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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第五章 フォアグラ教団編
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第103話 王女VS教祖

 創世神オムスビの六人の子達が起こした六つの国は、それぞれの王の下独自の方針で繁栄していった。

 それを喜んだオムスビは、王達を称えそれぞれに一つずつ宝具を授けたのである。

 勇猛果敢な騎士団を携えたゾディア王国には、軍神アレスの名を冠した剣を。文化と芸術に花を咲かせたキグナス王国には、月神アルテミスの名を冠した弓を。多くの島を有し豊富な海洋資源を活用したケフェウス王国には、海神ポセイドンの名を冠した槍を。経済に力を入れ多大な富を得たエリダヌス王国には、商業神メルクリウスの名を冠した杖を。広大な土地を耕し多くの農作物を育てたフェニックス王国には、豊穣神デメテルの名を冠した鍬を。他国から隔絶され豊かな自然の中で生きるアルゴ王国には、太陽神アポロンの名を冠した斧を。

 神に功績を認められた六人の王。六つの王国は、更なる発展を遂げていったのである。

 それから長い時が流れ、妖精界全土を巻き込んだ戦争が起こった。当時のゾディア王にして後の初代妖精王ピスタチオは、最前線に立ってアレスを振るい一騎当千の活躍を見せた。

 アレスはその重量を以って一撃の下にどんな敵をも両断する、幅広の大剣。豪腕の持ち主であったピスタチオはそれを片手で軽々と振り回した。だが度重なる戦いの中で酷使されたアレスは、終ぞその刃を砕け散らせたのである。

 妖精界統一を成し遂げたピスタチオは、アレスの破片を集め王室御用達の鍛冶師に打ち直させることにした。その時ピスタチオにはただアレスを再生させて終わりではない、ある考えがあった。

 国が統一されたとはいえ未だ各地でゲリラ活動をしている残党軍を始め多くの課題が残されており、世界が平定されたとは言いがたい。そしてそれが自分の代で全て解決する保証は無かった。

 彼の子は娘一人だけであった。必然的に王位を継ぐのはその王女となる。現状が長続きすれば、彼女が武器を手に戦わねばならぬことは度々あるだろう。

 だがアレスは非力な女性が使うには向かない大剣。どんなに強力な武器でも、使い手がそれに不向きでは本当の力は発揮できない。

 そこでアレスを打ち直すと同時に、破片の一部を使って女性にも扱える新たな剣を作り出すことにしたのだ。アレス自体は分厚く幅の広い刃をしているため、多少サイズを減らしたところでその使い勝手はさほど変わらない。

 そうして作られたのが、二振りの細剣であった。一つは美の女神アフロディテ。もう一つは愛の神クピドの名を付けられた。オムスビによって授けられた宝具の命名則に則り、その名は人間界の星にまつわる神話から取ったものである。

 以来、王の長男が神より授けられしアレスを、王の長女がアレスの分身たるアフロディテとクピドを継承することとなった。王家の女性は代々双剣術を学び、その技を継承していったのである。




 ムニエルと対峙したフォアグラは、一度実体に戻した身体を再び気体に変える。

「さて……まずは小手調べといこうか」

 周囲の空気をかき混ぜてエアブレードを生成、それを矢のように撃ち出す。ムニエルは右の剣で薙ぎ払い、エアブレードをかき消した。

「ほう、王族の力は伊達ではないと。だが所詮は古き王族に過ぎん。新たなる神にして王たるこの私の敵ではない」

 ムニエルは一度敵の攻撃を防いだ後、剣を構えた体勢のまま動かない。

「どうした、私が怖いか? それもそうだろう。いかに騎士の称号を持っていようと、所詮は可愛がられて育ったお姫様。いざ実戦となれば足が竦むのも無理は無い。ましてや相手がこの(ゴッド)・フォアグラではな」

 煙が部屋全体を覆い始める。これぞフォアグラのフィールド。相手の視界を塞ぎつつ攻撃の布石を敷く、フォアグラの十八番。

「さて、これを防ぎきれるかな?」

 ムニエルを取り囲むように、無数のエアブレードが生成された。百八十度全方位から、鋭利な刃がこちらを狙っている。

 無数のエアブレードは一斉に動き出し、滅多斬りにせんとばかりに襲い掛かった。ムニエルは二本の剣を眼前でクロスさせるように構えると、腕が見えぬほどの速さで全てのエアブレードを斬り捌いた。

「ほう……」

 エアブレードの包囲網を無傷で防ぎきったムニエルを見ても、あくまでフォアグラは余裕を崩さない。

 ムニエルの姿が消えた。だがこちらに突っ込んでくることはわかる。フォアグラには無敵の気体化魔法がある。たとえどんな攻撃が来ようと、自分が傷つくことは決して無い。

 だがフォアグラは何故か急に背筋に寒いものを感じた。避けねばならないと直感が告げている。

 フォアグラは瞬時に横に動いて避けた。回避などという行動をとるのは、気体化魔法を会得する前以来のことであった。

 すれ違いざまに剣がフォアグラの頬を掠める。当然攻撃はすり抜ける。そのはずだった。頬には一筋の切り傷が走り、赤い血が僅かに垂れた。

(ば、馬鹿な)

 動揺するあまり目を見開いた。自分の身体は確かに気体になっていたはずだった。なのに切られた。気体を切って、実体に傷が入った。信じ難いことだが、間違いなくこれは現実。

 もしもフォアグラが自分の能力を過信した凡人だったならば、その身は一刀両断にされていただろう。天才であるが故に、避けねばならないと本能で理解した。

 しかし所詮そんなものは、プライドを保つための気休めに過ぎない。無敵の気体化魔法が破られた。己の絶対的強さの象徴たる気体化魔法が。フォアグラの受けた動揺は計り知れないものだったのである。


「おいミルフィーユ、ムニエル様の戦いを見させてくれ」

 もう喋れるくらいには回復したハンバーグが言った。

「駄目よ。今は安静にしていなさい」

「ざけんなクソババア。俺はもう十分治ってる」

「やせ我慢はやめなさい」

「うるせえ。これ以上ババアの顔なんか見てられるか」

 ミルフィーユの忠告も聞かず立ち上がったハンバーグは、拳凰の隣まで歩いていった。

「流石はムニエル様だ。なんとお美しい戦いぶり」

 ムニエルは瞬時に切り返し、動揺するフォアグラに追撃を繰り出す。高速の剣捌きを、フォアグラはただ避け続けるばかり。

「おいクソロンゲ、お前ケガはもういいのか」

「ああ、大体治った。さっきな無様なところを見せたな。さっきの俺は……本当に無様だった」

 遠い目をするハンバーグ。それを見た途端、急に拳凰はこの男と初めて戦った時の記憶――自分を庇って立ちはだかる花梨の姿が脳裏に浮かんだ。ムニエルに庇われた時のこの男もまた、あの日の自分と同じ気持ちだったのやもしれない。そんな考えが頭をよぎったのである。


 かろうじて致命傷を受けるのは避けていたフォアグラであったが、傷は少しずつ身体に溜まってゆく。切られる度に血が煙の中を舞った。

 まだ逆転の手立てはある。そう思いたいのはやまやまだが、そんなフォアグラに不安を抱かせる違和感が一つあった。

(おかしい……あれだけ動いているというのに、奴は私を微塵も吸い込んでいない……)

 フォアグラ最強の切り札、ドグマブレード。体内でエアブレードを炸裂させ敵を内側から破壊する、凶悪極まりない一撃必殺の究極奥義。だがそれを使うには、自分の体の一部が変化した煙を十分な量相手に吸わせる必要があった。

 ムニエルは高速で激しく動き回りながら、ごく普通に呼吸をしているように見える。だが不思議なことに、まるでムニエルがガスマスクでも付けているが如く全く体内に侵入できないでいるのだ。

(ドグマブレードさえ……ドグマブレードさえ決まれば私の勝ちだというのに……)

 苛立つフォアグラの隙を突いて、ムニエルは首筋を狙って剣先を突き立てた。どうにか避けるも、刃は首を掠め小さな切れ目がつく。

「ぐ、ぐうううーーっ!」

 思わず苦悶の声が上がった。我に返ったフォアグラは自分が必死の形相をしていることに気が付き、慌てて冷静を装う。

(うろたえるな……うろたえるのは神に相応しくない……)

 気体化もドグマブレードも通じない相手。だがまだ逆転の手立てはあると信じている。

「ま、待てムニエル! 私の話を聞け!」

 突然そんなことを言われたので、ムニエルは素直に手を止めた。

「そうだ、私と共に来いムニエル。自覚が無いわけではあるまい。お前はビフテキに利用されている。あの男は好々爺を演じているが、腹の中は真っ黒だ。私と共に来い。政治の道具にされるのはもう終わりにし、共にこの世界をひっくり返すのだ」

 フォアグラが次に取った手は、まさかの勧誘であった。

「野郎、俺のみならずムニエル様までも……」

 同じく勧誘を受けた身であるハンバーグは、その不遜な行為に拳を握る。

「我が利用されていることなど承知の上。それが国民になるならば、一向に構わぬ!」

 ムニエルはフォアグラの勧誘を一蹴すると、瞬時に剣で薙ぎ払った。

「ひぃっ!」

 顔の中心にまっすぐ横傷が入り、フォアグラは怯え声を上げた。慌てて空中へと逃げ、天井すれすれまで飛翔。そこから地上に向けて、エアブレードを連射した。

「死ぃねえええ小娘ええええ!!」

 だがそんな苦し紛れの攻撃は全て双剣によって捌かれる。ムニエルはしゃがんだ姿勢から一気に跳躍し、空中にいるフォアグラの腹部目掛けて右手の剣を突き立てた。

 フォアグラに避けられる余地は無かった。剣は腹を貫通し、フォアグラは天井に磔にされた。

「ぐほっ……」

 口から血を吐き、悶絶。ムニエルが剣を引き抜くと、フォアグラは力無く落下した。

 しなやかに着地するムニエルと、床に身を打ちつけるフォアグラ。二人の様子は対照的であった。

「ば、馬鹿な……この(ゴッド)・フォアグラが……こんな……」

 フォアグラは地に這い蹲り、わなわなと手を伸ばす。

 フォアグラと戦った者は誰もがその出鱈目な強さに恐れおののき、こんな化け物に勝てるわけがないと嘆いた。だが今は、フォアグラ自身がそれを感じる番。

 生まれてこの方縁がなかった、挫折という言葉。フォアグラは今、初めてそれを知ったのだ。

(八割継承の娘でさえこれだけの強さ。ならば父親の方は、一体どれだけ……)

 身を以って体感する、自分が倒そうとしていた敵の強大さ。あまりにも、あまりにも別格過ぎる。

「おいクソロンゲ、正直俺は信じられないんだが、あのフォアグラって野郎は本当にジェラートより強いんだよな」

 あまりにも一方的な戦いに疑問を抱いた拳凰が、ハンバーグに尋ねる。

「当たり前だ。この俺が手も足も出なかったくらいだからな」

「そうかよ……」

 拳凰は武者震いがした。自分が完敗したハンバーグが手も足も出なかったフォアグラを圧倒するムニエル。自分が常に追い求める強さという概念は、どこまでも天井知らずだ。

「フォアグラよ、其方は良き騎士であった。後は騎士らしく、潔くお縄にかかるがよい」

「ふざけるなっ……私は騎士ではない……神だ!」

 この状況にあっても尚抵抗を続けるフォアグラを見下ろしながら、ムニエルは悲しそうな目をした。

「私は常に正しく……私は常に勝利者だ。この(ゴッド)・フォアグラに……敗北など無い……」

 突然独り言を言い始めるフォアグラ。プライドの欠片を一つ一つ拾い集めるように、己を鼓舞しているのだ。

「こんな小娘に私は負けないっ……! 世界の中心はこの私だ……この世界は全て、私のために存在するのだ……! 私こそが……神にして王っ……!」

 フォアグラの魔力が膨れ上がってゆく。ムニエルはフォアグラを見下ろしつつ、どんな動きが来ても対応できるよう構えた。

 気を持ち直したフォアグラは、気体化した体を一斉に分散させた。

(まだドグマブレードを発動させる手段はある!)

 自然吸引には頼れない。ならば自ら直接、ムニエルの体内へと侵攻するのだ。

(体中の穴という穴から、侵入を試みる!!)

 全身を取り囲み、そこから一気に突撃。だがしかしそれも、見えない壁にぶつかったかのように弾き返された。

(これも……駄目っ……!)

 絶望に顔が歪む。そこにムニエルの二本の剣が迫った。双剣の瞬撃がフォアグラの皮膚を裂いた。更にそこから、追撃の連斬。舞踊が如き流麗な剣技で、反撃の隙を与えぬ猛攻をかける。

 フォアグラの動きを封じるように全身を滅多切りにした後、切り上げでフィニッシュ。高く打ち上げられたフォアグラは、仰向けに落下した。白目を剥いて気を失っているのを確認すると、ムニエルは二本の剣を鞘に収めた。

「おお、流石はムニエル様」

 ビフテキがわざとらしく感嘆の声を上げた。

「凄え……」

 拳凰がそう言った時、ビフテキはそれを待っていたとばかりに言い放った。

「貴方様の目指す頂は、更にその先ですよ……拳凰様」



<キャラクター紹介>

名前:ラスク

性別:女

年齢:14

身長:153

3サイズ:72-54-77(Aカップ)

髪色:真紅

星座:山羊座

趣味:魔法少女バトルの動画鑑賞


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