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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第136話 激闘決勝トーナメント

 試合開始が宣言されると、花梨は瞬時にガーゼを翼に変化。空中へと移動した後、無数の注射器を展開。

「行くよ……針千本!」

 香澄は格闘戦しかできないと踏んで、相手の攻撃が届かない空中から飛び道具での先制攻撃。だが香澄は一気にダッシュして避け、花梨の真下まで来ると垂直に跳び上がった。

 衝撃的な跳躍力に花梨が驚いたのも束の間。脚にしがみ付かれた途端、花梨の腰に白い廻しが巻かれた。

「ひゃあっ!」

 ナース服の上から廻しという絶妙に恥ずかしい格好にさせられた花梨は、頬を染めて悲鳴を上げる。

 香澄は花梨の廻しを掴み、そこから腕の力だけで花梨より上へと体を上げる。二人の真下には、香澄が魔法で作り出した土俵が出現していた。香澄は花梨を地上へとぶん投げ、土俵に叩きつけようとする。

 香澄の魔法は相撲のルールで負けとなる状態――即ち足の裏以外が土俵につくか土俵の外に出されれば大爆発が起こり即死級のダメージを受けるというもの。はっきし言ってとてつもなく強力な魔法だ。

「させない!」

 花梨は翼を大きく羽ばたかせた後に畳み、地面すれすれの所を滑空し飛翔。再び空中へと退避した。香澄は両足でしっかりと土俵に着地。

(あんなジャンプ力を隠してただなんて……)

 飛行能力を持った相手への対抗策もちゃんと用意している。流石決勝トーナメントまで勝ち上がってきただけのことはあるのだ。

 香澄の足下の土俵が消える。土俵の存在は香澄にとってもステージ上の自由な移動を阻害するものだが、出し入れは自由なためさほど問題ではない。

 再びジャンプで掴みかかろうとした香澄に対し、花梨は包帯を新体操のリボンのように螺旋を描かせて自身の周囲に纏わせる。包帯に触れた香澄の手は逆に包帯に掴まれそうになったので、慌てて手を引っ込めた。

 着地した後無言で花梨を見つめる香澄の目は、包帯の動きをじっと観察している様子だった。一見すると隙だらけのため、花梨は一度注射器を投げるもそれは瞬時に避けられる。

 だが花梨が攻撃のため隙を見せたその瞬間、香澄は包帯の隙間をすり抜けるようにして花梨に跳びかかった。

 廻しをがっちりと掴み、投げる準備は万端。だがその瞬間、衝撃の事態に香澄は目を丸くした。花梨の廻しが、香澄の腕に巻きついたのである。

 否、それは廻しに偽装した包帯であった。花梨は廻しの上から同じ形に包帯を巻き、香澄がそれを掴んだ途端逆に相手を捕えるトラップを仕掛けたのだ。

 一度掴んだら、後は一気に全身を包帯が拘束。花梨は包帯を引いて勢いをつけると、香澄を土俵目掛けて投げ返す。土俵に叩きつけられた香澄は大爆発を受け、ステージ上は砂煙に包まれる。

 花梨は自分の腰に巻かれていた廻しが消えたのを確認すると、皺になったスカートを直しながらステージに舞い降りる。砂煙が晴れると、そこにはバリアに包まれた香澄の姿。しかし彼女の着ている服は変身後とあまり変わらず、黒いスパッツの上から廻しを巻いた姿であった。気合を入れるため、変身前から廻し姿で臨んでいたわけである。

「勝者、白藤花梨選手ー!」

 勝者の名が宣言され、観客席が沸き立つ。だがその歓声にも負けぬ大声が、ステージ上から発せられた。

「うわああああああん!!!」

 これまで無口を貫いていた香澄が、突如ギャン泣きを始めたのである。

「だ、大丈夫!?」

 変身解除した花梨が駆け寄ると、香澄のバリアが消える。

「うぐっ……えぐっ……大丈夫……です……」

 泣きじゃくりながら返事をする香澄を、花梨は心配そうに見つめる。

「もしかして、どうしても叶えなきゃいけない願いがあったんじゃ……」

「いえ……負けて悔しいだけですから……お相撲に負けた時も……いつもこうやって泣いちゃうんですっ……」

 ひとしきり泣いた後、香澄は涙を拭って花梨に笑顔を見せる。

「ありがとうございました。いい試合でした」

「こちらこそ」

 握手を求められた花梨は快く応じ、爽やかな幕引きで香澄は妖精界を去った。


(朝香ちゃんの時は会話する時間も与えられなかったのに……)

 観戦していた梓は、第一試合との違いに疑問を浮かべた。やはり朝香にはまだ何かあるのではという疑問が尽きない。


「おめでとう花梨!」

 観客席に戻った花梨を出迎えたのは、ショート同盟の面々である。

「うん、やったよ! 次は蓮華さんの番だね!」

「ええ、私も頑張ります」


 第二試合の興奮も止まぬまま、第三試合が始まる。こちらは獅子座同士の対戦カードである。

「格闘文学少女、美空寿々菜!」

 まずはハンバーグ師匠の弟子、空手着にブルマという衣装を纏った三つ編み眼鏡っ娘。

「千手の尼僧、弥勒寺蓮華!」

 それに対するはミニスカ僧衣に丸刈り頭の尼さんである。

「宜しくお願いします!」

「ええ」

 互いに挨拶を交わすと、試合開始。相手の先制攻撃が来る前に、蓮華は黄金に輝く千手観音を召喚。ビームを発射して寿々菜を攻め立てる。対して寿々菜は瓦を展開してビームを防ぎつつ、割れた瓦の破片を飛ばして攻撃。試合序盤はお互い飛び道具の撃ち合いとなった。そしてやがて、お互い一気に勝負を決めようと大技に出る。

「色即是空!」

「獅子頭聖拳!」

 千手観音が全ての手から一斉にビームを発射し、それを迎え撃つ寿々菜は獅子の頭部を模した巨大な鬼瓦を打ち出す。大技と大技のぶつかり合いに、観客達は息を呑む。鬼瓦はビームによって砕かれると、無数の破片へと分裂。一斉に蓮華へと飛来した。千手観音が盾となって破片を受けるも、そのダメージで消滅。すぐさま再召喚した蓮華であったが、その隙に寿々菜はダッシュで接近。召喚途中の千手観音を通り越して蓮華本体に正拳突きを決める。

 錫杖で防御しようとした蓮華であったが、蓮華の拳は錫杖を的確に避けて蓮華の胸を打つ。

「っ……!」

 蓮華が怯んだ拍子に、寿々菜は自身の周囲に瓦を多数展開。だが背後に千手観音が召喚されたことに気付き、回し蹴りでそちらを迎撃した。

「千手ビーム!」

 自分自身を巻き込むことを厭わず、蓮華は千手観音に攻撃を指示。寿々菜に蹴倒されながらも、千手観音は寿々菜目掛けてビームを発射。寿々菜は結界に叩きつけられる。

「よし、続けて……」

 そう言おうとした瞬間、蓮華は自身の周囲を漂う大量の瓦の破片に気が付く。多数の瓦をビームへの防御に使った寿々菜。防御効果はそれほど高くはなく自身はビームをまともに喰らうことになったが、割られた瓦は一転して強力な武器となる。全身に一斉に瓦の破片をぶつけられた蓮華は、あっという間に変身解除となった。

「参りました……」

「ありがとうございました」

 バリアの中の蓮華に頭を下げる寿々菜。最後まで礼儀正しい二人であった。


「蓮華さん、負けちゃったか……」

「でも、いい試合だった」

 ショート同盟の面々は仲間との別れを惜しみつつ、妖精界を去る蓮華を見送った。


 そして第四試合。ステージに立つのは超絶セクシー衣装を身に纏った二人。

「ダイナマイト小学生、古竜恋々愛!」

 白いふんどしビキニ姿で褐色の肌を大胆に見せた、長身爆乳小学生。健康的な色気に溢れたその姿に、観客席からは大歓声が巻き起こる。

(恋々愛さん、頑張れ……!)

 幸次郎がぐっと拳を握って無言のエールを贈ると、恋々愛はそれに気付いてか気付かずかそちらを振り向き朗らかな笑顔で手を振った。

「セクシーグラビティ、羽間ミチル!」

 対するは一見重厚な鎧に身を包んでいるようで腰部は前貼り一枚という変態そのものな衣装の魔法少女。

「楽しい勝負にしましょうね、恋々愛ちゃん」

 人差し指を唇に当てながら、語尾にハートマークが付いているかのような艶やかな口調で言うミチル。

「それでは……試合開始!」

 開始が宣言されて駆け出す恋々愛とは対照的に、ミチルは一歩も動かず大盾を構える。

 大盾を避けて回り込んだ恋々愛は、ミチルの腕を掴んで投げ伏せた。ミチルは倒れる際に大開脚し、前貼り一枚の股間を観客に見せびらかした。

「ふふっ、やるじゃない恋々愛ちゃん」

 特に意味の無いセクシーアピールができるというのは、ミチルにはまだまだ余裕があるということ。カウンターに槍で突いてきたのを避けた恋々愛は、一歩下がってミチルの出方を窺う。

 ミチルの盾は単なる防具ではない。これで攻撃を防げば相手に重力魔法をかけるという恐ろしい武器だ。同じチームで戦ってきた恋々愛は、当然それを熟知している。だからこそ今回防御される可能性の高い斧は使わず格闘戦を仕掛けたのである。

 起き上がったミチルは盾に身を隠しながら突撃するも、恋々愛は横っ飛びでさっと回避。そして背中側の鎧を掴み、レベッカ譲りのバックドロップで豪快に投げる。

 頭を床に打ちつけて兜がぐわんぐわんと鳴る中、ミチルはしっかりと恋々愛を見据えた。だが恋々愛は立て続けにミチルを掴み、今度は香澄譲りの掬い投げ。重厚な鎧をものともせず、軽々と持ち上げて投げ飛ばす。

(つ、強い……! 前にも増して強くなったんじゃないのこの子!)

 元チームメイト相手でも全く容赦の無い連撃を浴びせる恋々愛に、ミチルは焦る。

 いくら下半身が身軽とはいえ、上半身に纏った鈍重な鎧のお陰で恋々愛の掴みを回避できるだけの敏捷性は無い。とにかくどうにか重力魔法をかけられないことには、勝機は掴めないだろう。

(正直勝つのは厳しいと思ってたけど、本気モード出させずに負けるのも癪なのよね)

 そう思ったミチルは、何を思ったか槍と盾を投げ捨てる。

「かかってらっしゃい。こっちも素手で相手してあげる」

 恋々愛はその行動の意図が読めず、首を傾げた。

「……うん、わかった」

 だけども深くは考えずわざわざ相手の作戦に乗ってあげるのである。

 恋々愛が掴みかかろうとすると、何を思ったかミチルは尻餅をつきM字開脚の姿勢に。最早隙しかないその奇行に恋々愛が驚いたのも束の間、ミチルは瞬時に盾を拾い恋々愛の掴みをそれで受けた。

(かかった!)

 ズン、と上から圧し掛かるような重みが、恋々愛を襲う。いかに恋々愛がパワフルでも、一歩も歩けなくなるほどの強烈な重力だ。

 ミチルはすかさず槍を手にし、M字開脚姿勢のまま恋々愛を突く。胸の谷間を狙って槍を刺された恋々愛は仰け反るが、それ以上の追撃はさせぬとばかりにブレスレットとアンクレットによる封印を解除。瞬時にその場からテレポートした。

(一体どこに……)

 ステージ全体をキョロキョロと見回し、恋々愛を探すミチル。だがその頭上に影が差したことに気付いたのは、もう間に合わなくなってからだった。

 上を向いた瞬間、眼前に広がるのはTバックのふんどしビキニで最低限の部分だけを隠した大きなお尻。自身の魔法によって重量が増した恋々愛のヒップドロップを顔面に喰らい、ミチルはものの見事に変身解除。

「勝者、古竜恋々愛選手!」

「……見事だったわ、恋々愛ちゃん」

 会場が沸き立つ中で、ミチルはそう呟く。最後はお尻で決めるというセクシーな勝ち方に、負けたミチルも満足げであった。


 だがその一方で、舌打ちをするのはオーデンである。

「せっかく封印を解いたというのに血の一滴も流すことなく終わるとは。対戦相手は無能にも程があるな」

「まったくもってその通りでございます陛下」

 封印開放した恋々愛は、普通の魔法少女と違ってダメージを受けたら肉体が傷付く。オーデンとガリにとってはそれが楽しみだったのだが、第一試合に続いて肩透かしを喰らった気分であった。

「いやぁ、それにしてもミルフィーユさんは本当にあくどいことをするものです」

 オーデンの横で、ガリが薄ら笑いを浮かべながら言う。

「古竜恋々愛……先代乙女座の騎士、ティラミス・ディフダの娘。最強の魔法少女だ等と持て囃されていますが、そりゃあそうでしょう。何せその身に妖精王家の血が流れているのですからね。神の力を魔法少女バトルに持ち込むとは、まったく卑怯でよろしくありませんね」

 自分自身も担当する魔法少女をシステム改竄で強化していながらそれを棚に上げてミルフィーユを批判。

 黄金のブレスレットとアンクレットで魔力を封印している状態は魔法少女の肉体であり通常通り肉体が傷付くことはない恋々愛だが、その封印を解くことで妖精の肉体となる。神の力と呼ばれる膨大な魔力を行使できるようになるのと引き換えに魔法少女用の防御システムは無効となり、ダメージを受ければ肉体が傷付くようになるのである。

「彼女の願いは実の母親と再会すること……まさか妖精騎士団の一員ともあろう者が、投獄された親友を開放するために魔法少女バトルを利用しようとは嘆かわしい。ティラミスを牢獄にぶち込んだのはミルフィーユさん自身だといいますのにねぇ」

「フン……ティラミスめ。従姉妹の誼で死刑にはしないでおいてやったものを、愚かな親友のお陰で罪を重ねることになるとはな。大会が終わった後でミルフィーユとティラミス、そしてあの恋々愛という娘。三人纏めて打ち首にしてくれよう」

「勿論、執行人は……」

「我自身だ」

 オーデンが笑ったことを示すように、仮面の裏からニチャアと音が鳴った。


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