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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第七章 インターバル編
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第128話 徹VSオーデン

 魔法少女バトルドイツ大会、最終予選の終わる頃。四十歳になったユドーフは、オーデンと共にラザニアの私室に呼ばれていた。

 ラザニアは五十八歳、既に妖精の平均寿命を超える高齢である。ベッドの上で寝たきりとなり動くこともままならぬ父の姿を見て、ユドーフは言葉に詰まった。

「ユドーフ……オーデン……見ての通り私はもう長くはない……心残りはとうとうユドーフの子をこの目で見ることが叶わなかったことだ……」

 息絶え絶えなしわがれた声で、ラザニアは言う。勿論その言葉の意味は単に孫の顔を見たかったという程度のものではない。王位を継ぐ身でありながら未だ跡取りを作らぬユドーフへの苦言だ。

「このままではお前の次に王位を継ぐのは、オーデンの子であるムニエルとなる……知っての通り傍系であるムニエルの継承率は八割でしかなく……その分王家の力は弱まる……」

 オーデンが苦い顔をするが、天井を向きっぱなしのラザニアはそれに気付かない。

「ユドーフよ……お前にはお前の事情があるのだろう……だが我ら王族の使命は忘れないでくれ……」

「お言葉ですが父上、私には既に子供がおります」

 突然放たれた衝撃の発言に、ラザニアとオーデンは目を見開いた。

「どういうことだ兄上!」

「私は人間界で妻子を作りました。神の力を直系継承している子は人間の血を引いており、人間界で普通の人間として暮らしています」

 話すタイミングは今しかないと、ユドーフは己の秘密を打ち明ける。フォアグラによって、ユドーフの即位は散々阻止され続けてきた。それ故にラザニアにそのことを話す機会もなかなか得られず、ユドーフは辛い思いをし続けてきたのである。

「人間の……なるほど道理で……」

 ラザニアはまるで全てを理解したかのように唸った。

「兄上……何を言っているのかわかっているのか!?」

「勿論さ。僕は人間の子に王位を継がせる。妖精と人間が子を成してはならないなんて法律、ただ昔の王が何となく決めただけのもので実際は何の合理性も無いんだ。僕が王位を継いで法律を変えてしまえば、もう何も障害は無い。僕の子はもうじき十三になる。今後僕はこの国で妻子と共に暮らし、息子に帝王教育を施すつもりだ」

「十三だと……? そんなにも前から隠し子がいたというのか!?」

「隠していたことは申し訳ないと思っている。だがティラミスの一件やフォアグラが僕の即位を拒み続けたことで、なかなかそれを話す機会が得られなかったんだ」

「……兄上はいかれている」

 オーデンは拳を握り、肩を震わせていた。だがその真意を、ユドーフは理解できなかったのである。




 父への報告を終えたユドーフは、一度人間界へと戻った。ドイツから飛行機で日本へと飛び、さも普通にドイツで仕事をしていたことを装って空港で降りる。

 空港に迎えに来たのは、美緒と和義。車内で美緒と徹がゆっくり話せるよう、和義が車を出してくれたのである。

「ただいま、美緒」

「おかえり徹」

 いつもと変わらぬ調子で美緒の前に一年ぶりの姿を見せた徹は、挨拶を交わしてすぐに美緒を抱きしめる。

「さあ、拳凰も待ってることだし、早く家に帰ろう」


 和義の車に乗り込んだ徹は和義からバックミラーで見られるのも気にせず、隣に座る美緒に堂々と口付けをしていた。

「ったく、兄さんが見てるんだからさぁ……家でこういうことすると拳凰が露骨に嫌がるから、拳凰が寝るまで我慢しろよ?」

「うーん、それは残念だな」

 両親がイチャイチャチュッチュする様を間近で見せられるのは、思春期の男子にとってはなかなか目に毒だ。イチャイチャしたがりの徹にとっては、少々寂しさを感じる。

「拳凰ってば最近すっかりそっけなくなっちゃって、お父さん帰ってくるって言ってるのにどうでもよさそうにして。でも内心では楽しみにしてんだよ」

「ははは……中学生になって、ますます意地っ張りになっちゃったか。僕の弟を思い出すよ」

 オーデンの意地っ張りは筋金入りだ。ユドーフもそれには散々困らされてきた。

「そういえば、あんたの実家の話ってあんまり聞いたことなかったよね」

「ああ、うん。そのことなんだけど、家に帰ったら拳凰も交えてゆっくり話そうかなって」

 そう話していた時のことだった。突如車は急ブレーキをかけ、徹と美緒はその衝撃に体を揺らした。

「うわっ!? 何があった!?」

 美緒が尋ねるも、和義の返事は無い。

「兄さん?」

 美緒が体を乗り出し和義の方を覗き込むと――車を貫通した太い棒のような何かが、和義の腹に突き刺さっていた。和義は口から血を垂らし、目は虚空を見ている。

「え?」

 何が起こったか理解できず首を傾げる美緒であったが、直後徹が美緒を抱えて車から脱出。すると車は爆発炎上した。

「に、兄さん……?」

 燃え上がる車の中に和義を残したまま、徹は空中に退避。

(なんということだ……僕が気付けなかっただなんて……それに飛んできたあれは……)

 突然の義兄の死に動揺する余裕も無いまま、徹の中で恐ろしい想像が浮かんだ。それだけはあって欲しくなかったが、それしかありえない想像が。

 車の中から何かが独りでに出てきた。それは和義を刺し殺した、一本の大剣。刀身に炎を模ったレリーフが施された、徹にとってはよく見知った剣だ。人間界の神話に登場する戦神の名を借りた、妖精王家に代々伝わる神器アレス。人間界にあるはずのないそれが、何があったかここにある。

 そして宙に浮かんで移動したアレスは、車の正面に立つ男に握られる。徹の瓜二つの顔と背格好をした男に。

 神の力を直系継承しており文字通りの『最強』たる徹を出し抜くほどの速度で攻撃を繰り出せる存在など、今は一人しかいない。同じく直系継承者であるあの男しか。

「オーデン……」

 信じたくはなかったが、そこにいるのは紛れもなく先程車内の会話で話題にした双子の弟オーデン。彼は憎悪に満ちたどす黒い魔力を身に纏い、燃え盛る車を見て狂気の笑みを浮かべている。

「おい徹! どういうことだよ!? 何が起こってるんだよ!? ていうかあんた、飛んで……」

 何が起こっているのか未だ理解できずにいる美緒。徹ははっとして美緒の顔を見ると、近くの建物の屋根の上まで空中を移動し、そこに美緒を下ろした。

「君は安全な場所にいるんだ。今はまだ現実を受け止めきれないかもしれないけれど……後で必ず事情は話す」

 屋根から飛んだ徹は、オーデンの正面に立つように着地する。

「どういうことだオーデン。何故君がここにいる。それに何故僕の剣を持っている」

「俺はお前と魂を分けた双子。お前の剣を俺が使えても何もおかしくはあるまい。そして俺がここにいる理由――言わずとも解るだろう」

 アレスの剣先を徹の眼前に突き付け、オーデンは憎悪に満ちた眼差しを向ける。

「僕を殺しに来たのか。君が王になるためか? それとも法を破った僕に罰を与えるつもりか?」

「そのどちらでもない」

 突き出された剣先を、徹は後ろに跳んで避ける。

「お前が隠し子のことを黙っていた所為で、マカロンがどれほど悩み苦しんだか! その身を以って解らせてやる!」

 首筋を狙って一閃。だが徹は紙一重で避ける。

「マカロンが……? 何を言って……」

「マカロンがどんな気持ちで俺の子を産んだと思っている! 王子の幼馴染として生まれ次の王を産むことを常に期待され続け、お前が子を作らないばかりにせめて王家の血を絶やさぬためにと好きでもない男に嫁いだのだぞ! それが実はお前には既に子がいたなど……許されることではない!」

 大剣を軽々と振り回し怒涛の猛攻をかけるオーデンと、それを避け続ける徹。その様子を屋根の上から見ていた美緒は、頭がどうにかなりそうな気分でただただ困惑していた。

 何だかわからない内に、兄が殺された。そして夫は、その殺人犯を相手に人間離れした動きで戦っている。まるで夢でも見ているかのような――夢であって欲しい気分だった。


 オーデンが大剣を振り上げた一瞬の隙を見て、徹はその頬に右ストレートを打ち込んだ。吹っ飛ぶオーデンだが、戦闘の要たるアレスは手放さない。

 初撃を先に当てたのは徹。たとえ力の継承率は同じでも、潜り抜けてきた修羅場の数が違う。

 徹は地面を蹴って急加速し、一気に間合いを詰める。カウンター狙いでオーデンの向けた大剣を避けるように懐に潜り込み、嵐のように鉄拳の連打を畳み掛ける。オーデンに反撃はおろか防御や回避の隙すら与えず、実弟相手とは思えぬほど容赦の無い猛攻。連撃の最後には鳩尾に渾身の一発。オーデンを後ろのコンクリート壁に叩きつけた。

「だったらどうした。僕はもう君を弟だとは思わない。そんな理由で僕の義兄を殺した君を!」

「義兄……なるほど、あの男はお前を誑かした阿婆擦れの兄だったか」

 あの猛攻を受けて尚、オーデンはへらへらと笑いながら平然と立ち上がった。

「彼にはムニエルちゃんと同い年の娘がいるんだぞ!」

 アレスの刃に魔力を纏わせ反撃に出ようとするオーデンに、徹は追撃のパンチを繰り出す。だがその拳は虚しく空を切った。

 瞬時に徹を避けて飛び上がったオーデンの向かった先は、美緒の立つ屋根。

「人間の女……お前さえいなければマカロンは幸せになれたのだ!」

 身構える美緒だが、所詮普通の人間でしかない自分ではこのスピードに対応できないことは解っている。だが不思議と、死への絶望感は無かった。

 オーデンは怒涛の如く後ろから迫る気配に気が付き振り向く。その頬目掛けて、脳を揺らす鮮烈なフックが突き刺さった。

「無事か美緒!?」

 信じていた通りに、徹は助けてくれた。吹き飛んでゆくオーデンには目もくれず、徹は美緒に駆け寄って抱きしめた。

「あ、ああ……あんたの方こそ……」

「巻き込んでしまってすまない……和義さんが死んだのは僕の所為だ。亜希子さんと花梨ちゃんに何と言ったら……」

 悔やむ徹であったが、オーデンの飛んでいった方からとてつもなく強い魔力が湧き上がったことに気付いてそちらへ顔を向ける。宙に浮かび上がって徹に姿を見せたオーデンの持つアレスの刀身には、どす黒い魔力が纏わり付いて渦巻いていた。

「まずい!」

 アレスは元々ユドーフの使っていた剣であり、オーデンの戦い方はユドーフを真似ているに過ぎない。だがだからこそあの刀身に魔力を纏わせて放つ技の威力を徹はよく知っているのだ。

「二人纏めて死ね!!」

 天を裂くように振り下ろされた刃から、魔力の斬撃が撃ち出される。徹は美緒を抱えて瞬時に屋根から飛び退いた。斬撃を叩きつけられた建物は真っ二つに切り裂かれ、見るも無惨に破壊された。

 ユドーフの額に冷や汗が流れる。犠牲になったのは単なる倉庫であり中に人がいなかったからまだ良かったものの、こんな街中での戦闘の危険さを伝えるには十分であった。しかもこちらは美緒を庇いながら戦うことを強いられており、守らなければならないものの多さが尚更に徹を焦らせる。

 オーデンは徹から距離を取りながら、再び魔力を溜め始める。二発目を撃たれる前に止めなくてはならない。徹は一度美緒を降ろすも、既にオーデンは攻撃の態勢。美緒を狙ってまっすぐ放たれた斬撃を、徹は再び美緒を抱えて避ける。

 オーデンは斬撃発射から間髪を入れず徹目掛けて突進。それに気付いた徹は美緒を射程から逃すべく優しく手放した。そうして力を抜いて宙ぶらりんになった右腕目掛けて振り下ろされる大剣。神器アレスはその本来の持ち主の腕を、容赦無く叩き斬った。

「ぐああああ!!」

 絶叫が響く。千切れた腕は血飛沫と共に宙を舞う。

 オーデンはニヤリと笑う。徹が美緒を守ることを優先して動くのは、相手する側からしたら動きを読み易かった。

 衝撃で眼鏡が外れた徹の顔は尚更オーデンと瓜二つになるが、その表情は対照的であった。

「惨めだな。足手纏いを抱えながら戦うのは辛かろう」

 勝ち誇るオーデン。だがその頬に、届くはずのない位置から拳が突き刺さった。左手で掴んだ右腕を突き出し、腕二本分のリーチで放たれたパンチ。だがその一撃は頬を抉るも退かせるまでには行かず、苦し紛れのハッタリでしかないことを窺わせた。

 急に目が眩んだ徹は、地に肩膝をつく。切り口から止め処なく流れ出る血が、刻一刻と徹の生命を削り取っていた。

「さて、お前とあの女、どちらから先に殺してやろうか……決めた。お前からにしよう。あの阿婆擦れにはお前の死に様を見せつけ、より苦しませながら死なせてやる」

 徹を真っ二つにせんと振り下ろされた刃。あわや絶体絶命のその瞬間、二人の間に割って入る影。両腕を広げた美緒が徹を庇いそして、斬られた。

 生温い血飛沫が顔にかかる。断末魔の叫びを上げることすらなく袈裟に斬られ崩れ落ちる美緒が、徹の瞳に映った。徹はピクリとも動かずただ目を見開いていたが、やがて目の前に映る現実が心に襲い掛かってきた。

 美しい顔を歪めて叫びそうになったその時に、オーデンの刃が一閃。徹の首は何の抵抗もすることなく宙へと舞った。



<キャラクター紹介>

名前:魚座(ピスケス)のカリーヴルスト

本名:カリーヴルスト・アクラブ

性別:男

年齢:29(125話当時)

身長:179

髪色:青

星座:魚座

趣味:ゴルフ


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