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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第七章 インターバル編
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第126話 運命の子、拳凰

 中東の某国にて長らく続いていた戦争が終結してからおよそ二年が経った秋の日。

「いらっしゃいませー」

 ウェイトレスの制服を着た美緒が、入店した客を笑顔で出迎える。

 高校三年生になった美緒は、大学に行けるほどの学力は無いし就職活動もかったるいので兄貴の店で雇って貰おうと考えた。そこでどうせなら今からバイトしておこうということで、こうしてウェイトレスをやっているのである。

 普段は絶対に見せないような営業スマイルであるが、これは正しい接客の仕方として兄から叩き込まれたものだ。

 だが、入ってきた客の顔を見てその笑顔は一瞬にして真顔に変わった。

「やあ美緒さん。アルバイト、頑張ってるようじゃないか」

 突然の彼氏の来店。美緒のわざとらしい営業スマイルが霞むような爽やかな笑顔で、徹は美緒に声をかけた。

「ここでバイトしてるって教えた覚えないんだけど!?」

「おい美緒、お客様に何だその態度は」

「いや客ったって……」

「お兄さんもお元気そうで何よりです」

 和義は自分の店を持つにあたって実家を出て一人暮らしをしており、徹と顔を合わせるのは暫くぶりのことである。

「いやあ実に可愛らしい制服姿だね美緒さん。とても似合っているよ」

「あ、あんま見るなよ!」

 この格好を徹に見られるのは、どうにも羞恥心を刺激させられる。美緒が恥ずかしがれば恥ずかしがるほど徹は喜ぶので、美緒の立場からしたらたまったものではない。

「二人きりの時にも着て欲しいなあ」

「店の制服をやらしいことに使うなよ」

「や、やらしいことって!!」

 兄の下世話な発言にビクリと体を震わせて威嚇する美緒。一方の徹は、相変わらず食えない笑顔を浮かべたままである。

「僕らまだ清い関係ですよお兄さん」

「何だそうなのか」

 和義は何か珍しいものでも見るような顔をしていた。あれだけエロ外人呼ばわりされていた男がまだ手を出していないと知れば、当然の反応だ。

 美緒は何だか居た堪れない気持ちになって、うーと呻りながら両拳を握り瞳を潤ませていた。



 バイトを終えて帰宅した後、美緒はいつものように徹の家に通う。家が隣なので遊びに行くフットワークは軽く、殆ど自分の家のような感覚で通い妻している。

 そうしていつも二人きり、部屋でいちゃいちゃしているわけである。

「美緒は可愛いなぁ。こうしていられるだけで幸せだよ」

 ベッドに腰掛け、膝の上に座らせた美緒を後ろから抱きしめながら徹は甘い声で囁く。美緒は全身に熱が回ってとろけそうになった。

「な、なあ、徹……」

「どうかしたのかい?」

 肩に顎を乗せ頬を寄せてくる徹に、美緒がおずおずと声をかける。真っ赤な頬が徹の頬に触れて、ますます熱を帯びた。

 この二年の間に進展した二人の関係性。徹は以前は美緒のことをさん付けで呼んでいたし、美緒に至っては名前を呼ぶのを恥ずかしがってエロ外人呼ばわりしていた始末。それが今では、二人きりの時に限って互いを呼び捨てし合えるようになった。ぐっと距離は近づき、身体的接触もこれまで以上に増した。だけども。

「……何でもない」

 思うことはあるけれど、言うことを躊躇う。

 徹は美緒の太腿の内側に手を入れて、肌の感触を掌で味わうようにすりすりと撫でる。やがて徹は手をミニスカートの中に突っ込んで、下着のラインを指でなぞり始めた。くすぐったくてむず痒い感覚に美緒は身悶えするが、後ろからがっちりホールドされているために逃げ出せない。

 きわどい所まで平気で触れてくる徹に、美緒はたじたじ。顔が火照って火を噴きそうになる。もう恋人になって二年が経ち触れ合いにも大分慣れてきたはずなのだが、いつも手を変え品を変え美緒を刺激してくるものだから一向に気が休まらない。

 しかもこれだけ触ってくるにも関わらず、本人が清い関係と言い張るように決して一線は越えない。こんな意地の悪い寸止めの生殺しを続けられてはむらむら悶々とさせられるばかりで、かえって欲求は高まってしまう。

 徹のホールドが緩んだ隙に美緒は脚を上げて体を反転させ、徹の腰に跨るような体勢でこちらからも徹の背中に腕を回して抱き返した。熱い抱擁で大胆に攻めてくる可愛い恋人に、徹は悦んで悪戯な笑顔を見せる。

「可愛い僕の美緒……愛してるよ……」

 そう囁いてまずは額に、そこから頬、首筋と口付けを落とす。最後に唇を食んで舌を入れてくると、美緒の欲求は最高潮に達した。だけどそれでも、徹はそれ以上先に進んではくれない。体の内側が疼いて仕方が無いのに、その疼きを静めてはくれない。

 美緒は徹の胸板に自分の胸を押し当てながら、体重を掛けて徹をベッドに押し倒した。唇を離し体を持ち上げた美緒は、瞳を潤ませながら着ている服を脱ぎ始めた。きょとんとする徹であったが、特にそれを止めるでもなくじっと見ている。

 上半身黒のレースのブラジャー一枚になって徹を見下ろす美緒。赤く濡れる頬と揺れる瞳に徹が見入っていた隙を突くように、今度は美緒の方から徹の唇を奪った。

 徹に舌を入れられる前にすぐ唇を離すと、美緒は至近距離でじっと徹の目を見る。

「あんたさぁ、いい加減にしろよ。一線超える気が無い癖にギリギリのとこばっか攻めやがって! 最初はそれで満足してたけどさあ! いい加減手出してこいよ! へたれてんじゃねーよ!」

 勢い任せで、思の淵を口に出して叫んだ。

「えーと……それはつまり」

 珍しく動揺の表情を見せる徹に、美緒は更に畳み掛ける。

「お前の故郷じゃ結婚するまで手出さないとか知ったことか! こっちは中途半端なことばっかされて全然スッキリせず溜まる一方なんだよ! 女にだって性欲あんだぞバカヤロー!!」

 美緒の高校卒業まで、もう半年を切った。卒業さえしてしまえば歳の差から来る後ろめたさを気にせずそういう関係に及べるようになり、同時に清い関係も卒業できるようになるだろう。だけど散々生殺され続けて、いい加減我慢の限界が来ていた。

「あー……うん」

 徹はなんとも釈然としない声を出した後、仄かに頬を染めながら顔を傾けて美緒から目を逸らした。

 あの徹が照れている。美緒の魂の叫びは、随分と効いたらしい。珍しいものを見たことで美緒はますます気持ちが昂ぶってしまう。だけど徹は、そんな美緒を寝転がったままぎゅっと抱きしめた。

「辛い思い、させちゃってたんだね。ごめんね美緒。いいよ、美緒がしたいなら」

 徹はごろんと寝返りを打つようにして、ベッドの上で美緒と体勢を入れ替える。文字通り一転して徹に押し倒される体勢になった美緒は、先程までの強気がどこへ行ったのか目を回しているかのように焦りだした。

 口では優しい言葉をかけているけれど、一度覚悟を決めた徹は何だかとても雄雄しいオーラを放っているかのようで。そのたまらぬ色気に気圧されて、美緒はすっかりしおらしくなってしまった。




 そして翌年の夏、運命の子は産声を上げた。

 不良少女が高校在学中に妊娠とあって周囲からの視線は冷たかったが、美緒は腹に子を抱えたまま気合で学校に通い、卒業式の写真にもお腹の膨らんだ姿で写った。

 卒業後すぐに美緒と徹は籍を入れ、徹の家で二人暮らしを始めた。美緒の実家がすぐ隣であるため両親のサポートも手厚く、妊娠生活も出産も順調に事が進んだ。

 生まれた子供は両親の丈夫な身体を受け継いだ健康優良児で、髪と目の色は父親譲り。将来美男子になるだろうと、皆が口を揃えて言った。

「見ろ徹! この子の名前決めたぞ!」

 ゆりかごの中で静かに眠る我が子を眺めて顔がほころんでいる徹に、病院のベッドの上で美緒が一枚の紙を見せつけた。そこには豪快な筆文字で書かれた『拳凰』の名。

(こぶし)に鳳凰の凰で拳凰(けんおう)だ。カッコいいだろ?」

 子供の名前は美緒が決めて欲しいという徹のたっての願いで、美緒は一晩かけて考えた。この筆文字も先程自分で書いたものである。

 そして徹の反応は。

「最高の名前だよ! 僕達の息子、拳凰。うん、今日から君は拳凰だ!」

 ヤンキー丸出しのネーミングセンスであるが、徹はこれを絶賛。何せ日本人としての苗字に『最強寺』なんて名付けるような男である。ネーミングセンスは似通っているのだ。

 我が子の名前も決まってテンションの上がる最強寺夫妻であるが、ふと一瞬、拳凰を見下ろす徹の表情が悲しげなものになった。

(妖精王、拳凰か……)

 この子は運命を背負っている。妖精界の王位を継ぐという運命を。

 直系継承者である徹ことユドーフの長子である拳凰は、当然直系継承者としてユドーフが持つ神の力の全てを継承している。たとえ人間の血を引いていようと、それは決して変えられない運命だ。

 我が子の額をそっと撫でる徹は、拳凰にある魔法をかけた。それは妖精王家が持つ神の力を封印するものである。たとえ将来妖精界の王宮で暮らすことになっても、これから暫くは人間界で生きることになることに変わりは無い。強すぎる力を抑え、人間の子供として不自由なく生活できるようにするための封印なのだ。

(だけど……果たして僕はいつそれを伝えるべきなのだろうか)

 突然異世界での、それも王族としての生活を余儀なくされる妻子。国民から二人が受け入れられるかもわからない。

(果たして二人を妖精王家に迎え入れることが本当に正しいのだろうか。このまま人間界で暮らした方が幸せなのは、きっと間違いない……)

 今はまだ何も知らず安らかに眠る我が子を撫でる徹の内心は、申し訳ない気持ちで一杯だった。

(それでも僕は、この人間界で美緒に出会ってしまった。誰よりも愛しい、運命の人に出会ってしまったから。こうなることをわかった上で、僕は美緒を愛すると決めたんだ)

 と、そこで拳凰が目を覚ましけたたましい泣き声を上げる。

「あ、おっぱいかな。徹、拳凰こっちにちょうだい」

「ん、ああ」

 徹は恐る恐るゆりかごから拳凰を抱き上げ、美緒へと手渡した。


「うーん……」

 一心不乱に乳を吸う拳凰の顔を見つめて、美緒は呻るような声を出す。

「どうかしたの?」

 授乳の様子を眺めていた徹は、疑問に思って尋ねた。

「私の目つきの悪さ、拳凰に遺伝してる気がする」

 ぱっちりと目を開いた拳凰の気迫を感じさせる眼力は、美緒にそう感じさせた。

「これで身長があんたに似たらすっげー威圧感ありそうだな……周りの子から怖がられなきゃいいけど」

「大丈夫だよ。僕らの子だ。大きな体で弱い子達を守ってくれる、優しい子になってくれるさ」



 両親や祖父母から愛情をいっぱい注がれて、拳凰はすくすくと育った。体格は父親譲りで、幼稚園の同い年の子の中では常に一番背が高かった。

 徹は妖精界と魔法少女バトル開催国、及びその候補となる国を行ったり来たりしながら、合間合間に日本の自宅に帰ってきて家族と過ごす日々を送っていた。

 家にいない間に拳凰を寂しがらせてしまった分、帰ってきた徹はたっぷり拳凰と遊んであげた。


 拳凰が五歳の時。魔法少女バトルアメリカ大会は途中で騎士が一人失踪するというアクシデントがあったものの、大会進行を優先して急遽後任を据え無事に閉会まで漕ぎ着けた。優勝者の願いは簡単に叶えられるものであり、大会終了後徹はすぐに日本に帰ってこられた。

 和義のレストランで夕食をとり、そのついでに和義の娘である花梨と初めて顔を合わせた。徹からしてみれば、姪っ子が二人同時に出来たような感覚だ。

 大会の開催期間中、妖精界でもオーデンとマカロンの子が産まれていた。丁度誕生日も、花梨と非常に近い時期であった。

 ユドーフが自分の気持ちに応えてくれる可能性が皆無であると諦めに達したマカロンは、とうとう観念してオーデンと結ばれる道を選んだのだ。

 帰宅後は家族三人でお風呂に入り、そして拳凰が寝静まった後は夫婦の甘い時間を過ごした。


 そうして妻子と共に暫しののどかな休日を過ごしていた徹であったが、ある時突如ビフテキから風雲急を告げる連絡が伝えられた。

 失踪していた元妖精騎士――乙女座(バルゴ)のティラミスが見つかったのだ。それも彼女は罪を犯し、後任の騎士によって捕らえられるという形で。

 騎士団全員が招集されることとなり、徹は急遽妖精界に戻らざるを得なくなったのである。

「とーちゃんまた行っちゃうのか?」

「大丈夫。今回はすぐ帰ってこられるから」

 拳凰を安心させるためにそうは言ったものの、根拠は無い。今回起こった事件は、解決まで長くなる可能性も十分にあり得るものだった。

 そしてそれは、徹にとって精神の安寧を揺るがす事件でもあった。

 ティラミスの犯した罪とは――人間との間に子を成したことであるのだから。



<キャラクター紹介>

名前:マカロン・スピカ

性別:女

年齢:24(125話当時)

身長:160

3サイズ:88-60-90(Eカップ)

髪色:薄紫

星座:乙女座

趣味:ガーデニング


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