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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第七章 インターバル編
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第133話 拳凰と花梨がイチャイチャしてるだけ

 戦いでボロボロになった服からデート向けの格好良さげな服に着替えた拳凰は、花梨を部屋まで迎えに行って二人でホテルを出た。

「さーて、どこ行くチビ助」

 いよいよ恋人らしいデートができる、と期待していた花梨であったが、早速のチビ助呼ばわりで落胆。二人きりの時は甘いのに、やっぱり人前ではいつもの拳凰である。

「そういや何か買ってやる約束だったな。欲しい物があったら言えよ」

「私は買い物より、ケン兄と手を繋ぎたいなー」

 じとーと目を細め、現状への不満をアピール。拳凰はきょとんとした顔で花梨を見ると、一度視線を空に移し頭を掻いた。

「あー……しょーがねーな……ほら」

 照れ隠しにぶっきらぼうな態度を取りながら、拳凰は手を差し出す。花梨はぱっと溢れる笑顔で、その手を握り返した。

「とりあえず、適当に街でもぶらつくか」

 花梨の手を引き歩き出そうとした拳凰。が、丁度そのタイミングで街からホテルに戻ってきた梓と智恵理に鉢合わせた。

「げっ、最低寺……」

 顔を合わせて早々、智恵理がそう罵る。

「何だお前らかよ」

「あら、手なんか繋いで。それに……」

 梓の視線は、花梨のレオタード姿に向けられる。

「えへへ……妖精界の服、着てみたんですよ。ケン兄のリクエストで」

「うわっ、こんな小さい子にそんな格好させて」

 ドン引きした顔で見てくる智恵理に、拳凰はイラッとする。

「んだとコラ! 妖精界じゃ普通だぞこういう服。街往く女みんな着てんだろが」

「そうね。異文化交流精神は良いと思うわ。どう見てもやらしい目的で着せてそうなのはどうかと思うけど」

 梓は拳凰の発言を一部肯定しつつも、その後に棘のある言葉を入れた。

「それよりも、そうやって手を繋いでるのはもしかして……」

「はい、私達恋人同士になりました!」

「うわっ、ガチのロリコンじゃん……」

 嬉しそうな花梨の交際報告から、すぐさま智恵理が罵りを入れてくる。

「っせーな。てめーとカニホストほど歳離れてねーよ!」

「はぁ!? な、何でそこであいつが出てくんの!?」

 が、拳凰の返しに今度は智恵理がたじろいだ。

「お前さ、カニホストと結婚するつもりあんのか」

「は、はぁ!? いきなり何!?」

 急に拳凰は真剣な表情になり、智恵理に尋ねる。突然の態度の変わりように、智恵理は戸惑った。

「あいつにはチビ助を助けてもらった恩があるからな、俺はあいつには幸せになって欲しいと思ってる。だから聞いたんだ」

「そ、それはあたしだって、ちょっとくらいは思ったりするけど……大体何であんたにそんなこと聞かれないといけないの!?」

 妖精と人間が子を成してはならないという法の存在や自身の両親のことを知った今、拳凰にはカニミソも徹と同じ苦しみを味わうことになってしまうのではという懸念があった。だが智恵理からしてみれば脳筋ゴリラみたいなイメージを持っていたあの拳凰から突然そういう話を振られ、戸惑いしか感じられなかったのである。

「委員長、お前とあの弓使いの騎士とはどうなんだ」

「……何か勘違いしてるみたいだけど、あのセクハラ魔が勝手に言い寄ってるだけで私の方からは何もそういう感情は無いから」

 取り乱しまくりの智恵理とは対照的に、梓は非常に冷静であった。

「セクハラ魔、なんですか?」

 ホーレンソーに対して紳士的で物腰柔らかなイケメン騎士という印象を持っていた花梨は、それとは真逆の印象を感じさせる梓の言葉に疑問を持って尋ねた。

「ええ、人が気にしてることずけずけ言ってきて、人の体にべたべた触ってくる。助平で図々しくてデリカシーの無い、あれはセクハラ魔以外の何者でもないわ」

 そういう梓の言葉を聞いて、花梨は何故か拳凰の顔を見る。

「ん、どうしたチビ助」

「貴方も大変ね……」

 花梨のその行動の意図を察した梓は、苦笑いしつつ言った。

「ケン兄のそれは、ケン兄なりの愛情表現だってわかってますから」

 ずっと拳凰と共に過ごしてきた花梨だからこそ言える言葉だ。拳凰は何だかむず痒い気がしてそっぽを向く。

 梓は考え込むような表情で沈黙していた。勿論ホーレンソーのしてくるそれも、ある種の愛情表現であることは理解していた。そういう形でしか愛情を伝えられない不器用でシャイな男達に一定の理解は持ちつつ、やっぱりセクハラは……という気持ちも強いのである。

 それにホーレンソーの梓に対する恋愛感情はただ初恋の相手を重ね合わせて見ているに過ぎず、本当に梓の方を向いているわけではないという認識もある。

「ケン兄は本当にデリカシー無くて時々本気でイラッとしたりすることもありますけど、それでもいつも私のことを守ってくれて、私のことを本当に大切にしてくれてることはちゃんと伝わってくるんです。だから私は、ケン兄が大好き」

 堂々と言い放つ花梨に智恵理と梓は目を丸くし、拳凰は背けた顔を掌で覆っていた。

 梓の脳裏に思い起こされるのは、これまでに梓を気遣ったり梓を守ろうと行動するホーレンソーの姿の数々だ。

(あいつがただセクハラするばかりの男じゃないなんてのはわかってる。そうね……優勝するにせよそうでないにせよ、この世界を去る前に彼との関係にもちゃんと決着を付けておくべきね)



 智恵理と梓に別れを告げて、拳凰と花梨は王都オリンポスの街並みを散策する。

「この街も随分見慣れたもんだな。ゲームの世界みてーな風景といい、誰もが魔法を使えるのが当たり前の社会といい、若い女が皆してスケベなレオタード姿で闊歩してることといい、今となっちゃ不思議とも思わなくなっちまった」

「思えば私達、一週間以上もこの世界に滞在してるんだよね」

「俺はお前より三日も早くこっち来てるからな。それに王都の外も色々見てきた。だから尚更そう思うぜ」

 魔法少女はその行動範囲を大きく制限されており、殆どの魔法少女は王都から出ることすらない。更に今回の大会はフォアグラ教団によるテロの影響で、ホテルから出してもらえない状況にもなっていた。

 一方で拳凰はハンバーグに連れ出されて大陸各地の孤児院を巡ったり、ケルベルス山で修行をしたり、フォアグラ大聖堂での激闘に参加したり、結構色々な場所を冒険しているのだ。

「素敵な世界だよね、妖精界。もうすぐこの世界ともお別れになっちゃうの、何だか寂しいな」

「そうだな……」

 拳凰は歩きながら空を見上げる。もしも自分がこの世界の王室に婿入りすることになったら、もう二度と花梨と会うことも無くなるかもしれないのだ。

「花梨……せっかくだから今日は、たっぷり楽しもうぜ」

 手を優しく握りながらそう言う拳凰に、花梨は笑顔で頷いた。




 王都オリンポスでのデートを日が暮れるまでたっぷり楽しんだ拳凰と花梨は、満足げにホテルまで戻ってきた。

 花梨は拳凰からのプレゼントである大きなぬいぐるみを抱え、ほわほわとした表情。

「いやー、あのレストランは美味かったなー」

「魔法サーカス凄かったよねー」

 今日の感想を語り合いながら花梨の部屋まで来ると、拳凰はそのまま一緒に部屋に入ってきた。

「そうだ花梨、俺今日この部屋泊まってくからよ。まずは一緒に風呂入ろうぜ」

 この男は本当にこういうことをさらりと言う。昨日一緒に入浴したものだから、最早それを当然のことのように認識している。

「え、ちょっと待……ぴゃーっ!」

 花梨が鞄とぬいぐるみを置いたところで、突然拳凰は花梨を赤子のように抱っこする。悲鳴を上げる花梨を抱え、有無を言わさず浴室へと運んだのである。

「さーて、風呂だ風呂。お前も脱げよ花梨」

 ぽいぽいと服を脱いであっという間に一糸纏わぬ姿になった拳凰は、花梨にもそれを促す。すると花梨は、堂々とフルチンでいる拳凰の腰にタオルを押し当てた。

「タオル巻いてよもー!」

「んだよ、昨日はマッパで入ったじゃねーか」

「昨日は特別! これから一緒に入る時はタオル巻いてよ!」

 あくまで一緒に入浴すること自体は拒否しない。花梨は拳凰に背を向けてレオタードを胸の上辺りまで下ろすと、その上からバスタオルを巻いた。バスタオルの下でレオタードと下着を脱げば、準備完了である。拳凰は花梨がそうやって脱ぐ様子を凝視しつつ、渋々ながら腰にタオルを巻いた。


 ボタンを押せば魔法により一瞬で湯を張ってくれるシステムは大変便利である。拳凰も花梨も、妖精界の魔法家電を人間界に持ち帰りたいと思ったことは一度や二度ではない。

 先にバスタブに浸かっていた拳凰は、身体を洗うため一時バスタオルを取っていた花梨のお尻を眺めて悦に浸っていた。

 泡を流して再びバスタオルを巻いた花梨が湯に入ろうとすると、拳凰は突然立ち上がりまたも花梨を抱き上げる。

「えっ? な、何?」

 花梨は驚いてキョロキョロしていたが、拳凰はそうして花梨を抱えたまま腰を下ろした。花梨を膝に座らせた姿勢での入浴を楽しみたかったのである。

「もー……ケン兄ってばエッチなんだからー」

「いいだろこのくらい」

 花梨は今日の梓との会話を思い出す。拳凰の触りたがりも、なかなか困ったものである。

 バスタオルを挟んでいるから自分のお尻が拳凰の膝に直接触れることはないものの、裸に近い状態でこれほど密着しているは心臓に悪い。

 しかも拳凰は花梨のお腹の辺りを両腕でがっちりホールドしており、逃げ出せない状態にまでしているのだ。

 後ろを振り向いて拳凰の顔を見てみると、鼻の下伸ばしたいやらしい表情。そこでふと花梨は、バスタオルが捲れて可愛いチョビ髭がチラリしていることに気付いた。慌ててバスタオルを手で押さえて隠すも、拳凰はへっへといやらしい笑いを隠そうともしない。

「んもー……」

「可愛い彼女の無防備な隙を見られるとか、彼氏様様だな。元の世界の家帰ってからも毎日一緒に風呂入ろうぜ」

「毎日は流石に……」

 早く子供扱いを脱して拳凰に一人前の女の子と認めてもらいたいと思っていたけれど、いざ恋人関係となったらここまで攻め攻めされるとは思ってもいなかった。これだけ甘く愛されて果たして自分の身はもつのだろうかと、不埒なことを考えてしまう。

「そういや亜希子伯母さんにも俺らが付き合いだしたこと報告しねーとな」

「お母さん、びっくりするだろうな……」



 風呂から上がってパジャマに着替えた花梨は、不機嫌そうに頬を膨らませながらドライヤーで髪を乾かしていた。

 濡れたバスタオルを脱いで身体を拭く際に拳凰からたっぷり裸体を観賞され、大分恥ずかしい思いをしたのである。

「やー、悪かったって。いい感じに見れるチャンスだったんでつい、な」

 ベッドに腰掛ける拳凰は、反省してるんだかしてないんだか微妙な謝り方。

「ケン兄ってばこういうのばっかり……」

「いや、マジで悪かった。機嫌治してくれよ」

「あんまりそういうことばっかりしてると、もう一緒にお風呂入ってあげないからね」

「わかった。反省する」

「うん、じゃあ許してあげる」

 花梨がそう言うと、拳凰はにやーと笑う。

「よし、じゃ一緒に寝ようぜ。いや、スケベなことはしねーよ」

 花梨から疑いの目を向けられたので、拳凰はすぐに弁明。

「お前に大人の関係はまだ早いからな。添い寝するだけだ。本当だって」

 まだ大人の関係にまでなる勇気が無い花梨にとっては、今だけは子供扱いされてほっとしている。拳凰のことだから隙あらば何かしてきそうな気もするが、とりあえずはその言葉を信用し花梨は拳凰の隣に腰を下ろした。

 エメラルドグリーンの瞳が、花梨を見つめる。いやらしい顔をしている時とは裏腹に、真剣な表情の時は本当に凛々しく精悍な顔をした美男子だ。本当に王子様だと言われて納得がいくほどである。

 これから何をされるのか、既に一度されているだけあって花梨にはもうわかっている。目を閉じて待ち構えた花梨に、拳凰はそっと唇を重ねた。戦いでも恋人同士のイチャイチャでもオラオラ攻めてくる拳凰の、普段とはギャップがある優しく繊細なキス。

 拳凰は唇を離すと、とろけそうになっている花梨の頭をぽんぽんと撫でた後ベッドに寝転がる。

「よし、寝るか」

 花梨は無言で頷くと、拳凰の差し出した腕枕に躊躇いがちに頭を乗せる。すると拳凰は、もう一方の腕で花梨を抱き寄せた。

「花梨……俺はどこにも行かないからよ。これからもずっと、お前と一緒にいるぜ」

 抱きしめた花梨に、誓いを囁く。それはビフテキの思惑通りにはならないという意思表示でもあった。

(マッチョジジイ……それに妖精王オーデン……どいつもこいつも舐めた真似しやがる……)

 自分は花梨と共に人間界へ帰る。その思いを胸に、拳凰は眠りに就いたのである。


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