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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第八章 最終決戦編
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第135話 再戦・梓VS朝香

 泣き虫な性分故に学校でいじめを受け、登校拒否をしていた朝香。そこに現れ、願いを叶えてくれると言った水瓶のぬいぐるみ――それが妖精騎士・水瓶座(アクエリアス)のカクテルであった。

 彼の口車に乗せられ魔法少女となった朝香は、その類稀なる才で連戦連勝。しかしそれは、ある意味で言えばカクテルことガリの期待に副えぬものであった。

 ガリがシステムを改竄して仕込んだ覚醒モード。それは朝香がピンチに陥り泣き出した時に発動するものである。だが朝香の強さが仇となり苦戦する程の相手となかなか巡り合えず、覚醒が発動する機会も一向に来なかったのである。

 そんな中訪れた二次予選にて、優勝候補の一角である梓との対戦カードが実現。そこで初めて覚醒モードを実戦で披露することとなり、梓にトラウマを刻み込んだ上で勝利したのである。

 これまで幾多の対戦を繰り返してきた朝香であるが、覚醒が発動したのはその一度きり。

 そして本日、その対戦カードが再び行われることとなったのである。



 魔法少女バトル決勝トーナメントは、全試合王立競技場で行われる。

 ステージ上に立つのは、つい数日前まで同じチームで共に戦ってきた二人。

「さあ、始まりました魔法少女バトル決勝トーナメント! それでは一回戦第一試合の選手をご紹介致しましょう!」

 実況のタコワサが、熱の入ったアナウンスを飛ばす。

「まずはこちらの眼鏡っ娘! 破魔弓の狐巫女、三日月梓!」

(何この恥ずかしい肩書き……)

 名前を呼ばれた途端に大盛り上がりの会場であるが、当の梓は引き気味。

「対するは涙の雨降り少女、雨戸朝香!」

 梓と対峙する朝香は、レインコートのフードを深々と被って俯いており表情が窺えない。

「いい試合にしましょう、朝香ちゃん」

 声をかけるも、返事は無い。様子が変だと思った梓がじっと観察すると、朝香はまるで石像のようにピクリとも動かず立っていた。何か嫌な予感がすると、梓の胸中がざわめく。

「お二人とも、準備は宜しいですか? それでは……試合開始!」

 緊張感が高まる中、試合開始が宣言される。その瞬間、朝香の黄色いレインコートが血のように赤く染まった。

(まさか!?)

 フードの中が闇に包まれたように真っ暗になり顔が見えなくなったかと思うと、その中で目と口が赤く光る。レインコートの袖は肉食獣の口のような形状となって牙を剥いた。

 朝香の覚醒は、ピンチになった時に起こるもの。梓はあくまでその認識だった。それが試合開始と同時に発動したものだから、梓の動揺は計り知れない。


 その朝香の異様な姿は、それを初めて見る他の魔法少女達にも衝撃を与えた。

「ねえ、あれが梓の言っていた朝香ちゃんの暴走状態ってこと?」

「あ、あたしも見たことないけど、多分……」

 麗羅が智恵理に尋ねると、智恵理もまた愕然とした表情をしていた。

「あの可愛らしい朝香ちゃんがあんな姿に……」

 麗羅は梓の話を聞いてもどこか信じきれない気持ちが少なからずあったが、実物を目の当たりにすれば嫌でも信じざるを得なくなるというもの。得体の知れない恐怖感に押し潰されそうになりながら、手に汗握り試合を見守っていた。


 赤い傘が一つ、二つ、三つと現れ、その内側から梓に向かって血のように赤い雨を発射。この雨粒の一つ一つが凄まじい攻撃力を持つ弾丸である。その上当たれば激しい痛みと共に、本来傷付かないはずの魔法少女の肉体に直接ダメージを与える効果まであるのだ。

 動揺を隠せなくとも冷静を装いながら、梓は後ろに跳んで回避。それと同時に矢を三本番えて射り、三つの傘を的確に射抜いた。だがステージ上に降り注いだ雨は真っ赤な水溜りを作り、踏んだ者の足を貫く地雷となる。それは梓の移動を制限させ、次の攻撃を回避しにくくするものでもあるのだ。

(一度戦っていてよかった……何も知らずにいたらあの罠にかかっていたでしょうね)

 梓は魔力で生成した黄金の矢を番え、水溜りを撃って消滅させる。更にそこに矢を残し、奥義発動の布石とした。

 狐の尾が一本生えた梓は続けて朝香本体を狙い撃つも、黄金の矢は牙のようになったレインコートの袖によって噛み砕かれる。

(レインコートの袖による防御。前回はあれを突破できなかったけど……)

 梓にはそれを破るビジョンが見えている。矢を三本番えて射ると、それぞれが違った軌道に曲がって飛んでゆく。朝香はキョロキョロと三つ全部を目で追おうとして、全く追えていない事態に陥っていた。

 一本を右手で、もう一本を左手で掴んで防ぐも、背後から飛来する残りの一本は防ぎきれず背中に刺さる。

 怒り狂って怪物のような雄叫びを上げた朝香は、新たに赤い傘を生成。しかし即座に放たれた次の矢に破壊される。続けて梓は黄金の矢を二本撃ってステージ上に刺し、尾を更に二本生やす。


「よーし、いいよ梓! その調子!」

 優勢の梓を見て智恵理が喜びの声を上げるも、麗羅は浮かない顔。

「麗羅……やっぱり朝香ちゃんが倒されるのは辛い?」

「ううん、これは魔法少女バトルだから、そのくらいは割り切ってる。それよりも私が心配なのは、このまま梓が奥義の発動まで行けるかどうかだよ。長すぎる上に動けなくなる溜めよりはマシとはいえ、やっぱりステージ上に矢を九本刺して魔法陣を作らないといけないのは手間がかかりすぎる。ショート同盟戦の時は初見殺し的に上手くいったけど、また同じように奥義が撃てるとは思えない……」


 麗羅の杞憂は当たっていた。順調に奥義発動の準備を整えていたかに思えた梓であったが、朝香が広範囲に向けて発射する赤い雨はステージに刺さった矢を破壊してしまう。

 絶叫を上げ発狂したかのような猛攻をかける朝香に、梓は防戦一方であった。

 回避に集中しつつ隙を見ては傘や水溜りを破壊するも、先程のように本体へ攻撃できるほどの隙はなかなかできない。

 その一端を担うのは、耳を劈くような絶叫だ。本能に恐怖を訴えかけるようなその凄まじい咆哮が、梓の精神を乱し試合への集中力を削いでゆく。

(この声……朝香ちゃんが泣いているみたい。まるで……助けを求めているように……)

 その戦いぶりは怒り狂っているようにしか見えないが、悲鳴のような絶叫にはどこか痛みと悲しみを感じさせる。朝香と同じシステムを仕込まれた魔法少女はその負荷に耐えられず、長い間昏睡状態になっていたという話をホーレンソーから聞いている。

 梓の弓を握る手が一瞬震えるが、ぐっと手に力を籠めて強引にそれを止めた。

 どうすれば朝香を元に戻せるか、梓は考える。二次予選の時は、ホーレンソーの攻撃で変身解除されれば暴走状態は収まった。そしてもう一人の実験台となった魔法少女――幸次郎の双子の姉、穂村瑠璃は魔法少女バトルから正式に脱落し体から完全に魔力が抜けたことで目を覚ましたという。ならば自分がこの試合に勝利し、朝香が敗退すれば彼女を助けられるかもしれない。

 しかし万が一それだけでは助けるに到らないとしたら。否、そうであっても一つだけ確実に朝香を助け出す手段がある。魔法少女バトルの優勝特典、願い事を叶えてもらうことだ。

 兎にも角にも、まずはこの試合に勝たなくては何も始まらない。考えが固まったら、恐ろしい悲鳴も耳に入らなくなるくらいに集中力が高まった。


 一人システムルームを離れオーデンと共に特別観戦席で朝香の試合を観ていたガリは、朝香の優勢にほくそ笑んでいた。

「如何です陛下。陛下が喉から手が出るほど見たがっていた人間女性の惨殺シーンが、いよいよ見られますよ」

 にやついた顔でオーデン相手に謙るガリの横で椅子にふんぞり返るオーデンは、その瞬間を今か今かと待ち侘びていた。そしてそれは勿論、ガリ自身も。

 魔法少女バトル決勝トーナメントのテレビ中継は、常にとてつもない視聴率を叩き出す。ガリは梓の惨殺シーンを公共の電波に乗せて全国民に見せびらかしてやろうと目論んでいたのだ。


 梓は順調に尾の数を増やしていくが、ステージ上に設置した矢はすぐに壊される。これではステージに魔法陣を描くことはできない。意味も無く尾だけが増えてゆく様子に麗羅は疑問を抱く。

「ねえ智恵理、梓の尻尾、矢が壊されても消えないよね?」

「確かに……あの尻尾消えたらお尻丸見えになっちゃうから気合で何とかしてるとか?」

 梓が奥義発動用に魔力を溜めると生える尾は、袴を突き破って出てくる。以前梓が奥義の使用を躊躇っていた理由でもある。

「いや、そういうことを言いたいんじゃなくて。もしかして矢を壊されても溜めが解除されてないんじゃないかって。もしかしたら梓は、私達の見てない所で奥義を更に進化させたんじゃ……」


 尾の数が七本、八本と増えてゆくが、朝香はそんなもの気にしていないかの如く猛攻を続ける。既にステージ上に刺さった矢は全て破壊されており、このままでは九本目の尾が生えても奥義は発動しなさそうに見える。

 そして梓は自身の正面にある赤い水溜りに黄金の矢を放ち、同時に九本目の尾を生やした。

 何かが起こる。麗羅がそんな予感を抱いたその時、黄金の矢が攻撃を受けてもいないのに粒子となってすっと消えた。そして梓の背後に、魔法陣が出現。

「狐烈天破弓・参式!」

 その掛け声を会場に響かせると共に、梓は弓を引く。九つの尾の先端に一斉に魔力が集まり、解き放たれた光の矢に尾から発射されたビームが収束。巨木の幹の如き極太のビームとなって朝香を赤い傘ごと撃ち抜いた。


 梓自身に魔力を溜めて放つ壱式は、溜めに時間がかかりすぎる上に溜めている間動けなくなる使い勝手の悪すぎる技。戦いながら溜められるようにした弐式はステージ上に刺した矢を魔力のタンクとするため、矢を破壊されたら溜めもキャンセルされてしまう。

 そこで梓が編み出したのが、この二つの複合である参式。弐式同様に矢を魔力のタンクとするが、矢が破壊されたらその魔力を尾に吸収。とにかく光の矢を九本撃てば奥義発動の準備が整うという優れものだ。


 砂煙が晴れると、そこには当然変身解除させられバリアに包まれた朝香がいた。梓は瞬時に変身を解き、朝香へと駆け寄る。

「朝香ちゃん!」

 梓が呼びかけると、バリアの中で大の字に倒れた朝香はゆっくりと顔だけ動かし梓を見る。

「……ありがとう」

 そう言い残してバリアごと消える。果たしてこれで朝香は助かったのか。梓はどうにも釈然としない気持ちになった。

「勝者、三日月梓選手ー! なんと全ての攻撃を避けきり無傷での勝利です!」

 その時ザルソバが勝者の名を宣言。覚醒朝香の攻撃は一つでも受ければ致命傷であるため、全て避けきれねば勝てない戦いだった。そしてその攻撃も不思議と避けやすく感じられた。

 きっと朝香自身も、システムに体を支配され暴走する自分と闘っていたのだろうと梓は考える。二次予選で戦った時の朝香はそれこそ殺意だけで動く獣のように感じられたが、今回の朝香はどこか攻撃に躊躇いがあると感じたのである。


 会場が沸き立つ中、冷めた様子で観戦していたのがオーデンとガリである。

「……申し訳ありません陛下」

「フン、所詮こんなものは余興だ。元よりさして期待などしておらぬ。それよりもカクテル、例の準備はどうなっておる」

「ええ、それは勿論順調です。今日中には実行に移せるかと……」

 ガリの答えを聞いたオーデンは、仮面の下で笑みを浮かべた。


 試合後梓は、観客席の智恵理と麗羅の所へと急いだ。

「おめでとう梓ー!」

 智恵理が抱きついてきたので、梓は照れつつこちらも抱き返す。

「私からもおめでとう。でもこれで、朝香ちゃんともお別れかぁ……せめて最後に少しくらいお話したかったな……」

 自身のファンであり親交を深めてきた朝香がいなくなったことで、麗羅は寂しそうな顔をする。

「その朝香ちゃんだけど、本当にあれで暴走状態から解放されたかはわからない。あの状態になるのは負担が大きいみたいだし、もしかしたら何か後遺症が残るかもしれない。だから二人に提案があるんだけど、もし私達三人の誰かが優勝したら朝香ちゃんを助けるために願い事を使えないかしら」

「奇遇ね、私も同じこと考えてたの」

「勿論あたしもそうするよ! あたしが優勝できる可能性は低いかもしれないけど……」

 麗羅と智恵理が梓の手を握り、三人で頷いた。



 続く第二試合、ステージに上がるのは上半身が晒し一枚で下半身は黒いスパッツの上から白い廻しを巻いた衣装を着た魔法少女。髪は群青色のポニーテールで、背丈は朝香と同程度。華奢な体と小枝のように細い腕をしており見た目はとても相撲をやっているようには思えないが、こう見えて女子相撲小学生の部の全国チャンピオンである。

「小さな横綱、水橋香澄!」

 名前を呼ばれた香澄は無言で四股を踏む。

「対するは白衣の天使、白藤花梨!」

「頑張れチビ助ー!」

 拳凰の声援を受けてステージに立つ花梨は、香澄をまっすぐ見つめていた。

(相手は凄く強いはず……でも、私は負けないよ!)


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