故郷を破壊する砲弾となって死ぬのですよ」

 正気を疑うような残虐極まることを平然と言い放つガリに、会議室は騒然となった。

 そしてそれは勿論、この映像を見せられていた魔法少女達もである。


「……何、これ」

 花梨は目を見開き、血の気が引いた表情でスマートフォンを握っていた。

「オーデンの野郎……」

 拳凰は歯を食い縛り、握った拳が震え腕に血管が浮き出る。

 画面に映る映像は切り替わり、再び黒い背景にガリ一人が映し出された。

『はい、ご理解頂けましたか?』

 ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべ、甲高い声で煽る。

『そういうわけで、ベスト8に残った魔法少女の皆さんも、同じくこれを見ているハンターの御三方も生け贄になって頂きます』

 ガリがそう告げると、拳凰は身構える。

「ヤベエ! 魔法攻撃が来るぞ!」

『おっと、身構えなくても結構ですよ』

 それを見透かしたように、ガリは画面の中でそう言い放つ。

『いくら私といえど、いきなり皆さんを封印することはできませんから。まずは戦って戦闘不能にしなければ、ね。そこで私は、こんなゲームをご用意しました』

 拳凰と花梨を、魔法陣が包み込む。そして気付いた時、二人は四方を鉄の壁に囲まれた小部屋にいた。

「ちっ、ここは……」

 周囲を見回すと、魔法少女八名とハンター三名がこの場に勢揃い。

「貴方達もあの映像を見てここに飛ばされてきたの?」

「ああ」

 梓の尋ねに、拳凰が答える。

「妖精騎士カクテル……まさかあんな行動に出るだなんて」

 その男の危険性をホーレンソーから聞かされていた梓は、にも関わらず敵の術中に嵌まってしまったことに悔しさを滲ませる。

「ていうかあいつら人間界に攻めてくるって!」

「まったく、狂った権力者とは恐ろしいものだ」

 そういう人物と幾度と無く接してきたデスサイズは、顔を顰め吐き捨てるように言った。

「ところで私達、変身してるんだけど……」

 自分の身体を見ながら、花梨が言う。この場にいる魔法少女達は、全員が変身した状態となっていた。

「何もかもわからないことだらけね……」

「つーかそれよりもどこだよここは。ゲームがどうとか言ってたがよ」

「なんかあそこに扉あるけど」

 智恵理が指差した先には、この部屋唯一の出入口と思われる扉。

「とりあえずあの扉から進むとしましょう。罠には気をつけて」

 そう言って麗羅が足を進めようとすると、突如扉の前にガリが姿を現した。

「てめーは!」

 皆は揃って身構える。

「ようこそ黄道十二宮へ。ここは王宮地下にある要塞であると共に、祭儀の場でもあります。そして今は、皆様を生け贄へと誘うゲームの場……」

 と、そこで智恵理が魔法弾を発射。しかしそれはガリをすり抜け、後ろの扉に当たった。

「おっと、攻撃しても無駄ですよ。私はただの立体映像ですから」

 ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、またも甲高い声色で煽る。

「この先では一部屋毎に一人ずつ、妖精騎士が待ち構えております。皆様にはそれらと一対一の試合形式で戦って頂き、勝てば扉が開いて先に進めるシステムです。ただし負ければその方は魔法少女バトルで敗退した魔法少女達と同様に魔石に封印されることとなります。対戦ルールは結界に囲まれたステージ上で行われる、言わば魔法少女バトル本戦以降と同じルールですね。全ての騎士を倒した先には妖精王たるオーデン陛下が待ち構えており、陛下を倒すことができれば封印された者達を全て救出でき、妖精界と人間界の戦争も未然に防げるというわけです」

「わざわざそんな試合形式にして何の意味がある? 俺達を生け贄にするために倒す必要があるならば不要な工程だろう」

 デスサイズからの尤もな質問。

「この試合形式が最も魔力エネルギーを得られるのですよ。魔法少女が戦えば魔力エネルギーが発生します。この先の戦争に備えてそれを少しでも多く蓄えておきたいのです。さて、説明はここまでにして、早速ゲームを始めましょうか。この扉の先は第一の宮、白羊宮。私は十一番目の宝瓶宮でお待ちしております。そこまでに一人でも生き残れれば、ですがね……」

 ガリの姿がすっと消え、扉が開く。その先には下り階段が続いていた。

「ど、どうすんの……?」

「行くしかないでしょう。どの道行かなきゃどうにもならないのだから」

「よし、行くぜ!」

 いの一番に、拳凰が扉を抜けて階段を駆け下りた。



 階段を下りた先で、一面開けた場所に出る。魔法少女バトルで使われるのと同じ正方形のステージの上で、クリーム色の髪をした女顔の美少年が立っていた。

「どーもどーも、僕が白羊宮を守護する騎士、牡羊座(アリエス)のポタージュ的な。説明はカクテルから聞いてると思う的だから省略する的な」

「うっし、とりあえずあいつをぶっ倒しゃいいんだろ」

 拳凰が前に出ようとすると、デスサイズが肩を掴んで止める。

「待て拳凰。お前は俺達の中で最強の戦力だ。妖精王オーデンとの決戦には、お前の力が必要不可欠だろう。だからこそ騎士団との対戦ではお前を温存せねばならない。肝心の最終決戦でスタミナ切れされては元も子もないからな」

「なるほど」

 そう言われれば、戦闘狂の拳凰といえど引き下がらざるを得ない。

「それと拳凰の恋人の嬢ちゃん、君は治癒の魔法が使えるんだったな」

「は、はい」

 拳凰の恋人、と面と向かって言われ照れる花梨。

「肉体の損傷だけでなく、魔法少女のHPを回復させることもできると聞くが」

「はい」

「だったら君も戦闘には参加せず回復役に専念すべきだ。こちらは十一人で、敵は妖精騎士十三人と妖精王の計十四人。まず人数で負けている以上、一度戦った者を君の魔法で万全の状態に回復させて再登板させることも必要になってくるからな」

「わかりました」

 デスサイズの目を見て、花梨は頷く。

「で、作戦会議は終わった的なー?」

 退屈そうに欠伸をしながらポタージュが言うと、麗羅が一歩前に出た。

「貴方が相手なら、私が戦わせてもらうわ。皆もいいわよね?」

「ああ、存分に戦って来い」

 年長者でありとりあえずの指揮官ポジションに収まったデスサイズが、麗羅の尋ねに頷く。

「頑張って麗羅!」

「任せて。ポタージュとはトレーニングで何度も手合わせしてる。あいつの戦い方は熟知してるから」

 麗羅がステージに上がると、ステージの四方を結界が覆った。

「お前達も、皆自分の担当と手合わせをしているのか?」

「ええ、担当からどれほど期待されているか次第ではありますが、多かれ少なかれ魔法少女は皆ある程度担当騎士と戦ってトレーニングしています」

 デスサイズの質問に、寿々菜が答えた。

「そうか、ならば今後も自身の担当する騎士と戦っていった方がある程度有利かもしれんな。尤も、実際はそう単純ではない可能性も大いにあり得るが……」

 デスサイズはステージ上を見据える。今後の戦いでどのような戦略を採るべきか、この一戦で見極めるつもりなのだ。


「ポタージュ……貴方が私の芸能活動と魔法少女の両立のために尽くしてくれたことは知ってる。だけどそれを理由に容赦するつもりは無いわ」

「当然的な。じゃ、始める的な麗羅」

 ポタージュが握った拳を広げると、指と指の間に一つずつナイフが出現する。先制攻撃でそれをヒュンと投げたポタージュであるが、麗羅は瞬時に翼で飛翔し回避。空中から蝙蝠の大群を飛ばし、反撃に出た。

「あーあ、トップバッターとか一番元気な敵を相手しなきゃいけないから損的な」

 蝙蝠の大群が眼前に迫っているにも関わらず、無駄口を叩く余裕のあるポタージュ。舞うように両腕を広げると、無数のナイフが蝙蝠の大群を切り刻み無へと帰した。

「天才的ぃ~な僕には生半可な攻撃は通用しない的な?」

 防御に使ったナイフをそのまま飛ばして、麗羅を攻撃。麗羅は空中を飛び回って避けるも、ポタージュはナイフの軌道を自在に操りそれを追尾させる。ナイフの速度は麗羅の飛行速度をゆうに上回り、今にも追いつかれようとしていた。

 麗羅は蝙蝠達を右手に集め、鞭を形成。その一振りでナイフを全て叩き落し、引き戻した鞭をすぐさまポタージュ本体へと振り下ろした。ポタージュはまるでスライドするかのような動きで、すっとそれを回避。互いに一度攻撃の手を止め、目を合わせた二人の間にバチバチと火花が散った。

「流石は麗羅的な。ステータス引継ぎのチートに胡坐をかかず研鑽を続けてる的な」

「そうね、魔法少女も芸能界も、生き残りには日々努力がかかせないもの」

 そう言う麗羅は、何を思ったか鞭を一旦解除して蝙蝠に戻す。

「本当は決勝まで取っておくつもりだったけど……大会が中止になっちゃったんじゃここで使うしかないわよね」

 蝙蝠の大群が一斉に集まって麗羅を包み込み、棺桶を形成。麗羅得意の防御魔法だ。だが先程の発言からして、それが次の一手への準備であることは明白だった。ポタージュはナイフを手に身構える。

 棺桶が砕け散る。飛んできた破片を、ポタージュはナイフを振った衝撃波で防御。棺桶の中から姿を現した麗羅は、紫のオーラを身に纏っていた。そして右手には、巨大な蝙蝠の頭部を模した手甲。これまでに見たことのない形態と武器に、観戦していた仲間達も驚いていた。

「麗羅、あんなのを隠してたんだ」

「流石ね……」

 智恵理と梓が驚嘆の声を上げるのも無理は無い。あの紫のオーラは、彼女の圧倒的に高い魔力が解放された証であるからだ。

「モード・ヴァンパイアジェネシス。これを出したからにはもう、貴方は終わりよ」

 空中からポタージュ目掛けて突貫する麗羅の飛行速度は、通常時のそれを優に超える。手甲の蝙蝠が口を開くと、その牙は血に濡れていた。

「吸血ファング!」

 ナイフを噛み砕いて破壊し、続けてポタージュ本体にも掴みかかる。バックステップで避けようとしたポタージュであったが麗羅はそれを上回る速度で追い付き、力強く牙を突き立てる。ナイフを手にした右手に噛み付くと、それまで余裕の表情を保っていたポタージュがギリッと顔を顰めた。

(これは……マズい的な!)

 身体から力が抜ける感覚。魔力を吸い取られているのだ。それでいてがっちりと喰らい付く牙は骨まで食い込み、ポタージュを逃がさない。

「私の吸血ファングは貴方の魔力を吸い尽くすまで離さない! これで私の勝ちよ!」

 勝ち誇る麗羅。その間にも、ポタージュを干からびさせる勢いで魔力を吸収し続ける。ピンチに陥っていたポタージュは――さも涼しげな笑顔を麗羅に向けた。

 この状況にそぐわぬ表情を見せられた麗羅は、一瞬動揺してしまう。アイドルの麗羅から見ても彼の笑顔は大変美しく、男性アイドルとしても女性アイドルとしてもやっていけると感じてしまうほどのルックスであった。

「しょうがない的だから、僕も奥の手を使う的な」

 そう呟いた直後、麗羅はぎょっとした。がっちり喰らい付いていたはずの蝙蝠の手甲が、麗羅の意思に反して口を開き始めたのだ。

(一体何が……)

 そう思ったのも束の間、口が完全に開いてポタージュはそこから手を引き抜く。そしてその瞬間、麗羅は触れられてもいないのに後ろに吹っ飛び結界に背中を打ちつけた。

 何が起こったのかもわからぬまま、麗羅は金縛りにあったように体を動かせぬ感覚を覚えた。もがこうにももがけず、ただ恐怖感と焦燥感に駆られるばかり。

「僕の魔法がただナイフを操るだけだと思ってた的な? でも実は僕は念動力使い的なー。あまりに天才的ぃ~すぎて絶望させすぎちゃう的だから隠しときたかった的な」

 種明かしすると共に麗羅を念動力で動かし、今度は体を床に打ちつける。そこから体を浮かせられてはビタンビタンと何度も床に叩きつけられる。更にそれだけでは留まらず、床をスライドさせられて身体を床に擦り付けられた。

(ポタージュが……こんな力を隠していただなんて……)

 一切体の自由が効かず防御することもままならない麗羅は、悔しさを噛み締める。

「さよなら麗羅。君のマネージャーやってたのはめんどくさかったけど案外楽しかった的な」

 そしてとどめの一撃として一気に宙へと飛ばし、天井へ叩きつけた。変身解除させられた麗羅は、バリアに包まれて床に落ちてくる。

 バリアごと消える麗羅。魔法少女とハンター達の動揺は計り知れなかった。こちら側の最高レベルの戦力として考えていた麗羅が初戦で落とされたことは、衝撃的と言わざるを得なかった。

「これが……妖精騎士の本気か……」

 この一戦で今後の戦略を見極めるつもりでいたデスサイズは、想像以上に厳しい戦いを予感させられ額に汗を浮かべた。

 誰もが動揺する中、ふと花梨は自分の体が宙に浮く感覚を覚えた。

「え?」

 そう思った途端、ステージに向かって高速で空中を飛ばされる。

「花梨!」

 手を伸ばそうとした拳凰は、金縛りに遭ったように全身が動かなくなった。花梨がステージに着地すると、再び結界がステージを覆う。

「さーて、次は回復役を潰させてもらう的な」


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