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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第七章 インターバル編
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第131話 ムニエルの想い

 決勝トーナメント出場者が決まり、拳凰と花梨が恋人同士になってから一夜が明けた。

 部屋の移行は魔法によって自動で行われ、各魔法少女の私物は個室に移された。

 魔法少女達はチームメイトとの別れを惜しみつつ、それぞれ用意された個室に移っていった。

(今日から個室かぁ、寂しいな……)

 がらんとした自室を見て、花梨は思う。昨日は四人で過ごす最後の夜をひとしきり楽しんだだけに、寂しさも一入だ。

 と、そこで花梨は昨日夏樹の言った言葉を思い出す。

『個室になったら、花梨は彼氏連れ込めるじゃん!』

 ぼっと顔が熱くなり、よからぬ想像をしてしまう。そこでタイミングを見計らったかのように、扉の開く音がした。

「おう花梨、引越し終わったみたいだな」

 つい先日、長年の初恋を実らせて恋人関係になった彼の声。

「ケン兄どうして!? さっき鍵閉めたのに!」

「ああ、何でも妖精王家の血が濃い奴は魔法による施錠を無効化できるらしい」

「え、そうなんだ」

 これまでのことが腑に落ちた感覚。

「それでどうしたのケン兄」

「ああ、お前が個室に移ったと聞いてな」

 拳凰が一歩踏み出す。またも花梨の脳裏で夏樹の言葉が響き、ドキリと胸が高鳴った。

 と、そこで部屋の中央に魔法陣が現れる。姿を現したムニエルは、拳凰と花梨をそれぞれ見た。

「大会運営として連絡に来たのじゃが……お邪魔であったか」

「う、ううん!? 全然!」

「そうか、それならよいのじゃが。それで明日のパーティについてなのじゃが……」

 ムニエルが花梨に業務連絡をする様子を、拳凰はベッドに腰掛け黙って見ていた。

 こうして改めて見ると、やはりムニエルは本当に発育が良い。花梨とは歳が同じで誕生日も近く、身長もそれほど大きな差は無い。にも関わらずバストやヒップは花梨より遥かに大きく、身体のラインをぴっちりと出すレオタード状の衣服がそれを尚更に強調している。

 拳凰の父の従姉妹にあたるミルフィーユも魅惑的なむっちりグラマーボディの持ち主であり、もしや妖精王家の血を引く女性は皆こうなのだろうかと拳凰は思った。

「……と、いうことじゃ」

「うん、わかったよ。ありがとうムニちゃん」

「うむ、ところで花梨」

 話が終わったところで、先程まできりっとしていたムニエルの表情が和らいだ。

「我は今日、午前中時間が空いておってな。花梨さえよければ、また共に街を散策せぬか」

 先程までは担当騎士としての業務連絡。ここからは花梨の友達としての、遊びの誘いである。花梨は一度拳凰の顔を見た。

「ああ、丁度俺は今日の午前中用事があってよ。一緒に出かけるなら午後からにしてくれって、チビ助に伝えに来てたんだ。丁度いいから午前中はお前ら二人で遊んでこいよ」

「うん、ケン兄がそう言うなら。じゃあムニちゃん、いつ頃から出かける?」

「我はいつでも構わぬ」

「うん、じゃあすぐに準備するね」

「うむ、そうと決まったなら我も王宮に戻って着替えてくるとしよう。準備ができたらまたここに来るぞ」

 そう言ってムニエルは手を振り、転移の魔法陣に戻ろうとする。

「あ、待ってムニちゃん」

「む、何じゃ?」

「私ね……昨日ケン兄に告白されて、お付き合いすることになったの」

 照れながらはにかんで、念願叶ったことを報告。ムニエルは一時きょとんとしていたが、やがて仄かな笑みを見せた。

「うむ、それはよかったの。心から祝福するぞ」

「ありがとうムニちゃん。ムニちゃんにはどうしてもこれを伝えたかったんだ」

「花梨にはよく恋愛相談をされたからのう。我も感慨深いぞ」

 楽しそうに二人が話しているのを見せられる拳凰は、何だかむず痒くなってきた。

「そういえばムニちゃんのお父さんがケン兄のお父さんの双子の弟ってことは、私とムニちゃんはいとこのいとこってことになるんだよね」

 花梨から見てムニエルは父の妹の夫の弟の娘にあたる。ややこしいがそれを簡潔に言うならばいとこのいとこである。

 それは何気なく言ったことであったが、突然空気が凍ったかのように拳凰とムニエルの表情が強張った。

 拳凰は花梨に、父の仇がオーデンであるとは話していない。花梨からしてみれば何一つ悪気は無かったのだが、拳凰とムニエルにとってお互いの父の話題は地雷でしかない。

「……そうじゃな。我と花梨は直接の血の繋がりは無いが、遠い親戚ということになる。どこか親近感が湧くのう」

 空気を悪くしないよう、ムニエルは当たり障りの無い返事。

「そろそろ我は準備に向かうとしよう。ではまたな花梨」

「うん、またね」

 ムニエルが出て行くと、花梨はまた拳凰の顔を見る。先程まで楽しそうに話していたのとは一転、むすっとした表情で。

「ケン兄、さっきまたチビ助って」

「しょーがねーだろが。今後も人前ではチビ助って呼ぶからな!」

 結局まだ、人前でちゃんと名前を呼ぶのには照れがあるのである。

「ていうかケン兄、ムニちゃんの腰とか太腿とかおっぱいとか、そんなとこばっか見てたでしょ? ちゃんと気付いてるんだからね!」

「そりゃあ見るだろ目の前にスケベなもん出されたらよ。男のスケベ心なんてのは彼女が出来たくらいで変わるもんじゃねーんだよ」

「んもー……」

 呆れ帰る花梨であったが、拳凰はそんな花梨を先程ムニエルにしたようにじろじろと見る。

「なあ花梨、お前あのお姫様が着てるみてーな服着てみる気ねーか?」

「え? 妖精界の服なら、こないだムニちゃんと二人で街に出た時に一着買ったよ。ピンクのレオタード」

 その日拳凰にも見せようと思っていたが、結局拳凰が修行から帰ってこなかったので見せる機会が無かったものである。

「ほー、そいつはいいや。今日のデートでそれ着てけよ。この世界じゃ若い女みんなそういう格好してんだし、別に浮くこともねーだろ」

「う、うん、まあそのくらいなら」

「おおーっ、期待してるぜ花梨!」

 既に一度ムニエルと一緒にその格好で街に出ている花梨は、抵抗感も多少薄れている。拳凰はいやらしげな笑みを隠そうともせず期待に胸躍らせていた。



 拳凰が自身の用事のため自室に戻った後、花梨はムニエルと出かけるための準備を始めた。

 暫くしたところで、ムニエルがやってきた。前回と同じく眼鏡をかけ、長い髪を帽子の中に纏めてショートヘア風にした変装姿だ。

「準備はできたか花梨」

「うん、大丈夫」

「うむ、ならば行こうか」


 フォアグラ教団による王都襲撃から三日。優れた修復魔法の使い手達によって、街の復興は随分と進んだ様子であった。

 決勝トーナメント出場者にはまた電子マネーが振り込まれており、今日はこれを存分に使ってショッピングである。妖精界の職人が魔法で作った可愛らしいアクセサリーを買い物籠に入れながら、花梨はご満悦の表情。

「えへへ……これ可愛いなぁ」

「こっちのもよいぞ花梨」

「わぁー、ホントだ! ムニちゃん髪長いからこういうヘアアクセ似合いそう」

 楽しそうに笑う二人であるが、そんな中でも時折ふとした拍子にムニエルは悲しげな顔をする。

「どうかしたの、ムニちゃん」

「いや、何でもない。気にしないでよいぞ」

 気になった花梨が尋ねると、ムニエルは笑って誤魔化した。


 ショッピングを終えた花梨とムニエルは、暫く街を散策していた。すると二人はどこかから聞こえる鐘の音に導かれ、そちらへと足を進めていた。

 街の小さな教会で、純白のドレスとタキシードに身を包んだ花嫁と花婿が結婚式の最中。花梨とムニエルはその場に足を止め、幸せに満ちたその光景に目を奪われていた。

「花嫁さん、綺麗……」

 妖精界では既婚女性の証であるスカートに初めて脚を通した新婦が、仄かに頬を染めながら新郎と口付けを交わす。花梨の脳裏には、途端昨日の拳凰との一件が思い起こされた。

(キス……しちゃったんだよね、私)

 拳凰の唇の感触が蘇ってくるようで、頬が熱くなってくる。

 拳凰がスケベなのは一種の照れ隠しであることを花梨は理解しており、こういう大胆な行動に出るのもその一端であるのもわかっている。だけどそれをされた側としては、どうにも胸が落ち着かなくて困る。

「どうかしたのか、花梨」

「え、えっとね……」

 先程の意趣返しのようにムニエルが尋ねてくると、花梨は尚更に顔を熱くした。

「昨日ケン兄にキスされちゃったの、思い出して……」

「それは……よかったのう」

 少し溜めが入り、何かを飲み込むようにくぐもった声でムニエルが言う。

 二人が暫く眺めていると、ふと花嫁と視線が合った。気付いた花嫁がこちらに寄ってくる。

「あなた、魔法少女の白藤花梨ちゃんよね! こんな所で会えるだなんて! 私あなたのこと応援してるの!」

 興奮しながら握手を求められた花梨は、少し驚き困りつつも快く応じる。

 続いて花嫁の視線は、その隣の少女にも向いた。

「あら、そちらは……もしかしてムニエル様!?」

 一瞬にしてその場がざわめき立った。

「ムニエル様!」

「ムニエル様だ!」

 新郎や参列者も一同に集まってくる。慌てる花梨の横で、ムニエルは慣れた様子であった。バレてしまっては仕方が無いとばかりに眼鏡と帽子を脱いで軽く首を振り、薄紫色のツインテールを露出させる。

「ムニエル様、こうして我々が結婚式を上げられたのも、妖精騎士団や軍の皆様のお陰です。王都でテロが起こった時にはどうなることかと思いましたが、皆様の頼もしさには大変頭が下がる思いです」

「全ては民のため、国の治安を護る者として当然のことをしたまでじゃ」

 感謝を伝える新郎に、ムニエルはそう返す。

「だがこうして実際に救われた民の言葉を聞けるのは、我としても胸が温まる。我からもそなたらの結婚に祝福の言葉を贈ろう」

 民の手前笑顔を向けるムニエルであったが、その胸中は穏やかではなかった。

(全ては民のため……そうじゃ、全ては民のためにな……)


 ムニエルの脳裏に思い起こされる光景は、ビフテキから告げられた残酷な言葉であった。

「ムニエル様、貴方様は最強寺拳凰様とご結婚して頂かねばなりませぬ。知っての通り貴方様はオーデン陛下が後天的傍系となっていた時期に御生まれになられた方であり、神の力の継承率は陛下の八割に過ぎません。それ即ち、貴方様以降の妖精王は全て陛下の八割の力しか持てないということです。そしてユドーフ様の忘れ形見である拳凰様は、神の力を直系継承されておられる。貴方様と拳凰様の間に御子が生まれれば、弱体化が必至となる妖精王家の力を回復させることができるのです」

 信頼していた教育係から突然そう告げられたことに、ムニエルは絶句していた。

「わかっておりますな、ムニエル様」

「わからぬ!」

 思わず感情的になって返す。

「……そやつは我の友達の想い人なのじゃ。それを奪い取れと言うのか!?」

「貴方様が拳凰様の子をお産みになられることが王家のため、国のため、ひいては民のためになるのです。ご理解下され」

 反論は認めないを言わんばかりに迫られて、ムニエルの瞳が潤む。ハンバーグの方に顔を向けると、ハンバーグは一瞬苦い顔をした後跪いた。

「ビフテキの言う通りです、ムニエル様。そのために私は最強寺拳凰の師匠兼好敵手として、彼を鍛え上げる役割を申し付けられました。必ずやこの身に代えてでも、彼を王配に相応しい男にしてみせましょう」

 その言葉は言わされているのか本心か、幼いムニエルに推し量ることはできなかった。

 ムニエルは爪が食い込むほど拳を握り、今にも泣き出したくなるのを必死に堪えた。

 自分は好きな人と結ばれることができないばかりか、友達の好きな人を奪うことを強いられる。

 母マカロンは、王家の血筋を絶やさぬために好きでもない男に嫁いだ。その歴史を繰り返すように、自分もまた政略結婚をさせられる。

 自分の想い人は卑しい盗賊で、元より身分違いの恋だった。結ばれることを快く思わない者が多いのも無理は無い。だが彼が兵士や騎士として八面六臂の活躍をし国に尽くしてきたことや、孤児院への資金援助によって恵まれない子供達を救ってきたことで国民の彼を見る目も好意的になってきていた所だった。それでもしかしたらと思い始めた矢先の、残酷な宣告であった。



 一方その頃、当の拳凰もまたビフテキから呼び出されて同じことを告げられていた。

「は? やだよ断る」

 はっきりと拒否の構えを見せるが、ビフテキは動じない。

「大体俺昨日彼女できたんだが? 冗談じゃねーっての。つーか昨日は自分の気持ちに素直になれとか言っといて今日は他の女と結婚しろとか頭ボケちまったんじゃねーのか爺さんよ」

「何も冗談ではありませんよ拳凰様。それに貴方様はどうあれこの申し出を受けざるを得なくなります」

 ただ冷静に冷酷に告げるビフテキに、拳凰は戦意を感じ取り身構えた。この男の魔法は知っている。恐怖と混乱を巻き起こす幻覚が、拳凰の精神に襲い掛かった。



<キャラクター紹介>

名前:水瓶座(アクエリアス)のミネストローネ

本名:ミネストローネ・アルビレオ

性別:男

年齢:23(125話当時)

身長:180

髪色:栗色

星座:水瓶座

趣味:レストラン巡り


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