表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第七章 インターバル編
135/157

第134話 カクテルの正体

 魔法少女バトル決勝トーナメント出場者を招いた王宮でのパーティー。魔法少女達は互いに交流しつつ、バイキング形式の食事を楽しんでいた。

 だけどそんな楽しい時間においても花梨は、何だか落ち着かない様子であったのだ。

「どうかしたの花梨、そんなにそわそわして」

 不思議に思った小梅が尋ねる。

「な、何でもないよ!」

 はぐらかす花梨であったが、明らかに挙動不審なので小梅はますます不思議がる。

 花梨がおかしい原因は、勿論今朝のことである。目が覚めたら拳凰に抱き枕にされていて、心臓が飛び出そうになったのである。

 爆睡している拳凰にがっちりホールドされて逃げられず、幸せだけど心臓が休まらず困り果てた。

 以前は寝ている拳凰を起こすため体の上に飛び乗るくらい平気でしていたのに、恋人になったと意識してからはもう、拳凰に触れられているだけで大変なことになる。

 結局拳凰が目を覚ますまでこの状態が続き、花梨はすっかり疲れ果ててしまったのである。


「それでは皆さん、こちらにご注目下さい!」

 と、そこに響き渡るザルソバの声。

「これより決勝トーナメントの対戦カードを決める抽選を行います」

 その言葉と共に、ザルソバの周囲には球状のカプセルが十六個浮かび上がった。

「魔法少女の皆様は、この中からどれでも好きなものを一つ手に取って下さい。カプセルの中に入っている紙に書かれた数字が対戦順であり、同じ数字の出た相手と対戦することになります」

 宙に浮かぶ色とりどりのカプセルは、流れる雲のようにゆっくりと動いている。

「よーし! あたしが一番乗りだ!」

 花梨と話していた小梅は、我先にと飛び出し一番近くにあるカプセルを掴んだ。カプセルを開けると、妖精界文字で書かれた5の数字。自動翻訳魔法により、これが日本語に変換され読めるようになっている。

「五番だ! 五番が出た奴があたしの相手な!」

 カプセルの中に入っていた紙を高く掲げ、自分の番号をアピール。

 他の魔法少女達もそれに続くように、次々とカプセルを手に取っていった。


「それでは、決勝トーナメント一回戦の対戦カードを発表致します。まず第一試合、三日月梓VS雨戸朝香!」

 梓と朝香は互いに見合う。

(一回戦から朝香ちゃんと……)

 元チームメイト同士の対戦であると同時に、梓にとっては二次予選での雪辱戦ともなる。

(丁度いいわ。他の子と当たってあの暴走状態になられるくらいなら、私が引き受ける。そして……勝つ!)

 殺されかけたことへのトラウマは、未だ消えぬまま。だが梓は朝香との対決に向けて強い意志を固めていた。

 対する朝香は、瞳を潤ませ無言で俯いていた。


「続いて第二試合、水橋香澄VS白藤花梨!」

 花梨の対戦相手は、ポニーテールの相撲少女。本戦二日目の王都球場にて花梨は彼女の試合を観ているが、その時は一撃での勝利という衝撃的な決着を見せた。試合時間は短くとも大きなインパクトを残した魔法少女である。

(もうここからは一回負けた時点で妖精界を去らなきゃいけないんだ……そしたらまたケン兄と離れ離れになっちゃう。あの子の一撃必殺には気を付けないと……)


「第三試合、美空寿々菜VS弥勒寺蓮華!」

「宜しくお願いします」

「ええ、こちらこそ」

 寿々菜と蓮華は、和やかにお互い頭を下げて挨拶。

 一方でその二人の担当を務めるハンバーグは、少々苦い顔をしていた。

(ちっ、獅子座同士で当たっちまったか)

 自分の担当する魔法少女ができるだけ勝ち上がってくれると嬉しい妖精騎士の立場としては、同じ星座同士で当たるのはあまり良い気がしなかった。


「第四試合、古竜恋々愛VS羽間ミチル!」

「ミチルと……当たっちゃった……」

 寂しそうな顔でミチルを見る恋々愛に、ミチルはくすっと不敵な笑みを返した。

「負けないわよ、恋々愛ちゃん。大会一セクシーな試合にしてやりましょう」

 そう言ってミチルは恋々愛の豊かな胸を人差し指でつっつくのである。


「第五試合、二宮夏樹VS悠木小梅!」

 二試合続けて元チームメイト同士の対戦。

(小梅が相手かぁ。一回戦くらいは勝てるかなと思ってたけど、ちょっと厳しい感じ)

 始まる前から弱気になっている夏樹。対する小梅は夏樹に視線を向け、むしろ闘志を燃やしていた。

「いい試合にしような、夏樹!」

 無邪気な笑顔を向けられて、夏樹は尚更に気が小さくなった。


「第六試合、小鳥遊麗羅VSレベッカ・シューティングスター!」

「オー! 人気アイドルと戦えるなんて光栄デース!」

「どうぞよろしくー」

 以前はドイツに住んでいた麗羅と、日本在住のアメリカ人であるレベッカの国際色豊かな対戦カード。

 テンション上げ上げなレベッカに、麗羅は素直に手を振る。


「第七試合、真田玲VS湯乃花雫!」

(熱湯使いか。相手が水となると俺の炎魔法では不利だな)

 本戦三日目の王都球場で雫の試合を観ていた玲は、魔法の相性不利を実感。厳しい戦いになることを予感していた。


「そして第八試合、黄金珠子VS鈴村智恵理!」

「オーッホッホッホ! 大トリとはわたくしに相応しいですわ!」

(あたしがラストとかハードル上がるからやめてよ!)

 高笑いする珠子と焦る智恵理。二人の様子は対照的であった。

 決勝トーナメント出場者十六名の中でただ一人、本戦で一勝もしていない智恵理。すっかり自信をなくすのも無理は無かった。


「明日でこれらの一回戦全八試合を行い、明後日には準々決勝から決勝までの七試合を行う予定です。なお、準々決勝では再び対戦カードがシャッフルされます。それでは魔法少女の皆様、引き続きパーティをお楽しみ下さい」

 ザルソバはそう言ったものの、一度対戦カードが発表されてしまった以上はもう元の和気藹々とした雰囲気には戻らず。パーティ会場はどこか緊張感のある空気に包まれたのである。




 その日の夜のことである。朝香はカクテルの研究室に呼び出されていた。

「さて朝香、明日の試合に勝つために、貴方をパワーアップさせてあげましょう」

 楽しげな口調で言うカクテルだが、この男にとって楽しいことというのは即ち禄でもないことに他ならない。

 薄暗い部屋で沢山の機械が繋がれた魔法陣の中央に座らされた朝香は、不安げに瞳を潤ませていた。だがそれでもカクテルに反抗することはなく、実験台にされることに対して諦めを感じ受け入れている様子だった。

「この娘に一体何をする気だね、カクテル」

 突如研究室に響き渡る、勇ましい声。二人が声をする方に顔を向けると、そこに立つ男は弓矢を手にし精悍な顔でカクテルをまっすぐ見つめていた。

「ホーレンソー……一体どうやってここに入ったのです?」

「カクテル、貴様今回の抽選を操作しただろう。三日月君とその雨戸朝香が一回戦で当たるようにな」

「よく気付きましたね。貴方がお熱の眼鏡っ娘が惨殺されるのを楽しみたかったもので」

 誤魔化しすらすることなく堂々と、カクテルは言い放った。

 ホーレンソーの姿が瞬時に消えると、朝香を抱えて元の場所に再び現れる。

「おや、私の担当する魔法少女を誘拐する気ですか? 酷いことを」

「どの口がそれを言うのかね。対戦相手のみならずこの娘にも危険の及ぶシステムを搭載することは、魔法少女バトル運営として見過ごすわけにはいかない」

「なるほど、ですがバトル運営として見過ごすことのできない悪行を働いている騎士は何も私一人ではありませんよ。例えばミルフィーユさん。彼女のやっていることをご存知ありませんか?」

「な……ミルフィーユが!? いや、それについては後ほど本人に問い詰めるとして、他の騎士が何をしていようが貴様の所業が邪悪であることに変わりは無い。貴様の非道な罪、この射手座(サジタリアス)のホーレンソーが裁く!」

 ホーレンソーの腕に抱かれた朝香は魔法陣の中に消え、ホテルへと強制的に転送させられる。ホーレンソーは弓を引き、鏃をカクテルの眉間に向けた。

 矢を射ると同時に弓を引き戻し、背後から首を切り落とさんと迫る糸を弓で切る。

 矢はカクテルに当たる前に無数の糸に切り刻まれ、跡形もなく消滅した。そしてそのまま、目に見えぬほど細い糸の数々がホーレンソー本体をも切り刻まんと迫るのである。

 だがホーレンソーとて、そう易々と倒されるような生ぬるい男ではない。弓をバトンのように手でくるくると回転させ、迫る糸も周囲に罠として張り巡らされた糸も全て切り落としてゆく。

 糸を切りながらジャンプして空中に舞い上がったホーレンソーは、再びカクテルへと狙いを定める。しかし再び高速でこちらに迫る糸に阻まれ、攻撃姿勢を解かざるを得なくなった。防御に集中するばかりで、なかなか攻撃に転じる隙ができない。

「残念ですねぇ。貴方の得物である弓矢は私の魔法とは相性最悪なんですよ。尤も、相性以前にそもそもの戦闘力に差があるわけなのですが……」

 ホーレンソーの神経を逆撫でしようと、カクテルは煽りに煽る。

 たとえ煽られても冷静さを欠くことなく堅実に攻撃を捌き反撃のチャンスを窺うホーレンソー。弓を近接武器としても使える彼だからこそある程度抵抗できているも、この致命的な相性の悪さは埋めようがない。防戦一方になるばかりで一向に勝機は掴めないのである。

 一方のカクテルは、殆どその場から移動することなく指揮者のように糸を操り余裕の表情。何か次の策を考えているのは一目瞭然であり、ホーレンソーの緊張感が高まる。

「……そうだ、一ついいことを教えて差し上げましょう。貴方の故郷の島に改造魔獣を放った魔獣学者のナットー・ベテルギウス。あれは私です」

 脈絡も無く放たれた、衝撃の告白。ホーレンソーの動きが一瞬ピタリと止まり、その瞬間に左肩をカクテルの操る糸が貫いた。

「ぐっ……! な、何を言って……」

 果たしてそれが真実であるのか動揺を誘うための嘘であるのかは解らないが、少なくともその策が効果覿面であったことだけは確かな事実だ。

「ナットーは私に殺された。そう言いたいのでしょう」

 ホーレンソーの左肩を貫いた糸は更に右掌、左掌、右肩へと縫い針のように糸を通し、そのままホーレンソーの体を持ち上げマリオネットのような姿勢で宙吊りにした。

「ええ、妖精騎士団に追い詰められたナットーは、騎士カクテルの手にした剣に自らの体を突き刺し自殺したのです」

 カクテルの右手の周囲に寄り集まった糸が、禍々しい剣を形作る。元より切れ味抜群の糸を用いて作られたその剣は、見ただけで目に切れ込みが入りそうなほどの鋭さ。

「そうしてナットーは死んだ。ですがナットーの体を乗っ取っていたもう一つの魂は、騎士カクテルを新たな宿主にして生き残った。それが私です」

 にわかに信じ難い話であるが、どこか真実味がある。かつてカクテルは妖精界の発展と市民の豊かな生活のため己の技術を惜しみなく使う、誠実な魔導学者であった。その彼が豹変して猟奇趣味を表に出し始めたのは、ナットーの一件があってからなのである。

 ホーレンソーがますます動揺する中、カクテルは剣を手にしたまま一歩一歩、身動きの取れぬホーレンソーへと足を進める。

「私を殺した相手の肉体を乗っ取り新たな私とする、私の開発した魔法の最高傑作です。これにより私は、事実上の不死となりました」

「貴様……一体何者だ!? カクテルでもナットーでもないのだろう!?」

「ああ、それ聞いちゃいます?」

 ホーレンソーの首筋に剣先を突きつけながら、カクテルは舌を出しおどけた表情。

「大賢者、ガリ・ベテルギウス。ナットーの先祖にして、妖精界史に残る大悪人ですよ」

 その名を聞いて、ホーレンソーは愕然とする。以前梓と王都でデートした際に、梓に逸話を語った歴史上の人物の一人。実験の失敗により王都を瘴気で溢れさせ滅亡させかけた、史上最悪の魔術師だ。

「ば、馬鹿な! ガリは五百年前の……」

「先程言ったでしょう。私は不死になったと。最初はガリを処刑した執行人でした。その後も幾多の私を殺した者達の肉体を乗っ取り、今日まで生き続けてきたのですよ」

「冗談ではないぞ……こんなことがあってたまるか……」

「私は常に歴史を裏で操ってきました。妖精界の国家が一つになるまで続いたあの戦争も、元を辿れば私が仕向けたものです。そしてこれからまた、私は大きなことを成す予定です」

 そこまで話したところで、突如ホーレンソーを吊り下げてきた糸が切れた。床に落ちたホーレンソーはカクテルの――ガリの顔を見上げる。

「せっかくなので貴方には復讐の権利をあげましょう。私は貴方の故郷の仇ですからね、私を殺させてあげますよ。勿論死ぬのは“私”ではなくこの体の本来の持ち主であるカクテル・サダルメリクですが。そして貴方は、次の私となるのです」

「……断る!」

 奥歯を噛んでキッと睨みを利かせるホーレンソーであったが、そういう態度は尚更にガリを悦ばせるのみであった。

「おや残念。ではその代わり、ソーセージのように私の操り人形になって貰いましょうか。今の時点でも騎士団に席を二つ持っている私ですが、この先のことを考えるならば三席目を手に入れてより発言力を強くしておきたいのでね」

 剣を形作っていた糸が解け、ガリの体内に収容される。そしてガリは指先から改めて糸を出し、それをホーレンソーの額に触れさせたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ