第124話 となりのエロ外人
お姫様抱っこでお持ち帰りされた美緒は、徹の部屋のベッドに寝かされていた。徹の部屋はあまり生活感が無いくらいに片付いており、つい先日帰ってきたばかりなのだということを実感させられる。
徹が美緒の家に遊びに来るのは頻繁にあったが、何気に美緒が徹の家に足を踏み入れるのは初めてであった。高級感と気品溢れる家具の数々は、日本の一般家屋にはちょっと浮いている。
「あっあの……おい。おいエロ外人!」
ちょっと落ち着いてきた美緒は、この状況にはっきりエロ外人と罵る。無防備なまま、男の部屋のベッドに寝かされる。これはもうそういうことをされるとしか思えなかった。
「大丈夫かい美緒さん。暫く安静にしていたら治るだろうから、そこでゆっくり休んでなよ」
だが流石のエロ外人も、動けない美緒をどうこうしようという気は無いという意思表示だ。
「うっさい! もう治った!」
「それはよかった」
美緒がベッドから降りて立ってみせると、徹は嬉しそうににっこり笑った。
「じゃあ、先にシャワー浴びてきなよ。汗かいてるでしょ」
相変わらず徹はぶれない。美緒はびくりと体を震わせた。
(こいつ……やる気だ)
美緒は特別その手の知識が深いわけではないが、そういうことをする前にはとりあえず女の子にシャワーを浴びさせる、という話はなんとなく知っていた。
まさか交際初日からそういうことをすることになるとは思っていなかったが、徹は大人だし外国人だ。もしかしたら徹の感覚ではこれが当たり前なのかもしれないと思った。
「ふ、ふーん……まあ、あんたがそうして欲しいならそうしてやるけど」
あくまで平静を装う美緒を、徹は浴室まで案内。
「あんたは入ってくんなよ!」
二人で一緒にシャワーを浴びよう、なんて徹は言いかねないと思った美緒は先に釘を刺しておく。
「じゃあ、僕は着替え持ってくるから。僕の服でいいよね」
徹が脱衣所の扉を閉めたところで、美緒は服を脱ぎ始める。シャワーを浴びるのだから当然のことなのだが、徹の家で裸になるという行為が美緒を何だか変な気持ちにさせる。
ブラを脱ぎ、ショーツに手をかけ、膝下辺りまで下ろしたところで――脱衣所の扉が開いた。
「美緒さん、着替えはこれでいいかな」
綺麗に折り畳まれた何かしらの衣類を持った徹が、ほぼ全裸の美緒を堂々と見つめる。美緒の頭に血が上っていく様子が、徹にははっきりとわかった。
「こっこっこのエロ外人ー!」
身体を隠すより先に拳が出た。徹は流石に悪いと思ったのか、今回は防御も回避もせず甘んじて殴られておいた。流石に背が高すぎて顔面を殴るのは難しいので、美緒の拳は鳩尾にヒット。徹は少し仰け反るも、あまりダメージを受けている様子は無い。徹の珍しい行動に、美緒は驚いた顔。
「それじゃあ美緒さん、僕は向こうで待っているから」
照れる様子も無く美緒の裸体をしっかりと目に焼き付けた後で、徹は着替えを置いて美緒に背を向け扉を閉めた。
「何なんだよ、もー!」
そして美緒の叫び声だけが、脱衣所に響いたのである。
暫くしてシャワーを終えて戻ってきた美緒の姿に、徹は目を輝かせていた。
「ああ、美緒さんが僕のシャツを着た姿を見られるだなんて。生きててよかった」
戦場帰りが言うとちょっと洒落にならない発言と共に、徹は感激と喜びを全身で表す。
徹が用意した着替えというのは、俗に言う彼シャツであった。彼シャツというとぶかぶかのシャツを着てその体格差をお互いに認識するのも楽しみの一つであるが、徹の場合背が高すぎてそれを美緒が着た姿は一般的な彼シャツよりも更に二人の体格差を感じさせる印象である。
「あんたさぁ……こういうの着せて楽しいわけ?」
大きく開いた襟を両手で掴んでぴったり閉じながら、美緒は目を細めて徹を見る。
「ああ、とても楽しいよ」
心底楽しそうな、安定のエロ外人である。
「美緒さんは髪を下ろすと少し印象が変わるね」
「うん、よく言われる」
普段ポニーテールにしている美緒が、髪を下ろした姿を徹に見せるのは初めてだ。普段の活発な印象と比べ、少しだけ大人しげに見える。
「いつもの髪型も素敵だけど、こういうのもいいね。美緒さんはどんな髪型も似合うなぁ」
息を吐くようにキザなことを言うので、相も変わらず美緒の心臓は休まらない。
「それじゃ僕もシャワー浴びてくるから、その格好のまま待っててよ」
美緒の頭をぽんぽんと撫でると、徹は引き出しから取り出したドライヤーを机の上に置く。
「ドライヤーここに出しとくね」
そう言って徹は眼鏡を外してドライヤーの隣に置き、先程美緒が出たばかりの浴室へと歩いていった。
(あんたも眼鏡外すと印象変わるんだよなぁ……)
徹の眼鏡はレンズに度の入っていないファッショングラスである。眼鏡をしていると徹の顔は穏やかな印象が増すが、外すと逆にサディスティックな印象が高まる。そんな徹の素顔に、美緒はうっかりときめいてしまった。
一人部屋に残された美緒が掴んでいた襟から手を離すと、大きく開いた襟から覗くのは、普段の美緒は絶対着ないようなフリルが付いた純白のブラジャー。例によって今朝買ったばかりのものである。
下着姿を徹に見せるつもりはなかったけど一応念のため買ったものであったが、ちゃんとした勝負下着を買っておいて正解だったと美緒は自分の判断に相槌を打った。
美緒をあまり待たせないようにするためか、徹はシャワーにあまり時間をかけず美緒が髪を乾かし終える頃には出てきた。その時の格好がトランクス一枚だったので、美緒が叫び声を上げたのは言うまでもない。
パンツ一丁でベッドに寝転がった徹は、ベッドをぽんぽんと掌で叩き美緒を招く。
「さあ、おいで美緒さん」
美緒はびくりと体を強張らせた。いよいよその時が来る。
「よ、よろしく頼む……」
色気がありすぎる徹の姿を横目でチラチラと見たり視線を逸らしたりしながら、美緒はおずおずと躊躇いがちにベッドに腰を下ろした。
「その……初めてだから、優しくしろよな」
美緒がそう言うと、徹はきょとんとした顔をした。その後、いつもの柔らかな笑顔に変わる。
「ああ、そこは安心して。今日は添い寝するだけだから。僕の生まれ故郷では美緒さんが想像してるようなことをするのは結婚してからと決まってるからね」
美緒を安心させようとして言ったことであるが、美緒はそこに「そんなこと想像するなんて君はスケベだな」という含みがあるように感じてならなかった。
「いや、そんな格好で出てきといてそんなこと言っても説得力ゼロだからな!」
「日本の夏は蒸し暑いからね、裸でいた方が寝やすくていいんだ」
そう言われると美緒には返す言葉が無い。何せ美緒自身、夏はトップレスにパンツ一丁で就寝しているからだ。穿き古した安い下着を穿いて大股開きのだらしない寝相でいびきをかく、徹にはとても見せられない姿である。
徹に腕を引かれるようにして、美緒はベッドに寝転がる。美緒からすれば徹の顔は常に高い位置にある印象なので、こうして同じ高さで向き合うのには慣れていない。整った顔をまっすぐ向けられ吸い込まれそうなエメラルド色の瞳に見つめられると、鼓動が早まりなんだかいけない気持ちになってくる。
今日自分は好きな人と恋人同士になり、そして今一つのベッドで一夜を共にする。何だかもうどうしていいかわからず、感情が無茶苦茶になるような感覚。
「その下着、可愛いね」
徹がくすっと笑い美緒の胸元から覗く下着を褒めると、美緒はぼっと顔から火を噴き手で襟を掴んで胸元を隠した。
「それじゃ美緒さん、おやすみ」
紅く濡れる美緒の頬を指先で触れながら甘美な声色でそう言った徹は、続けて美緒の唇に己の唇を重ねる。本日二度目のキス。お互い立った状態でしたファーストキスは徹が随分屈んで辛そうな体勢だった。寝転がって顔の位置が並んだ今回は、一度目よりも優しく触れる。
唇を離すと徹は枕元のリモコンで灯りを消し、目を閉じて顔を天井に向けた。
明るいうちは紳士でも暗くなったら獣になるのでは、という考えが頭をよぎった美緒は期待半分不安半分でドキドキしながら徹の次の一手を待つも、ほどなくして徹の寝息が聞こえてきた。
大人の関係はまだお預け。おやすみと言った以上は、本当にもう後は眠るだけなのである。
(何寝てんだよーっ! てゆーかこんな状況で寝れるかーっ! いやいやいや、キスしといて、裸まで見といて添い寝だけとか! 何だその生殺し! 私の覚悟返せよーっ!)
悶々としてたまらぬ美緒が心の中で叫びまくっている間も、徹は安らかな寝顔でこの幸せを享受していたのである。
夜が明け夏の日差しがカーテンを通して部屋に差し込む頃、美緒は眠りから覚めた。
ふと体に覚える違和感。美緒が寝付いた時、二人は共に天井を向いていたはずだった。だがいつの間にやら二人は向き合っており、あまつさえ美緒は徹の逞しい腕に抱き寄せられていた。
美緒の体とベッドの間を通した右腕は胴体の前面まで回して美緒の胸を鷲掴みにしており、左手は美緒の尻を鷲掴みにした上で胴体を徹の側に引き寄せている。脚は美緒の脚に絡めて全身をぴったり密着させる格好だ。心なしか、美緒は太腿の辺りに何やら太くて固いものが当たっている感触を覚えた。
寝ぼけていた目も完全に覚める衝撃。美緒が目を回しながら声にならない声を上げても、徹は熟睡しきっており目覚めない。
昨晩美緒は胸が高鳴って遅くまで寝付けなかったわけであるが、少なくともこんな体勢になったのは美緒が寝入ってからだ。わざとやったのか無意識にやったのか、徹ならどちらの可能性もあり得る。
「おい起きろ! 起きろエロ外人!」
抜け出そうにもがっちりホールドされてて動けないので、美緒はやむを得ず徹の額に頭突きをかました。
「……ああ、おはよう美緒さん」
例によってあまりダメージを受けている様子も無く目を覚ました徹は、まるで動じることなく和やかな微笑みを向けて美緒の髪をそっと撫でた。
ベッドから起き上がり布団を捲った徹の視線は、美緒の下半身に向く。シャツが捲れ上がり、日に焼けた肉付きの良い太腿と純白の下着が露になっていたのである。美緒がそれに気付いて慌てて隠すと、徹は何事も無かったように朝の支度を始めた。
「朝食は僕が用意するよ。何かリクエストある?」
「別に何でも……てゆーか何だよさっきの! わざとか!? わざとやったのか!?」
抱き合いながら寝ていたのを無かったかのように平然としている徹を見て、美緒は焦りながら質問を投げかける。
「美緒さんが隣にいると思ったら、寝ている間に自然と体が動いてしまったのかもしれないね」
徹の言い分はあくまでも無意識の内にということである。釈然としない美緒は、うーうーと呻っていた。
徹が朝食を作るのを待つ間に、美緒の母親が美緒の着替えを届けに来た。美緒が徹の家に持ち込んだ服は昨日着ていた浴衣だけなので、徹が電話で頼んだのである。家が隣だとこういう所が便利だ。
「あらあらまあまあ」
玄関で出迎えた美緒の姿を見て、母は口元に手を当てそんなことを言う。美緒が彼シャツ姿で出てきたことに驚いてのことであった。
「やってないから!」
はっとした美緒が弁明するも、そういう発言はかえって母親を誤解させるのみであった。
母の持ってきた服は空気を読みすぎることも読まなさすぎることもなく、美緒が普段から着ているような感じの無難なチョイスであった。
着替えを済ませた辺りで朝食が出来上がり、食後はのんびりと二人で過ごした。昨日はプールや夏祭りに出かけたが、今日は二人きり家の中で楽しむ日である。夕方には徹はまた仕事で海外に出てしまうため、それまでの時間を一秒たりとも惜しいとばかりに堪能するのだ。
徹が美緒を膝の上に乗せながら二人でテレビを見たり、徹の家に沢山ある難しい本を美緒が読んですぐに投げ出したり、美緒の要望で徹の筋肉を触らせてあげたり、昼食は美緒が作ったけれど徹の作った朝食の方が美味しくてちょっと嫉妬したり、節目節目に頻繁にキスをしたり。
だけどそんな蜜月の時間はすぐに過ぎていき、徹の出発は刻一刻と迫っていた。
灰色のスーツに着替えた徹はビジネスバッグに必要な物を詰め、出発の準備を整えていた。
「なあ……次はいつ帰ってくるんだ?」
「次は多分、一ヶ月もかからないよ。またすぐ会える」
「そうなんだ。ちょっと安心した」
美緒がそう言うと、徹は少し寂しげに眉尻を下げる。
「うん、僕が帰るのを楽しみに待っててよ。今度は帰る前にちゃんと連絡するから」
そう言われると、昨日徹をはしたない格好のまま玄関で出迎えたことを思い出し美緒は赤面した。
「じゃ、家まで送るね」
とは言ったものの家が隣のためあまり意味は無いのだが、恋人を家まで送るという行為自体がカップルの楽しみの一つであり、徹がやりたいからやっていることなのだ。
美緒を家まで送り届けた後は、そのままの足で空港へと向かう。今回の魔法少女バトル開催国まで飛行機で飛んだ後、徹は自分の担当する双子座の魔法少女達と共に妖精界へと発つ。魔法少女バトル最終予選、ユニコーンの森でのバトルロイヤルが、いよいよ開幕するのだ。
<キャラクター紹介>
名前:上条沙耶
性別:女
学年:中三
身長:160
3サイズ:88-60-88(Eカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):銀
星座:牡羊座
衣装:銀色の全身タイツ
武器:光線銃
魔法:光線銃からビームを撃つ
趣味:映画鑑賞