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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第七章 インターバル編
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第125話 王子の帰国

「お帰りなさい、ユドーフ様」

 徹ことユドーフが妖精界に戻って、真っ先に出迎えたのは薄紫色の長い髪の女性。幼馴染のマカロン・スピカであった。

「やあマカロン、お出迎えありがとう」

「今回の任務はとても危険だとのことで、本当に心配しておりましたのよ。ユドーフ様がご無事で何よりですわ」

「なかなか大変な任務ではあったよ。ところでオーデンとはどうだい?」

「オーデン様のことは……どうでもいいでしょう?」

 先程まで笑顔だったのが、オーデンの話をした途端に顔が曇る。

「兄上」

 次に聞こえた声に反応し、ユドーフはそちらに顔を向ける。

 そこに立つのはユドーフと瓜二つな顔立ちと背格好をした、だが眼鏡をしていない青年。双子の弟オーデンである。

「ああ、ただいまオーデン。君も元気そうで何よりだ」

 真顔でじっと見てくるオーデンに、ユドーフは笑顔で返事をした。

「積もる話もあるけど、これから最終予選が始まるからね。僕はもう行かせてもらうよ」

 ユドーフは一年ぶりに再会した二人を後にし、王立競技場のシステムルームへと足を進めた。



 魔法少女バトル最終予選、ユニコーンの森でのバトルロイヤルはトラブル無く順調に進行。本戦出場四十八名が決することとなった。

 今回の本戦は四人一組でのチーム戦である。十二チームが三組ずつ四つのブロックに分かれ、各ブロック一位のチームが個人戦となる決勝トーナメントに進む。

 明日からの三日間、本戦出場を決めた魔法少女達は王都オリンポスにて自由行動となり妖精界観光を楽しむこととなる。

 そしてその間妖精騎士団は本戦に向けての準備をすると同時に、一年ぶりに再会した家族や恋人、友人達と過ごすのである。

 とはいえ騎士であると同時に王子でもあるユドーフには、自由時間は少ない。父である妖精王ラザニアを始め妖精界の要人各所へ挨拶回りは避けられないのだ。

 ユドーフにようやくまともな時間ができたのは、本戦開始前日であった。


 私室で一人くつろいでいたユドーフは、ふと扉を叩く音に気が付く。

「ユドーフ様」

 マカロンの声。ユドーフは魔力検知で本人であることを確認すると、扉を開けマカロンを部屋に招き入れた。

「お疲れの中わたくしのために時間を割いて頂いて申し訳ありませんわ」

「構わないさ。旧知のよしみじゃないか」

 ユドーフはマカロンをソファに座らせると、お茶を淹れたカップをマカロンの前のテーブルに置き自分も向き合うソファに腰を下ろした。

「それで、何か悩み事でもあるのか?」

 マカロンの浮かない表情を見て、ユドーフは尋ねる。マカロンはカップを置き暫く間を空けた後、ユドーフを目を合わせた。

「ユドーフ様は、いつになったらわたくしの想いに応えて下さるんですの」

 淡々と無感情に言っているかのようで、その声は若干震えていた。

「わたくしももう二十四になりますわ。いい加減観念して受け止めてくれても宜しいんではなくて? それに陛下も国民も早くお世継ぎが生まれることを望んでいますわ」

「世継ぎに関しては、なかなか良い報告ができなくて申し訳ないとは思っている。だがマカロン、君の方こそそろそろオーデンの気持ちに目を向けてもよい頃ではないのか」

「あの方は嫌いです」

 はっきりと言い切るマカロンに、ユドーフは目を丸くした。

「どうしてそんな」

「あの方には心が無いのです。闇の一族(ダークマター)の行使に何の躊躇いも無い。この間だって、新聞記事に対してこれは自分への侮辱だと断定してそれを書いた記者を粛清したんです」

「……闇の一族(ダークマター)の行使は、王族に認められた権利だ。僕や父上は個人の自由としてそれを使わない選択をしているに過ぎない。どんなに道徳に反していたとしても、法はそれを認めているんだよ」

 妖精王家の闇の一面と国家上層部に蔓延る隠蔽体質の象徴とも言うべき組織、闇の一族(ダークマター)。その存在自体を快く思わない者は、貴族平民を問わず多い。だがそれと同時に、王家の権威を保つためには必要な存在だと考える者も多いのだ。

「ユドーフ様、今は闇の一族(ダークマター)を必要だと考えているの? 以前は廃止したいと言っていたのに」

「極力使うべきではないという考えは、今も変わらないさ」

 ユドーフの父であるラザニアは、自身は使わないが存続はさせるという方針を採っている。その理由は国家上層部に多い存続派に対する配慮の部分が大きい。

 ユドーフ自身は、かつて自分が王位を継いだら廃止させたいと言ったことがあった。だが現在のユドーフは。

(僕の目的を成すためには、闇の一族(ダークマター)の行使を強いられる可能性がある。勿論、使わずに済むのが最善ではあるが……)

「どうかされましたか、ユドーフ様」

「ああ、何でもないよ」

 少し考え込んだ様子のユドーフを疑問に思ったマカロンが顔を覗き込むと、ユドーフは笑って誤魔化した。

「何にせよ、いくら法律で認められているとはいえ闇の一族(ダークマター)の濫用は決して望ましいことじゃない。僕が彼を咎めてこよう」

 ユドーフが立ち上がると、マカロンは引き止めるように手を伸ばした。

「待って下さいユドーフ様。もう少し、二人きりでいさせて頂けませんか」

 ユドーフは困ったなと言わんばかりに眉尻を下げた。

「明日にはいよいよ本戦が始まり、働き漬けに戻るんだ。今日できることはできるだけやっておきたい。せっかくオーデンと腹を割って話せる機会なんだ。申し訳ないけど、僕のしたいことをさせて欲しい」

「……解りました」

 マカロンはそう言って自分も立ち上がると、一礼してユドーフよりも先に部屋を出た。



 ユドーフが部屋を訪ねると、オーデンは一人机に向かって読書に耽っていた。

「兄上か」

 ユドーフがドアノブを握った瞬間勝手に開いた鍵に呼応するように、オーデンが言った。

 オーデンは本に栞を挟んで閉じると、椅子を回してユドーフの方に身体を向ける。

「マカロンはどうした。二人きりで話していたのではないのか」

「マカロンとの話は終わった。次は君と話したくてね」

 不快そうに顔を顰めたオーデンを見て、ユドーフは溜息をつく。

「相変わらずなんだな君は。自分の気持ちを押し殺してまで僕とマカロンをくっつけようとする」

「それがマカロンにとっての一番の幸せなのだ。なぜ理解できぬ」

(僕にはもう心に決めた人がいることを、オーデンとマカロンに伝えるべきなのだろうか。いや、これはまだ公表すべきじゃない……)

 言いたくても言えないもどかしさ。それさえ伝えられれば、事は万事上手く行きそうだというのに。

「僕は君にも幸せになって欲しいんだけどな。まあそれはともかくとして、随分と闇の一族(ダークマター)を濫用しているようじゃないか」

「わざわざ俺を訪ねたのはそれを咎めるためか。くだらん説教を聞くつもりは無い。第一俺が粛清したのは死んで然るべき連中ばかりだ。この前の記者だってそうだ。この記事を見ろ」

 オーデンは引き出しから取り出した新聞を、ユドーフに放り投げる。

 件の記事は、双子の王子とマカロンの三角関係について書いたものだった。これまでの三人の関係性を纏めつつ、未だ生まれぬ世継ぎを不安視する内容だ。ユドーフの帰国によって何か動きがあることを期待しつつ、ユドーフが人間界に行っている間にもマカロンとの関係性を進展させる気配が無いオーデンのことはかなり辛辣に書いている。

「こんなことを書かれたのは君の自業自得じゃないか。自分がマカロンと結ばれることは諦めているがそれを他人に指摘されたら殺すだなんて、あまりにも不条理だ」

「俺のことではない……この記者はマカロンを侮辱した。だから粛清したのだ」

 確かにこの記事では、一向にユドーフを落とせないマカロンのことも多少辛辣に書いている。

「……その行動力をマカロンへのプロポーズに使えばよいものを」

「全て兄上が悪いのだよ。兄上がマカロンの想いに応じないのが悪いのだ」

「わけがわからない……」

 オーデンに聞こえるか聞こえないかくらいの声で、ユドーフはぼそっと言った。ユドーフはオーデンがどうして自分の好きな人が他の相手と結ばれるのを望んでいるのか、全く理解できなかった。ユドーフ自身に大切な人ができた今では、尚更に。

「マカロンのことを君と話していても埒が明かない。それよりも大事なのは闇の一族(ダークマター)の濫用についてだ。君は他者の命を奪うことを軽々しく考えすぎている」

「だからどうした」

「僕は人間界で人を殺した。魔法少女バトル参加者の住む村を敵国の兵士が襲撃したから、魔法少女を守るためにはやむを得なかったんだ。その日の晩は眠れなかったよ。あの兵士達にも、きっと帰りを待つ家族や恋人がいたんだろうに。命を奪うことの重みを、肌で感じたんだ」

「だからどうしたというのだ」

「わからないのか。君は自分の手を汚すことなく命を奪っているから、そんなにも罪悪感が無いのではないか」

 ユドーフの指摘に、オーデンはフッと嘲りの混ざった笑いを返す。

「俺が自分の手を汚していない? 何を言うのだ兄上。マカロンを侮辱するような輩はこの手で屠らねば気が済まぬ。闇の一族(ダークマター)には捕縛だけさせ、とどめは俺が刺している」

 ユドーフは目を見開き、口を半開きにしたまま絶句した。

「どうした兄上。俺が何か変なことを言ったか?」

(オーデン……まさかこれほどにまで……)

 酷く変貌した弟に動揺を覚えるユドーフだったが、すぐに気持ちを立て直す。

「君にとってはそれが気持ちいいのかもしれない。だがそうやって恐怖で支配するのは、国民からの王室への信頼を貶める行為だ」

「くだらん。そんなもので妖精王が持つ絶対的な権威は揺るがぬ。王が愚民に臆するなど馬鹿馬鹿しいにも程がある」

 情緒に訴える説得は通じないと判断し合理性に訴えるも、オーデンはそれすらも一蹴。

「君が軽々しく粛清することを、マカロンは快く思っていない」

 だが次の説得文句を言ったところで、ここまで全ての説得を跳ね除けてきたオーデンが一瞬ピクリとした。だがすぐに平静になり、真顔でユドーフを見つめ返す。

「……なるほどな。兄上の魂胆が読めたぞ。今回の魔法少女バトル、開催国の情勢から考えて誰が優勝しても同じような願いを叶えることになる可能性が高い。そしてそれを叶えるためには説得の技術が必要であり、そのために俺を練習台にしていたと」

 今度はユドーフがピクリと動く。図星とまで言わずとも、オーデンに指摘された通りの考えが無かったわけではないからだ。

「フン、だが俺ならば説得などという不確定な手段は使わない。洗脳して終わりだ」

 冷徹に言うオーデンを、ユドーフは悲しそうな目で見た。

「何だ兄上。言いたいことがあるならば言え」

「僕にとって君は、たった一人の兄弟なんだ。僕は君に皆の嫌われ者になって欲しくないと思っている。特に君がマカロンに嫌われるとなっては、本当に胸が痛む。だからもう、むやみやたらと非道な手段を使うのはやめるんだ」

 両肩に手を置いて迫りあくまでも説得を続けようとするユドーフに、オーデンは溜息。

「……マカロンが粛清を快く思っていないという話、本当なのだな」

「ああ、僕はマカロンから話を聞いてここに来た」

「……ならば今回はそれに従ってやる。だが勘違いはするな。あくまでマカロンのためだ」

 ユドーフがほっとして肩から手を離すと、オーデンはフンと鼻を鳴らした。

「これで満足か? それなら俺の部屋からさっさと出て行け」

 不機嫌そうにユドーフを追い出すオーデンに、ユドーフは煮え切らなさげな表情を見せつつ部屋を出て行った。




 魔法少女バトル本戦が終われば、次は決勝トーナメント。そしてそれを制したのは、セラという名の少女であった。

 大方の予想通り、彼女は戦争の終結を願った。妖精騎士団の大仕事は、いよいよここからである。

 バトル優勝者の願いは、基本的に妖精騎士団が叶えることになっている。簡単な願いであればよいのだが、今回のような国家レベルの規模の話となると騎士団の労力も尋常ではない。

 今回ユドーフは両国首脳や軍司令官への交渉を担うこととなっている。必要次第では脅迫や洗脳といった手段も使うことになっているが、ユドーフは極力そういった手段を控えるつもりでいた。

 これは彼にとって、王の資質を問う試練。そして彼の成すべき目的のための試練でもある。

 闇の一族(ダークマター)による情報統制や脅迫、洗脳、そして粛清。権力に物を言わせてそういった手段を活用すれば、目的は簡単に成せるだろう。だがそれでは、真に事を成したとは言えない。

 人間の王妃を迎える。妖精王国の現行法では許されないそれを国民から広く受け入れて貰うためには、ユドーフ自身の王としての力量が問われる。

(美緒さん、僕はやってみせるよ)

 一つの決意を胸に、ユドーフは人間界へのゲートをくぐる。向かう先はあの戦地だ。



<キャラクター紹介>

名前:滝沢(たきざわ)(りつ)

性別:女

学年:中二

身長:163

3サイズ:88-61-89(Cカップ)

髪色:黒

髪色(変身後):赤

星座:牡牛座

衣装:ドラゴンを模した鎧

武器:青龍刀

魔法:体から高熱を放つ

趣味:ラクロス


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