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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第六章 本戦編Ⅱ
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第109話 白衣の天使

「さっすが麗羅! この試合はもう頂いた的なー」

 王都球場のシステムルームでは、試合を観戦するポタージュが麗羅の二連勝に歓喜の声を上げていた。

「一昨日から更に腕を上げたようだね。だがショート同盟も、ここから先の二人は両方とも上位レベルの実力者なのだよ。そろそろここらで彼女には負けてもらって、三日月君の活躍が見たいところなのだがね」

「はー? 何言ってる的なー?」

 ポタージュは煽るような口調で言う。

「それにホーレンソー、麗羅ちゃんが負けた後に出てくるのは、多分朝香ちゃんだと思うカニ。ここで出しとかないと最終戦の編成が縛られることになるカニから」

「いや、それはどうかな」

 さも今後のことをわかっているが如き物の言いように、その場の騎士一同は首を傾げた。

 ベンチの方では相談が終わり、ショート同盟の副将として花梨がステージに上がる。

「次は花梨か……」

「ムニエル様が優勝本命としてスカウトされた魔法少女ですな」

「そして……我の友人でもある」

 花梨がこれから試合をするというのに、ムニエルはどこか浮かない顔。ビフテキは自分の髭を手で触れながらそれを後ろから見下ろしていた。



 王都球場の観客席。花梨がステージに上がる姿を見て、拳凰が笑顔になった。

「おっ、いよいよチビ助の番か」

「拳凰、この試合どう見る?」

「そりゃあチビ助が勝つだろ。俺が二回も頑張れよっつってやったんだからな」

 そう言う拳凰の顔を、デスサイズは真顔で見る。

「……何だよ」

「フッ……だがあの小鳥遊麗羅という魔法少女、かなりやるぞ。どうやら前回のドイツ大会にも出場していて、その時に成長した分の能力を今回も引き継いでいるという。つまり他の二倍の戦闘経験を積んでいるということだ」

 そう語るデスサイズであったが、その言葉は途中から拳凰には聞こえず。

(ドイツ……)

 前回の魔法少女バトル開催地はドイツ。そして拳凰の父が最後に滞在していた国もドイツであった。そしてその時期は、前回の魔法少女バトルと重なっている。果たしてこれは偶然か。

「どうした拳凰、ぼーっとして」

「ああ、いや、何でもない」

 拳凰は平静を装って答える。

(こんなつまんねーこと考えてる場合じゃねーな。観戦に集中しよーぜ)

 そう考えたところで、ステージ上の花梨と目が合った。花梨は拳凰の顔を見て頷いた後、再び目線を対戦相手に移す。

(ケン兄……私、勝つよ)

「それでは……試合開始!」

 緊張感が高まる中、実況は試合開始を告げた。

 先手必勝とばかりに、花梨は注射器を生成して飛ばした。ロケット花火の如く勢いをつけて向かってくる注射器を、麗羅はマントを翻しながら華麗に避ける。

「さあ、ショータイムよ!」

 カウンターのようにマントから蝙蝠の大群が現れ、花梨に牙を向いた。花梨は包帯を生成して自身の周囲で螺旋を描かせる。飛んできた蝙蝠達は包帯にぶつかって弾かれ、花梨本体には届かない。

「へぇ、やるじゃん」

 開始直後の攻防は、お互いノーダメージで凌いだ。ここで二人は互いに様子見。

(相手は二連戦してるから、HPもMPもそれなりに消耗してるはず。後に三人控えてることを考えるならこっちの消耗を抑えて勝ちたいところだけど……)

 不敵な笑みを見せる麗羅は、まだまだ余力たっぷりといった様子が見て取れる。

(出し惜しみして勝てる相手じゃない。後先考えるより今は全力で一勝を取りに行かなきゃ!)

 次は身の丈ほどもある巨大な注射器を生成し、狙いを定めて発射。通常サイズの注射器がロケット花火ならば、こちらはロケット弾の如し。麗羅はマントを翼に変え、力強く迫る注射器を飛行して避ける。すると注射器は軌道を変えて麗羅を追った。

「ホーミング機能付きってわけね。でも私には追いつけないよ!」

 空中を縦横無尽に飛び回り、麗羅は注射器を撹乱。花梨は包帯を伸ばして麗羅を捉えようとするも、素早い動きに振り回されて掠りもしない。

 花梨の焦りが強まる最中、麗羅は頃合を見計らって攻勢に出る。

「そろそろ返してあげる!」

 麗羅は翼を畳んで加速し、注射器に追われながら花梨に急接近。驚く花梨の眼前でほぼ直角に急上昇した。後ろから迫る注射器は曲がりきれず、鋭い針が花梨を突いた。そして更なる追撃とばかりに、頭上から蝙蝠達が襲い来る。

「ひゃあっ!」

 四方八方から噛み付かれ引っかかれ、花梨は悲鳴を上げた。大群に寄ってかかって猛攻を受け、HPがじわじわと削られてゆく。

(この子達は光に弱かったはず……何か強い光を出せるものは……)

 焦ってもがいても相手の術中に嵌まるだけ。花梨は冷静に対処法を考える。そして頭上に向けて手をかざし、あるものを生成した。

「強い……光っ!」

 花梨が生成したものは手術台のライト。花梨に群がる蝙蝠達が点灯と同時に一斉消滅するほどの、眩い光が放たれた。

「や、やった……」

 息を切らしながらも、どうにか相手の術中から脱した花梨。だがその間にも、麗羅は汗一つかかずに空中から見下ろしている。

「不味いな……」

 観客席のデスサイズは、拳凰の隣でそう呟いた。

「移動能力に差がありすぎる。あちらが空中を自由自在に動ける一方、こちらは地を走ることしかできない。移動できる範囲も速度も、何もかも完敗だ。あんなものは歩兵が戦闘機に挑むに等しい」

「だがよデっさん、チビ助はあー見えて根性あるぜ。不利な状況を覆すのはいつも根性だろ」

 花梨の勝負強さはよく知っている。周りは花梨より背の高い子ばかりの水泳大会、花梨は最後の最後で他を一気に抜き去り優勝したのだ。

「信じているのだな、あの娘を」

「いちいちうぜー言い方すんなよったく。勝つぜあいつは。ここぞという時のチビ助は強えからな」


 花梨にも飛行手段が無いわけではない。さながら魔女の箒のように巨大注射器に跨って空を飛べるのだ。だがあちらが背中の翼を使い全身フリーの状態で飛行できるのに対し、こちらは跨った体勢を維持しなければならない。空中での精密動作性でも遥かに劣り、空中戦に持ち込んだところで劣勢に変わりはない。ならば地上から射撃中心で組み立てた方がまだ勝機はあると考えていた。

 花梨は麗羅を見上げながら魔力を集中させる。何か強力な魔法を放つであろうことは、麗羅には予想できた。

 撃たれる前に潰す。麗羅は蝙蝠達を合体させて鞭にし、一気に振り下ろす。花梨は集中を途切れさせることがないまま横に跳んで回避。そして両手を前に突き出し、力を籠めて技名を叫ぶ。

「針千本!」

 その瞬間、数え切れないほどの注射器が一度に生成された。これぞ起死回生の大技。注射器は麗羅の逃げ場を無くすように、全方位へと一斉に発射された。

 勿論麗羅は既に対応策を準備していた。自身の周囲に蝙蝠達を配置し、大技だとわかった瞬間にそれを合体させて棺桶を生成。完全防御の態勢へと入った。棺桶には大量の針が刺さるも、内側までは届かず。麗羅はノーダメージである。

 だが花梨の表情に、決め技を防がれたという落胆は無い。むしろ狙い通りとばかりの、希望に満ちた眼差し。

 注射器を飛ばしながらも、花梨は次の攻撃のためのアイテムを生成していた。注射器が消えると同時に大量の包帯が一斉に棺桶へと巻き付き、一分の隙間も残すことなくグルグル巻きに。

「これでもう棺桶の蓋は開きません。降参してください!」

 大技を囮にして放った、真・起死回生の一手。観客席が沸き立ち、ショート同盟側のベンチでは夏樹がガッツポーズした。

「やった! 花梨の勝ちだ!」

 だがその時だった。包帯を突き破って真っ直ぐ伸びた鞭が、花梨の胸を突いた。

「うっ……!」

 吹き飛ばされた花梨は後ろの結界に背を打ちつける。会場がざわめく中、開いた穴から蝙蝠達が次々と漏れ出し、やがて合体して麗羅の姿を形作った。

「あ、ああっ……」

 花梨から悲観の声が漏れた。棺桶による絶対防御に打ち勝つための秘策は、いとも容易く破られたのだ。

「さーて、そろそろとどめと行こうかな?」

 麗羅は鞭を掴んで引っ張り、観客に向けてアピール。花梨はそれを見上げるばかり。

(本当に強い……それでも……勝ちたい!)

 苦境の中で花梨の脳裏に浮かんだのは、昨日今日と様子がおかしかった拳凰の姿だった。

(ケン兄、何か悩んでる様子だった。なんとか力になってあげたい……だからここで負けて妖精界を去るわけにはいかないの!)

 花梨は目を閉じると掌にガーゼを一枚生成し、それを握り締めながら胸に押し当てた。

 そこに容赦なく振り下ろされる、必殺の鞭の一撃。あわや敗北と思われたその瞬間だった。花梨の姿が消えた。

「!?」

 驚いて口を開ける麗羅。だが即座に顔を上に向け、花梨の位置を捕捉。

 空中へと舞い上がり鞭を回避した花梨。その背には純白の翼を携えていた。それはさながら黒翼の吸血鬼と対比するが如き、文字通りの白衣の天使。

「へぇ、まだそんな隠し玉持ってたんだ。どうして最初から使わなかったの?」

「たった今思いついたから」

 ガーゼを翼に変化させて得た、新たな飛行能力。これならば麗羅と五分の空中戦ができる。

 花梨は更に右手に巨大注射器を生成。しかも近接武器として扱いやすくするための取っ手付きである。

「この勝負、絶対勝ってみせる!」

 花梨は加速しながら麗羅へと進撃。襲い来る鞭は錐揉み回転で避け、パンチを打つように注射器を突き出す。麗羅は紙一重で避けるも、脇腹を針が掠める。

(この子、私の弱点を!)

 鞭という武器の特性上、接近戦は不得手。それ故に花梨は積極的に近づくことを試みた。逃げる麗羅に、鋭い針の連撃を畳み掛ける。

 麗羅は鞭を分離させた無数の蝙蝠で迎撃するが、花梨は注射器を剣のように振り回し蝙蝠を切り捌いた。

「あの動きは……」

 拳凰が思わず反応した。それと似た動きを、つい昨日見たばかりであるからだ。

 あちらは二刀流でこちらは注射器一本であるが、ムニエルが無数のエアブレードを一瞬で切り捌き無力化した動きと瓜二つなのである。

「そーいやチビ助の担当はあのお姫様だったか」

 蝙蝠を退けたところで花梨は麗羅との距離を詰め、一文字に切り結ぶ。距離を取ろうとする麗羅の右足首に包帯を巻き付けて移動を封じると、次は左の羽目掛けて勢いをつけて刺突。羽根に穴を開けられた麗羅はバランスを崩し落下した。

「たあーっ!」

 雄叫びを上げながら、花梨は急降下。地上の麗羅を貫く勢いで注射器を突き刺した。

 注射針が麗羅に当たった瞬間、麗羅の変身が解けバリアに包まれた。花梨はバリアに弾き飛ばされて着地、それと同時に純白の翼が散って消滅。

「勝者、白藤花梨!」

 実況が高らかに花梨の名を呼ぶ。観客席からは大歓声が巻き起こった。息を切らしながらも、花梨はその声をはっきりと耳に焼き付けた。

「勝ったんだ……私……」

 観客席に目を向けると、拳凰が賞賛のサムズアップをしていた。

「ありがとうケン兄」

 続けて、花梨は麗羅への敬意を表し頭を下げた。麗羅もそれに笑顔で返す。

「麗羅さんも、ありがとうございました」

「こちらこそ」


 ベンチに戻った花梨を、仲間達は歓喜の声と共に花梨を抱きしめた。

「やったね花梨! ついに一勝だよ!」

「凄いです花梨さん」

「最後の羽生えたやつ超かっこよかった!」

「みんなが戦ってくれたお陰で勝てたんだよー」


 一方の麗羅もベンチに戻る。

「お疲れ様」

「あはー、三勝目まではいけると思ってたんだけどなー」

「麗子ちゃんのバトル、今回もすっごくよかったです!」

「ありがと」

 麗羅がお礼にウインクしてあげると、朝香はハートを撃ち抜かれたように背筋を伸ばし目を輝かせた。

「とりあえずやれるだけのことはやったわ。後はみんなお願いね」

「ええ、任せて」

「それで、次誰が出るの? やっぱ朝香ちゃん?」

「いいえ」

 智恵理の問いを、梓は否定する。

「朝香ちゃんはこのチームの秘密兵器だから、最終日まで取っておきたいの。次は私が出るわ」

 梓は立ち上がり、ステージに向かう。

「梓ならこのまま二連勝行けるよ」

「いよいよ特訓の成果を見せる時ってわけね」

「頑張って下さい梓さん」

 ステージに上がる梓を、花梨はじっと見た。

(確か、ケン兄と同じクラスの人だったよね)

「チーム・ヴァンパイアロード、三日月梓! チーム・ショート同盟、白藤花梨! それでは……試合開始!」

 試合開始が宣言されると、梓は素早く弓を引く。放たれた矢は花梨に刺さり、途端に変身が解除された。

「勝者、三日月梓!」

 まさかの瞬間決着。会場は唖然となった。

「どうやら白藤選手、小手調べの一撃にも耐えられないほどのHPしか残っていなかったようです。いやあ残念」

 カクテルはまたも本音が漏れた。

(それにしてもヴァンパイアロードは意地でも朝香を出さないつもりですか。私に対する嫌がらせですかね)

「これはチーム・ショート同盟、随分厳しいことになりましたねカクテルさん」

「ええ、最後に残った悠木選手には頑張ってもらいたいものです」


 花梨は肩を落としてベンチに戻った。

「ごめん、負けちゃった」

「ドンマイドンマイ、後はあたしに任せてよ」

 小梅は立ち上がり、腕を回して気合を入れる。

「残り三人、あたしが全部倒してくるからさ」

 チームの大ピンチに瀕しても動じることなく、意気揚々とステージに上がる小梅。

 対する梓は、残り人数で勝っていながらピリピリとした空気を漂わせていた。

(朝香ちゃんまで回させはしないわ。ここで私が勝負を決める。進化した奥義で!)



<キャラクター紹介>

名前:蟹座(キャンサー)のドリア

本名:ドリア・アルクトゥルス

性別:男

年齢:享年40

身長:188

髪色:赤紫

星座:蟹座

趣味:ゴルフ


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