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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第七章 インターバル編
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第123話 そうして二人は結ばれた

 照りつける日差しの中、しっかりと握った美緒の手を引きながら徹はプールへと足を進める。美緒の顔が真っ赤で汗だらだらなのは、決して今日の日差しが暑いからだけではない。

(うー、エロ外人め……責任取るって何だよ! ていうかちょっとくらい照れたりしろよ!)

 そんな気持ちで冷たい水に足を踏み入れた美緒は、ちょっとだけ気持ちが冷静になったのを感じた。

(さっきのことは忘れよう。せっかくのデートなんだから、今はめいっぱい楽しまなきゃ!)


 徹と手を繋いでプールの中を歩く美緒は、周囲からの視線をやたらと感じていた。

 そもそも徹は金髪翠眼で二メートル超の長身でその上超絶美形というとてつもなく人目を引く容姿をしている。嫌でも注目を浴びてしまうものであり、美緒もそれは割り切っていたつもりだった。

 だが今日の美緒は水着姿で、それも全く着慣れていないビキニである。そんな時にこれだけ視線を集めれば恥じらいもするというものだ。

 周囲の視線を気にも留めていなかった徹であるが、美緒のそういう様子は察していた。徹は右手で美緒の手を握ったまま、左手を前から美緒の右肩に回して身体を抱き寄せる。美緒が突然のことに驚いて「わわっ」と声を上げても、徹の手は止まらない。広い背中と逞しい腕で美緒の身体を周囲の視線から隠すように、がっしりと抱きしめた。

 美緒は声にならない声を出しながらびくびくを身体を震わすが、どんなにもがいても徹の腕は閂のように動かない。素肌と素肌で密着し、体温が直に伝わる。

「なっなっ何すんだよ突然!!」

 震える声で叫び徹の顔を見上げると、相変わらずの感情が読めない微笑み。

「美緒さんが視線を恥ずかしがっていたので、僕の体で隠してあげようかと」

「余計恥ずかしいっての! ていうか余計目立ってるし! いい加減離れろエロ外人!」

 ただでさえ目立つ徹が、尚更目立つ行動をする。これでは最早完全に注目の的であった。

 美緒に離れろと言われたので、徹は素直に離れる。すると美緒は即座に拳を突き出しアッパーカット。完璧に見切って避けた徹であったが、勢いよく振り上げられた拳と共に水しぶきが舞い上がり徹の顔を濡らした。

 くすくす笑う徹の溢れる色気に気圧されて、美緒は俯き目を逸らす。水も滴る良い男とはまさにこのことだった。



 あまり攻めすぎると美緒が疲れてしまうので、プールから上がって一旦休憩。

「私、何か飲み物買ってくるよ。あんた何がいい?」

「ああ、それならご一緒するよ。こんなにも眩しい美緒さんの水着姿、ナンパ男達が黙っていなさそうだからね」

「うっさいエロ外人。そんな奴一人でどうとでもできる」

 とりあえず今は徹と離れ、頭を冷やしたかった。美緒は徹に背を向け、自分で尋ねた徹の希望する飲み物の答えも聞かぬまま去ってゆく。


 自販機で自分の好きな炭酸飲料と徹の好きな緑茶を買った美緒は、炭酸飲料を少し飲んで頭を冷やした後戻ろうとしていた。

 ふと、穏やかではない声が美緒の耳に入った。美緒は非常に耳が良い。沢山の客で賑わうプールの数多の声の中でも助けを求める声だけを聞き取ることは容易だ。

 ペットボトルを手にしたままそちらへ向かうと、そこでは丁度強引なナンパの真っ最中であった。

「ねーねー君エロい水着着てんじゃん。どう考えても俺らを誘ってるよね?」

「あの……やめてください。友達が待ってるので……」

 大学生くらいと見られるいかにもチャラい印象の容姿をした男二人組が、ビキニ姿の少女一人を執拗に誘っていたのである。

 少女の年頃は美緒と同じくらい。トイレから出てきたところを待ち構えられており、二人がかりで行く手を遮られていた。

 美緒は手にしていたペットボトル二本を、即座にぶん投げた。液体が入っていて重たい上に中の液体が揺れて上手く飛んでくれないにも関わらず、抜群のコントロールでチャラ男二人の後頭部へ見事にヒット。よろめいたチャラ男達だったが、少女の方に倒れこむことがないよう力を加減して投げていたので大したダメージにはなっていない。

「あ? 何だてめえ」

 チャラ男達は青筋を浮かべ振り返る。が、そのうち片方は近づいてくる美緒の姿を見た途端ニヤッと笑った。

「んー、何? 君が俺らと遊んでくれるの? 君も結構エロい格好してんじゃん」

 美緒の腰周りや太腿をじろじろと見て鼻の下伸ばしているチャラ男であったが、もう一人のチャラ男は逆に焦り顔。

「おい待て、そいつ有名な女番長の……ひぎいいいぃぃぃぃ!!!」

 速足でチャラ男達の目の前まで来た美緒は、両手を上げて二人の顔面を握り潰す勢いでアイアンクローを喰らわせた。

 ミシミシと軋む音が鳴り、チャラ男達は目を血走らせる。死なない程度に痛めつけたところで美緒が手を離すと、二人は情けない悲鳴を上げながら逃げ去っていった。

「あ、ありがとうございます」

「いいっていいって。ほら、早く行きなよ」

 少女は何度も美緒に頭を下げた後去っていった。

「お見事」

 ペットボトルを拾う美緒は聞き慣れた声に振り返る。

「あんた何ついてきてんの」

 そう言いながらも、美緒は徹にお茶を手渡す。

「少しでも長く君と一緒にいたいんだ。明日の夕方にはもう、日本を発たねばならないから」

 寂しげな顔でそう言われて、美緒は出かかっていた憎まれ口を飲み込んだ。




 少し日が傾く頃に一度帰宅した美緒は、次の行き先のための服装に着替える。

「おー、馬子にも衣装じゃん」

 自室から出てきた美緒を見るなりそう言ってきた兄の脛を蹴飛ばし、美緒は徹の待つ玄関へと向かう。

「……お待たせ」

 仄かに頬を染め、袖口で口元を隠しながら今日買ったばかりの服の披露第三弾。藍地に花火の柄の浴衣を着て、徹の前に姿を見せる。

「おお……」

 徹は息を呑む。普段の美緒からは絶対見られないお淑やかな雰囲気を醸し出す姿に、徹も普段はしないような反応。

 ビキニ以上に着慣れない格好で胸が高鳴りつつもびくびくしている美緒は、これが随分好感触なのでかえって気圧されてしまう。

「僕はなんて幸せ者だろう。やはり君のその美しい黒髪には、和服が似合うとずっと思っていたんだ」

「いちいち言い回しがきざったらしいんだよあんたは!」

 照れ隠しに出たパンチをひょいと避けながら、徹は美緒の浴衣姿をいろいろな角度から堪能する。だがそんな徹の姿も、美緒にじろじろ見られていたのである。

「……で、何であんたも浴衣着てるわけ」

「実は以前から持っていたんだ。せっかくなので日本の民族衣装を着てみたくてね、日本に初めて来た日に買ったものなんだよ」

 長身外国人+浴衣の組み合わせに、美緒は何だかぐっときてしまう。

「そ、そうなんだ」

「それでは行こうか美緒さん。僕はお祭りが大好きでね、今からとても楽しみなんだ」

 すっかりときめいて身動き取れない美緒の手を徹は自然に握り、祭りへの出発を促した。美緒はただ手を引かれるがままに、付いていったのである。



 川原で開催された夏祭り。提灯に照らされる中で、幾多の出店が立ち並ぶ。

「楽しいなぁ楽しいなぁ。やっぱりお祭は最高だね」

 まだ着いたばかりながら、既に徹は祭を楽しみまくっていた。側頭部にヒーローのお面を付け、右手に綿飴、左手には林檎飴。どこの子供だと言わんばかりのスタイルになっていたのである。

「はしゃぎすぎだろ」

「いやぁ、ははは」

 美緒はちょっと恥ずかしい思いをしつつも、そんな徹を不覚にも可愛いと思ってしまった。

「美緒姐さん!」

 と、そこで美緒を呼ぶ声。目線を徹から正面に向けると、そこには美緒の舎弟的なヤンキー達が顔を揃えていた。普段しないような格好をしている今、美緒にとってはあまり会いたくない相手であった。だがヤンキーは祭好き。この場に彼らがいるのも致し方ないことだ。

「徹兄さんも、お勤めご苦労様です!」

「皆さんもお元気そうで何よりです」

 挨拶を返す徹。美緒の行く先々に付いて来るものだから、徹は町のヤンキー達にも認知されていた。そして「兄さん」として美緒同様に慕われていたのである。

「姐さん今日は一年ぶりのデートっスか! 浴衣着てるとか無茶苦茶気合入ってますね!」

 空気の読めない舎弟が、美緒の羞恥心を刺激するようなことを堂々と言い放つ。美緒が切れ長の目でギロリと睨むと、舎弟は顔を青くして竦みあがった。

 雁首揃えて頭を下げる舎弟達であったが、彼らに対して美緒は不機嫌な顔を見せる。デートの邪魔すんな、という気持ちを口には出さず態度で示す形だ。舎弟達も美緒から溢れるオーラで察し、すすすと道を開けた。

(ったくあいつら……)

 恥ずかしくてたまらない美緒を見て徹がにやついていたので、とりあえず美緒は肘を一発入れておく。勿論掌でガードされたが。


 暫く出店を見て回った後、二人は花火の見やすい川辺に移動する。

 その間徹は、美緒と戯れる合間に周囲の人々を観察している様子だった。笑顔ではしゃぐ子供達、幸福に満ちたカップル。それを目で追う徹の表情は、どこか安らいでいるようであった。

「……あんたがこないだまでいた国では、こんな光景見られなかったのか?」

「ああ……あの戦地での日々を思うと、この平和な日常がどれほど尊いものかを実感させられる」

 徹の眉尻が下がり、一転して寂しげな表情に変わった。美緒は自分の手を握る徹の手に、少し力が入ったのを感じた。


 現在の妖精界に、戦争を知る世代はいない。統一王朝樹立から四百年に及ぶ平和が、戦争を創作物や歴史の教科書の中だけのものにした。

 だからこそユドーフの帝王教育の一環として戦争の現実を学ぶため、あのような国で魔法少女バトルが開催されることとなったのだ。

 ユドーフが妖精騎士として運営に携わる三度目の魔法少女バトルであったが、それは過去史上最も過酷な任務となった。

 幾多の死を見届けることとなったし、大会の出場者が戦火に巻き込まれて命を落とすこともあった。

 妖精騎士団が戦闘行為に出ざるを得なくなることもあり、ユドーフ自身敵国の兵士を何名か殺害している。

 妖精界の宮殿でのびのびと育ったユドーフにとって、それはまさしく地獄の沙汰であったのだ。


 徹があの日々のことを思い出している間に、空に花火が上がる。聞き慣れた爆発音と嗅ぎ慣れた火薬の匂いがこんな平和な場所に出てくることに、どこか違和感を覚えた。

 遠い目をする徹の顔を、美緒はじっと見つめていた。

「あの……さ」

 声をかけられて、徹は美緒に顔を向ける。視線が合うと美緒は目を伏せた。花火が二人を照らす中、美緒はぐっと拳を握り顔を上げて再び徹と目を合わす。

「私、あんたのこと好きだから!」

 恥ずかしくなって言えなくなる前に、勢いで言った。だけどすぐに居た堪れなくなり、ぷるぷると震えだす。

 徹はその震えを止めようとするように、そっと美緒を抱きしめたのである。

「ああ……僕は本当に幸せ者だ。君を初めて見た時から感じていたんだ。君こそ僕のお嫁さんになる人だと。僕も君が大好きだよ、美緒さん」

 心を落ち着かせるような優しい声でそう伝えると、徹は一度身体を少し離し美緒と再び見つめ合った。

 そして美緒の顎に指をあて上を向かせると、自身の身体を大きく屈ませて唇と唇を重ねた。美緒がびっくりして離れようとすると、徹は左手を美緒の後頭部に回して離れられなくする。

 口を塞がれながら、声にならない声を上げる美緒。長くも短くも感じられる時が流れ徹が唇を離すと、美緒はくらっと意識が飛んだように身体をふらつかせた。徹は優しく抱き寄せ美緒を支える。

「こっこっこっ……こんないきなりっ……」

 腰を砕かれて足腰おぼつかない美緒は、徹に支えられていなければ立ってもいられない。全身が沸騰しそうになって頭も回らず、いつもの悪態も出てこない。

「花火も終わったしそろそろ帰ろうか。お付き合いすることを美緒さんのご家族に報告しないといけないしね」

 徹はそう言うと左腕を美緒の太腿の裏に回して持ち上げ、お姫様抱っこの体勢に。唖然とした美緒を抱えたまま、群衆の中を徹は揚々と抜けていったのである。



「……と、いうわけで僕達お付き合いすることになりました」

 白藤家の玄関で出迎えた美緒の両親と兄に、徹はきっちりそう報告した。美緒を抱えたままで。

 夏祭りの会場からここに至るまでの帰り道、ずっとこの体勢のままであった。祭りの客や町行く人々からは注目の的になり、勿論舎弟達にもバッチリ目撃された。

 とんでもない羞恥プレイをさせられながらも徹の腕に包まれ胸に抱かれる幸せな感覚を味わい、美緒はどうにかなってしまいそうな気持ちであった。

「ところで美緒さん、まだ腰を抜かしていて立てなさそうなのですが」

「ああ、それでしたらそのままお持ち帰りして頂いて構いませんので」

 と、そこで和義が素敵な提案。

「おい兄貴!」

 慌てる美緒であったが、和義の言葉を聞いて徹はにっこり笑顔。

「わかりました。それでは遠慮なくお持ち帰りさせて頂きます」

 美緒の家族に頭を下げ、徹はそのまま隣の自宅へと足を進めたのである。



<キャラクター紹介>

名前:ユドーフ/最強寺(さいきょうじ)(とおる)

性別:男

年齢:23(回想当時)

身長:201

髪色:金

星座:双子座

趣味:スポーツ全般


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